情報過多のストレスから“脱出”する、たったひとつの方法

毎日届けられる膨大な量の新たなニュースと、スマホに送られてくる大量の「プッシュ通知」。問題は、それらの内容でもなければ、ボリュームでもない。問題は、わたしたちの意志とは関係なく押し寄せてくる点にある。それに伴って蓄積していくストレスには、どう対処すべきなのか。

Businessman drowning in a digital tablet

IMAGE:GETTY IMAGES

2017年4月の第2週は、まったくとんでもない1週間だった。シリアのバッシャール・アル=アサド大統領が民間人に化学兵器を使用して80人を殺害、その多くは子どもたちだった。これに対してトランプ大統領は米軍に報復空爆を命じた。大統領顧問のスティーヴ・バノンは国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから外され、同じく大統領顧問のジャレッド・クシュナーについては、FBIにセキュリティクリアランスの申請を行う際、ロシアのセルゲイ・キスリャク駐米大使との会談を明らかにしていなかったことが発覚した──。

この週も、その前の週も、そのまた前の週も、わたしたちが“処理”すべき事柄はあまりにも多く、新たな記事や新たな展開、恐怖に震える新たな理由は毎日届けられる。しかし問題は、ニュースの内容でもなければ、そのボリュームでもない。問題は、わたしたちの意志とは関係なく押し寄せてくる、という点である。

ニュースのヘッドラインは、あらゆるデヴァイスで、あらゆる方向からあなたに襲いかかってくる。その攻撃から逃れることはできないし、逃げたいとも思わないかもしれない。あらゆるプッシュ通知、あらゆるツイート、あらゆるFacebookのアップデートが神経伝達物質の奔流を促し、すぐさま反応させる。仕事に集中したり、子どもと遊んだり、長い一週間を終えてくつろいだりすることがいっそう困難になり、あなたの健康にも害が及ぶ

誰もが不安を感じている。誰が大統領になろうと、中東で何が起きようと、オバマケアに対するあなたの見解がどうであろうと、それが変わることはないだろう。情報過多は、いままさに議会が超党派で取り組むべき問題なのかもしれない。

一体、どうすればいいのだろうか? スマホを冷凍庫のなかに放り込む? ハワイに逃亡する? この両方を試したところで、冷凍庫のなかでもカウアイ島のビーチでも、スマホは機能することがわかるだけだ。それに、いまこの瞬間にも世界では重大な出来事が起きている。たとえあなたにそれが可能であろうと、注意を払うのをやめてしまうことは、まずい状況につながりかねない。

ただし、この状況をコントロールすることは可能だ。あなたが見るもの、そしてそれをいつ見るのかをアルゴリズムやプッシュ通知に指示されるのではなく、ニュース体験を自分でキュレートし、接触を制限するのだ。

ボストン大学で注意機能を研究する認知神経科学者のデヴィッド・ソマーズは、次のように語る。「かつては朝になれば新聞を買い、夜はテレビのニュース番組を見ていた時代がありました。そうやって当時の人々は情報を入手していたのです。朝に1回、そして夜にもう1回。それだけだったのです」。なかなか悪くない方法だ。以下、そうしたやり方から学べることを見ていこう。

ニュースは「茂みに潜むトラ」ではない

すべての発端は、人間の脳がもつ基本的な生理機能にある。人間の脳には大まかに分けて、2つのタイプの「注意を払う能力」が備わっている。1つ目は、いまこの記事を読んでいるときのような、能動的で目的をもった注意。そして2つ目は、何かに反応して喚起されるため、自分ではコントロールできないタイプの注意だ。

1つ目のタイプの注意力により、あなたは集中力を持続できる。そして2つ目のタイプの注意力により、あなたは自分の命を守ることができる。「予期せぬ刺激が注意を引きつけてくれるおかげで、茂みに身を潜めるトラの存在に気づくことができるのです」とソマーズは述べる。

プッシュ通知はこの仕組みを利用している。スマホが通知音を発した瞬間、あなたはそちらを見ないではいられなくなる。遠い祖先が茂みから聞こえてくるカサカサという音に反応していたのと同じように、あなたはアラートに反応する。ふたつは異なる刺激ではあるが、脳はニュース速報のアラートと茂みに身を潜めるトラの違いを、本能的には認識しないのだ。

これではストレスも溜まるはずである。

「あなたの注意を引こうと争うものが多いなかで、唯一の本格的な防御策は、何とかして刺激が入ってこないようにすることです」とソマーズは述べる。ユーザーの注意をテクノロジーによって喚起するという考え方が広まったのは、まだ比較的最近のことだが(プッシュ通知が本格的に導入されるようになったのは2009年から)、率直に言ってこの考えは大いなる後退である。

ポジティヴ心理学分野で幸福の最大化について研究する著述家のエイミー・ブランクソンは、次のように述べる。「テクノロジーに自分を運んでもらうのではなく、どこに行きたいのかを自分で明確にすることが非常に重要です。いまのわたしたちはテクノロジーにしがみついてる状態なのです」

