オピニオン

2030年の「働く」を考える

オピニオン#7 渡邉氏(前編) 2013/12/2 2030年になる前に、日本の財政は破綻するでしょう 株式会社MyNewsJapan 代表取締役社長 編集長 ジャーナリスト 渡邉正裕氏

オピニオンのトップへ

社会視点このままでは、2021年までに日本の国債は信用を失い、暴落します。
社会視点財政が破綻すると、公務員や銀行員は人気職種でなくなります。
社会視点日本の財政破綻は、日本の製造業に光を取り戻します。

行くところまで行かないと、この国は変わりません

ベストセラー『10年後に食える仕事 食えない仕事』を書かれた渡邉さんに、
今日はぜひ、2030年の「食える仕事 食えない仕事」について忌憚のないご意見を伺えればと思っております。

写真1

 まず大前提からお話ししますが、2030年の仕事については「国家財政の破綻」を抜きにして語っても意味がないと思います。『10年後に食える仕事 食えない仕事』は、グローバル化によって日本人の働く環境にどのような影響が出るかを語った本です。グローバル化による影響が伝わりにくくなってしまうため、ここにはあえて財政破綻の影響は加味しませんでした。しかし実際は、このままでは国債暴落による財政破綻が起きることは確実です。その場合、日本人の働く環境が財政破綻の影響を大きく受けることは間違いありません。
 国債暴落とその顛末について、私は2011年に、週刊誌にシミュレーション小説「老人が泣き 若者は笑う」を発表しました。その小説では2013年に国債が暴落することになっていますが、今は、東京五輪が開かれる2020年までは財政出動により暴落は起こらず、Xデイは2021年にやってくると考えています。
 現在、国の借金は1000兆円を超えており、絶え間なく増え続ける利子の他に、財政赤字によってここ2、3年は毎年40兆円ほどが積み上がっています。今後もしばらくは同程度の赤字が続く見込みですから、消費税を仮に10%にしても到底プラスにはなりません。少子高齢化がさらに進みますので、GDPが増えて税収が上がることも考えにくい。このままではいずれ間違いなく日本国債は信用を失い、私が小説に書いたように暴落して国家財政を破綻させます。
 これを防ぐには、政治による抜本的な制度改革が必要ですが、私は、日本の政治家は改革を遂行できないと踏んでいます。なぜなら、自民党も民主党も長年にわたり、大きな改革を何一つ成し遂げられなかったからです。唯一の大改革だったはずの郵政民営化ですら見直されました。ほとんど実績をあげていない政治家たちを、私は信じることができません。「働く」ということでいえば、雇用改革によって正社員の既得権を崩さなくてはいけませんが、少なくとも財政破綻まで正社員制度も維持されたままになるでしょう。
 改革が進まない以上、破綻は必至です。本当に日本を変える政治家が現れるのは、破綻の後になるでしょう。この国は、行くところまで行かないと決して変わらないと思います。
 じわじわと訪れるグローバル化と突然やってくる財政破綻。2030年の「働く」をお話しする際には、どちらも無視することはできません。

最も困るのは公務員と銀行員、そして高齢者です

大変ショッキングなお話から始まりましたが、渡邊さんのおっしゃるように本当に財政が破綻したら、
一体、日本の「仕事」はどうなるのでしょう。

 環境が激変するのは、当然ながら国から給与が支払われている公務員です。大規模な解雇などは考えにくいですが、給与は大幅に削られることになるでしょう。長い間、公務員は一番人気の仕事でしたが、破綻後は一気にその地位から転落するのではないかと思います。
 それから、メガバンクをはじめとして国債を大量に買っている国内金融機関が相次いで倒産し、外資系企業に買収される確率が高いです。このとき、スキルの高い営業やプロジェクトファイナンスの専門家などスペシャリストは再就職できると思いますが、従来はエリートとされてきたゼネラリストはリストラの対象になりかねません。
 最も悲惨なのは高齢者です。年金の支給額が急減し、国内金融機関にある預金は保護される1000万円以上は戻ってこないでしょう。困窮する高齢者が増えることになると思います。ただ、現代日本は住宅以外の生活コストは安いので、持ち家のある人たちは何とか生活できるのではないでしょうか。問題は住宅のない人です。仕事に就けたとしても低賃金でしょうから、それで生活できるかどうか。多くの高齢者が、路上生活者となったり、田舎の廃校などで集団になってギリギリの生活を送るといった事態に陥りかねません。そうならないために、今から預金は外貨預金に変えるなど、できる限りの防御策を施すべきです。

意外なことに、財政破綻は「製造業復活」の引き金にもなります

お話を伺っていると、気持ちが暗くなるばかりです。財政破綻後、何か明るい話題はないのでしょうか。

写真2

 円安による輸入品価格の暴騰と、財政赤字を穴埋めするために日銀が円を大量に印刷することで、間違いなくインフレが起きると思われます。不況下のインフレ、スタグフレーションです。どのような仕事に就いている人も、実質的な給与の低下など、多かれ少なかれネガティブな影響を受けることになります。リストラ・減給なども頻繁に起きるでしょう。しかし、それ以上の事態に発展する可能性は低いと思いますし、インフラ系企業に勤める人々など、これまでどおりの生活を保てる人も一定数いるはずです。
 一方で、意外なことに景気のよくなる業界もあります。輸出産業です。財政破綻は極端な円安を引き起こしますから、国内生産比率が高く輸出量の多い製造業などは、劇的に業績が改善する可能性が高い。その筆頭は自動車メーカーです。財政破綻は、「製造業の復活」の引き金にもなるでしょう。これらの企業の好業績によって、日本の景気は多少持ち直すはずです。それにしても、日本の製造業の復活が日本の財政破綻と表裏一体とは、実に皮肉なことです。

インタビュー:古野庸一

渡邉正裕氏プロフィール
株式会社MyNewsJapan 代表取締役社長 編集長 ジャーナリスト
慶應義塾大学(SFC)卒。日本経済新聞記者、日本アイ・ビー・エムのコンサルタントを経て、2004年、ジャーナリズムに特化したインターネット新聞社MyNewsJapanを創業。自らもジャーナリストとして雇用・労働問題を中心に“企業ミシュラン”シリーズの執筆を続ける。著書に『若者はなぜ「会社選び」に失敗するのか』『トヨタの闇』『35歳までに読むキャリアの教科書』などがある。

ページトップへ