皆さんこんにちは!
ビアソムリエの工藤です。
こちらの記事では『日本におけるクラフトビールの定義』についてわかりやすく、丁寧に解説していきます!
- クラフトビールってどんなビールの事?
- クラフトビールは何となくとイメージ出来るけど、言語化できなくてもどかしい…
- 大手の作るビールもクラフトビールって呼んでいいの?
などの疑問を持つ方にオススメの記事です。
定義を知ることによって浮かんでくるであろう疑問点についても詳しく解説しております。
その為ややボリューム多めですが、初心者の方にも読み進めて頂けるよう分かり易い表現を心がけていますので、ぜひ最後まで読み進めてみてください。
しっかり読んで頂ければ、クラフトビールの定義について中級者程度の知識を得られるはずです!
もし、分かり難いところ等ありましたらTwitterやInstagramでご連絡頂ければ可能な限り返信させて頂きます。
もくじ [閉じる]
1. クラフトビールの定義は存在しない
いきなりこの記事が終了しかねないタイトルですが、もう少しお付き合いください(笑)
ちゃんとクラフトビールに定義は存在します!
ただ、ある程度クラフトビールに詳しい方でも
「クラフトビールってどんなビール?」
と改まって質問されると実は回答に困るものなんです。
何故かと言うと『クラフトビールに明確な定義は存在しない』という意見が現在の主流であるからです。
クラフトビール先進国であるアメリカでも明確に定義されていません(というよりはできていない?)。
その為ある程度の知識を持った方でも回答に困ってしまうのです。
クラフトビールについて勉強した方の中には
と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは『Craft Brewer(クラフトブルワー)』の定義、つまりビール自体ではなく造り手の定義であって正確には『クラフトビール』の定義ではないのです(余談ですが『Craft Brewer』の定義は2018年の12月に改訂され現在は『伝統的』の項目が削除され『Brewer』の項目が追加されました。)
→アメリカの『Craft Brewer』の定義について詳しく知りたい方はこちらから
2. 日本におけるクラフトビールの定義
『クラフトビールに明確な定義は存在しない』
これが現在の主流ではありますが、明確に定義を示している醸造所や団体も存在します。
国内で明確に定義を示しているたったの2社(団体?)!
- 「よなよなエール」等で有名な『ヤッホーブルーイング』
- 全国のクラフトビールメーカーによって組織された業界団体である『全国地ビール醸造者協議会』
その他の醸造所や団体、メディアでは
「クラフトビールに明確な定義はないが…」
と前置きした上で説明しています。
明確に定義している『ヤッホーブルーイング』と『全国地ビール醸造者協議会』、それぞれの定義について確認していきましょう!
3. ヤッホーブルーイングによるクラフトビールの定義
今やコンビニやスーパーなどでも見かける、「よなよなエール」や「水曜日のネコ」、「インドの青鬼」などの製造を行っているヤッホーブルーイング。
クラフトビールメーカーの中では一番よく知られる醸造所でしょう。
そんなヤッホーブルーイングではクラフトビールを以下のように定義しています。
クラフトビールとは、
小規模な醸造所がつくる、多様で個性的なビールのこと
よなよなの里より引用
非常にシンプルでわかりやすい!
のですが、それ故ぼんやりしていて、少し考えると疑問が浮かんできます。
具体的には
「小規模ってどのくらい?」
「多様で個性的の基準て何?」
この定義ではクラフトビールの判断基準が曖昧です。
判断する人によってクラフトビールであるか否かが変わる可能性が十分に考えられます。
その為、統計データを取ったりする際などに用いるには不向きな定義と言えるでしょう。
しかしながら、ヤッホーブルーイングは欠点を承知の上でこの定義を掲げているのだと個人的には思います。
一般の消費者やクラフトビール初心者の方にとって、いきなり小難しい話をされるよりもこの位シンプルな方がとっつきやすくて良いでしょう。
なので、まだクラフトビールについてよく知らない方に
「クラフトビールってどんなビール?」
と質問された時にはヤッホーブルーイングの定義を使って説明してあげるといいと思います。
4. 全国地ビール醸造者協議会によるクラフトビールの定義
『ヤッホーブルーイング』の定義は分かりやすい反面、かなり曖昧さを残す定義でした。
『全国地ビール醸造者協議会』による定義はより具体的になりますが、少しややこしいものとなります。
丁寧に解説していきますので、初心者の方もめげずについて来て下さい!
4-1 全国地ビール醸造者協議会ってどんな組織?