「トラを殺す」ための唯一の方法

それでもやはり、現状では誰もがこうした環境を大いに楽しんでいる。あらゆる通知、あらゆるツイート、あらゆる警告音がドーパミンをはじめとするさまざまな神経伝達物質を放出させ、束の間の高揚感をもたらすからだ。ドラッグと同じように、人間の脳はそれに慣れっこになる。あるいは、それを強く望む場合さえある。「あなたが『さあ、ブラウザーを閉じて、スマホの電源を切るぞ』と自制心を発揮しているときでさえ、心のどこかではこのフィードバックを求めているのです」とソマーズは述べる。

立ち向かおう。すべてのプッシュ通知をオフにしよう。まずはTwitterとInstagram、Facebook、Snapchatから始めて、次にニュースアプリをオフにしよう。本気で集中力を取り戻したければ、ニュースを読む場所と時間をコントロールする力を奪回・保持しなければならない。読み始める前にタイマーをセットしよう。そしてタイマーが鳴ったら、読むのをやめる。終了だ。こうすることで、時間の使い方の効率が向上するというメリットももたらされる。ついでに、アルゴリズムやFacebookの友だちに何を読むかを教えてもらうのもやめよう。RSSや「Medium」などのサイト、古き良きブックマークを使ってリーディングリストをキュレートし、何を読むかの主導権を自分の手に取り戻すのだ。

これが簡単だと言う人は誰もいない。これは、ジムに通ったり、タバコをやめたりするのと同じようなものだ。だから、まずは現実的な目標を設定し、それから時間をかけて少しずつハードルをあげていこう。手始めに、週末の間はプッシュ通知をオフにし、その後、徐々にスマホからTwitterやFacebookのアプリを削除してみてはどうだろうか。

うまくいったときは自分にご褒美を与え、しくじったときには自分をやさしく叱ろう。「コースから外れた場合も自身を罰するようにすべきでしょう。要するに、一種の報酬制度を用意する必要があるのです」とソマーズは述べる。

小さな子どもを扱う場合と同じように、自分を扱おう。つまり、良い行いには報酬を与え、うまくできなかった場合はそれを見逃さない。もしタイマーが鳴ってもシリアに関する記事を読み続けた場合は、ペプシのCMをこきおろすウィットに富んだ記事や、お笑いの動画といったのご褒美はなしだ。これらに魅力を感じない場合は、ニュースに呼応して何かポジティヴなことをする機会を自身に与えることを、ブランクソンはすすめている。

まずは実践あるのみだ。あなたはいま、この記事を読み終えた。ご褒美の時間だ。プッシュ通知をオフにし、タイマーをセットして、ベルを鳴らすネコたちが最高にかわいいこの動画を鑑賞しよう。

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統合失調症のマーベルヒーロー「レギオン」:30年を経て主役になれる時代がやってきた

複数の人格をもち、精神障害に苦しむスーパーヒーローのレギオン。30年前にはあまりに奇妙であると思われていたマーベルコミックのキャラクターが、ついに主人公となって2017年にテレビドラマ化された。デビューから時が経ち、「レギオンを理解できる時代」がようやくやってきたのだ。

TEXT BY GRAEME MCMILLAN
TRANSLATION BY HIROKI SAKAMOTO/GALILEO

WIRED(US)

コミックのキャラクターのなかには、ポップカルチャー全体にたちまち影響を及ぼす者たちがいる。キャプテン・アメリカは第二次世界大戦下の米国にうってつけのヒーローだった。スパイダーマンも、恐れ知らずな1960年代にうってつけのヒーローだった。だが、レギオンはそうではなかった。

マーベルのキャラクターであるレギオンは、米国のケーブルテレビ「FX」で2017年2月から始まった新番組「レギオン」[日本では2月9日からFOXチャンネルで放送。シーズン2の制作も決定している]の主人公だ。「X-Menファミリー」のなかでも最もパワフル、かつ最も興味深い存在であるこのレギオンを世界が受け入れられるようになるまでには、30年近くかかっている。

最強の問題児、レギオン

レギオン(本名はデヴィッド・ハラー)がデビューしたのは、1985年に刊行された『New Mutants』第25号だった。彼の初登場は作中ではなく、アーティストのビル・シェンキェヴィチによる1ページのピンナップ写真。実際に物語に登場したのは次号からだった。

だが、エグゼビア教授(プロフェッサーX)の親友モイラ・マクタガートによって書かれたとされるピンナップの解説が、レギオンことハラーについて知るべきことのすべてを読者に伝えていた。ハラーはプロフェッサーXの息子であり、その事実をプロフェッサーX自身は知らなかったのだ。

ハラーは「強力な超能力」をもっているものの、統合失調症の一種である緊張病を患っている。モイラはハラーを「地上最強のテレパス」と表現している。これに続く3号を通して読者は、ハラーはイスラエルで起きたあるテロ事件の唯一の生存者であり、それが彼のミュータントパワーを目覚めさせると同時に、彼を緊張病にしたことを知る。さらにこの事件が引き金となって、ハラーは解離性同一性障害(DID)を発症。症状がミュータントパワーと結合することで、彼は他人の人格を吸収できるようになった。

