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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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男の娘

 やがて夜になり、錬と元康を家に招き、言語習得をどれだけ真面目に取り組んでいたかを見る。

 一応、この国の公用語を問題として作ってテストさせている。

 どうして勉強嫌いの俺が教師の真似事をしているのか、という疑問は残るがな。


 ……まあ、ここ数日はこんな感じだ。

 元康は、今日からだけど。


「元康、フィロリアルと遊んでいるだけなら帰れ!」


 相変わらず取り巻きのフィロリアルを弄りながら元康は問題を見ている。


「そんな! じゃあ私はどうやってこんな豚臭い所で勉強すれば良いのですか!」

「……はぁ」


 元康の理屈だと俺の村は豚臭くて鼻が曲がるらしい。

 で、フィロリアルに囲まれている事でやっと我慢出来ているのだとか。

 元康を無視して錬の採点を行う。


「文法の誤用があるけど、大分読み書きが出来るようになってきたようだな」

「尚文がこうして毎晩教えてくれるお陰でどうにか」


 覚えの早い事で、俺は覚えるのにずいぶん掛った。

 そりゃあ、一から訳して行くよりも早見表とかあった方が早いのは理解しているけどさ。

 英語の授業の成績は平均点しか取って無い俺は厳しかった。

 なんだかんだで知らない言語を覚えるのって大変な事なんだよなぁ。

 ま、生きるために必須だったから俺も割と扱えるようになったけど。


「で、元康、お前の方はどうなんだ?」


 元康の答案を見る。

 ……意外な事に想像よりも点が良い。

 初級問題だけど、八割くらい正解していた。

 元々は絵に描いた様なリア充だったからな。頭の出来は俺より良いのかもしれない。

 まあ、そんな奴がどうしてネットゲームにハマっていたのか、という疑問は残るが、もはや本人から聞き出すのは無理そうだし、聞きたくもない。


「全てはフィーロたんの為、私は努力しています」

「……あっそ」


 フィーロのいる世界の文字だから覚えが早いってか?

 馬鹿の一念、なんとやらだな。

 やる気だけはあるようだ。


「なんで俺がこの世界の文字を覚えさせようとしているかわかるか?」

「……行商の手伝いか?」


 しばらく考えた後、錬は答えた。

 魔法を覚える為と言ったら教えるのをやめようと思っていたが、及第点だな。

 実際魔法を覚えるのは必要な事だが、最強になる為に勉強している、などと以前と根本的に変わっていなかったら文句の一つでも言った所だ。


「それもある。本心で言っているかは知らんがな」


 一応、本当に世界を救いたいと言う意志の元でやっているつもりらしいから良いとしよう。

 俺も偉そうに言っている自覚はある。だけど本来、こいつ等も自力で学ばないといけない問題だったんだ。

 タダで教えるだけありがたいと思ってほしい。


「ま、錬は最近、剣の稽古で忙しいから勉強もこれくらいにして早めに寝るか?」

「その事なんだが」

「ん?」


 錬が俺に視線を合わせないように何か、言い辛そうにしている。


「俺にも尚文のように何か……手に職を斡旋してくれないか?」


 そして、疑われないようにと意識しているのか、俺をまっすぐ見て言い切った。

 どうも……やる気だけは出てきているみたいなんだよなぁ。

 何処までかは知らないけど。


「手に職ねー……調合の事か?」

「この村に来て、俺は尚文が色々とやっているのを知ったし聞いた。料理に調合、アクセサリー作り、最近じゃあ錬金術も学び始めたそうじゃないか。だから俺も……何かを覚えたいんだ」

「私はフィロリアルを育てる牧場主になりたいです」

「元康は黙ってろ!」


 さて……錬の奴は製造系に興味を持ち始めているのか。

 ああ、言語に対して真面目に取り組んでいるのはそれが理由か。

 錬は勇者だからな。必要なスキルの付いた武器を解放すれば俺と同様、品質の良い物を作れる。

 本人にやる気があるなら任せたい所だが……。


「熱意はわかったが、お前は物を作れる体なのか?」


 そう、今の錬は強欲のカーススキルを放った所為で金に触る事が出来ず、魔物のドロップも悪い。

 しかも触るだけで品質を下げるというペナルティを背負っている事まで判明している。

 下手に製造系に手を出しても成功する見込みはないかも知れない。


 ま、カーススキルと言っても、あまり強化していない武器で放ったから呪いの持続時間は短いんだろうけど。

 全治一か月くらいか? 併用して暴食も放っているからわからないな。

 錬が村に来て一週間半くらいだ。完治は程遠いだろうなぁ。


「そ、そうだが……この村の子達を見ていると、俺も何かをしないといけないと思ったんだ」

「ふむ……」


 気持ちはわからなくもない。

 村にいる奴隷共は手先が器用な奴が大半で行商用の商品製作をさせている。

 接点の多さと言う所だとそう思うのも頷けるか。


「呪いの経過が良くなったら任せる」

「わかった」


 ……というか、考えたら呪いの治療にカルミラ島の温泉があるよなぁ。

 問題は療養している間は他に何もできないけど。

 完治するのに一月掛るって言われていた俺の最初の呪いも大分良くなっていたのを覚えている。

 ま、その後にまた、放った所為で悪化した訳だけど。


 転送スキルがあるのなら考えておくのも良いかもしれないな。

 夜だけ観光地に宿泊……なんか治療が目的なのに楽しそうだと思ってしまう。

 ポータルって別の勇者も飛べるのか?

