【内田雅也の猛虎監督列伝~<4>第4代・若林忠志】畑を耕し、工場で働き、軍帽を被って投げた指揮官
1941(昭和16)年12月8日、若林忠志は日米開戦の日は西宮市甲子園の自宅で迎えた。日本軍の真珠湾攻撃はラジオで聴いた。日系2世として生まれ育った故郷ハワイが燃えた。
この年8月8日付で米国籍を離脱し、日本国籍を取得していた。動揺した同郷、カイザー田中義雄からの「どうすればいいんだ」という電話に「心配はいらない。今まで通り野球をしていればいいんだ」と答えている。
この12月、監督・松木謙治郎が退団し、若林は助監督から第4代監督(投手兼任)に就いた。背番号は、入団時から付け、後に「エースナンバー」と呼ばれる「18」から当時主に監督がつけた「30」となった。
監督兼任1年目の42年4月21日、若林と野口二郎が投げ合った大洋戦(甲子園)は延長11回裏1死一塁、空襲警報発令で中止、引き分けとなった。甲子園球場のスタンドには高射機関銃を備えた陣地が築かれていた。
若林は26勝をあげ、チームは3位でAクラス復帰。優勝は巨人で4連覇となった。
戦時、若林は懸命に働いた。鶏を飼い、野菜やゴマを栽培した。広島・戸手村の農家だった父親の血をひいていた。早朝から配給に並び、まき割りや掃除を手伝って「特配」を受けた。防空壕(ごう)も掘った。町内会の防空隊長になった。
戦前、甲子園球場名物だった大鉄傘は軍部から金属供出の要請で撤去された。本格的な取り壊しに入る前日、43年8月18日の名古屋戦で若林は完封勝利を飾った。日よけ雨よけとなり、歓声をこだまさせるなど人々に親しまれてきた大鉄傘に別れを告げる快投だった。
不要不急の業種に指定されぬよう、連盟はこの年10月から平日開催を断念、軍需工場へ勤労奉仕隊を送り込んだ。阪神の選手は「二式飛行艇」製造や戦闘機「紫電改」開発中の川西航空機(今の新明和工業)鳴尾工場で働いた。戦後「空手チョップ」で大人気となるプロレスラー力道山も尼崎に拠点を置く大相撲・二所ノ関部屋の若手力士だった。同じ工場に勤め、若林と親交があった。
44年、連盟は「日本野球報国会」と改称。ユニホームは国防色(カーキ色)、帽子は戦闘帽(軍帽)という戦闘服スタイルとなった。背番号も廃止され興行色は消えた。
シーズンを春夏秋3季に分けたが、秋季は応召者続出で打ち切られた。春夏の成績で阪神は巨人に大差をつけて優勝した。若林はチーム35試合のうち31試合に登板し22勝4敗。最多勝の若林に次ぐのは藤本英雄(巨人)10勝とずばぬけていた。最優秀防御率も獲得し文句なしの最高殊勲選手(MVP)。「最高殊勲選士」の表彰状には「人格ノ高邁(こうまい)、技術ノ老練、芸術品ノ域」と記されていた。
単独チームでは選手が不足し、混成3チームをつくり、9月に甲子園、後楽園、西宮で「日本野球総進軍大会」を開いた。勇ましい名前だが、実際はお別れの「さよなら大会」だった。
後楽園で37歳になる若林の力投を見た評論家・大井広介は<一億玉砕などと呼号され、再び後楽園でまみえる日はないかもしれぬという思いをこめて連投したに違いない>と<ひそかに泪(なみだ)しながら観戦>した。
連盟は11月、休止の声明を発表。だが45年1月には関西正月大会が開かれている。「プロ野球の灯を消したくない」と阪神球団常務・田中義一が呼びかけ、4球団27人が集まった。猛虎軍、隼軍に分かれ、元日から5日まで、甲子園と西宮で連日2試合を組んだ。
大会は大阪医専(現大阪大医学部)学生だった伊藤利清がスコアブックに記録していた。1月3日の甲子園では5回途中「警戒警報発令ノタメ中止」とある。
3月には阪神球団も解散となり、若林は<互いに手をとり再起の日を誓い合った>と手記に書いた。=敬称略=(編集委員)
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