古き死の王の目覚め   作:流星カナリア

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今回アインズ様の出番はありません。新たにカルネ村の住民となった、ラナー・クライム・ガゼフ達とエンリの話です。いつもより短い。


魔導国編
第11話 頑張るエンリさん


「初めまして。魔導王陛下から私の事は聞いていると思いますが、改めて自己紹介をさせて頂きますね。私の名はラナー。こちらは従者のクライム、そして――」

「元王国戦士長のガゼフ・ストロノーフだ。我々は今後、魔導国の一員としてカルネ村に住まわせて頂く事になった。どうか宜しく頼む」

 そう言って頭を下げる三人を見て、流石のカルネ村の住民達も緊張した面持ちを浮かべていた。

 特に村長であるエンリは、かなり――かなり緊張していた。

 先の戦争で何があったのかは、アインズから既に聞いている。彼らがアインズの選定で選ばれた者だという事も。

 しかし、彼らは元第三王女にその従者、そして元王国戦士長だ。ガゼフとは以前一度会っているからまだ緊張はしないが、流石に元王女となると違ってくる。普通ならばまず関わり合う事など無かった存在。緊張するなと言う方が無理な話だった。

 そして、この三人をカルネ村に連れてきた張本人であるアインズは、現在バハルス帝国の皇帝と共に、エ・ランテルで演説をする為留守にしている。なので、必然的に彼らの世話は村長であるエンリに回って来るのだ。アインズからは「普通に接すれば良い」と言われたが、それはアインズが魔導王という立場だから言えるもの。ただの村長である自分では、到底普通に接するなんて難しい。

 エンリは内心を表に出さぬよう、必死に押し込めながら笑顔を浮かべた。

「こちらこそ初めまして。ストロノーフ様には、以前お会いしましたね。ラナー様とクライム様には、初めてお会い致します。私の名はエンリ・エモット。このカルネ村の村長を務めさせている者です」

 エンリがお辞儀をすると、クライムが何故か慌てて声を上げた。

「わ、私はただの従者です! 様付けなどせずにお願いします……!」

「あら。でしたら私もですわ。私はもう王女ではありませんもの」

 そう朗らかに笑うラナー。するとガゼフもまた「その通りだな」と口を開いた。

「私も最早戦士長ではない。慣れないかも知れないが、どうか普通の村人として我々に接してはくれないだろうか?」

 村人達は彼らの言葉に顔を見合わせた。

 確かに、自分達が遠慮していれば彼らも同じように遠慮してしまう。緊張するのは当然だが、それは向こうだって同じ筈だ。今までとは違う生き方をしなければならないのだから。平民上がりのクライムやガゼフは兎も角、ラナーは元王女。それがいきなり村人として過ごせと言われても、何かと不便かも知れない。ならば、出来る限り自分達が積極的に話しかけて、この村での生活を良いものにして貰いたい。そう、彼らは考えた。

 エンリもそう考えたのだろう。村人達からの視線を受け止め、力強く頷いた。

「分かりました。では、ラナーさん、クライムさん、ガゼフさん。我々カルネ村の住民は、貴方達を新たな住民として歓迎します! この村はアインズ様が様々なマジックアイテムを開発して下さったお陰で、以前と比べるとかなり発展してるんですよ。だから、かなり住みやすいと思います」

「だろうな。この村は最早要塞都市だ。もしも外敵からの襲撃があったとしても、何も問題は無いだろう。死の騎士(デス・ナイト)もいる事だしな」

 ガゼフが周囲を見渡す。村のあちこちで死の騎士(デス・ナイト)が作業をしていた。開墾作業や木材を運んだりと、彼らは重労働を主に担っている。

「はい。それに、最近アインズ様は新たに死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)さん達を沢山作ってました。何でも、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)さん達は知識欲が高くて、行政や書類仕事にはもってこいの存在らしいです。エ・ランテルを手に入れた事で、そちらを管理する上で必要になってくるだろうと」

「成程……確かに死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)の英知は常人を凌ぐと言われている。エ・ランテルを管理する上で彼らを使うのは理にかなっているな」

 ガゼフは思案気に腕を組んだ。

 アインズの居城はトブの大森林の中にある。カルネ村を管理するのならば、そこを拠点とするのは何も問題は無いと思うが、エ・ランテルを手に入れた今、恐らくアインズはあの都市を主な拠点とする筈だ。

