1.「マニフィカト」第2文
2.「マニフィカト」第3文
3.「マニフィカト」第4文
4.sum動詞の活用(現在/未完了過去/未来)
5.不規則動詞possumの活用(現在/未完了過去/未来)
6.不規則動詞prosumの活用(現在/未完了過去/未来)
7.不規則動詞ioの活用(現在/未完了過去/未来)
8.規則動詞の活用(直説法・能動相・未完了過去)
9.前回の「練習」解答と今回の「練習」
※1.「マニフィカト」第2文
さて,「マニフィカト」の第2文は
Et exultavit spiritus meus in Deo salutari meo. |
であった.これを逐語的に説明すると
語 |
品詞と意味 |
et |
接続詞「そして」 |
exultavit |
第1活用動詞exulto, exultare, exultavi, exultatum「喜ぶ,踊り跳ねる,欣喜雀躍する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語は「わが魂」 |
spiritus |
第4変化・男性名詞spiritus, spiritus, m.「魂,精神」の単数・主格 |
meus |
第1・第2変化の所有形容詞me-us, -a, -um「私の」の男性・単数・主格 |
in |
奪格支配の前置詞「~の中で」 |
Deo |
やや不規則な(下記の表,参照)第2変化・男性名詞deus, dei, m.「神」の単数・主格.ギリシア・ローマは多神教なので,古典では複数のある普通の名詞だが,キリスト教では「唯一絶対の神」なので単数のみで,大文字で書き始めている. |
salutari |
第3変化形容詞salutar-is, -e「救いの,救世主の」の男性・単数・奪格で「神」を修飾し,「わが救いの神」と考えるか,男性名詞化して「救世主」ととり,「神」の説明的同格と考えて「わが救世主なる神」とするか,迷わせる要素(ギリシア語の原文が名詞)があると,前々回言ったが,一応形容詞と考えたいことは以下で説明する. |
meo |
第1・第2変化の所有形容詞me-us, -a, -um「私の」の男性・単数・奪格.salutariが形容詞なら「神」を,名詞と考えるなら位置から言って,名詞の場合の「救世主」を修飾する
|
全体として,直訳風に訳すと,
そして私の魂はわが救いの神の中で喜び跳ねました.
※なお「喜び跳ねた」と訳した「完了」時制は,「単純な過去」を表すギリシア語原文のアオリストという時制に対応しているが,ヘブライ語法,セム語法の影響を受けて現在時制「跳ねる」と考えるべきだと,聖書のギリシア語テクストの注釈書などに書いてあり,「新共同訳」も「現在」に訳している.おそらくその通りだろうが,ここでは古典語の文法にしたがって解釈し,「喜び跳ねた」と考える.
salutariを形容詞と考える理由としては,名詞ならsalvator「救世主」(実際にギリシア語原文では名詞のソーテールが使われていて,これはラテン語のサルウァートルに対応)があり,さらに形容詞でも名詞として用いられる場合,この形ならsalutareの方が良い(現在分詞またはそれが転用された形容詞の場合,分詞または形容詞の場合は単数・奪格が-i,名詞の場合は-eになることが多い)のではないかと考えるからである.いずれにせよ,古典語と時代が違うことなどを考慮にいれると,必ずこうだということは言えないが,とりあえずは形容詞と考えておくことにする.
「神」は次のように格変化するスラッシュ以下は別形を示す(この場合,複数も視野に入れて,単数形も小文字で書き始めることとする)
第2変化・男性名詞deus, dei, m.「神」
|
単 数 |
複 数 |
主格 |
deus |
dei / dii / di |
呼格 |
deus / dive |
dei / dii / di |
属格 |
dei |
deorum / deum |
与格 |
deo |
deis / diis / dis |
対格 |
deum |
deos |
奪格 |
deo |
deis / diis /dis |
単数・呼格のdiveは古典語ではよく使われるが,キリスト教関係では主格と同形のdeusで,この点が実は第2変化・男性名詞としては最も不規則である.
※2.「マニフィカト」第3文 (→トップへ)
さて,「マニフィカト」の第3文は,
Quia respexit humilitatem ancillae suae. |
まず,逐語的に説明する.
語 |
品詞と意味 |
quia |
理由文を導く接続詞「なぜなら,~だから」 |
respexit |
第3活用第2形動詞respicio, respicere, respexi, respectum「顧みる,顧慮する,配慮する,尊重する,敬意を払う」の直説法・能動相・完了・3人称・単数.主語は省略されている「神」 |
humilitatem |
第3変化・女性名詞humilitas, humilitatis, f.「低さ,卑しさ」の単数・対格.
