司会 ジョニー・カーソン(コメディアン・俳優) Wikipedia
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アカデミー主演女優賞を獲得した『コールガール』や『帰郷』、SFカルトフィルムの傑作『バーバレラ』、J・Lゴダール監督の『万事快調』で知られる世界的女優ジェーン・フォンダ。この動画は1977年10月6日『The Tonight Show』にフォンダが出演した際、司会者・コメディアン・俳優であるジョニー・カーソンの質問に答え、アメリカ政府による違法監視・嫌がらせとそれにまつわる裁判について語ったものです。
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コインテルプロで個々人の自由・プライバシーは過去のものに
カーソン「あなたを紹介した私のセリフは聞いてくれましたか?」
フォンダ「非常に好意的な紹介の仕方をしてくれましたね」
カーソン「いや言いたかったのは…興味深かったわけです。私が言ったように、あなたはラディカルだと言われてきた。歴史を振り返ると、ラディカルと呼ばれた人たち、社会における大きな変革というのは、最悪に変えた場合とより良くした場合と両方あるわけですが、変革を成した人たちはみなラディカルでした。憲法を起草する立場にいようといまいとです。国民はそれを忘れています。私たちのあの革命の時代を振り返ると、あの頃私たちは皆本当にとてもラディカルでした。1950-60年代は街を歩けば皆ラディカルだった。でも今はみんなソフトになってしまって、最近では多くの人たちが立場を明確にしていますが、右寄りになってる。例の件は解決しましたか。郵便物とかそうしたものについてトラブルがありましたよね。差し支えなければ、それについてちょっとだけ突っ込んで」
フォンダ「そうしたいのであれば、どんなことでも」
カーソン「なるほど。今お聞きのように…」
(会場このやり取りにどっと沸く)
カーソン「あの、お客さんたちが…」
フォンダ「どんなお客さんたちなんでしょう?」
カーソン「いや彼らは動物そのものです。動物です…。えー、たとえば」
フォンダ「CIAの件ね」
カーソン「そうです、国民はこの問題を気にかけるようになってきています。個々人の自由、プライバシーというものが、今やほとんど過去のものになってしまった。コンピューターが用いられ、郵便物は開封され、電話は盗聴され、諜報機関の人間がいろんなことをしていた。著名人や政治家など、当時のエスタブリッシュメントに反抗的とみなされた全ての人たちに対してですね」
自分の被害を明らかにする手段として訴訟が重要だと考えたわけでなく、訴訟を起こす事でアメリカ国民が知ることができるのではないかと考えた
カーソン「あなたはその問題で裁判を起こしました。問題は解決されましたか?何が起きていたの?」
フォンダ「解決するには何年もかかるでしょう。ACLU(アメリカ自由人権協会)が私のために提訴してくれたのです。訴えた理由というのはフォード…失礼、ニクソン大統領の時ですね。アメリカ国民はウォーターゲート事件の根幹を、ちゃんと知る手立てから完全にシャットアウトされていたのです。個人による訴訟以外の手段を除いてね。だから私は自分の被害を明らかにする手段として訴訟が重要だと考えたわけではなく、私が訴訟を起こすことで、アメリカ国民が知ることができるのではないか、と考えたのです」
諜報機関の女性覆面捜査官が活動家のジャーナリストを装い取材
フォンダ「ニクソン政権がどんなやり方で諜報機関を使っているのか、政権批判をする人々をめちゃくちゃにするためにね。本当に恐ろしいことです。私は今まで法を犯したこともなかったのに、変装した諜報機関の覆面調査官たちが私の家に来たのですから。知らない人だったのですが、活動的なジャーナリストでフェミニストだという女性がインタビューしに私のところに来たのです。大ファンだからーと。私が自分についてのCIA・FBIファイルを読んだ時、その女性はその場で調査していたことがわかったんです。あれは息子が生まれる直前のことでした。FBIやCIAが何を知りたがっていたのか、私にはわかりません。出産で病院に行こうとしている時だったのに」
諜報機関に情報を漏洩していた信託銀行
カーソン「それが国家の安全保障を脅かすような事だったんでしょうか。FBIやCIAにとってはそうだったんでしょうね」
