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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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盾の勇者の攻略講座

 さて、元康の奴が村はずれのフィロリアル牧場に(舎を中心に柵を作った)居着いて数日が経過した。

 俺もあの時のショックでしばらく近寄る事すら出来なかった。

 フィーロが増えたらどうなるかと言う、悪夢の再現だぞ。

 まったく……。


 ただ、フィロリアルを貸せと言うと素直に元康は貸しだしてくれる。

 馬車は割と安物の幌馬車で行商組を走らせさせた。

 足がフィーロほどではないが早いので、キャタピランド辺りが暇そうにしている点を除けば概ね良好だ。


 ああ、問題は燃費だ。

 村の倉庫にあった食料がフィロリアルの食費で消えた。

 新しく増えたフィロリアルが食う事食う事……。

 結局は俺が出さねば、飢え死にするのは目に見えているからなぁ。


 バイオプラントの管理区域を拡張する羽目になった。

 今じゃ村の周りに森が出来つつある。

 はぁ……デューンが日々忙しそうにバイオプラントの為に土壌整備してくれている。

 今度、褒美を用意しないとなぁ。


「兄ちゃん! フィロリアルってやっぱ怖い生き物だったんだな!」


 キールが興奮気味にワンワンと犬の姿で言ってくる。

 食われそうにでもなったか?

 というか変身技能を覚えてから、何かあるとその姿になるなコイツ。

 ふんどし犬め。


「足がある物はイスとテーブル以外は食うから気を付けろ」

「うん! イミアちゃんも狙われているから守らないと!」


 ま、元康を呼んで村の連中を食わせるなよと注意しているから大丈夫だろ。

 ついでに言えばフィーロが一応は次期女王と言う事で絶対服従らしいし。

 ここ数日の観察結果によると、元康が最初に育てたと思しき三匹以外はフィーロに対して素直だ。


 上下関係とでも言うのだろうか。

 フィロリアル・クイーン化すると普通の魔物紋じゃ縛れなくなって金が掛るのだが、どうもフィーロのアホ毛とフィーロ自身の魔力でどうにか補佐出来るらしい。

 罰則が普通に発動したので助かった。


 もちろん、連中に初めて遭遇した時はまだフィーロの支配が進んでいなくって言う事を聞かなかった。

 あの後フィーロは俺を逃がした後、認めさせるために戦いをしたそうだ。

 なんか奴隷共が興奮気味にその戦いを傍観していたのを覚えている。

 俺はショックで数時間記憶が無い。


「今日は元康の奴、帰ってきているかな?」


 新しく育て始めたフィロリアルの育成の為に出て行ったんだよな。

 その前にフィーロ着ぐるみを着るリーシアに「偽者やろおおおおおおおおおお!」とか怒鳴っていたから黙らせた。

 しかも羨ましそうに欲しがっていたのを見て呆れかえる。


 ちなみに元康がフィロリアルを何匹飼っているかわからん。

 だから、恐る恐るフィロリアル舎の窓から中を覗き込む。


 ん? 奥でフィーロがキョロキョロとしながらメルティと一緒に座っている。

 メルティはそんな光景を楽しそうに見えているな。

 やはりお前は元康に匹敵する変態だ。


「えーでは……ゴシュジンサマに気に入られる為の講座を開始します」


 ……何を話し合っているんだ?


「司会は次期女王であるフィーロ様に代わって私が努めます」


 ピーピーと鳴き声が響く。いや口笛か?

 拍手をするとポフポフと音がして盛りあがらないからだろうなぁ。

 声帯模写が上手いな。やはり鳥だからか?


 あの司会をしているフィロリアル・クイーンの柄、何処かで見た覚えがあるんだが。

 元康の取り巻きか? いや、違うだろ。


「では、私が生まれてから確認し、研究した事を話しましょう。結論で言うとゴシュジンサマは人語を喋る飼い魔物に対して良い印象を持っておりません」


 ざわざわとフィロリアル舎の中が騒がしくなる。


「でもフィーロ様は人の姿でお近づきになっておりますよ?」

「よく見てみなさい。なんだかんだで一定の距離が御有りではありませんか?」

「んー? フィーロはねーごしゅじんさまに気に入って貰ってるのー」

「このようにフィーロ様は言っておりますが現実は非情、この前も問題を起こし、謹慎処分になったではありませんか」


 メルティの顔が引きつっている。さすがに思い出したくない事を話されてイヤな顔って所だな。

 俺も思い出したくない。

 というかこの奇天烈な状況に逃亡と言う選択を選ばないのが凄いな。


「もはや、ゴシュジンサマの心を開くには並大抵の事では不可能でしょう」

「違うよー。フィーロはー、ごしゅじんさまの一番の乗り物なんだよ」

「そうですか? ガエリオンに最近、負けておられるように思いますが?」


 配下の言葉にフィーロはムッとなる。

 図星か。

 何かあるとガエリオンと張り合っているからな。


「何を見ているのだ?」


 噂をすれば何とやら、ガエリオンが俺の頭に乗っかって、フィロリアル舎の中を見る。


「最近増えたフィロリアル共か。我がテリトリーを侵略するのなら、一匹ずつ喰らってくれる」

「逆に食われそうになった奴が何を言っているのやら」


 と、そんな事をどうでも良いんだよ。

 あいつ等何を会議してんだ? 元康は何処だ?