※-tas, -tatisで終わる第3変化名詞はまず間違いなく女性名詞で,英語の-tyという語の語源になっている.humilitas→humility /
humanitas→humanity |
ancillae |
第1変化・女性名詞ancill-a, -ae, f.「下女,婢」の単数・属格.ここでは「私=マリア」を指す.なお宗教曲などを歌う場合には「アンチッラ」と発音され,それはそれで尊重されるべきだが,この講座ではあくまでも古典語の発音で通すので,「アンキッラ」と発音する.したがって属格も「アンチッレ」ではなく「アンキッラエ」とする. |
suae |
再帰代名詞の所有形容詞(第1・第2変化)su-usm -a, -um「(動詞の主語と同じ)自分の」の女性・単数・属格.この場合「自分」は「顧みた」の主語「神」である. |
全体としての直訳風の意味は,
なぜなら神はご自分の下女の卑しさをも顧みてくださったからです.
「下女の卑しさ」=「卑しい下女である私」と考えてよいだろう.「顧みてくださった」とは(神の力で)神の子をマリアが身籠るという奇跡が起こったことを指す.
第3文は理由の接続詞以外に新しい知識はないと言って良いだろう.
※3.「マニフィカト」第4文 (→トップへ)
それでは「マニフィカト」第4文は,
ecce enim ex hoc beatam me dicent omnes generationes. |
これを逐語的に説明すると,
語 |
品詞と意味 |
ecce |
間投詞「ほら,そこに(~がある)/見よ」で,注視を促し,注視の対象は主格で表される.以下のフレーズが有名
Ecce homo!「見よ,この人なり」
Ecce agnus Dei, qui tollit peccata mundi!「見よ,この世の罪を取り除く神の仔羊」 |
enim |
接続詞「というのも,事実,確かに(~だから)」で,通常「理由」(「というのも」)を表すことが多いが,ここでは「確かに,事実」という意味で用いられていると考えても良い.前の文とつなぐ接続詞だが,ここでは殆ど副詞のように考えて構わないだろう. |
ex |
奪格支配の前置詞「~から」(h以外の子音の前ではe).基本は「内→外」だが,場所だけでなく「~いらい」という時間や,「~ゆえに」という理由の意味にもなり得る. |
hoc |
指示代名詞hic, haec, hoc(これに関しては後日)「これ,この」の中性・単数・奪格.「このこと」と考えて,「このことから」という理由(神が私を顧みてくださったので)と取ろうかと思ったが,ギリシア語の原文を見るとアポ・トゥー・ニューン「今から」とあり,ex hoc tempore「この時から」を意味する熟語的表現であるので,「今から,今以来,今後,これから」という意味である. |
beatam |
第1第2変化形容詞beat-us, -a, um「幸福な」の女性・単数・対格.次の「私」(マリアなので女性)
|
me |
1人称・単数の人称代名詞(後日,詳述)ego「私」の単数・対格.ここで「幸福な」と「私」が対格であるのは,「~と言うだろう」の内容が間接話法で表され,平叙文の間接話法は「対格+不定法」構文(動詞が不定法になり,その主語が対格で示される・・後日,詳述)になるので,ここでは「私が幸せであると言うだろう」の「である」にあたる英語のbe動詞に相当するsum動詞の不定法・能動相・現在が省略されていると考える(本来はme esse beatam・・語順は自由).主語の「私」が対格なので,同格補語(普通の文なら主格補語)の「幸せな」も対格になっている. |
dicent |
第3活用第1形動詞dico, dicere, dixi, dictum「話す,言う,語る」の直説法・能動相・未来・3人称・複数. |
omnes |
第3変化形容詞omn-is, -e「全ての」の女性・複数・主格. |
gnerationes |
第3変化・女性名詞generatio, generationis, f.「(古典期には)誕生,発生→(後代には)世代,同世代の人々」の複数・主格.「(後の世の)全ての世代(の人々)」 |
直訳風の意味は,
確かに,今から後の世代の人々全てが,私を幸せ(な女)だとう言うでしょうから.
※4.sum動詞の活用(現在/未完了過去/未来) (→トップへ)
さて,ここで未来形が登場したので,ついでに直説法・能動相に関して,未完了過去と未来形を学ぶことにする.
ラテン語の中では極めつけの不規則動詞であるsum動詞(英語のbe動詞)の直説法・能動相・現在の活用を思い起こす.