フォンダ「彼らは私の全銀行取引明細を手に入れていました。〇〇信託銀行から。
『信託銀行』は完全に崩壊ですよね。国家安全保障のリスクの名のもとにね。私が国家安全保障のリスクですって?」
政策の実行に国民が反対である時に権力者がする事
カーソン「少し振り返ってみましょうか。たくさんのエンターテイメントに携わる人たち、彼らについてのデータリストを持ってる人たちがいて、それは国家安全保障という口実のもとに行われていたことなのですが、思うにあなたの諜報機関の人物たちが少し偏執狂的だった。それがこの時に起こっていた事なのでは」
フォンダ「何が起こっていたかというと、私が思うに、もし誰かがー」
カーソン「もしこの国でパーティ・ラインが義務付けられてたらどうかな。パーティラインの時代に戻れば皆が他人の会話を聞くことができるから秘密はなくなる」
フォンダ「権力を持つ立場にいる人たち たとえば大統領のような人が、ある政策を実行するように決め、それに多くの国民が賛成しなかったとしたら、権力者たちは選択を迫られることになります。自分たちが実行している政策を中止して国民の声に耳を傾けるか、それとも継続するか。この場合ベトナム戦争のことですが、要するに国民の基本的な民主主義の権利を権力者たちは破壊しなければいけなくなるのです。これがあの日起こっていた事なのです」
ウォーターゲートでアメリカ国民は変わった
カーソン「それが一つの目的、ウォーターゲートのあらゆるトラウマのために使われたら―。国民はウォーターゲートではっきり目覚めました」
フォンダ「国民は変わってきています」
カーソン「今考え方の変革が起こっています」
フォンダ「そのとおりです」
カーソン「それから信頼です。権力者たちは今、注意深くならなければいけなくなった」
以上
解説ージェーン・フォンダとコインテルプロ
フォンダは1970年からベトナム戦争中の反戦・平和運動をきっかけにFBI・CIAの監視対象とされ、悪名高い非道なコインテルプロ(Counter Intelligence Program)作戦の被害者となっていました。後にフォンダへの監視に関するファイルが公開されると、危険分子と見なす証拠となる事実は全くなかったにもかかわらず、フォンダにはコードネームが付けられ、「破壊活動分子」や「アナーキスト」といった呼び方もなされていたことがわかりました。
監視・尾行・不審電話・盗聴・郵便物の無断開封・不当逮捕・拘留
このコインテルプロでは、米国政府が平和活動家などに対し、政治活動の監視・盗聴・言動の密告はもちろん、令状なしの家宅捜査、対象者の信用低下工作、犯罪容疑をねつ造しての検挙、時には殺害行為まで行っていたのです。コインテルプロ作戦のもと、FBI・CIAはフォンダに常軌を逸した監視・尾行・不審電話・盗聴・郵便物の無断開封・不当逮捕・拘留をはじめとした執拗な嫌がらせを行っていました。フォンダは自伝で次のように語っています。
『FBIは1970年から1973年まで私を監視し、「中傷して抹殺」し、「私の個人的かつ職業的な地位を傷つける」ために諜報活動の手法を用い、憲法で保障された私の権利を侵したことを認めた』「ジェーン・フォンダ わが半生 (下)」p116
最終的にフォンダについては、2万ページに及ぶファイルが作成されました。この動画でフォンダは、コインテルプロに関する訴訟を起こしたのは、ニクソン政権が行っていた破壊工作がいかなるものだったかを国民に伝えるためには、法に訴える以外に手段がなかったからだ、と語っています。この訴訟で、国務省、IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)、財務省、そしてホワイトハウスがフォンダに関するファイルを保管していた事が明らかになったほか、CIAがフォンダの郵便物の無断開封を行っていた事も判明しました。CIAが合衆国国民の郵便物を無断開封していたことを認めたのは、フォンダの裁判が初めてでした。
書類なしで行われていた個人の情報取得~諜報機関は法を破っていた
