シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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注意:同日同時刻2話連続投稿の2話目です

 ↑の前書き読んでくれよな~頼むよ~


『奴隷扱いなジエット君』

「はぁー……」

 

 ジョロジョロジョロ――

 

 午前の授業を終えた昼食の時間帯、トイレでの一番重要な仕事を終えたジエット。

ずり下げていたズボンを上げ、ベルトを締めると洗面台へ向かう。

 

(疲れているなぁ……)

 

 鏡に映った自分の顔を見てただ一言心の中でぼやく。

手を洗い終えると、小さくため息を吐きながら外へ向かう。

 

「うお!」

(……またか)

 

 狭い通路ですれ違いそうになった顔も知らない生徒が、ジエットの顔――おそらく目立つであろう眼帯を見て大げさに驚くと、道を譲るように半身をずらした。その姿に小さくため息を吐きながら、その横をすり抜ける。トイレから出て廊下に出ると再度何人かの視線がジエットに突き刺さるのを感じた。それを気にしないように意識しながら、近くの窓に手を添えて逃げるように外へ視線を移す。

 

(俺一人でもすごく目立ってるな……ハァ~)

 

 周りの視線を意識して顔には出さないが、憔悴した感情までは隠せない。

昨日の食堂での一件か、それとも今朝のシャルティアとの挨拶のせいか、どちらにせよ昨日と今日で学院生徒達からジエットに対する反応は一変していた。教室での状況は昨日とほとんど変わりないのでクラスメイトの反応はいまいちわからないが、顔も知らない廊下ですれ違う生徒達はジエットと顔を合わせただけで露骨にビクリと驚くのだ。普段であればもちろんそんな事は無かった。せいぜいジエットの片目を覆った眼帯を見て不審そうに一瞥するだけで終わる。

 今は違う。その眼帯を見た生徒達はまるで恐ろしいものを見るように一歩下がった態度になるのだ。まるで自分が高位の貴族になったような幻想を抱きそうになる。実際学院内で威張り散らしている貴族の子息達を露骨に避ける者は多かった。そしてその貴族位を持つハズの生徒達も、平民であるジエットを避けている気がする。

 

「おはよー、ジエッちゃん」

「……ディモイヤか」

「うわ! 見るからに元気ないねぇ」

 

 いつもの騒がしい挨拶から露骨に驚いた口調。

学院で情報屋まがいの活動をしている眼鏡をかけたショートヘアの少女は、ジエットの顔を下から覗き込みチラチラその表情を伺うようなそぶりを見せた。

 

「……あー、あのさ?」

「ん? どうかしたか?」

 

 いつもなら顔を合わせるやいなや、ジエットの欲しがりそうな情報を売り付けたり、からかい混じりの言葉を発するはずの少女。登場こそいつも通りだったが、その後がいつもと違う様子に訝しむ様な視線を向けてしまう。

 

「今日は食堂で食べないの? 昨日みたいに」

「あぁ~、フリアーネ先輩にシャルティア様と一緒に呼ばれててさ。この後生徒会室で食べる事になりそうなんだ……」

「そっか……すごいね」

 

 ジエットはおまけなのは間違いないが、今日はフリアーネが直々にシャルティアを生徒会でのランチに誘っている。その前に用を足しに来ただけで、誘われたジエットもこれから向かわなければならない。当然のようにネメルも誘われている。

 

「お前も来るか? 昨日はお前も――」

「謹んで遠慮します!」

「……だよな」

 

 昨日のような事がないとも言い切れない。

そんな場所に喜び勇んで出席したがるのは、立身出世を望む怖いもの知らずな貴族家の人間か命知らずの目立ちたがり屋くらいだ。間違ってもジエットのような平穏無事を望む平民が出たい場ではない。

 

「その、昨日と言えばさ……」

「ん? どうした」

「庇ってくれたよね、ジエット。ありがとね」

「あぁ……アレか」

 

 おそらく食堂で三人を代表するように皇帝に挨拶した件だろう。

ジエットにとってはできれば思い出したくない類の記憶だ。まだ短い人生だが、二度としたくない最悪の綱渡りと言ってもいい。それにどちらかと言えば幼馴染であるネメルを庇ったものなのだが、それを目の前でモジモジと照れながら礼を述べる少女に告げる程ジエットも無粋ではない。誤魔化すように頭をかきながら言葉を返す。

 

「別にいいって。それより丁度良かった。少しお前に聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「おぉ! いいよ~、今ならタダでなんでも質問に答えるよ! なんならちょっとエッチな質問にだって――」

「学院内で俺について変な評判とかあったりするか?」

「……」

 

 目の前に立つ少女の頬が露骨に膨らむ。

先程まで明るかった目は冷えきったものとなり、その表情にはかすかにとげとげしいものが表れていた。

 

「ど、どうした?」

「べっつにー、なんでも答えるって言った女の子に聞く質問がそれなんだー?」

「あ、あぁ。なんか不味かったか?」

「何でもないですよー。えぇっとね、とりあえず『馬鹿』って評判以外だとねー」

 

 どう見ても何でもないという態度ではなかった。

眉間に皺をよせ口をとがらせる表情を普段のものとするのは、年頃の女としてどうかと思うしかなり無理な気がする。だが、それを指摘すると逆にメンドクサイ事になるとジエットの経験が告げていた。情報がまとめられているのだろう手帳をパラパラめくり、一応はこちらの要望に応えてくれる彼女の邪魔をしないように反応を待つ。