 エ・ランテルはカルネ村と違い、規模の大きな街だ。帝国にも隣している為、人や物資の重要な流通拠点となる。

「エンリ殿、ゴウン殿は今後、拠点をエ・ランテルに移すのか?」

「恐らくそうだろうと思いますね。エ・ランテルは大きな街です。戦争で勝ち取った街ですし、暫くはあの街を拠点とするんじゃないかなって考えてます。支配体制も変わる事ですし、色々とやらなきゃいけない事が増えるって仰ってました。だから自分の留守を任せる為に、お城にも死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)さんを何人か置いてるみたいですよ。直接アインズ様の指示を受けて動くのは確か――司書Jさん、って名前だったかな?」

 会ってみますか? とエンリが尋ねると、ガゼフは首を横に振った。

「いや、恐らく今後会う機会があるかも知れない。その時にでも挨拶をしよう。まずは村の生活に慣れなければ」

「それでもそうですね。じゃあ、一通り案内します! 皆さん、後は私が彼らを案内するので、各々自分の仕事に戻って大丈夫ですよ」

 エンリが広場に集まっていた村人達にそう伝えると、彼らは口々に「頑張ってね!」とか「宜しく頼むぞ!」と声をかけてくれた。

「エンリ!」

 それに笑顔で答えていると、エンリの元へ駆けて来る青年がいた。

 ンフィーレアだ。

「どうしたの、ンフィー?」

 不思議そうに首を傾げるエンリに、ンフィーレアは息を整えてから口を開けた。

 相変わらず体力が無いなとエンリは内心苦笑する。でも、肉体労働が出来ない分、彼はポーション作りに精を出してくれている。適材適所というやつだとアインズが笑っていたのは記憶に新しい。

「実は、三人に渡したい物があって……」

「まぁ、私達に?」

 ラナーが興味深そうに声をあげた。クライムとガゼフも何だろうと顔を見合わせている。

 ンフィーレアはゴソゴソと鞄の中身を漁った。

「アインズ様が選んだのなら必ず意味がある筈。それはこの村の全員が思っている事です。だから、慣れるまで時間がかかるかも知れないですけど、これからお互いに協力していきたいなって。そういう意味も込めて、僕らからのプレゼントです」

 そう言ってンフィーレアは鞄から三本のポーションを取り出した。

「本当はお婆ちゃんも来れば良かったんだけど、工房に引き籠ってるから――はい、どうぞ皆さん。これはラナーさんへ。美容に効果があるポーションですよ」

 ンフィーレアがラナーに手渡すと、ラナーは驚いてポーションを見つめた。それは薄紫色のポーションだった。エンリは見た事が無い代物だったので、恐らく新作かも知れない。美容系ならエンリも興味がある。あとでコッソリ聞いてみようと心の中で決意した。

「まぁ、そんな効果があるポーションもあるんですね! 凄いです……ありがとうございます!」

「まだ試作段階のものなんですけどね。良ければ使った後にどんな効果があったか教えて貰えれば、今後に生かせるなぁって……」

 ンフィーレアは照れ臭そうに鼻を掻いた。

「それと、こっちはクライムさんの分。これは筋肉の凝りを解す効果があります。クライムさんはラナーさんの従者ですし、鍛錬も沢山していると思ったので。大切な人の為に強くなろうって思うその気持ち、とても素晴らしいと思います!!」

 力強くそう宣言するンフィーレアに対し、クライムは顔を真っ赤にさせてチラチラとラナーを見ている。ラナーはそんなクライムに気付き、クスクスと幸せそうに微笑んでいた。

(アインズ様がこの二人の関係を教えてくれたけど――凄く幸せそうね)

 亡国の姫とその従者。あの戦争を経て二人は結ばれたとアインズは言っていた。まるでおとぎ話みたいだ、なんて思っている間に、クライムが紫色のポーションを照れ臭そうに受け取った。

「あ、ありがとうございます! 大切に使わせて頂きます!」

 見た目のわりにはしわがれた声で、クライムはペコリと頭を下げた。

「そしてこれがガゼフさんの分です。ガゼフさんは元王国戦士長ですし、周辺国家一の戦士と言われる存在。そんなガゼフさんには、戦闘前に飲むと筋肉の伸縮性が向上して体の動きが良くなるポーションです。これもまだ試作品ですけど、今までで一番出来が良い物ですよ」

