https://twitter.com/yahoonewstopics/status/1253322297001127937?s=21
千葉から岩手に帰省した妊婦が破水したが受け入れ拒否に遭ったという報道。
はじめに
妊娠がわかって産婦人科に受診する際、産む施設をどこにするのかはたいてい初診時から予定日が決まるくらいまでに確認されます。
自宅近くの産科にするのかや里帰りなど。里帰りの場合、イレギュラーなことがなければ妊娠34週くらいには里帰りを完了して、それ以降通院してくださいねとしているところが大半。里帰りしてしまえばそれ以降は遠距離移動はしないでもらいます。陣痛きたり破水すっかもしれんしね。
分娩予約は、周産期医療が瀕死の状態であり、数の制限をしている施設も多いことから、予定日が決まったあたりで里帰り希望の妊婦さんには希望の施設を探し、連絡して予約を取るように促しています。
お産は前述のような段階を経て予約され、数が把握されており、里帰りのように複数の施設で診察される場合お互いの情報共有をしています。
送り出す施設は受け入れ先が困らないように重要な事項や検査項目について伝えています。
そして、今回新型コロナがパンデミックとなり、日本産婦人科医会や学会では里帰りは推奨しない、強制はしないが里帰りを止めることも選択肢としています。
https://www.jaog.or.jp/news/news20200421/
里帰り分娩をする場合、無症状でも感染力を持つらしいこと、スタッフや他の患者さんへの影響も考え、2週間ほど里帰り宅にこもってやはり症状のないことを確認してから受診をお勧めしていることが多く、ということは、今までより2週間ほど、妊娠32週くらいで里帰りしている必要があります。
今回の新型コロナの流行を受けて、各自治体の産婦人科ではどういう症例をどれくらい受けられるか、どういう分娩方法を選択するかなどの対応に追われ、それらを決定してきています。シュミレーションや手術部や麻酔科医など関係各所との話し合いを短時間で迫られた病院もあります。
すでに崩壊していると言われている周産期医療にもう一つ難題が降りかかることになりました。
さて、今回のニュース、はじめのニュースを読んだ限りの情報で得られることは「岩手に帰省していた妊婦が破水しそうになったので救急車を呼んだが、まだ帰省して3~4日程度しか受け入れを断られた」こと。
妊娠週数などの情報はなし。
なので全然なにをどう判断すべきかわかりかねました。これだけしか情報がないと激おこする人もいるだろうなと。
その後の情報収集で
・妊娠35週であったこと
・元々岩手で分娩する予定ではなく、千葉で分娩する予定の妊婦であった
ことがわかりました。
つまり、通常の里帰り分娩ではありません。
断ったとされる病院に、自分が勤務していたとします。
救急隊から早産の妊婦の破水の連絡が入り、COVID-19流行地域から移動して数日の妊婦であること、本来の里帰り分娩とは違い、単なる「帰省」の状態であったことが伝えられたとします。
無症状でPCR陽性になる事例はかなり報告されていますから、今、周産期の現場はかなりピリピリしています。
自院で感染が拡大したら、その他の妊婦さんを転院させる必要も出てきます。1人の妊婦のために、数百人のスケジュールを移動させる必要も出てきます。そして、感染流行地域から来たとなると、陽性と考えて行動することが迫られます。いつかその日がくると覚悟していても恐ろしく大変です。
それがいきなり破水での救急隊からの電話。
かかりつけでもなく感染症の有無も赤ちゃんの情報もなにもわからない状態。
かつ、僻地では一つの病院がその地域の最後の砦となっているパターンが多い。そこで分娩できなければ妊婦が路頭に迷います。
分娩室は空いているのか、そこは他の人への感染を防ぎ得ることが可能か、手術室は空いているか、スタッフの合意は得られるか、新生児科医はいるか。生まれた赤ちゃんが新型コロナに感染しているかもしれない、お産後の部屋はどうなる。それらは自分の病院で産む妊婦を混乱させないか。今、自分のかかりつけ妊婦が分娩中だったら?
なお、多くの産婦人科では飛び込みの妊婦より自分のかかりつけ妊婦の方が優先されると思います。
そんな中、受け入れろというのもなかなかに難しいです。
ただし、妊婦さんそれぞれにいろんな事情がありますから、元々分娩する予定だった千葉から岩手に帰省したのか、そこは責められないと思います。しかし、断った医療機関を責めるのもどうなんでしょう。
https://twitter.com/kadotaryusho/status/1253278410970763264?s=21
非難ともとれるツイートが数千RTされ、この話題はトレンドにもなりました。
このブログは私個人のものであって、日本の産婦人科医の総意ではないということを初めに言っておきますが、未知の感染症に立ち向かう時、後世になれば間違っていたとなることもたくさんあるでしょう。症状もなく破水した妊婦の受け入れを断るなんて言語道断かもしれません。
しかし、こういったニュースを報じる際は、本来里帰り分娩の予定ではなかった妊娠35週の妊婦がなんらかの事情で新型コロナの発生していない地域に帰省していた、ひょっとしたら感染している可能性もゼロではない、受け入れを打診された病院は寝耳に水もいいところで、地域の産婦人科医療が数週間機能しなくなるかもしれない、どうする?という判断迫られたということも伝えるべきではないでしょうか。
単に「たらい回し」の事例ではなく、誰が悪いとかそういうことでもなく、
ただ、報道の仕方は情報を正しく伝えるべきではないかと。
産婦人科業界では、以前から「マタ旅」と呼ばれる妊婦の旅行、それにまつわるアクシデントに警鐘を鳴らし、不要不急の旅行はしないよう、あるいは一旦施設内に入ると出るのに時間がかかるテーマパークなどの利用も注意をしています。一旦アクシデントが発生するとその地域の周産期医療を崩壊させる可能性があるからです。母子を守るという職責からも特に矛盾しないと思います。
今回のことはそれのバージョンアップされてしまった事例というか…
世間がどれだけ怒ったとしても、私はこの事例に関わった医療機関のみなさん、お疲れ様でした、という気持ちでいます。
大変な時ですが、みんなでがんばっていこう。
妊婦のみなさん、新型コロナが落ち着くまで、里帰り分娩をする場合は分娩先の病院やかかりつけ医とよく相談しましょう。移動の制限もかかりますが、できれば専門家の意見に従っていただけると有り難いです。