新型コロナウイルスは人の心もむしばむ。失業や収入減による生活不安、外出自粛のストレスなどが、パートナーへの暴力(DV)や児童虐待を招く恐れがあると懸念されている。
実際に海外では被害が増えており、国連は各国に警告を発して対策の強化を求めた。国内でも、収入をめぐる口論から夫に殴られて女性が亡くなる事件が起きた。親がイライラして子に手を上げたという話も、民間団体に寄せられている。
DVや虐待の防止には、その家庭と支援する側とが関係を持ち続けることが欠かせない。知人や学校、地域からの情報も大切だ。ところが感染症は、こうした人と人とのつながりを希薄にし、あるいは断ち切り、被害の潜在化をもたらす。
NPO法人・全国女性シェルターネットによると、暴力を振るう配偶者がずっと家にいて電話をかけられないためか、連絡が途絶えてしまった被害者がいるという。感染防止策として、DV相談窓口での面談を控えていた自治体もあった。
政府は各自治体に支援の継続を求めるとともに、「DV相談+(プラス)」と銘打ち、今週から民間団体に委託して相談体制を拡充した。メールやSNSでも相談を受け付け、必要に応じてウェブ上での面談も行う。被害者の置かれた状況を見極め、また、加害者が被害者を装って探りを入れる「なりすまし」などを排除するのに有効だろう。
DVを訴えてもなかなか保護措置を受けられない、との指摘が以前からある。コロナ禍で行政の機能が総じて滞っている今は、なおさら心配だ。SOSに即応できる構えをとっておきたい。既存のシェルターで足りないときは、ホテルや空き家などを活用するのも手だ。
児童虐待も、長引く休校によって状況を把握するのが難しくなっている。教員の家庭訪問や電話連絡のほか、スクールソーシャルワーカーも積極的に接触を試みて、気になる子の見守りに努めてほしい。分散登校の日を設けるなど、顔を合わせる機会を工夫できると良い。
経済支援策の充実も欠かせない。ゆとりのなさがDV・虐待につながる例が少なくないからだ。被害防止の観点からも、政府は1人10万円の給付を急ぐ必要がある。ただし検討されている案では、お金は一括して世帯主の口座に振り込まれる。暴力を振るう家族から逃げている被害者に届かなくては困る。柔軟な救済策が求められる。
「家にいて」の呼びかけが社会に広がる。しかし、その家が安全な場所ではない人も大勢いる。厳しい現実を直視し、様々な手を打つ力が試されている。
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