新型コロナ禍で急落している原油価格が、米国の先物市場でマイナスになった。原油を売ってお金を受け取るのではなく、お金を払って原油を引き取ってもらう、史上初めての異常な事態である。
貯蔵タンクに収めきれない原油をタンカーなどに蓄える保管料がかさみ、損失覚悟の投げ売りも出たようだ。取引期限が迫っていた、5月に現物を受け渡しする「5月物」に限った価格だとはいえ、原油相場の激しい下落は、世界経済が直面する危機の深刻さを如実に映し出している。
エネルギーの海外依存度が高い日本にとって、原油安は歓迎すべき面が大きいものの、リスクも膨らんでいる。在庫の評価損が出るエネルギー企業の業績悪化にとどまらない。産油国の財政悪化が進めば、資金調達のための資産売却などが金融・資本市場への大きな圧力となったり、政情不安を招く要因になったりしかねない。
これほどまでに原油が売り込まれたのは、シェア争いの思惑などから増産に転じた産油国の動きに一因がある。
サウジアラビアが率いる石油輸出国機構(OPEC)と、ロシアなどの非加盟国でつくる「OPECプラス」は3月上旬、協調減産の拡大を協議したものの決裂した。するとサウジは一転して増産に動いた。同調しなかったロシアや、シェールオイルで一大産油国となった米国を揺さぶる狙いだったとみられている。
その後、新型コロナは欧州や米国へと急速に広がった。OPECプラスは4月に入って大幅な減産で合意したが、価格は急落したままだ。
減産に合意しなかった3月には、リーマン・ショックの際を上回るほど世界経済が落ち込み、原油需要がこうも急減するとは、読み切れていなかったのだろう。産油国は自ら苦境を招いたと言わざるを得ない。
サウジやロシアも加わる主要20カ国・地域(G20)のエネルギー相は緊急会合で、エネルギー市場の安定が重要だと訴える声明をまとめた。しかし米国も含めた産油国の減産について、具体的な言及にまでは踏み込んでいない。
未曽有の厳しい局面を迎えている世界経済にとって、いま必要なのは、波乱要因を一つでも減らすことだ。自らの利益ばかりを追って原油価格の乱高下を招くのは、消費国にも産油国にも望ましいものではない。
市場が落ち着いてこそ、長期的な展望に立って自国の経済運営ができる。そのことを肝に銘じ、需要に見合った供給態勢をとる必要がある。
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