「なんと……そんな素晴らしい物を作って下さるとは……! 有難い。感謝する!」

 しげしげと赤紫色のポーションを見つめつつ、ガゼフは大事そうにそれを受け取った。

「しかし、こんな色のポーションは今まで見た事が無いな」

「そういえばそうですわね。クライム、貴方も見た事が無いでしょう?」

「えぇ。こんな色のポーションは初めてです」

 不思議そうにする三人に、ンフィーレアは説明を始めた。

「僕とお婆ちゃんは、アインズ様に頼まれて赤いポーションの生成を目指しているんです。赤いポーションってのは、アインズ様が生きていた頃にはまだ流通していたそうなんですけど――今の世界だと、それはもう失われた技術らしくて」

「ほぉ。それは興味深い」

 ガゼフが、受け取ったポーションを軽く揺らしながら呟いた。

「赤いポーションは現在流通している青いポーションよりもかなり性能が良いんですよ。でも、材料がもう殆ど存在していなくて……だから、アインズ様が残していた研究資料を基に、似た効能を持つ材料を集めながら研究している最中なんです」

 エンリはンフィーレア達が日々必死に研究しているのを知っている。だからこそ、紫まで色を近付ける事が出来たのは、とても凄い事だと思っていた。素人目に見ても、そこまでの道程がどれ程大変なものだったかは分かる。それをやってのけたンフィーレアは、本当に尊敬できる友人だった。

(いつの間にこんなに頼れる人になったんだろう?)

 ちょっと頼りない人だと思っていたのに、気付けば村の為、アインズの為に人一倍頑張る立派な青年に成長していた。その事実に、何故か心が熱くなる。この感情は、何なんだろうか?

 胸を抑えながら、エンリは不思議そうに首を傾げた。

「エンリ? どうかしたの?」

「え!? う、ううん、何でもないわ! それより、ここまで赤に近付けるなんて本当に凄いわ。アインズ様も、きっと喜んで下さるに違いないもの!」

 そんなエンリの言葉を聞いたンフィーレアは、顔を赤く染め上げてわたわたと手をバタつかせた。

「そんな、僕なんてまだまだだよ! だって、アインズ様は実際に赤いポーションを作った事がある。貴重な現物だって見せて貰ったけど、とても今の僕らじゃ到達出来ない代物だった。何とか頑張って紫色なんだよ」

 でも、と彼は続けた。

「―――でも、エンリにそう言って貰えるのは嬉しいな。ありがとう、エンリ」

 長い前髪の隙間から、こちらを見つめる瞳が見える。

 綺麗な青い瞳は、彼の純粋さを表すように澄んだ色を浮かべていた。

(ンフィーのこういう、目的の為に真っ直ぐな姿勢って、本当に立派よね)

 自分も見習わなければ。

 うんうんと頷いていると、ンフィーレアはラナー達へと再び振り返った。

「それじゃあ僕はこの辺で。皆さん、これからどうぞ宜しくお願いします!」

 ペコリと頭を下げて、ンフィーレアは自宅兼工房へと戻って行った。

 その姿が見えなくなると、エンリはポンッと手を叩く。

「じゃあ、皆さんのお家にご案内しますね。こちらへどうぞ」

 そう言って三人を引き連れ、エンリは村の中を進んで行く。少し歩くと、一つの家が見えてきた。それ程大きくは無いが、二階建ての家だ。

「前もって伝えられたとは思いますが、此処はブレインさんのお家です。ガゼフさんはアインズ様のご意向で、彼と一緒に住む事になります。お互い色々あったと聞いてはいますが、今は同じ魔導国の民。そこのところを踏まえた上で、彼と接して貰えると助かりますね」

 エンリが若干心配そうにガゼフを見上げると、ガゼフは苦笑を浮かべた。

「心配せずとも大丈夫さ。確かに色々あったが、大事なのはこれから先の事だ。私は魔導国の行く末を見届けなければならないからな」

「ガゼフさん……」

 ガゼフの瞳が、何処か遠くを見つめている。

 エンリは何と声を掛けるべきか分からず、結局口を噤むしかなかった。

 