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
sum |
sumus |
2人称 |
es |
estis |
3人称 |
est |
sunt |
であった. この動詞に関しては,第6講で,一般動詞の直説法.能動相の過去完了と未来完了の形を学ぶために,直説法・能動相・未完了過去と未来を既に学んでいるので,まずそれを思い出してみる.
未完了過去は,
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
eram |
eramus |
2人称 |
eras |
eratis |
3人称 |
erat |
erant |
であった.
未来形は,
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
ero |
erimus |
2人称 |
eris |
eritis |
3人称 |
erit |
erunt |
で,これはsum動詞から作られた合成動詞(sumをベースにした動詞には,その性質上受動相は存在しないが,他の動詞にあわせるためにいちいち能動相と記す)にもあてはまる.
※5.不規則動詞possumの活用(現在/未完了過去/未来) (→トップへ)
たとえば,
possum, posse, potui, -「(不定法と組み合わせて)~できる」
(例.Maria potest cantare.「マリーアは歌うことができる」)
という動詞も上記に準じて活用する.
直説法・能動相・現在
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
possum |
possumus |
2人称 |
potes |
potestis |
3人称 |
potest |
possunt |
直説法・能動相・未完了過去
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
poteram |
poteramus |
2人称 |
poteras |
poteratis |
3人称 |
poterat |
poterant |
直説法.能動相・未来
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
potero |
poterimus |
2人称 |
poteris |
poteritis |
3人称 |
poterit |
poterunt |
基本的に-s-の前はpos-,-e-の前はpot-になることに気をつければ,-s-が出てくるのは現在形だけなので,その他の活用形では,sum動詞の活用さえおさえていれば,問題はない.
このタイプの動詞に関しては当面,あと一つだけ憶えておくことにする.
※6.不規則動詞prosumの活用(現在/未完了過去/未来) (→トップへ)
prosum, prodesse, profui, -「(与格を支配して)~に役立つ」
(例.Sapientia hominibus prodest.「智恵は人々に役立つ」
この動詞は以下のように活用する.
直説法・能動相・現在
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
prosum |
prosumus |
2人称 |
prodes |
pdodesitis |
3人称 |
prodest |
prosunt |
直説法・能動相・未完了過去
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
proderam |
proderamus |
2人称 |
proderas |
proderatis |
3人称 |
proderat |
proderant |
直説法・能動相・未来
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
prodero |
proderimus |
2人称 |
proderis |
proderitis |
3人称 |
proderit |
proderunt |
となり,-s-ではじまる場合はpro-のまま,-e-ではじまる場合は間に-d-を入れて,活用させれば,あとはsum動詞の活用さえわかっていれば良い.
※7.不規則動詞ioの活用(現在/未完了過去/未来) (→トップへ)
さて,殆どが規則動詞のラテン語にも若干の不規則動詞があるが,上記のsum動詞ほど不規則なものは,それをベースにした合成動詞以外にはない.sum動詞ほど不規則ではないが,やや不規則でしかも重要な動詞の活用を直説法・能動相の現在,未完了過去,未来に関して見て見る.
eo, ire, ivi (ii),
itum「行く」である.
直説法・能動相・現在
|
単数 |
複数 |
1人称 |
eo |
imus |
2人称 |
is |
itis |
3人称 |
it |
eunt |
で,はやりこれはこれで憶えないと,活用語尾は規則的だが,他の動詞からの類推では解決できない部分がある.
ところが,
直説法・能動相・未完了過去:
「行った」(行きつつあった/行き始めた/何度も行った)は
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
ibam |
ibamus |
2人称 |
ibas |
ibatis |
3人称 |
ibat |
ibant |
となる.
実はこの動詞も未完了過去は殆ど規則的(若干の違いは、次回規則動詞の未完了過去を学ぶ際に説明するが、「規則的」と考えても良い)である.すなわち基本的に不定法から -re をとった語幹に
-bam, -bas, -bat, -bamus,
-batis, -bant
をつければ良い.もっと言えば,活用語尾の前に -ba-,もしくは -ba
が来ると考えて良い.
他の動詞に関しても,未完了過去は最も規則的な活用である.まず「行く」の未来形を学んでから,規則動詞の未完了過去を学ぶ.
