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 新型コロナウイルスの感染拡大で景気が急速に落ち込んでいる。都市部を中心に、3月の生活保護の申請件数が前月から急増した自治体がある。相談も相次ぎ、手続きをとる人は今後さらに増えるとみられる。

 先行きが不透明で社会を不安が覆うこんなときだからこそ、くらしのセーフティーネット(安全網)を確実・迅速に機能させなければならない。

 厚生労働省は3月、そして4月と続けて、全国の自治体に対し、適切な保護・支援業務を求める通知を出した。

 目を引くのは、書類不備を理由に申請を受け付けないなどの対応を批判し、「法律上認められた保護の申請権が侵害されないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきである」と、繰り返し指導していることだ。

 かつて保護件数を減らすために、窓口で申請を撃退する「水際作戦」が横行したことを思うと、大きな転換である。

 通知には、車や店舗などの資産があっても申請を認めるよう条件を緩和することや、医療費援助の申し出を電話でできるようにすることも盛り込まれた。

 いま優先すべきは、困窮者に積極的に手を差し伸べ、将来の立ち直りにつなげることだという切迫感がにじむ。第一線に立つ自治体の担当者も、この通知に沿い、認識を新たにして仕事に臨んでもらいたい。

 そんな心配をするのも、現場の荒廃や士気の低下を物語る出来事が、最近もあったからだ。

 愛知県生活保護担当者が1月、70代男性の処遇に困り、名古屋市の公園に深夜置き去りにした。県は「自覚と責任感の欠如」を認め、関係した3人を処分し、研修の強化や保護できる施設の整備などを約束した。

 生活保護の現場では「送り込み」と称して、交通費だけを渡して対象者を管外に追い出す悪弊が、各地でみられた。その体質を引きずっていることをうかがわせる話ではないか。

 多忙・煩雑な業務による疲弊もあるだろうが、背景に透けて見えるのは、「自己責任」を強調し、保護受給者を「ずるい」「我慢しろ」などとバッシングしてきた社会の風潮だ。一部の政治家や著名人もその先頭で旗を振り、対立をあおった。

 コロナ禍が広がるいま、大切なのは人々の連帯と協調だ。感染症は誰にとっても脅威だが、歴史を顧み、海外の状況を見ると、困窮層ほど適切な予防策を講じることができず、自身が被害にあうだけでなく全体の収束の遅れも招く傾向がある。

 安全網を再構築し、漏れのないようにしなければならない。社会のありようが試される。

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