オーバーロードweb版〜続編風〜   作:愛美タトゥー

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学院ー13

◆◆◆魔法学院

 

悲劇は、突然訪れた

 

この日、ふと教室の窓から帝都の街並みを眺める。

 

いつ、何度見ても飽きない活気ある街並みだ。

 

露店の商人の呼び込みの声が響き渡り、馬車の蹄の音が街中に木霊する。

 

学院内でもグラウンドで、何やら魔法の演習授業が行われていた。とはいっても、石壁で囲まれたグラウンドの中の様子は、外からはあまりよく見えない。たまに、誰かが唱えた魔法が石壁に当たり、音とともに振動が伝わってくるくらいだ。

 

窓際に現れた小さなトカゲを、撫でるようにそっと触ろうとした次の瞬間、それは跡形もなく消し飛んだ。

 

思わず目を見張る。あまりにも突然の出来事であり、一体何が起こったのか頭が追いつかない。

 

窓を掠めるように火の球が飛んで行き、その先にいた学院の警備を行っている騎士に直撃したのだ。

 

それからも次々と魔法が飛び交い、一瞬で教室の窓の向こう側の世界は、血みどろの世界となっていた。

 

「なにが起きた」

 

誰もが思ったであろうその言葉を、教室の壇上にいた教師が呟く。

 

「先生! 何ですか、これ!?」

「……わからん」

 

生徒からの質問に対して、曖昧な答えしか返事出来ない教師。困惑が入り混じったその顔には、見たことがないほどの険しい表情が浮かんでいた。

 

「と、とりあえず、何が起きたか確認してくる。……み、皆は、ここで、じっと待機しててくれ。……あと、窓際は危険だから、離れておくように」

 

それだけ告げると教師は、教室の前の扉から走って出て行く。何故だか、もう二度と戻って来ないような気がした。

 

「逃げよう。ここにいるのは危険すぎる」

「でもどこへ? 外は明らかに危険だし、校舎の中もどこが安全だかわからない」

「俺は…戦うべきだと思う。騎士が襲われたということは、おそらく何者かがこの学院、帝国に攻撃を仕掛けているんだ」

「お前馬鹿かっ!? 帝国の騎士でさえ、あっけなく殺されてんだぞ!! 俺たちが行っても何の役にも立たねぇよ」

「なら、どうすればいい? 逃げ場もない! じっとしていても、このまま騎士が殺られたら、次はおそらく俺たちの番だ! だったら、まだ生き残ってる騎士に協力して、行動すべきだろ」

「あ、あの……まだ、騎士様たちが負けると決まったわけでは…。と、とりあえず、様子見しません? この後どうするかは、先生が戻ってから考えましょうよ?」

 

皆が話し合いをしていると、教室の窓に突然何かがドンと激しくぶつかり、バキバキという轟音が響き渡る。

 

生徒たちの視界に映った”もの”。……それは、全身の骨が砕け、血まみれとなってペシャンコになった、学院の教師であった。

 

女子生徒の悲鳴が響き渡る。鼓膜が破けたかと思うほどの、耳をつんざくような声。先程まで威勢よく戦うべきだと言っていた男子生徒は、蹲って泣いていた。

 

ある生徒が迷うことなく廊下に飛び出す。するとそこには、戦場が広がっていた。

 

なぎ倒されたロッカー、粉々に砕け散ったガラスの破片、人間が玩具のように吹き飛んでいく。

 

その光景を見た生徒が、胃の中のものを床にぶちまける。

 

「ああ…学院が…」

 

人間の体がちぎれ飛び、誰かの首から上が宙を舞う。床も壁も天井も破壊され、校舎は瓦礫の山へと化していく。

 

この殺戮と破壊の進行を、誰も、何も、遮ることなどできない。

 

それはまるで、伝説に謳われる破滅の竜王の復活を思わせた。

 

「いったいどうすれば……」

 

そう呟いた生徒は、自分の脚を見下ろし震えていることに気が付く。

 

目の前の光景に慄然とする。

 

なぜ、どうして、だれが、何のために……。

 

もはや今ここでは、そんな言葉は何の意味もなさないことはわかっている。それでも、自分に問いかけずにはいられない。

 

瞬く間に学院は崩壊していくだろう。多くの生徒たちに、この戦場から逃げる術などありはしない。

 

「くそっ」

 

誰かが呟く。

 

目前を縦横無尽に走り回る破壊の力は、予想もできない速度で学院を呑み込んでいく。

 

けれども、これは絶望の始まりにすぎないことを、今はまだ生徒たちの誰も知る由もない。


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