定義を確認する前に『全国地ビール醸造者協議会(Japan Brewers Association)』がどんな組織なのか確認しておきましょう。
『全国地ビール醸造者協議会』は日本全国の地ビール(クラフトビール)メーカーによって組織された業界団体です。
クラフトビールの品質の向上や販売促進、税制への要望や提言を行うのが主な目的の組織です。
会員リストを数えたところ93の醸造所が加盟していました(2019年10月調べ)。
- 海外への輸出量が大手を抜いて業界トップの『常陸野ネストビール』
- 国内外の品評会でそのビールが高い評価を受けている『伊勢角屋麦酒』
- 世界的なビールレビューサイト”RateBeer”で2018年日本のトップブリュワリーの評価を受けた『志賀高原ビール』
など業界を牽引していると言っていい醸造所も多数名を連ねています。
4-2 全国地ビール醸造者協議会の掲げるクラフトビールの定義
全国地ビール醸造者協議会がどのような団体かわかったところで掲げている定義について確認していきましょう。
定義は以下の通りです。
1.酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
2.1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20キロリットル以下の小規模な仕込みで行い、ブルワー(醸造者)が目の届く製造を行っている。
3.伝統的な製法で製造しているか、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビールを製造している。そして地域に根付いている。
ヤッホーブルーイングによる定義と比較するとかなりややこしいですね(笑)
この記事では
1.酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
に要点を絞って詳しく解説していきたいと思います。
2.と3.についても一気に解説する予定だったのですが、1.だけでも相当な文章量になってしまったの分割することにしました…^^;
→2.と3.の項目について詳しく知りたい方はこちらから(準備中)
まずは「酒税法改正」の内容と「大資本の大量生産のビール」とはどんなビールを指すのか
について初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
●酒税法改正と大資本・大量生産のビールについて
冒頭に「酒税法改正」とありますが1994年4月に行われたこの法改正によって、日本のクラフトビール(地ビール)の歴史はスタートしました。
改正の内容は、
1959年から1994年の改正前まで続いた
1年間で最低でも2000KLのビールを醸造しなければいけない
というハードルは相当に高く、ビール市場に新規参入するのは不可能に近い状況でした。
ちなみに2000KLは普通の缶ビール(350ml)換算で571万本以上になります。
365日休みなしで1万本ずつ生産してもまだ足りない…
さらに売り捌ける販売経路とリピートしてもらえる高い品質が事業継続には必要不可欠…
このように酒税法改正以前にビール事業を始める事は非常に難しくリスクを伴いました。
その為、中小企業はおろか大企業ですらその市場に参入する事は殆ど無かったのです。
戦後、酒税法改正前にビール事業に新規参入して現在も生き残っているのはサントリーとオリオンビールのみです。※1
現在、焼酎やチューハイの有名企業で当時も焼酎メーカーとしてトップブランドの地位にあった『宝酒造』も1957年に「タカラビール」を発売し、ビール市場に参入しましたが10年で撤退を余儀なくされています。
いかに改正前の市場への参入が難しかったか想像できますね…
『全国地ビール醸造者協議会』は具体的な銘柄や会社名は出していませんが
「酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビール」
とはアサヒ、キリン、サッポロ、サントリー、オリオンの大手5社の製造するビールを指していると捉えて間違い無いでしょう。
となると、ここで新たな疑問が生まれます。
「大手もクラフトビールとして商品をリリースしているけど、あれはクラフトビールじゃないの?」
次はこの疑問について解説していきたいと思います。
また、オリオンビールと宝酒造がが参入した1957年当時の最低製造数量基準は約1800KLでした。
最初にビールの製造数量の基準が設けられたのは1908年のことで当時は1,000石(約180KL)以上、その後1940年に10,000石(約1800KL)以上にに引き上げられ、1959年に2000KL以上となります。
5. 大手が作るクラフトビールは実はクラフトビールとは呼べない⁉︎
おそらく皆さんお気づきかと思いますが、大手ビールメーカーが『クラフトビール』と銘打って販売しているビールは、『全国地ビール醸造者協議会』の定義に照らし合わせた場合『クラフトビール』とは呼べません。
先ほど解説したように大手5社が「大資本の大量生産のビール」を製造している張本人ですので定義に反する事になります(2.と3.の項目についても大手は満たしませんが、別の記事で詳しく解説しますのでここでは割愛します)。
また、最初にご紹介したヤッホーブルーイングによる定義にも
「小規模な醸造所がつくる」
と明記されていますので、この定義に照らし合わせた場合も大手が製造するビールを『クラフトビール』と呼ぶ事は出来ません(小規模の基準について示されていない為、何とも言えない部分はありますが少なくとも大手は含まないと考えられます)。
「じゃあ、大手がクラフトビールと言って販売しているビールは何なのよ?」
と思う方はもう少し先に答えがありますので、ぜひ読み進めてみてください。
5-1 大手もクラフトビールの普及に貢献している?
大手がクラフトビールと銘打って運営しているブランドで『スプリングバレーブルワリー』というものがあります。
聞いたことがある方も多い名前ではないでしょうか?
こちらは日本のビール業界で第2位の売上を持つ大手メーカーのキリンが運営しているブランドの為、先程述べたように定義に沿って解釈した場合『クラフトビール』とは言えません。
しかしながらこのスプリングバレーブルワリーを始めとするキリンの「クラフトビール戦略」(2014年7月発表)は『クラフトビール』という言葉の普及に一役買っています。
このキリンのクラフトビール市場への本格参入を皮切りに、その他の大手4社も遅れを取るまいとクラフトビール市場へ本格的に商品を投入していく事となります。
こうした大手のクラフトビール市場への参入をきっかけとして、新聞などのメディアでは2014年頃から徐々に「地ビール」から「クラフトビール」に呼び名がシフトしていったそうです。
このように大手ビールメーカーも『クラフトビール』の普及に一定の役割を果たしていると言える状況なのに、なぜ定義では除外されてしまうのか?
