2019年7月、ANAホールディングス傘下で航空貨物国内最大手のANAカーゴ(東京・港)が米ボーイングの大型貨物機「ボーイング777F型機」(777F)を日本の航空会社として初めて導入した。10月29日からは米シカゴへも就航する777Fはどんな貨物機で、普通の旅客機とは何が違うのか。ヒコーキ大好きの女子アナ、貞平麻衣子さんが話を聞いた。
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飛行機には旅客機以外に「貨物機」という、荷物だけを運ぶ専用の飛行機があること、ご存じでしょうか。操縦席以外に窓がない飛行機、あれが実は貨物機なんです。航空貨物って何を運んでいるんだろう? 貨物機の内部はどうなっているんだろう? 知りたいことがいっぱいあります。そこで777Fを導入したANAカーゴのグローバルネットワーク部、岩崎良子さんに疑問をぶつけてきました。
貞平 まずは今回、777Fを導入した経緯を教えてください。これまでANAカーゴの貨物機はボーイング767Fでしたよね。
岩崎 はい。767Fに加え、7月に777Fを2機導入しました。
貞平 導入した理由はやはりたくさんの荷物を運べるからですか。
岩崎 それも大きな理由です。767Fの搭載重量は52トンでしたが、777Fは102トンと2倍近い貨物をのせることができます。貨物室の高さも300センチと、244センチだった767Fより高くなっています。
貞平 私たちが普段乗っている旅客機も、乗客以外に貨物の輸送もしていますよね。旅客機と貨物専用機では運べる量はどのくらい違うんですか。
岩崎 旅客機の下の部分をどのくらい貨物スペースに使うかは路線や機種によっても異なりますが、767でだいたい12トンくらいですね。
貞平 102トンと12トンですか。やっぱりずいぶん違うんですね。では、お客さんが満員で乗っている777と、貨物を満載した777Fを比べると、どちらが重いんでしょうか。
岩崎 貨物を積んだ777Fのほうが重いです。ですから777Fは、胴体は「ダッシュ200(777-200)」という機材と同型ですが、エンジンは100トンの重さに耐えられる「ダッシュ300(777-300)」のエンジンを採用しています。
貞平 (写真を見ながら)それにしてもメインデッキと呼ばれる旅客機の上半分の部分って、客室がないとこんなに広いんですね。空間がドーンと広がっていて何でも運べそうです。
岩崎 この空間を少しでも有効に活用できるように、貨物を積み込むときにはしっかり計画を立てて、無駄な空きスペースがでない積み方をするようにしているんですよ。
貞平 それは家の押し入れと同じですね。「この大きな荷物を最初に下のほうに置いて」みたいな。
岩崎 航空貨物の場合は事前にプログラムで計算しておくんですけどね(笑)。
貞平 すごく基本的な質問なんですが、777Fに限らず、航空貨物ってどんなものを運ぶんでしょうか。
岩崎 路線によって運ぶものは全く異なりますが、全体的にスピーディーに運ぶことが求められるものが多いですね。わかりやすいのは生鮮食品。たとえば7月だと米国からアメリカンチェリーが運ばれてきます。
貞平 確かに水分が多くて皮が薄いアメリカンチェリーは、輸送に時間のかかる船便では難しいですよね。私たちがスーパーで新鮮なアメリカンチェリーが買えるのも、航空貨物のおかげというわけですか。
岩崎 これからのシーズンでいうなら、ボージョレ・ヌーボーですね。毎年11月第3木曜日の解禁日に合わせて大量に輸送する必要があるため、航空貨物が使われます。
貞平 今年の解禁日(11月21日)には忘れずに、貨物機にも乾杯します(笑)。それにしても、航空貨物って特別なものが多いというイメージがありましたが、実は身近な存在なんですね。
岩崎 身近な存在というなら、衣料品もその1つなんですよ。
貞平 え、それは意外。衣料品はフルーツと違ってちょっと時間がかかっても傷まないでしょう?
