2020年01月31日 12:55 公開
中国から感染が広がっている新型コロナウイルスについて、世界保健機関(WHO)は30日、「世界的な緊急事態」を宣言した。
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と話した。
WHOは、保健衛生の制度が比較的貧弱な国々に感染が広がることを懸念している。
死者213人に
新型ウイルスによる死者は、中国で少なくとも213人に上っている。
WHOによると、中国以外での感染は、18カ国で計98人の感染者が確認されている。中国以外での死者はいない。
感染者のほとんどは、感染が発生した中国・武漢市に渡航した人となっている。
人から人への感染は、ドイツ、日本、ヴェトナム、アメリカで計8例が確認されている。
「前例のない大流行」
ゲブレイエスス事務局長は専門家委員会による緊急会合の後、スイス・ジュネーヴで記者会見し、「前例のない大流行」に「前例のない対応」を実施していると表現した。
事務局長は、感染拡大防止のため中国当局がとっている「並外れた対策」をたたえた。
また、中国との貿易や中国への旅行を制限する理由はまったくないとし、「明確にしておきたいが、今回の宣言は中国に対する不信任投票ではない」と付け加えた。
しかし、このところすでに多くの国が、国境閉鎖や航空便キャンセルの対策を取っている。グーグル、イケア、スターバックス、テスラなどの企業は店舗を閉めたり、営業を停止したりしている。
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この宣言は珍しいのか
WHOは、「病気が国際的に広がり他国にとって公衆衛生上のリスクとなると判断される異常事態」がみられる場合に、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言する。
WHOはこれまでに5回宣言している。
- 豚インフルエンザ(2009年)――H1N1 ウイルスが2009年に世界中に広がり、20万人以上が死亡した。
- ポリオ(2014年)――2012年に根絶に近づいたが、2013年に増加に転じた。根絶への取り組みが大きく後退することが懸念された。
- ジカ熱(2016年)――南北アメリカ大陸で2016年に急速に感染が拡大した。多くの人には穏やかな症状しか出なかったが、妊娠中の女性には危険な場合もあるとされ、緊急の研究が求められた。
- エボラ出血熱(2014、2019年)――西アフリカで2014年8月~2016年3月、ウイルスに3万人近くが感染、1万1000人以上が死亡した(1回目)。コンゴで昨年に大流行した際に、WHOは2度目の緊急事態を宣言したた。
中国はどう対応?
チベット自治区でも感染が確認され、ウイルスは中国の全本土に広がった。同国の国家衛生健康委員会は、これまで9692人が検査で陽性反応が出たとしている。
中国の対応策については、透明性を疑問視する声が出ているが、WHOは称賛している。中国の習近平国家主席は、「悪魔の」ウイルスを打倒すると宣言している。
ほぼすべての死亡例が集中している湖北省は封鎖状態にある。6000万人が暮らす同省には、感染の中心地の武漢がある。
武漢も実質的に封鎖されている。中国政府はウイルスの感染拡大を抑えるため、数多くの交通規制を発令している。
下の地図は、中国での感染拡大の様子を示している。1月20日の291人(左上)から、1月30日の7711人(右下)に増えている。最も感染者数が多い湖北省(Hubei Province)では4500人を突破している(中国国家衛生健康委員会のデータをもとにBBCリサーチが1月30日作成)。
武漢を訪れた人に対しては、健康上の問題がないと判断されるまで、雇用者が自宅勤務を指示している。
新型ウイルスは、世界第2の中国経済に影響を及ぼしている。必要ではない中国渡航は避けるよう、自国民に勧告する国が増えている。
各国の対応は?
武漢から自国民を避難させる動きが続いている。
イギリス、オーストラリア、韓国、シンガポール、ニュージーランドは、避難者全員を2週間隔離し、検査するとみられる。
感染が確認された国では、患者を隔離している。その他の国々の取り組みは以下のとおり。
- イタリア――ローマで中国人旅行者2人の感染が確認されたことを受け、中国に向かう航空便を停止した。中国人女性乗客の感染が疑われた乗客6000人の旅客船がローマ北の港で停泊中、当局は乗客の上陸を一時禁止したが、検査で女性は陰性と判明したため、乗客の上陸は許可された。
- アメリカ――シカゴの保健衛生当局が、人から人への感染を同国で初めて確認したと発表。武漢からの避難者約200人をカリフォルニアの軍基地で72時間以上隔離している。
- ロシア――極東地域の中国との国境(延長4300キロ)の閉鎖を決定した。
- イギリス、韓国――それぞれの国民を避難させる航空便の出発が遅れている。中国当局の許可が出ていないため。
- 日本――自国民を避難させるチャーター機3便が東京に着陸。同国メディアによると、これまでに乗客3人がウイルス検査で陽性と判定された。
- 欧州連合(EU)――加盟国の国民を帰国させる航空機2便を予定している。1便目にはフランス人250人が搭乗する。
- インド――最初の感染者を確認した。武漢に留学していた南部ケララ州の学生。
<分析>他の国々の備えを――ジェイムズ・ギャラガー、BBC健康・科学担当編集委員
新型ウイルスが、対応能力のない国に入り込んだらどうなるか? 中低所得国の多くは、感染の確認や抑制の手段をもたない。管理不能なほど広がり、それがしばらく気づかれない恐れがある。
今回の病気は、先月発生したばかりなのに、中国では7736人の感染が確認され、1万2167人の感染が疑われている。
比較的貧困な国にとって感染の大流行が大きな打撃となることは、2014年に西アフリカで急激に広がったエボラ出血熱の例が示している。新型コロナウイルスがそうした地域に侵入すれば、抑え込むのは相当難しいだろう。
ただ、まだその段階には至っていない。感染者の99%は中国で確認されており、WHOは中国が大流行を抑えられるとしている。今回の世界的な緊急事態宣言によって、低中所得国が病気への対策を強化し、コロナウイルスに備えるのを、WHOが支援していくことになる。