その点について次は解説していきたいと思います。
5-2 大手がクラフトビールの定義から除外されるのはなぜか
結論から言うと、
順を追って解説していきたいと思います。
●大手の主力銘柄は全て同じビール⁉︎
現在のクラフトビールの流行は主にアメリカから始まったものですが、アメリカに限らず世界各国の大手ビールメーカーは風味が軽めで、味わいのスッキリした『ピルスナー』やそれと類似したスタイル(ビールの種類)に注力してきました。
国内だと『アサヒスーパードライ』や『キリン一番搾り』、海外であれば『バドワイザー』や『ハイネケン』など、大手メーカーを代表する金色で飲み口のスッキリした銘柄はほぼ全てピルスナーもしくはそれと類似したスタイルに分類されます。
メーカーは違えど同じスタイルのビールを作っているわけですから、当然味わいは似てきます。
大手がビール市場を支配していた時代には100種類以上あるビアスタイルの中のほんの数種類(しかも味わいが似ている)しか私達は飲むことができませんでした。
→大手メーカーがなぜピルスナーに注力する至ったのか知りたい方はこちらから(準備中)
●クラフトビールは大手ビールへのアンチテーゼ
アメリカでは禁酒法(1920~1933年)や第二次世界大戦(1939~1945年)の影響により、以前は存在していた小規模な醸造所はほとんど姿を消してしまいました。
市場はほぼ大手メーカーの独占状態。
より安価に製造できるようコーンや米などの副原料が使用され、昔より風味の軽くなったラガービール(ピルスナー)ばかりが店頭に並び、ビールの多様性は失われていました。
そんなビール文化が衰退した時代のアメリカにも、ヨーロッパにあるような風味豊かなビールを求める人達が少なからずいました。
彼らは自らの手で香りや味わいを重視した個性的なビールを作るようになります。※2
そうした大手が作らない個性的で風味豊かなビールを飲みたい、造りたいという想いがクラフトビール文化の原点にはあります。
つまり
こうした背景を踏まえると、クラフトビール文化を担ってきた人達が大手メーカーを除外するように定義を作るのは自然な流れと言えるでしょう。
クラフトビールの流行により大手メーカーもビールの多様性に対応しなければいけなくなりました。
現在、IPAやペールエール、ホワイトビールなどクラフトビール業界で人気のあるスタイルを大手メーカーも醸造しています。
しかし、それらは定義に沿って解釈した場合、クラフトビールとは呼べずただ単に
『大手の造る〇〇スタイルのビール』
となるのです。
合法化されて以降クラフトビールは急速に発展していくのですが、それ以前にも一定数ホームブルーイングを行なっていた人達はいるようです。
6. クラフトビールの定義が曖昧な原因について
ここまで記事を読んで頂けた方なら
「クラフトビールに明確な定義はない」
という意見が主流になってしまう理由が分かってきたのではないでしょうか。
と
の指し示す意味が違うこと。
それが定義を曖昧にしている大きな原因の一つです。
大手はスタイルとその味わいに着目し、つい最近まで自分達が作ってこなかったタイプのビールを『クラフトビール』と呼んで販売しています。
それに対し今までクラフトビール文化を担ってきた小規模醸造所側は、味わいや個性も重要ではありますが、「大手が醸造していない事」に重点を置いています(少なくとも定義を見る限りではそう捉える事ができます)。
このように誰がどんな文脈で使うかによって意味が変わってしまうのが『クラフトビール』という言葉の現状です。
7. まとめ
いかがだったでしょうか?
『クラフトビール』の定義やその言葉の曖昧さ、曖昧にならざるを得ない理由についてこの記事で理解して頂けたのなら幸いです。
『全国地ビール醸造者協議会』のような業界団体が作る定義に法的な拘束力はない為、大手メーカーが『クラフトビール』を名乗っても表示に偽りがあると判断されることはありません。
加えて、多くの消費者は大手が『クラフトビール』としてIPAやペールエール等のビールを販売することに特に違和感を持っていない現状を考えると定義の方が時代にそぐわないという考え方もあるでしょう。
しかしながら、解説さて頂いたようにクラフトビールは大手ビールに対するアンチテーゼとして生まれた側面を持っています。
ルーツを大切にするクラフトビールファンにとっては、大手が製造するIPAやペールエール等を『クラフトビール』と呼ぶのはやはり違和感があるでしょう。
皆さんはこうした『クラフトビール』という言葉の現状についてどう思いますか?
よろしければ #ビアセミ や #クラフトビールの定義 等のハッシュタグをつけてTwitter等のSNSでご意見をお聞かせください。
これからも良きビールライフを!
それでは、また。
アメリカには定義があるじゃないか!
この3つがクラフトビールの定義だ!