ご想像の通りハラーは、控えめな言い方をすれば「問題児」だった。彼がもつ人格のなかには、人を殺そうとする者までいたほどだ。だが心の暴走はやがて鎮まり、ハラーは複数の自己をうまくコントロールできるようになった。しかし、さらに悪いことが彼を待ち受けていた。

ハラーは1989年、彼の力を悪用して世界征服を企てる「シャドウキング」に取り憑かれてしまったのだ。また1991年、物語が結末を迎えるころには、ハラーは再び緊張病を発症した。今回は非常に深刻で、エグゼビア教授でさえハラーの心を動かすことはできなかった。

コミック『X-Men Legacy』。IMAGE COURTESY OF MARVEL

人間らしさを描くためのメタファー

ハラーをかくも魅力的なキャラクターにした要因は、精神障害という読者には馴染みがない設定でありながら、彼が『X-Men』の伝統を数多く体現してきたことにある。特殊能力や中心人物との隠された関係、マインドコントロールを受けやすく、それがプロットを展開していく、といった伝統だ。

多くの点でハラーは、原作者のクリス・クレアモント(シェンキェヴィチとともにハラーのキャラクターをつくり出した人物だ)が、当時の『X-Men』にもち込んだアプローチを象徴していた。クレアモントは、コミックが扱うことはめったにない現実のテーマを作品に取り入れながら、人間らしい問題を描くためのメタファーとしてスーパーヒーローものを書こうとしたのだ。

なかには、ハラーを好きになれないX-Menファンもいた。ハラーのアイデンティティが変化する姿が、あまりにもリアルだったからだ。ハラーは、初めての「複数の人格をもつスーパーヒーロー」ではなかったかもしれない。だが間違いなく、彼は最も本格的にそうした性質が描かれたキャラクターだった。

ハラーは実は、スーパーヒーローコミックに初めて登場した解離性同一性障害のキャラクターといわれることの多いクレイジー・ジェーンよりも4年前に登場している。ジェーンのデビューは1989年の『Doom Patrol』第19号。ハラーが「昏睡状態」に陥っている間に、彼女は読者から多くの注目を集めることになった。

ハラーは、1994年に刊行された『Legion Quest』でようやく意識を回復した。昏睡状態から目覚めた彼の新たなミッションは、歴史を変えて、父であるエグゼビア教授の人生をもっとよいものにすることだった。なんとか時間を遡ることができたハラーだったが、結果的に誤って、悪者マグニートーではなくエグゼビア教授を殺してしまう。そしてこれが、パラレルワールド「エイジ・オブ・アポカリプス」へとつながることになる。最終的にタイムラインはリセットされるが、それには高い代償が伴った。ハラーは死んでしまった(と思われた)。

だがハラーは、「ノータイム」と呼ばれる別次元に飛ばされていただけだった。最終的にハラーのなかの最も邪悪な人格が死に、彼は父との再会を果たして物語は終わる。

2017年、ハラーを主人公とするテレビシリーズ「レギオン」が始まった。PHOTOGRAPH COURTESY OF CHRIS LARGE/FX

ようやく時代が追いついた

ハッピーエンドのはずだった…が、そこはやはりコミックだ。2012年、エグゼビア教授は、マーベルコミックのクロスオーヴァー作『Avengers VS X-Men』のなかで死んでしまった。それが『X-Men: Legacy』へとつながった。

『Legacy』は、さまざまな意味においてハラーを描く究極の物語だ。このシリーズでは、ハラーの力と心理がかつてないほど深く掘り下げられるだけでなく、ハラーというキャラクターを消し去ることで物語を完結させている…が、ここで完全なエンディングを明かしてしまうつもりはない。作品を読んで自分の目で確かめていただきたい。

自己の分裂、しばしば矛盾するさまざまな役割への適合、それでもその過程で「自己」を維持しようとする努力──。『Legacy』原作者のサイモン・スパリアーは、求められるスーパーヒーロードラマと並行して、ハラーを、われわれ読者が今日抱く感情に最もふさわしいメタファーとして描く方法を探っている。

『Legacy』は、精神障害という問題に正面から取り組んだ作品だ。そうすることでこのシリーズは、ハラーのデビュー当時には想像もできなかった方法で、彼に人間性を与えている。1985年にはあまりに奇妙で、あまりに予測不能で、あまりに未知だと思われていたキャラクターが、“われわれ自身”になったのだ。あるいは、われわれがハラーになったとも言えるかもしれない。そして、彼はいなくなった。

もちろん、これがハラーの最後の舞台ではない。これまでと同じように、彼はまた異次元へと滑り込んだ。ただ今回は、その次元はコミックブックではなく、テレビの世界である。果たして彼は、これまで以上に活躍できるのだろうか? それは観てからのお楽しみだが、少なくともハラーは、自身の体験をもっと深く理解してくれる時代(と願わくはオーディエンス)をようやく見つけられたことに安心できるだろう。

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