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川原マツ役・富田靖子さんインタビュー

2020年2月11日(火)

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-約8か月間という長期の撮影を終えられた、今のお気持ちを教えてください。

「いつも通りにしていようと思ったのですが、なかなか最終日や千秋楽というのは心がざわつくものですね。
何年やっても修行が足りないなと思いました(笑)。
百合子(福田麻由子)が、『お父ちゃんの時は病気が分かって、だんだん悪くなって、最期を見送ったという気持ちがあったけど、お母ちゃんは突然すぎたので気持ちが全然違う』と話してくれました。
ドラマの中では10年という時間が経ちましたが、体感的には突然のような気持ちがしたのでしょうか。

喜美子(戸田恵梨香)はずっと一緒に暮らしていたので、お母ちゃんが少しずつ年を取って透明になっていくのを感じることが2人の芝居の中にあったので、お母ちゃんが亡くなることも人生のひとつの出来事だと思えたのではないかなと思います。
直子(桜庭ななみ)と百合子が、お母ちゃんの死を受け止めるのに時間がかかる、と言っていたのは、きっと、2人は嫁いで離れて暮らしていたからなんでしょうね。

私自身はマツのように人の話を聞けるタイプではないので、母親としてマツに勉強させてもらったなと思います。子どもたちにとって何が一番大切なのか。頼りがいが必要な時もあるでしょうが、聞いてあげることが一番大切だと、マツという人から学びました」


-そのマツさんが亡くなるシーンについて印象に残ったことなどを教えてください。
川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 「マツは幸せだったなと思います。子どもたちも自分の道をみつけ、孫の武志(伊藤健太郎)も自分の道を見つけた今、ひとつの役目は終わったのかなという感じがしたので、決して突然ということもなかったと思っています。お父ちゃん(北村一輝)が見ることができなかった景色を、『もう全然大丈夫』と伝えに行ったのかなと思います。
マツ自身が望んでいたのか予感していたのかは分からないですけど、『幸せな死に方』と彼女自身が何度か言っていましたので、幸せな死に方だったと思います。

撮影現場は全く普通でした。陽子さん(財前直見)と大野さん(マギー)が一緒にいましたが、いろんな作品をやってきた面々なので、湿っぽい空気になることはありませんでした。
第19週の撮影スタートが死ぬシーンからだったので、大野さんと陽子さんが笑って見送ってくれたことで、死ぬまでの道のりを笑顔で過ごせたと思います」


-たくさんの思い出があると思いますが、一番印象に残っているシーンを教えてください。
川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 「一番好きなシーンというかカットがあるのですが、子どもたちがそんなに大きくない頃、直子が外でまき割りをしたあとに汗だくになって台所に入ってきて、そこには喜美子も百合子もいて。『暑い』と言っている直子に、私がトマトを切って、それを食べさせている。そのなんでもない日常のひとコマを引きの絵で見せたあのカットに幸せが凝縮されている感じがして、あのカットが一番好きです。そこにお父ちゃんがいなかったのは残念でしたけどね」


-喜美子とのシーンで印象的だったのはどこですか?
川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 「ハチさん(松下洸平)と夜遅くまで2人きりでいる喜美子のことが心配で、ちょっと見て来い、とお父ちゃんに言われて丸熊陶業に行った時、初めて喜美子が陶芸をしている姿を見たのですが、その姿がとても印象的でした。もちろんお芝居とはいえ、自分の手から物を生み出している喜美子の姿、手つきやまなざしを目の当たりにして、自分の娘だけど娘じゃない感じがしました。絵付けをしている姿もすてきだなと思ったのですが、自分の家じゃない場所で陶芸をしている、というのも大きかったと思います」


-直子とのシーンで印象的だったのはどこですか?
川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 「直子は電気メーカーで働き始めた頃、牛田さんという人のことを好きになってしまって、新人指導係がどうのこうの、と言っているその姿がとてもかわいかったです。このシーンの撮影の前に『お父ちゃん、キスってどこにしたと思う?口じゃないの?どこ?口だったらどうする?』と北村さんと2人で話をしたことも合わせて、よく覚えています」


-百合子とのシーンで印象的だったのはどこですか?
川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 「百合子は、福田麻由子ちゃんが百合子として登場した最初の頃に、縁側でスイカを食べるシーンがあったのですが、きっとすごく緊張もしたでしょうが、一生懸命百合子としてやっている姿がとても印象的でした」


