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日仏「コロナ支援」比較~日本は世界から見放された!

経営者は今こそ「Withコロナ」から「ポストコロナ」を見据えた新戦略を考える時だ

神山典士 ノンフィクション作家

パリの従業員の給与明細を見ると…

 河合氏は2001年に渡欧し約20年間フランス、イタリア、ポルトガル等さまざまな国のレストランで腕を磨いてきた。現在の店のオーナーシェフになったのは2015年のこと。料理の本場の補償事情を聞くにはうってつけだ。さっそくメールで質問を重ねると、コロナ禍におけるフランス政府の方針が見えてきた。

 周知のようにフランスでは、3月16日にマクロン大統領がロックダウン宣言を発令。17日から食料品店と薬局以外全ての店舗が強制休業となった。4月13日には「5月11日までの休業延長」も出た。当然河合氏の店も休業している。

 従業員の生活はどうやって守っているのだろう? 河合氏はこう答えた。

 「休業しても従業員の給料は国から補償されています。補償率は契約した手取りの84%。今回の休業中ずっと出ます。ぼくらオーナーには所得補償はありませんが、1500ユーロの補助金が出ます。それと月の売り上げの3倍程度の額の融資が出ます。一年で返済すればほぼ利息なし(0.25%)、6年以内に返済で2年目からは通常どおりの1.5~2%の金利です。給料補償はロックアウトの2週間後に政策決定しました。その他、民間の保険会社とも契約していてデモや火事の時は保険金が出るのですが、今回は対象外と言われて大抗議運動が起きています」

 河合氏は、ある従業員の給与明細も示してくれた。

 ある月の給与が2255.55ユーロ(約27万円)の人の場合、各種保険で334.63ユーロ(約4万円)と税金で48.29ユーロ(約6千円)引かれて手取りは1829.83ユーロ(約22万円)となる。店は給与と厚生年金で2628.76ユーロ(約31万5千円)を支払うことになる。こうしてみると、日本の労働環境と比べても大きな違いはない。北欧の国ほど税金が高いわけでもない。

 となるとフランスの方がよほど手厚い支援策ではないか!

拡大Drazen Zigic/Shutterstock.com

料理文化を守るフランスの手厚い支援

 他にもドイツでは中小企業や個人事業主に対して総額6兆円の支援策を決定し、3月下旬には従業員5人以下の事業主や個人事業主に対して最大9000ユーロ(約100万円)の補助金が支給された。イギリス政府も雇用を守る事業者に対しては、従業員一人あたり賃金の80%を補償という支援策を打ち出した。

 いまさら安倍首相のフェイクには驚かないけれど、これらの補償政策さえあれば日本の経営者の悩みもずいぶんと軽減されるのに。

 さらに河合氏へ聞いていくと、改めて自国の料理文化を守ろうとするフランスの意志が見えてくる。

 「この状況下で、各種税金や社会保障費、公共料金、家賃などの支払いを延期できますし、支払いの延滞を理由に店を追い出したりすることは禁止されています」

 つまりフランスのレストランオーナーは従業員への給料は補償され、家賃、金融機関への返済、公共料金の支払い等は国から「猶予」を認められている。だから支援金をほぼ「真水」としてロックアウト中の店舗の維持と経営再開後の準備に向けられるのだ。

 対して日本の経営者は雀の涙ほどの支援金が支給されたとしても、それらはすぐに家賃や融資の返済に当てなければ金融機関や大家から差し押さえや立ち退き要求を食ってしまう。国土交通省は建物のオーナーに対して「取り立てをしないように」と「要請」は出しているが、法的な拘束力はない。真水の支援がない中で緊急事態が長引けば、給与や家賃、公共料金が払えずに倒産というケースが多発する。

 いったいどこが手厚い支援なんだ!

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筆者

神山典士

神山典士(こうやまのりお) ノンフィクション作家

1960年埼玉県生まれ、信州大学人文学部卒業。96年『ライオンの夢、コンデ・コマ=前田光世伝』にて小学館ノンフィクション賞優秀賞。2011年『ピアノはともだち、奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密』(講談社、青い鳥文庫)が全国読書感想文コンクール課題図書選定。14年「佐村河内事件報道」により、第45回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)雑誌ジャーナリズム大賞受賞。「異文化」「表現者」「アウトロー」をテーマに様々なジャンルの主人公を追い続けている。最新作は『知られざる北斎』(幻冬舎)、『もう恥を書かない文章術』(ポプラ社)『成功する里山ビジネス~ダウンシフトという選択』(角川新書)等

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