仮眠
村に帰った後、軽く仮眠を取った。
ただし、フィーロは問題を起こした罰としてベッドに入る事を禁じた。
最初はアトラ対策で念の為にとメルティをベッドに招いたのだが。
「な、な……なんで私がナオフミと一緒に寝なきゃいけないのよ!」
「本来はフィーロの役目だったんだが、あんだけ問題を起こしたからな、謹慎させるしかあるまい」
そもそも発情した理由に関しても、ラトが独自に研究した事を教えてくれた。
俺と一緒に寝ている事が多いから、である可能性があるという話だ。
懐いているからこそ、俺を慕って……だとか。
知らんな。
間違っても俺はこの世界で所帯を持つつもりはない。
異世界へ行ってハーレムの夢?
そんなものはとっくに捨てている。
「だから後任をメルティ。お前にさせようと思っているんだ。なんだかんだでお前も程々に強いからな。アトラを追い出せるだろ」
「イヤよ!」
メルティの顔が思いっきり赤くなっている。
そりゃあそうだよなぁ。
フィーロの動きを止める為に生贄にさせたような物だし……。
「そうか、そんなにイヤならしょうがないよな」
「え……あ、ちょっと」
「悪かったな」
「あ、うん……」
なんだ? メルティの奴、凄く微妙な顔で伸ばした手を降ろして去って行った。
さて、じゃあ別の奴を選定しないとな。
メルティがダメだとすると、今この村でアトラに張り合える相手は誰かいるか?
「勇者様、ご注文の商品を届けに参りました」
ちょうどイミアが行商用に頼んでいた服を持ってきてくれた。
なんだかんだでキールとか、顔の良い奴等に、俺の知る見栄えの良いメイド服とか一部の連中が喜ぶ服装を着させて行商させているんだ。
受けが凄く良いから収益も増すし。
その図面を書いてイミアに渡すと大抵作ってくれる。
洋裁屋が免許皆伝をやるだけの事はある。
服作りでは天才的な腕前だ。
「ふぁああ……」
イミアが俺に服を渡すとあくびを噛み殺していた。徹夜で作ってくれたのだろう。
ふむ……眠いならタイミングも良いか。
なによりも、俺がアトラに困っているのは周知の事実だ。
きっとイミアも理解してくれる。
アトラを追い出せるかと言う不安もあるが、他にいないのだからしょうがない。
「よし、イミア」
「なんでしょう?」
「一緒に寝てくれないか」
「ええええええええええ!?」
数秒の間の後、大きな声でイミアは仰け反った。
「ほら、何を驚いているんだ」
「こ、心の準備が……」
「準備って寝るだけだろ」
「それに私……小汚いですから」
何を言っているんだ? イミアをマジマジと確認する。
ラフタリアを買った時の様な、なんて言うか不潔な感じは全然しない。定期的に清潔にしているのは一目でわかる。
あの時のラフタリアって何日も体を洗ってなかったみたいだったし。それと比べるのもどうかとは思うが別に不潔じゃないだろ。
「気にするな」
「そんな!」
「俺も眠いから早くベッドに来い」
「あ……ああ……はい」
イミアの奴震えている。そんなに俺が怖いのか?
まあ警戒してくれているのならそれでも良いのだが。
なんで服の帯を緩めているんだ?
半裸になったイミアが微妙に震えながら近づいてくる。なんで半裸?
どんな風習なのか知らないが半裸で寝るように育ったのかな?
恐る恐る俺のベッドで横になる
軽く掛け布団を羽織って俺は寝ようと目を瞑ったのだが、イミアがなんか苦しそうに声を漏らして震える。
モグラっぽい獣人だから人のベッドじゃ肌に合わないとかなのか?
「どうした? 緊張しないで力を抜け、そんなんじゃ寝れないぞ」
フィーロと一緒に寝るが最近多かったから、近くに何かがいると寝やすくなってしまった。
まあ、過去のトラウマでラフタリアが寝がえりをうつだけで起きるような事が無くなってきている分、フィーロと添い寝は良いリハビリにはなったのだとは思う。
お? イミアって体温高いな、軽く抱える。
するとビクッとイミアが震えあがった。
「ヒィ!? あの……私……やっぱり無理です! すいません!」
イミアがそう言って飛び起きて走り去ってしまった。
「おい。なんなんだアイツ……おーい」
俺がイミアに襲い掛かるとか思っているのか?