 アインズから、あの戦争で本当は何があったのか、エンリだけは聞いていた。村長として知っておくべきだと思ったからである。

 カルネ村の他の住民達はそれを知らない。彼らはラナー達が本当に亡命したのだと思っている。

 でも実際は違う。

 本当は、ラナーは一度アインズに殺されていて、復活させる代わりにエ・ランテルを手に入れたのだ。

 エンリはそれが正しい行為だとは思わない。けれども、アインズはカルネ村を守り、より発展させる為にこの方法を取った。であるのならば、それはカルネ村にとっての正義となる。そして王国は、アインズにとってカルネ村の害となる存在だった。だからバハルス帝国と手を組んで潰されたのだろう。

 

 アインズはこれからも取捨選択をしていく筈だ。

 そして多くの敵を作るに違いない。それでも彼は前へ進んでいくとエンリは分かっていた。

 アインズはこの世界に落胆している。眠っていた300年の間、世界は彼が思っていたよりもかなり衰退していたらしい。

 だからこそ、人間という枠組みを超えオーバーロードとなり、多くの魔法や知識を持った自分が、もっとこの世界を発展させようとアインズは考えていた。

 バハルス帝国は、元々魔法に力を入れている。王国とは発展具合も天と地程の差があった。普通に考えてもそちらと手を組むのは当たり前だ。アインズにとって、滅びゆく国よりも実りのある国をより発展させる方が、世界にとって最善と判断したに違いない。

 そして、そんなアインズの事を理解してくれる人物が、自分達以外にもきっと現れるとエンリは信じている。

 

――世界を良くしたいと願う心は、例え犠牲が出たとしても、その想い自体はきっと悪では無い筈なのだから。

 

「ガゼフさん、今は取り合えず、難しい事を考えるのは後回しにしましょう? 今日、ブレインさんはアインズ様の警護でいませんが、先にお家で休んでいて下さい」

 ね? と笑みを浮かべる。そんなエンリを見て、ガゼフは少しだけ気を緩めたようだ。小さく息を吐くと「あぁ」と頷き、残る二人へ軽く会釈をしてから家の中へと入って行った。

 

「あとはお二人ですね。お二人のお家はもう少し先です」

 ブレインとガゼフの家から暫し歩いた先。村の外れに位置する場所に、二人の家が建てられていた。

 ブレイン達の家もラナー達の家もアインズが指示を出して建てたものだが、ラナー達の家は彼らの家と比べると、若干広い。それは恐らく、ラナーを考慮したものだろう。王宮で暮らしていた彼女が村で生活するとなると、やはりかなりの違いは生じる。なので、村に馴染むレベルで出来る限り彼女が不便を感じない程度の規模で作ったらしい。

 アインズは何かとラナーを気にかけている。一度殺した相手だと言っていたが、それは相手も了承した上での計画だったらしい。つまり、ラナーは最初から王国側ではなく魔導国側の人間だったという事だ。

 末恐ろしい元王女様である。

「まぁ、庭があるのね。春になれば綺麗な花が咲きそうだわ」

「そうですね、ラナー様。この家はどうやら、ガゼフ殿達の家よりも少し大きめに作られているようです。きっと、ラナー様に配慮して下さったのでしょう」

 クライムが興味深げに家を見上げていた。

 ラナーは庭から視線を戻すと、うっとりとした表情を浮かべてクライムを見つめる。

「己の立場も気にせず、こうして貴方と共に居れる事が私はとても嬉しいわ」

「ラ、ラナー様……!」

 エンリの目の前で、ラナーはクライムに抱き着いた。

 クライムはまだ慣れていないのか、ぎこちない動作でラナーの背中に手を回す。

「うんうん、幸せそうで何よりです!」

 エンリが腕を組んで頷くと、ラナーが嬉しそうにこちらを見た。

「ありがとう、エンリさん。全てはアインズ様のお陰よ。そして、そんなアインズ様と繋がりが持てたのは、カルネ村があったお陰でもある。だから、私は貴方達にもとても感謝しているわ」

