●遺産分割協議と紆余曲折の戸籍収集
納骨前には遺産分割協議も済ませておきたいところです。
まず、遺書があればそれを確認します。公的な遺書だったら公証人立ち合いのもと、遺書の確認になるようです。ウチでは明確な遺書が無かったので、その辺りは調べていません。
遺産がたくさんあるなら、公証人や税理士に相談すべきでしょう。税理士さんには相続を得意とされているかたがいらっしゃいますので、そういう所に相談するのが良いと思います。
ただ、我が家もそうですが、年金暮らしの老人の場合、受け継ぐ遺産がほとんど無い事があります。そんな経済状態だと、公証人に頼むだけで足が出てしまう事も考えられます。ですから、そういうケースなら時間があれば出来るだけ自分でやったほうがよいと思います。
遺産分割協議には、相続する権利がある全員の署名が必要になるので、まず、相続の権利がある人が何人いるかを調査します。
一人暮らしの親の場合、別居とかでこじれていない限り、既に配偶者はいないと思いますので、順当にいけば子供が相続対象になります。
この時注意したいのは、血縁関係にある子は全員が相続権を持つということです。
つまり、過去に別れた実子にも相続権があるという事になります。離婚して養育権は相手に行ったから相続の権利はない、などと主張してもダメです。実子には必ず権利が生じます。遺書があったとしても実子ならば不服申し立てができますので、実子が何人いるかを調べなくてはなりません。これ大事。
そこで、死亡した当人の戸籍謄本を生まれてから死ぬまで全部揃えます。昔の人だとあまり戸籍を移動させていなかったりするので比較的楽だと思いますが、思わぬところに本籍があったりしますので要注意。特に、「生まれた場所と本籍地が違う」ことがざらにありますので、新しいほうから順を追って遡ることをお勧めします。
戸籍の収集は面倒なので、遺産分割協議書の作成とともに、公証役場に頼んだ方が良いかもしれません。少なくない遺産があれば税理士さんにも相談しておきたいところです。
ウチは相続争いになるような遺産がありませんでしたので、公証役場に頼むと赤字になってしまう可能性があったため、全て自分でやってみました。ところがこれが結構大変。顛末を全部書いておきます。事実誤認などもありましたので、参考にしてください。
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まず戸籍。住民票のある役所に行き、住民票とともに戸籍謄本(全部事項記載の除籍謄本)を入手します。住んでいる場所に戸籍が無ければ、戸籍のある住所を教えてくれます(住民票に記載されています)
自動車免許があれば、本籍地が書いてありますので、本籍はあらかじめ確認しておいた方が良いでしょう。本籍地が遠い場合、電話などで連絡して取りよせる必要があります。近地なら行ったほうが早いですね。
戸籍は、遺産相続だけでなく、諸手続きに必要な場合がありますので、必要部数を一度に用意しておくと良いでしょう。
簡単に言うと、預金のある銀行全て、証券類があればその会社単位に全部、土地があればさらにその分の数の戸籍が必要です。
それぞれで必要な戸籍が違うので、まずは銀行や証券会社で確認し、必要書類をチェックしてから役所に行きます。ただ、銀行に連絡すると、その時点で預金凍結となり、公共料金の自動引き落としなども止まってしまいますので要注意。
我が家の場合、都営霊園用(これはコピーを渡せば良いので原本は回収できます)と銀行用(銀行によってはコピー不可のケースもあったりするので、一応銀行分用意したほうがよいと思います)に各2通を準備する必要がありました。
調べてみると、母の本籍は神奈川県藤沢市にありました。20年前までに住んでいた土地です。現住所に移転したとき、本籍は移さなかったという事です。
そこで、藤沢市役所に行き戸籍を調達。その戸籍を見てみると、東京都の杉並区役所から本籍を移動したことが分かりました。戸籍にはどこから移動したかが必ず書いてあります。
ところが、その戸籍謄本を読むと、母の出生地が埼玉県北足立郡與野町なんて書いてあるじゃないですか。埼玉?與野町?聞いてないよ!どこ?!與野は与野ですね。そういえば母方の曾祖父は大宮駅長をやっていたので、母は埼玉で生まれた可能性は充分にあります。
うへえ、埼玉か。遠いので、まずはここから行ってみようと思ったのが間違いの始まり。
戸籍は必ず新しいところから遡ってください。
與野町は与野市になり、さいたま市に編入されています。ですからさいたま市役所に行く事になります。大宮駅に出張所がありましたので、ここへ行ってみました。
戸籍は死んだ人の名前と、戸籍の筆頭者の名前が必要です。母の名と祖父の名を書いて提出しますが、戸籍がありませんという回答。そんなはずは?と思って、藤沢市の戸籍を見せました。「與野町で生まれたとあるんですが、、、」
「ああ、戸籍は出生地とは別の可能性がありますのでね。お母様の戸籍は與野町には無かったのでは?」
あ!そういう事か!!