 今日はいないのか? あの三匹と……生まれたばかりの雛がいないな。


「ピイ!」


 俺の脇で、雛が鳴く。

 フィーロに押し付けられた二匹がガエリオンに乗っかって中を見ていた。

 仲悪いんじゃなかったのか?


「では皆さま、ここで人語を喋らない練習です。クエ!」

「「「クエ!」」」

「そうです。ゴシュジンサマは人語を喋らず、愛嬌を振りながら親しげに撫でて欲しいと頭を下げて近づくと撫でてくれます。機嫌が良いと遊んでくれますので、存分に答えましょう。ただし、しつこく迫ると嫌がりますので、程々に」

「「「はーい!」」」


 ……なんだそれ。

 俺は思わず絶句してしまった。


 まるで仲の良いと思っていた友人が自分の陰口を言っているのを目撃したような気分だ。

 というか俺の攻略講座ってなんだよ。

 喋るのは知っているから、あざといんだよ。


「では次に、愛嬌を振りまく練習です」


 司会がこれ見よがしにつぶらな瞳で首を傾げて、地面にある何かを見ようとしている。

 もしかして俺をシミュレートしているのか?


「クエェェエ?」


 何度も瞬きしながら瞳を輝かせて近づく。

 司会の視線の先に、もう一人の俺がいるような気がした。

 何か……知らなかったら多分撫でてると思う。


 あざといなぁ……なんかイラっとするぞ。

 ぶりっ子かアイツは。

 というか思いだしたぞ。アイツはフィーロの配下一号だ。

 胸に蝶ネクタイを付けて、形を整えながら演技指導をしている。


 確かに、フィーロの次に付き合いが長いフィロリアルだな。

 クイーン化したのか。

 性別は知らないからキングかもしれん。

 それにしても……愛嬌がフィーロよりもあると思ったが、あれは演技だったのか。


「このように、ゴシュジンサマのお近づきになるには、可愛らしく、そして頭は良くても喋らない事が重要なのです。皆さんわかりましたか?」

「「「はーい!」」」

「モトヤスさんは何をしても喜びますが、ゴシュジンサマに気に入られるのは努力が必要ですよ」

「「「うん!」」」

「ではそれぞれ練習です」

「「「クエ!」」」


 なんかフィロリアル舎で練習が始まっている。若干カルト臭がしてきている気がした。

 あのフィロリアル、なんて名前だったっけ?

 朝の遊びでよく遊んでやった奴だったんだが、名前を知らん。

 奴隷共が名付けたんだよな。


 フィーロに比べて頭は良いだろう。

 上司が馬鹿なフィーロだからなぁ……反面教師で頭がよくなったのだろう。

 あざとくてイヤだけど。


 考えてみれば、フィーロは天然だ。まだ素の可愛さがある。しゃべってもな。

 だが……あれはフェードアウトする類の頭の良さだ。少しずつ距離を取ろうと思った。

 そもそもこいつ等が喋る事は既に周知の事実だろ。

 ともすれば俺にだけクエと鳴くなんて無意味すぎる。

 所詮は鳥か。考えが浅はかだ。


 その点で言えば、現在俺の頭の上に乗っかっているガエリオンの方がまだ可愛げがあるだろう。

 子ガエリオンモードはピュアで可愛げがある。

 構いすぎるとフィーロが五月蠅いから放置してるけど。

 いい加減、謹慎解除して優遇するか? アトラ対策で一緒に寝る奴がいないから丁度良いだろう。


 というか、なんでメルティがあの中に居るんだろうか。

 まあ、フィーロと友人を超えた関係だからなぁ。

 ストレス解消に参加してるのかな?

 これ以上を見ていると気づかれそうなので、足早に退散した。


 ちなみに後で知るのだけど、配下一号がクイーン化してしまったのはやはり元康の所為らしい。

 ガエリオンも言っていたんだが、勇者がフィロリアルを育てるとクイーン化してしまうそうだ。

 フィーロも最初に言ってたよな。俺が望むとクイーン化出来るって。


 元康はフィーロ大好きだからなぁ。フィロリアルは等しくフィーロみたいになってほしいと思っているのだろう。

 その所為でフィーロの抑制が効かずに変化してしまったと。

 更に数日後には村の奴隷共やアトラも一緒にこの会議に参加しているようだった。

 ガエリオン曰く、俺の好みの研究をしているらしい。


 攻略対象か! ふざけんな。


 即刻中止させたがー……水面下で何かしているようなイヤな雰囲気がある事ある事。

 結果だけで言うと、俺の所のフィロリアルの愛嬌が良くなり、売り上げが良くなってきている。


 一部の貴族までもがフィロリアルを直々に売ってくれと言うので、売るかと考えると本人は元より元康が五月蠅いので、断る羽目になった。

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