 その言い分に、エンリは「おや?」と首を傾げた。

 先の戦争の真実は、自分やブレイン、そしてジルクニフやラナーだけが知っている筈だ。

 なのに、ここでアインズへの感謝を述べれば、クライムにそれがバレる筈。

 まさか。

 そう思ったのが顔に出たのだろう。ラナーはコクリと頷いた。

「戦争が終わった後、全てをクライムに話したの。彼から否定されるだろうとは考えていたわ。でもね、私は私の全てを曝け出したかった。もう、我慢はしたくなかったのよ」

 そう告げるラナーに対し、クライムが静かに口を開いた。

「ラナー様がやった事は、決して許される事ではありません。ですが、王国が王族や貴族らのせいで衰退していたのは事実です。どのみち、もう長くはなかった。今だから正直に言いますが、ラナー様の意見を却下した貴族達の事を、恨んでいなかったといえば嘘になります」

 眉間に皺を寄せながら、クライムは言い放つ。

「――そして、そういった意見を出していたのも全て、私の望む『黄金の姫』を演じる為だったと知った時、心の底から湧き上がったのは、怒りでも憎しみでもなく、愛でした」

 クライムの瞳が、真っ直ぐにラナーを見つめる。

「何も無い私をラナー様は愛してくれた。それこそ、王国すらも裏切って。そして私は、その愛を嬉しいと思ってしまったのです。その時点でもう、後には引けないと確信しました。全ての罪を背負った上で、私はラナー様を愛しています」

 その言葉に、ラナーは感極まったように体を震わせた。その瞳には、涙が滲んでいる。

 心底幸せそうに、彼女は泣いていた。

 

 沢山の屍の上に、二人の幸福は咲いている。

 それは周りから見れば悍ましいものなんだろう。しかし、エンリはそれもまた一つの愛なのだと思う。

 だって自分達だって同じだ。

 エ・ランテルを奪い、王国を帝国に併合させてこの地の平穏を保っている。

 アインズは世界を憂い、そんな世界に生きる人々に、それ相応の価値があると判断すれば手を差し伸べる。だが、そうでなければ切り捨てるのが彼だ。彼の理想とする世界には、必ず犠牲が生じる。それは帝国が行っている政策の比では無いだろう。

 だが、自分達はその考えを受け入れた。ならばこの二人と同じようなものだとエンリは考えている。

 

 皆幸せになりたいだけだ。

 

 それがアインズの場合、何だかんだと世界規模になりつつあるだけで。

 

(私ももっと頑張らないとなぁ。カルネ村も今後は忙しくなるだろうし、今以上に私が動かなくちゃいけない場面も出て来る筈だわ)

 確か先の戦争で持ち帰って来た死体で死の騎士(デス・ナイト)を作る際、名付けをする為に自分も呼ばれていた。他にも、帝国魔法省の地下深くに封印している死の騎士(デス・ナイト)を見に行くから、一緒に来てくれとも言われている。

 どう考えても村長以上の仕事を任されているが、その分信頼されているのは嬉しい。彼の期待に応えたい。だからこそ、このカルネ村をどんどん発展させていきたいのだ。その為に頭脳派とアインズが言っていたラナーの知識を借りる必要がある。私なんかのお願いを聞いてくれるか分からないが、この様子ならば多分聞いてくれるとエンリは思った。

 

「それじゃあ私はこの辺で戻ります。後はお二人でお家の中を色々見て回って下さいね。此処は村外れですが、日当たりが良い場所なので、天気が良い日はお二人で日向ぼっこするのもオススメですよ!」

「それは良いですわね! お城にいる時は、日向ぼっこでさえあまり長い時間出来ませんでしたし」

「そうですねラナー様。では、今日は天気が良い事ですし、一通り家の中を見て回ったら庭に出て日向ぼっこでもしましょう」

 クライムが優し気に目を細めた。

「それではまた後で。お二人とも、これから宜しくお願いしますね」

 エンリが手を振ると、彼らは手を振り返して家の中へと入って行った。

「さてと。これでまずは一つ仕事が終わったわね……」

 何だかとても疲れた気がするが、まだまだやる事は沢山ある。今日は食糧庫の点検に、両親と一緒に森へ薬草摘みに行く予定だ。少し休憩を取ったら始めよう。

 エンリはう~んと一伸びすると、軽い足取りでその場から去って行く。

 

――カルネ村の村長、エンリ・エモットは、今日も一段と頑張っていたのであった。

 

 


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