地元は楽しいことばかり…でも出たい 「平凡パンチ」で思い募る

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(15)

 高校時代の私にとっての教科書は、ニューホライズンの英語でも山川出版社の日本史でもありません。「平凡パンチ」です。私を強く刺激した雑誌は、スーツ姿やジーンズ姿の男性を描いたイラストレーター大橋歩さんの表紙。発売日になると、長崎県佐世保市の自宅近くにある貸本屋「太陽文庫」に寄っていました。

 ファッション、スポーツカー、少しエッチな記事もあって、東京の情報満載。人生相談も。おしゃれな若者たちが歩く東京・青山通りの写真を佐世保の田舎の少年は食い入るように見ました。いつか行きたいなあ、と憧れていました。

 平凡パンチの前の教科書は「ボーイズライフ」。福石中の頃、店主のおばちゃんが「これ読みな」と手渡してくれました。小説、海外でビジネスに成功した日本人の立志伝、F1、漫画、宇宙人や謎の生物。少年の心を満たすものばかりで、活字文化のとりこになりました。

 通っていた佐世保南高は校則が比較的緩く、明るく伸び伸びとした雰囲気でした。体育祭もにぎやかで、竹で作ったやぐらに「太陽の塔」のイラストを付け、派手な応援合戦を繰り広げました。終わった後はキャンプファイアのように燃やしたやぐらを囲みました。男子が上半身裸で走り回っていたのは今も謎ですが。

 パキパキと音を立てて燃える竹。立ち上る煙。夜になると、炎に照らされ、闇に浮かぶ仲間たち。晩秋の風景が思い出されます。

 同じ長崎県出身の福山雅治さんほどではありませんが、結構モテました。ウソじゃありません。ホントです。同級生で佐世保の青果市場にいるタカシや、福岡で税理士をしているたっちゃんに聞いてください。問われたら「海老原はすごくモテたよ、と言って」と2人に伝えています。

 いつか佐世保を出よう。そう考えていたのもこの頃です。名勝九十九島、市街地が一望できる弓張岳。自然が豊かで、街では長いアーケードで買い物が楽しめました。気の置けない友人もたくさんいました。

 米軍払い下げのジーンズを手に取り、洋楽や洋画を楽しむ環境もありました。自衛隊の存在があり、政治的には保守的でしたが、文化はリベラルでした。地方都市の割に先進的な雰囲気も好きでした。自宅以外は住んでいて楽しいことばかりでした。

 でも出たい。平凡パンチに影響され、違う世界を見たい思いが募りました。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年07月03日時点のものです

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