-福田さんは富田さんに所作などたくさん教えてもらったとおっしゃっていました。

「そんなこともありましたね。正座しておじぎをするとか、そんなことだったと思います」


-大野夫妻とのシーンで印象的だったのはどこですか?
川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 「陽子さんには本当にここぞという時にたくさん助けていただきました。喜美子と八郎さんの結婚パーティーのシーンで、私がこういう風にやりたいなと心の中で思っていたことがあったのですが、迷いがあったので、リハーサルの時には言わなかったんです。すると本番前に財前さんが来てくださって、私と同じことを思っていることが分かったんです。本番直前で時間がなかったのですが、『監督に相談に行こう』と言ってくださいました。マツと陽子さんの関係そのままに、財前さんは本当に私にとってお姉さんでした。劇中でも現場でもここぞ、という時に陽子さんがすっと現れてくれて。すごくかっこいいです。財前さんとは何度か共演していますが、ここまで密な関係なったのは今回が初めてです。
川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 大野さんは、大野雑貨店の閉店を知らせる張り紙を貼る時の斜めからの角度がとてもかっこよくて、思わずご本人にもお伝えしたほどです。男の決意であり、哀愁であり。男の人のあの角度はかっこいいですね。

マギーさんご自身は脚本家であり監督であり演者であるという3つの顔を持ってらっしゃるので、3者すべての気持ちが分かるんです。ですから、監督にアプローチする時や迷った時は『とにかくマギーさんに相談しろ』というのがお父ちゃんの遺言でした(笑)。スカーレットチームのリーダはお父ちゃんで、副キャプテンがマギーさんだと思います」


-常治さんとのシーンで印象的だったのはどこですか?
川原マツ役・富田靖子さんインタビュー 「なんであんな人と結婚したんやろと思うことも何度かありましたけど(笑)、最初にこういう風に作って行こうと北村さんとお話した時に、家族像ややりたいことが一致していたので、マツもきっと、お父ちゃんと思うところが一致していたからこそ結婚したんだろうなと思いました。4月2日の琵琶湖、みぞれが降る中、『子どもらのところに行ってくるわ』と言ったお父ちゃんの後ろ姿を見た時に、この人について行けば間違いないだろうなと思いました。それは北村一輝として行ったのでしょうが、後ろ姿は常治そのものでした」


-共演者の皆さんにひとことずつお願いします。

「陽子さんと大野さんへ
マツが死ぬシーンのあとに3人で円陣を組んだ時、『よろしくお願いしまーす!』お伝えしましたが(笑)、子どもたちのこと、孫たちのこと、嫁である百合子のことをよろしくお願いします。

照ちゃんと信作くんへ
喜美子にとって、照ちゃん(大島優子)、信作くん(林遣都)という友達がいてくれたことが、本当にかけがいのないことだったと思います。
そして個人的には照ちゃんの年の取り方がツボに入っています(笑)。

百合子へ
うちの子はみんな繊細ですが、百合子の繊細さはお母ちゃんとしては少し心配な部分もあります。でも旦那様が信作くんなので、幸せな家庭になっていますよね。あまり抱えこまないで、笑顔でゴールが切れることを願っています。

直子へ
直子はそのままでいてください。素直で剛速球で芝居をしている直子が好きだったので、ストレートに感じたままの直子でいてくれたらうれしいです。私が見ているななみちゃんは、直子の要素が強いなと思います。だから、ななみちゃんも直子もそのままでいて欲しいなと思います。

お父ちゃんへ
みんな頑張ったよ。武志も伊藤健太郎さんが演じることになり、役者陣も次の次のジェネレーションに入ったのですが、みんなスカーレットの思いを引き継いでくれています。だから安心してね。

喜美子へ
喜美子は感じたまま、迷うことがあったら迷ったことをまた感じながら、ゴールに向かって突き進んでもらえたらなと思います。喜美子が武志に言ったセリフですが、しんどいことを楽しみなさい、悲しくなった時もその悲しみを楽しみなさい、というそのことばをそのまま喜美子にも伝えたいです。
まだまだ大変だと思いますが、いつか終わる、終わってしまう、終わらなきゃいけないので、それを存分に楽しんでゴールしてもらえたらなと思います。

ことば指導の先生にもお礼を伝えさせてください。
私と麻由子ちゃんとななみちゃんは関西圏の人間ではないので、ことばに関しては正直、大変でした。
時折何を言っているのか分からないと思うこともありましたが、そんな時も先生方が別のニュアンスや表現方法を教えてくださいました。特に私たち3人は自分ひとりで役を作ったのではなく、先生方が導いてくださって、ここまでくることができたと思っています」


-最後に視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。

「時折、町を歩いていると、お父ちゃん大変ね、大丈夫?と声をかけられることがありますが、彼と一緒になってかわいい娘3人に恵まれたことは私にとって本当に幸せだったので、ご心配はいりません!(笑)。この先、子どもたちが大きくなって、それぞれ自分たちの道を選択していき、孫も自分の道を選択していくそのさまを、ぜひ応援していただけたらなと思います」