いやいや、イミアもそんな勘違いするはずもないだろ。アトラ対策にフィーロと一緒に寝ているのはこの村の連中も知っているはず……。
と、追いかけるとイミアがキールに何やら相談していて、イミアは俺を見るなり脱兎のごとく逃げてしまった。
しょうがないから手頃にキールを招く。
「兄ちゃん! 何すんだよ! 女に興味無いんだろ?」
キールもキールで思いっきり暴れたがベッドに入れた途端大人しくなった。
「う……兄ちゃん。何をするつもりだよ!」
なんか犬形態でワンワンと吠えるキールを宥めて横になる。
フィーロは背中に羽が生えているからなぁ。
なんて言うかそういう部分に触れていると誰かと一緒に寝つきやすい。
キールは子犬モードだと全身毛皮だからな。似た感じでちょうど良い。イミアでも良かったけど。
「ああ、アトラがベッドに入ってきたら追い出せよ。じゃあ俺は寝る」
「あ、兄ちゃん! それってどういう意味だよ」
「五月蠅いぞ。静かにしてろ」
「わ、わかったよ兄ちゃん」
俺の指示通りにキールは大人しくベッドで俺が寝入るのを待っていた。
「兄ちゃん。勘違いさせるなよ……イミアちゃんを驚かせたりして……」
「は? 何を言ってんだ?」
「……兄ちゃん。フィーロちゃんやアトラちゃんとやってるって本当か?」
「何か勘違いしているようだが、そんな訳ないだろ? みんな知っているはずだ」
「……聞いてねーよ兄ちゃん」
「そうだったか? サディナ辺りから筒抜けだと思ったんだが」
「サディナ姉ちゃんがこう言う話題で本当の事言う訳ねえだろ! むしろ兄ちゃんの次の狙いは私! とか言ってたぞ!」
何を言ってんだ、あのシャチ!
まったく、俺がそんな真似する訳ねえだろ。
「イミアには悪い事をしてしまったな。後で謝っておくか」
「……気にしなくて良いと思う。イミアちゃんもうれしそうだったし」
何言ってんだと思いつつ、俺はそのまま仮眠をしたのだった。
ちなみにアトラが侵入してきたのをキールがワンワンと騒いだお陰で、侵入を阻めた。
凄いぞ、キール。まるで番犬の様だ。
俺はキールの評価を少し上げる事にした。
ちなみに、あんまり寝れなかった。
で、軽く仮眠を取って昼過ぎ。
昼食を奴隷共に配ってから俺は城へ飛んだ。
元康の奴が自首しているのなら、女王と相談しなきゃいけない頃だろう。
まあ、フィーロに散々囁かせて世界平和の為に戦ってくれるだろうけど、一応聞いておこう。
そのついでに親父の所へ顔を出して新しい馬車の発注をしないといけないし。
城へ行くとクズと鉢合わせした。
「……」
「……」
今日はなんか普通に服を着ていている。
妙な沈黙が辺りを支配しつつ……クズは立ち去って行った。
アトラを見てから大人しいなアイツ。
最近は何時も女王がこっちに来るから今日は俺が出向いて女王が仕事をしている部屋に行く。
「これはイワタニ様、調子はどうですか?」
「何しに来たか、わかっているだろ?」
「そうですね。槍の勇者様の件でしょうね」
「ああ、来たか?」
「ええ……朝早く我が城に自首してきました……報告は承っておりましたが、あの変わりようは些か……私自体の言葉は聞かず、男性のみ話を聞く様子が厄介でございましたが」
女王の奴、扇で口元を隠しつつ俺から目線を逸らす。
気持ちはわからなくもない。最近のアイツはなんて言うか会話が成立する自信が無い。
フィーロの命令には絶対服従、曲解認識等、理由を上げたらキリが無い。
「これも全てお前の娘の所為だな」
「承知しております。ですが、その後のケアはイワタニ様の愛鳥が原因かと」
否定できないのが痛いなぁ……気にしたら負けだな。
「で? 元康の処遇はどうするんだ?」
「前から言っております通り、波との戦いを確約して頂ければ特に罰する事も無いかと、本人は峠で山賊行為をしていたと素直に自白しましたけどね」
女王の奴、俺と視線を合わせやしない。
何か隠しているのがまるわかりだ。
いや、察しろと言う事なんだろうな。
あの元康を相手にまともに応答するのは困難を要するからなぁ。
「で? アイツは何をしたんだ?」
「やはりおわかりですか」
「わかるように視線を合せなかったんだろ」
「イワタニ様の洞察力に感謝を……」
「抜かせ」
「では、報告しましょうかね。当人が裁きを所望しておりましたが、罰する事は出来ないと再三に渡って説明いたしました。それでも引かないので世界を平和にすることが罰と申しつけました」
一拍置いて女王は答える。
まあ、罪の意識と言うよりも、フィーロの為にやり直したいとかしか考えて無いだろうというのは想像に容易いな。
「その後、なんと申しますか。そこまでは良かったのですが、槍の勇者様は我が城で飼育しているフィロリアルに対して過剰に干渉すると言う行動を起こし始めまして……」
「は?」