 

「えっとね……奴隷とお気に入りが半々くらいかな?」

「……」

 

 『誰の?』とは聞かないでもなんとなくわかった。

それを理解した瞬間にジエットの両肩が重くなる。もちろん周りの反応からなんとなく察していた部分もある。だが少なくともジエットの知る限りにおいて、学院内の情報通である彼女にバッサリ言われると、色々と堪えるものがあった。

 

 ジエットの表情が露骨に苦いものとなったのを察したのだろう。ディモイヤが心配げな、それでいて慰めるような声をかける。

 

「でも平民なら凄い大出世じゃない? どっちにしてもあんな雲の上の人のお傍にいられるんだしさ」

「いや……違うし。少なくとも俺は人生を誰にも売り渡しちゃいないぞ……」

 

 ガックリ垂れていた手を上げると、顔と一緒にパタパタと横に振る。

 

 少なくとも今のジエットにそういったつもりはない。

今後もそうなる予定だってない。ジエットに拒否権があれば、だが。

 

「仮に、仮にだよ? そうなったら嬉しくないの? あんな美少女だよ? 安泰だよ?」

「……そのつもりはないって」

 

 確かに魅力的な未来ではある気がする。

ジエットのような平民が安全な一生を過ごすのに手っ取り早い方法は、権力者の下に縋りつき道具になる事だ。そう考える人間は間違ってはいないし、それを否定することは出来ない。ただそれは道具を持つ持ち主次第で一生が決まってしまう事を意味する。子供が遊び道具に飽きれば道端に捨ててしまう様に、平民を道具の様に使い潰す貴族もいる。

 今ジエットの隣に座る少女がそうとは言わないが、それと同じ立場になる気にはなれなかった。

 

「ふ~ん、そっかそっかー。さすがジエットだね」

 

 手帳を仕舞いメガネを持ち上げると、微笑を口角に浮かべて機嫌の良さそうな表情を浮かべるディモイヤ。

 

(さっきからなんなんだ?)

 

 先程からコロコロと表情が変化する彼女を見て妙な違和感を感じてしまう。

元々喜怒哀楽が激しいというか、見た目も相まって子供っぽい部分はあったが、今日の様子は今までで一番変化が激しいように感じられた。

 

「でもさ、これならジエット自身もその周りの人達も安心だよね。そこいらの貴族にちょっかい掛けられる心配もないよ」

 

 確かにな、と思わず頷いてしまう。

記憶に色濃く残っているのはランゴバルト・エック・ワライア・ロベルバド。ネメルに面白半分で近づいたいけ好かない貴族の子息。それなりに上位の貴族家だったが、今の状況でも同じことが出来るかと問われれば、出来るはずがない。

 確かに平民のジエットにとってロベルバド家などはるか高みの存在だ。だが、ロベルバド家にとっても皇帝という地位はそれ以上の力関係がある。皇帝自身が公然の場で『友人』として接する少女、それと繋がりを持てたという事は、ジエット自身も間接的にその庇護下にいる、と考える第三者も多い事だろう。それだけならば何と幸運な事だろうと思ったかもしれないが――

 

(その代償が昇級試験のアレじゃなければな……)

 

 思い出すだけで重かった気分が、より一層重くなる。

真っ先に思い浮かんだ相談できそうな人物――フリアーネへ相談するのはできれば避けたい。彼女を信頼していないわけではないが、皇帝はジエットの周辺をある程度調査しているのは間違いない。ジエットの乏しい友人関係において、この手の相談をする相手としてフリアーネが最有力である事はすぐにわかる事だ。となれば何処に耳があるかもわからない上に、フリアーネ自身も皇帝に問われれば話さない訳にはいかないだろう。

 

 彼女は優しい。が、それは彼女のライバルであった生徒がジエットの事を頼んでくれたからだ。

貴族社会において自らの立場を危うくしてまでジエットを助ける、そんな一方的な願望をアテにするのは無謀と言える。

 

「どうしたのジエット? さては何かあった?」

「まぁな。ちょっと……」

 

 この際学院内の情報に詳しいディモイヤへ相談するか?

ジエットが目の前の少女を見据え考え始めた時

 

 

 ――そんな単純な話じゃないんだがね。

 

 二人が話していた廊下に、男の枯れた声が響いた。

カラカラに乾いた、喉の渇きついたような声。だが嫌な思い出とともに聞きなれてしまった、不安になるような男の声だった。

 

 振り向くと廊下に一人の男子生徒が立っていた。その顔を見て一人のいけ好かない男の名前が浮かぶが、その姿を見て別人だと判断しそうになる。整った顔立ちには陰が色濃く残り、細かった目元には大きなクマが刻まれている。会い度に冷酷な薄ら笑いを浮かべていたその口元は青く、何かの病気ではないかと思わせるには十分だった。髪は整えられているが、以前よりも艶が消えておりどこか貧相に感じさせる姿をしている。

 

「ら、ランゴバルト?」

 

 つい数日前までは、会うたびにお互い内心で敵意を向けていたはずの相手。

その記憶は苦いものが多い。だがそれだけに強く印象に残っていたランゴバルトの変わりように、確かめるように、そして信じられない物を見た時のような裏返った声でその名前を口にしていた。




リアル(現実)世界を今騒がしてる例のアレの攻撃

私の生活と家計に痛恨の一撃!

というわけで少し更新速度ぐっだぐだになるかもしれませんが許してください、なんでもしますから大丈夫だ、大問題しかないorz

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