「ちょっと調べてみましたけど、この住所、病院みたいですね。與野の病院でお生まれになったという事でしょう。戸籍はここではないので、藤沢市の戸籍から遡って調べてください」
早合点しましたねえ。そういう事があるんです。本籍地は出生地ではない場合が多いんですね。全国どこでも自由に本籍地を決められます。ですから、まずは死亡した除籍記録のある戸籍から遡って集めていくしかないという事です。
藤沢市の戸籍には、杉並区から転籍と書かれていました。
杉並区は私が生まれた場所で、そこに本籍があったわけです。なるほど。そこで杉並区役所に行き、本籍を入手。ところが、その前は豊島区に本籍があったというのです。え?聞いてないよ!!
仕方なくその足で豊島区役所へ。無事本籍を入手。結婚したとき、父の本籍が豊島区にあったのですね、そこに編入されたので豊島区役所に本籍が移ったという事です。結婚したとき住んでいたのは豊島区ではなく杉並区だったので、その後本籍を移動したようです。
ん?そうなるとその前に独身時代の戸籍があるはずですね。
ありました。その前は文京区でした。あー、そういえば小石川だか飯田橋だかに住んでたとかいないとか、そんな話を聞いた気がします。
そこで文京区役所に行き、戸籍を入手、、と思ったのですが、待てど暮らせど謄本が出来上がって来ません。一番早かった杉並区で10分、藤沢も豊島も20分くらいで入手できたのですが、文京区役所では1時間近く待たされても無のつぶて。いい加減遅いので、クレームを入れようかなと思ったら順番が来ました。
「ええと、お母様はまずお爺様の戸籍に入られておりまして、それがこれなんですが、その前にももう一つ戸籍がありました」
「えっ?!またどこかに取りに行かないといけないの!」一瞬崩れ落ちそうになったんですが、、、
「じつはその前に、曾祖父様の戸籍に入られているんですが、これが戦災で紛失しておりまして、これ以上戸籍を遡る事が出来ません。その証明書がこちらになります」
という事で、戸籍紛失の証明書を発行して貰いました。なるほど、それで時間が掛かっていたのですね。文京区役所は東京大空襲で焼けてしまい、戦前の戸籍が残っていないのだそうです。貴重な体験をしました。
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さて、これで母の生誕から死亡までの戸籍が繋がりました。そこに記載されている実子は私と妹の二人だけです。この二人に相続権が発生するという事が、これで証明できました。いやはや大変でした。
遺産分割協議書は、遺産が多ければ公正証書にしたほうがよいと思いますが、ウチはそれほどのものもないので、協議書は作っていません。※銀行預金を引き継ぐ場合は、預金残高にもよりますが必須のケースが多いようです。しかも銀行によって書式が違ったりするので面倒ですね。
引き継ぐ遺産は動産、不動産です。
動産の場合、マイナスの遺産(借金)も引き継ぎますのでご注意の程。借金を相続したくなければ放棄手続きを行います。これには家庭裁判所に行く必要があります。ややこしい話になるようであれば、公証人に相談したほうがよいでしょう。公証人は銀行から紹介して貰えたりもします。
金銭のうち、貯金は銀行ごとに金額を明記し、それを誰が引き継ぐかを書きます。不動産も同様です。不動産を分割する場合には専門家に相談してください。登記簿謄本なども必要になります。
分割内容が決まったら、全相続人が署名し、実印を押します。
銀行などに提出する場合、印鑑証明も必要ですのでご注意下さい。
これらの証書類だけで、軽く1万円くらい掛かったりすることがあります。戸籍を移動しまくっていたりすると大変です。全部証明は1通750円とか800円とかしますので。
なお、銀行への手続きは一番最後にしておきますが、預貯金が多い場合には遺産金額を確定させる意味でも、早めに通知すべきでしょう。放置しておくと、分割協議前に通帳やカードを持っている遺族が勝手に引き出してしまいトラブルになる、というような事もあるようです。
お金が原因で兄弟喧嘩するような、みっともない事にはなりたくないものです。