「つるし上げだ」休業に応じぬパチンコ店 経営者の言い分は…
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、自治体から休業を求められるパチンコ店。全国で要請に従わない店舗が問題視される中、現在も営業を続ける福岡県内のパチンコ店の男性経営者(44)が28日、西日本新聞の取材に応じた。同県は29日、要請に従わない店名を公表する方針。男性は「やり方が乱暴すぎる。社会全体が『パチンコ店を悪』とする風潮に恐怖を感じる」と訴える。
男性が経営する店は、政府の緊急事態宣言に伴い県がパチンコ店などに休業要請した今月14日以降も、午前10時~午後11時の通常営業を続けている。
男性によると、感染防止策として使用するパチンコ台を半分にし、使用済みの台の殺菌作業や店内の換気を徹底。従業員と客にマスク着用を義務づけ、マスクを持っていない客には無料配布する。多数の客が来店しないよう宣伝用ののぼり旗も撤去した。「お客さんは台と向き合うため、飛沫(ひまつ)感染のリスクは低い。『3密』を避けるためにできる限りの対策はしている」
店内には常時約100人の客がおり、1日の売り上げは数百万円。ほぼ全額を家賃や人件費、台の修繕費などの固定費に充てる。売り上げが減少した中小企業に国は最大200万円、県も最大50万円の給付金を支給する方針だが、「そんな金額ではすずめの涙にしかならない。従業員19人の雇用と景品納入業者などの取引先を守るためには営業を続けるしかない」と話す。
県からの再三にわたる休業要請に対し、男性は25日に計10枚の意見書を県に提出した。「必要以上に行動を制限することは人権侵害に当たり、憲法違反だ」と主張している。
休業要請に従わないパチンコ店を巡っては、大阪府や兵庫県、神奈川県が既に店名を公表し、東京都や京都府なども今後公表する方針。西村康稔経済再生担当相は、罰則規定を含んだ法整備に言及する。
「パチンコ業界はつぶすべきだ」「店を爆破する」。インターネット上には営業店に対する過激な言葉が飛び交う。男性は「パチンコ店だけが標的にされ、もはや要請ではない。つるし上げのようになっている」と危機感を強めている。
一方、福岡県は「休業によって経営に影響が出ることはよく分かっているが、感染拡大防止という目的を理解してもらい、協力をお願いしたい」としている。 (宮崎拓朗)
「店の感染対策に限界」「補償なしには疑問」識者の声
休業要請に応じないパチンコ店は全国にある。営業自粛を当然とする見方が広がる一方、休業補償がないまま休業を促す手法への疑問や、実名公表による過度なバッシングを懸念する識者もいる。
NPO法人医療ガバナンス研究所(東京)理事長で感染症に詳しい内科医の上昌広さんは「医学的には、今の時期の営業は勧められない」と話す。新型コロナの特徴は屋内での感染リスクの高さ。さまざまな物を介して感染が広がるため、換気などの防止策を取っても「限界がある」とみる。
休業要請の対象であるゲームセンターなどの遊興施設で営業継続が問題視されるケースは、今のところ目立っていない。対象業種ではなくても営業を自粛する店舗がある中、営業を続ける一部のパチンコ店や飲食店に対し、批判は強い。
それでも一部の事業者が営業にこだわる理由は、従業員の生活の保障がある。鹿児島大の渡辺弘准教授(憲法)は「そもそも、休業補償をせずに自粛に頼る政策が間違い」と批判する。
憲法29条は公共の福祉のために私有財産を用いる条件に「正当な補償」を挙げる。「憲法の理念を踏まえれば、感染症対策であっても生じた損失を補償しなければならないと解釈すべきだ」という。影響が長期化する恐れがある中、補償もなく自粛を求めるのなら「通常よりも丁寧なやりとりが必要。行政は十分に説明し、店側の言い分も聞かなければならない」。
「政府は補償せずに自粛させるという曖昧なやり方を通すため、世間の同調圧力を利用しているのではないか」とみるのは、日本の「世間」を研究する佐藤直樹・九州工業大名誉教授(刑事法学)。
佐藤さんによると、日本社会の土台を形づくるのは法律ではなく、伝統的な人間関係を基軸とした世間。休業が法的な義務ではないのに強い批判が集まるのは、不平等を嫌う世間の強い同調圧力が原因という。「実名公表はさらなる憎しみを生み、国民の分断を促しかねない」と危ぶむ。 (中原興平、久知邦)