この動画で触れられているように、FBIはフォンダの銀行との取引明細書を取得していましたが、これは書類なしで行われていたようです。盗聴については、国家安全保障局(NSA)がフォンダの電話を違法に盗聴し、その内容を録音したものを活字にし、ニクソン大統領はもちろん、キッシンジャーなどの政府高官にも配布していたことが明らかになっています。FBIは、刑法に対する侵害がないかぎり捜査できない組織ですが、当時のFBIは平和運動を潰そうとしていた軍や財務省秘密検察局、NSAと組んで、反政府的扇動罪等の罪でフォンダを逮捕することを考え、こうした活動を行っていたのです。
ジーン・セバーグやマーティン・ルーサー・キングもコインテルプロの被害に
ヌーヴェル・ヴァーグの傑作『勝手にしやがれ』で知られる女優のジーン・セバーグ、公民権運動の英雄マーティン・ルーサー・キングもコインテルプロ被害者です。ジーン・セバーグはこの悪質極まりないプログラムにより破滅に追い込まれ、謎の死を遂げています。 友人・家族・仲間との離間工作、盗聴、郵便物の無断開封、尾行、中傷ばらまき、自宅への不法侵入、対象者になりすました手紙の送付、毒物の投与、不適切な薬物の投与というコインテルプロの基本スキームは異常そのものですが、日本で長く妄想と考えられていた「集団ストーカー」と極似しています。
FBIはフォンダやセバーグのほか、俳優ではポール・ニューマン、作家・文学者ではアレン・ギンズバーグ、パール・バック、ジョン・スタインベック、アーネスト・ヘミングウェイ、ガルシア・マルケス、フィリップ・K・ディック、音楽家ではジョン・レノンなど、非常に多くの著名人を秘密裡に監視してきました。日本でも著名な作家が加入している日本ペンクラブなどが公安組織の監視対象になっています。著名人は影響力が大きいため、一般人よりも不当な監視の餌食になりやすいのですが、NSAによる現代の大量監視は、特定人物ではなく国民全員が監視対象となっており、一般人のプライベートなオンライン上のやりとりも監視対象です。また、現代の監視・コインテルプロと言われる、集団ストーカーでは著名人の加担が無数に指摘されています。これは60年代のコインテルプロとの大きな違いとも言えそうです。
前述の米国が所有する大量監視ツールは「エックスキー・スコア」Wikipediaと呼ばれていますが、このツールが日本側に渡っていることが、NHK「クローズアップ現代」で明らかになりました。日本でも秘密裏の大量監視が行われている可能性は十分にありうるといえます。一方各国政府や世界規模の超監視社会化政策の裏側で暗躍する犯罪集団の存在の可能性も否定できません。さらに表と裏の連携の可能性を指摘する声もあるのです。 コインテルプロは公式には1970年代に終了していることになっていますが、その後も被害は相次ぎ、現在でも秘密裡に続けられているとの噂が絶えません。
◎参考文献
ジェーン・フォンダ(著) 石川順子 (訳)『ジェーン・フォンダ わが半生<上・下>』ソニーマガジンズ 2006 http://amzn.to/2rpWvGr http://amzn.to/2qGv9P5
・女優ジーン・セバーグの経験したコインテルプロについて
ジーン・ラッセル・ラーソン+ギャリー・マッギー(著)石崎一樹(訳)『FBI V.S ジーン・セバーグ 消されたヒロイン』水声社 2012 http://amzn.to/2qbdRGh
・米国の超監視社会化政策について
ジム・レッデン (著), 田中宇 (訳)『監視と密告のアメリカ』成甲書房 2004
・FBIによる作家たちに対する監視について
ハーバート・ミットガング(著)岸本完司 (訳)『FBIの危険なファイル―狙われた文学者たち』中央公論社 1994 https://is.gd/RhZEnS
☆洋書
Mary Hershberger(著) 『Jane Fonda’s War A Political Biography of an Antiwar Icon』The New Press 2005 http://amzn.to/2sltn3g
〇参考映像作品
『ジーン・セバーグ・コンプリート』アップリンク 2000 http://amzn.to/2q83w01
参考映画予告篇
ジーン・セバーグの人生を描いた映画『Seberg』(2019) 予告編 [日本語字幕なし]
参考記事
ハリウッド俳優・集団ストーカー被害者 スティーヴン・シェレン インタビュー
世界発の本格的集団ストーカー映画
スティーヴン・シェレン監督・脚本・主演『The Spark』レビュー
フィリップ・K・ディック『コインテルプロ、日米仏露の文学とその影響を語る』
参考記事(外部サイト)