岩崎 衣料品の中でもファストファッションの製品を運ぶんです。
貞平 なるほど~。確かに船で何週間も運んでいる間に、デザインの旬が過ぎてしまっては意味がないですものね。時代によって航空貨物も変化してきているわけですか。
岩崎 中国路線ではスマートフォンの部品も多く運んでいます。部品は日本で作られ、中国で組み立てて、完成品がまた日本に運ばれてきます。
岩崎 777Fのもう一つの長所は航続距離です。767Fに比べて航続距離が長いので、首都圏の空港から世界各地へ直接行き来ができます。現在は上海へ飛んでいますが、10月末からは米国のシカゴへも就航する予定です。
貞平 なぜシカゴなんでしょうか。
岩崎 航空貨物で輸送する品目で多いものは自動車部品や半導体関連製品です。シカゴは自動車関係の企業が多いため、航空マーケットにおいては大きな市場のひとつなんです。アジアと北米を結ぶ太平洋路線はこれからも安定的に市場が伸びていくと見ています。シカゴを直行で結ぶことによって、さらにスピーディーな輸送を提供することもできるようになります。その他航空貨物では医療機器や医薬品関係のニーズも伸びています。
貞平 医療機器や医薬品も、ですか。想像以上に多岐にわたっているんですね。
岩崎 自動車部品や医療機器関係は、振動を避けるため、船便より航空便を選ぶ企業も多いですね。医薬品に関しても、錠剤医薬品より厳密な温度管理が求められる最先端の医薬品などで航空輸送が選ばれる傾向にあるようです。
貞平 速度だけじゃなく、振動が少なくて温度管理が厳密にできるのも航空貨物の強みというわけですね。あとは、すごく高価なものや貴重なものも航空貨物が選ばれそうな気がしますけど。
岩崎 日本でも10月24日から東京モーターショーが開催されていますが、そういったショーに出展される1台限りのショーカーや、開発中で世界に1台だけのテスト車なども、航空貨物を利用するケースが多いですね。
貞平 車をまるごと1台飛行機に載せて運ぶのって想像がつかないんですが、どうやって積むんですか。まさか大きな段ボールに入れるとか。それとも飛行機の中まで車を走らせて載せるとか。
岩崎 パレットという大きな板に車を載せて固定して機内に搭載します。自動車が載ったパレットは、床に伸びているレールに沿って機内を移動して搭載完了です。
岩崎 他にもこれからは競走馬の輸送もしていきたいと思っています。
貞平 でも動物を運ぶときって関係者が付き添ったりはしないんですか。
岩崎 そのために、今回導入した777Fには通称「荷主席」という座席があるんです。貨物スペースにつながる通路もあります。
貞平 これが荷主席ですか。後ろの貨物スペースに競走馬を乗せていても、厩務員さんや獣医さんがこの席に座って同行していたら安心ですね。ちなみにこの座席の座り心地は、旅客機の客席でいうと、どのくらいなんでしょうか。
岩崎 ビジネスクラスくらい、でしょうか(笑)。
貞平 どんな人が乗れるんですか? 「荷物と一緒に私も乗せていって」なんてお願いは?
岩崎 競走馬を輸送する際の厩務員など、輸送に必須な同行の場合に認める予定です。
貞平 引っ越しのとき、引っ越しトラックに同乗させてもらうみたいなわけにはいかないってことですね(笑)。ちょっと気になるので教えてください、ずばり荷主席で機内食はありますか?
岩崎 777Fにはキッチンも備え付けましたので、ロングフライトは1人2食まで提供は可能です。この設備はパイロットも利用させていただきます。
貞平 機長さんがコーヒーを入れに来ることもあるわけですね(笑)。もう一つ、個人モニターで映画は見られますか?
岩崎 残念ながら荷主席に個人モニターの設置はありません。
貞平 荷主さん、残念(笑)。でも、旅行ではなく、仕事での同行なので我慢ですね。
貞平 777Fは貨物機だけど、愛称があるんですよね。
岩崎 はい、「BLUE JAY(ブルージェイ)」といいます。社内公募で決めました。
貞平 マークもかわいいですよね。
岩崎 モデルになったのは、日本名でアオカケスという鳥です。このマークの色のようにきれいな青い鳥なんですよ。色がANAグループにぴったりなだけでなく、真面目な性格でせっせと枝を運んで巣作りをするところも、ANA Cargoの777Fの愛称にぴったりじゃないかと。
貞平 本当にそうですね。ぜひBLUE JAYを空港で見てみたいんですけど、どこで見られますか?
岩崎 貨物地区はお客様が利用する地区からは離れているんですが、成田空港の滑走路から見えるかもしれません。ぜひ離着陸時に機内から探してみてください。
貞平 探してみます!
(写真 吉村永)
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