直説法・能動相・未来
|
単数 |
複数 |
1人称 |
ibo |
ibimus |
2人称 |
ibis |
ibitis |
3人称 |
ibit |
ibunt |
となるがこの形も,実は不定法・能動相・現在から-reを取った残りに,
-bo, -bis, -bit, -bimus, -bitis, -bunt
をつけたもので,この原則は一部の規則動詞(第1活用と第2活用)にはあてはまる.ただ未来形の場合はその作り方が二つのグループにわかれ,もう一つのグループ(第3活用と第4活用)では形成法が違うので,未完了過去より,少しややこしい.未来形は次回に学ぶことにして,まず規則動詞の直説法・能動相・未完了過去をしっかり学ぶことにする.
※8.規則動詞の活用(直説法・能動相・未完了過去) (→トップへ)
さて,「行く」の活用を学びながら,未完了過去は最も規則的な活用である,と書いた.
その証拠をそれぞれの活用で検証する.
第1活用「愛する」
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
amabam |
amabamus |
2人称 |
amabas |
amabatis |
3人称 |
amabat |
amabant |
第2活用「忠告する」
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
monebam |
monebamus |
2人称 |
monebas |
monebatis |
3人称 |
monebat |
monebant |
第3活用第1形「支配する」
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
regebam |
regebamus |
2人称 |
regebas |
regebatis |
3人称 |
regebat |
regebant |
第3活用第2形「捕らえる」
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
capiebam |
capiebamus |
2人称 |
capiebas |
capiebatis |
3人称 |
capiebat |
capiebant |
第4活用「聞く」
|
単数 |
複数 |
1人称 |
audiebam |
audiebamus |
2人称 |
audiebas |
audiebatis |
3人称 |
audiebat |
audiebant |
「行く」のところで学んだ,
基本的に不定法から -re をとった語幹に
-bam, -bas, -bat, -bamus,
-batis, -bant
をつければ良い.もっと言えば,活用語尾の前に -ba-,もしくは -ba
が来ると考えて良い. |
という原則が当てはまるのは,第1活用と第2活用のみだが,
第3活用第1形で,
rege- が,rege-
になり,
第3活用第2形で
cape- が capie-
第4活用で
audi- が audie-
となるのに気をつければ良いだけで,大変規則的なことがわかる.不定法(から-reを取った形)から類推すればよいのだ.
特に第4活用は「行く」と不定法が似ているので,「行く」はあくまでも不規則動詞であるから,第4活用はすべて上記の「聞く」と同じ活用をすることに気をつけなければならない.
※9.前回の「練習」解答と今回の「練習」 (→トップへ)
「長い芸術」と「「短い人生」をそれぞれ格変化させなさい.
「長い芸術」(ars, artisの複数・属格はartiumなので間違えないように)
|
単 数 |
複 数 |
主格 |
ars longa |
artes longae |
呼格 |
ars longa |
artes longae |
属格 |
artis longae |
artium longarum |
与格 |
arti longae |
artibus longis |
対格 |
artem longam |
artes longas |
奪格 |
arte longa |
artibus longis |
「短い人生」
|
単 数 |
複 数 |
主格 |
vita brevis |
vitae breves |
呼格 |
vita brevis |
vitae breves |
属格 |
vitae brevis |
vitarum brevium |
与格 |
vitae brevi |
vitis brevibus |
対格 |
vitam brevem |
vitas breves |
奪格 |
vita brevi |
vitis brevibus |
第9講「練習」
1.次の名詞「弟子,生徒」を格変化させなさい.
|
単 数 |
複 数 |
主格 |
disciplus |
|
呼格 |
|
|
属格 |
discipuli |
|
与格 |
|
|
対格 |
|
|
奪格 |
|
|
2.「黒い(色黒の)男」を格変化させなさい
|
単 数 |
複 数 |
主格 |
niger vir |
|
呼格 |
|
|
属格 |
nigri viri |
|
与格 |
|
|
対格 |
|
|
奪格 |
|
|
※「男」vir, viri, m.は第2変化・男性名詞で,第2変化の中で,単数・主格が-erで終わるものに準じて,単数・主格と単数・呼格以外は,普通の第2変化・男性(型)名詞と同じ変化
※「黒い」も単数・属格を見ればわかるように,第1・第2変化形容詞
3.第3活用第2形動詞rapio, rapere, rapui, raptum「奪う」を直説法・能動相・現在で活用させなさい.
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
rapio |
|
2人称 |
|
|
3人称 |
|
|
4.「女王は詩人にバラを与える」をバラが1本の場合と2本以上の場合にわけて,ラテン語に訳しなさい.ただし,女王と詩人はそれぞれ1人とする.
(→トップへ)
|