 まあカルミラ島はそこまで遠い島じゃないけどさ。


「なあ、カルミラ島でお前等ポータル使わなかったよな」

「ん? ああ、行きは行った事無い場所だし、帰りは活性化の影響で転送が使えなかった」

「今はどうなんだ?」

「もうオフシーズンだろ? やってみないとわからないな」


 ふむ、じゃあ温泉目的で行くのも悪くはないのかもしれない。

 うるさい元康をカルミラ島に向かわせて、帰ってくるのを待つ。

 尚、これは別に錬に任せても良い。

 問題は勇者同士で転送スキルを使えるかどうか、か。


「次に聞きたいのは、仲間なら勇者同士も転送できるかだな」

「そこは、試してないからわからない」


 ふむ……実験するのが一番か。

 後で元康と一緒に転送出来るか試してみよう。


「もーくんまだやるのー?」

「そうだよ、マリンちゃん。俺はお義父さんに婚約を許してもらうためにね」

「むぅううう!」


 ポカポカと元康に青いフィロリアルが駄々っ子パンチを繰り広げている。


「「むぅうう!」」


 それに合わせて赤と緑も同じように駄々っ子パンチをしている。

 ちなみに姿は家の中だから人型だ。

 ここ等辺はフィーロと同様に約束させた。

 当然破ったら罰が待っている。


「マリンちゃん?」

「関わるなよ。錬」

「いや、よく考えたら知らないからさ。話し合いって重要だろ? 俺は最近常々そう思うんだ」


 経験からの物言いか。

 以前を思えば、錬も学んでいるんだろうけど相手を考えろ。

 どう見ても地雷だろ。元康的な意味で。


「よくぞ聞いてくれました!」


 錬の問いに目を輝かせた元康が高らかに宣言する。

 ああ、もうヤブヘビをしやがって!

 元康が嬉々として知りたくも無い話を語り始めた。


「まず赤いこの子の名前はクーちゃん、名前の由来はクリムゾンからです。次に青いこの子はマリンちゃん、名前の由来はアクアマリンからです。そして、最後のこの子はみどり。名前の由来はそのまま緑です」

「「「よろしく!」」」


 ぺこりと三匹が頭を下げた。

 ただ、俺を見る時と錬を見る時の目付きが違うのがわかるな。

 コイツら……。

 元康の奴、前もヴィッチを含めて三人連れていたし、変態になっても女を取り囲んでいるのは変わらないな。

 まあ今回は全員元康が好きみたいだが。


「そ、そうか」

「もとやすさん、こうですか?」


 みどりが元康のやっていた答案用紙に落書きしてる。

 よく見ると、殆ど正解していた。

 コイツ、カンニングか?

 いや、元康が問題に書きこんでいる時は俺が見張っていたから違うはずだ。


「みどりは頭が良いなぁ」

「「むー!」」


 赤と青が羨ましそうに声を漏らす。

 個性があるようで……知りたくもない。


「えへへ……」


 まあ、緑色の奴はこの三匹の中じゃインテリっぽいよな。


「そういやそいつは魔物の姿で戦わないんだな」

「ええ、天使の姿の方が良いと言うので」

「へー……」


 他の二匹は魔物の姿になっているのを見るけど、緑色だけ見た事が無い。

 ん?

 よく見ると元康の奴、三匹の中でも順位がある……?

 いや、赤いのだけ少しだけそっけない?


 気の所為か?

 ま、俺も赤は嫌いだ。あの女を連想するし。

 なんて言うか、赤い奴は気が強そうだからあの女と重なるんだよな。


「ボク、クーやマリンみたいに足腰強くないから」

「へー……」


 蹴りとかは苦手なフィロリアルの種類が元なのか?

 その割に人型で重そうなバトルアックスを使っているがな。

 後で調べてみるか。

 フィロリアルっていろんな種類がいるし。


「代わりに毒とか薬を見分けるのが得意なんですよ。みどりは」

「そうか」

「ゴシュジンサマは目付き悪くて、もとやすさんより要領も悪いよね。でもその代わりにボクが頑張るね」

「なんだと!」


 フィーロが毒を吐けるようになりたいと言ったのは何時だったかな。

 コイツはいろんな意味で吐けそうだとは……言わないでおこう。


「子供が言った事です。どうか許してください。お義父さん」

「許さん。追い出せ! 口は災いの元だと教えてやる」

「そうですか……すまんなみどり、家に帰っていてくれ」

「そ、そんな! もとやすさん! 入れてください! やはりボクが――」


 アッサリと元康は緑色の奴を部屋から追い出す。

 すげえ! 俺の命令は絶対なのか?

 殺せとかは聞かないだろうけどさ。

 まあどっちにせよ、誰がボスなのかわからせる必要はある。


「やはり……なんなんだ?」


 錬の奴がそのやり取りを微妙な顔で見送りながら聞く。

 余計な事に気を取られるなよ。


「ああ、みどりは最初に生まれた天使達の中で唯一男の子である事を気にしているのですよ」

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