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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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ショートカット

「ふべ――」


 フィーロの曲芸の様な蹴りによって馬車が向こう岸に渡る。

 馬車に乗っていた俺達は馬車の壁に激突、それぞれかなり痛い思いをした。


「とー!」


 そして弦を手放し、フィーロが強靭な脚力で馬車に追いついて再出発した。

 橋を超えられれば相当なショートカットが可能だとは思ったが、人間離れしている。

 いや、まあ……フィーロは魔物だけどさ。


「うう……命がいくらあっても足りないわ」

「奇遇だな、俺もそう思う」

「思うのならコースを考えなさいよ!」

「ここを使わなければ勝てない!」


 という事にしておこう。

 正直、勝敗なんてどうでも良い。

 だけど、これで相当ショートカットをした。大分追いついて来たんじゃないか。

 ガタガタと揺れる馬車の中で地図を確認する。

 えっと、元康は……松明の灯りを頼りにすると、まだ先だな。


「この先は悪夢の五連続ヘアピンだ。気を付けろよ」


 一歩でも間違えたら崖下に一直線、まさしく恐怖のカーブだ。

 ……俺は何時からレースゲームの世界に来てしまったんだ?


「うん!」


 フィーロは五連続ヘアピンをジャンプで一歩ずつ飛び越えて行った。

 うん。車の動きじゃ無理だな。

 馬車がガッタンガッタン揺れてメルティ達がシェイクされている。


「うげ――アガ――」

「ふぇ――むわ――」

「凄いですね」


 何故、アトラはシェイクされずにぴったり引っ付いているんだろうな。

 俺は馬車の淵にいるから割と平気だけどさ。

 魔力や気のおかげか?

 いや、リーシアがダメだから違うかもしれない。


「うう……死んじゃう。このままじゃ死んじゃうよ」


 珍しくメルティが子供らしい弱音を吐いている。

 炊きつけたのはお前だ。我慢しろ。

 これだけ身体をぶつけても死なない世界に生まれたことを感謝するんだな。


「ふぇえええ……」

「いやならフィーロに元康の元に行けと言うしかないな」

「いや……」

「友情を優先するとは、お前は良い女王になれそうだな」

「嬉しくない。今言われても全然嬉しくない……」


 もはや死屍累々だな。谷子やガエリオンを連れてきたら良かったのだろうか。

 こいつ等を降ろして……。


「良く考えれば降りれば良いんじゃないか?」

「どうやって降りるのよ!」

「魔法を使えば?」

「こんな状態で魔法を使えるわけないじゃない!」

「使えなくはないだろ。そうだ。水の魔法を撃ち続けて、反作用で飛べば良いんじゃないか?」

「ふざけないで!」


 後は、ポータルシールドで帰って貰うという所か。

 いや、この案を使うと俺が帰れない。


「少しはやる気を見せなさいよ!」

「元康が相手じゃな」

「気持ちはわかるけど、ナオフミはフィーロちゃんが大事じゃないの!?」


 えへへー。ごしゅじんさまー。

 む……確かに頑張るフィーロには色々と助けて貰っている。

 癒しでもあることは否定しない。


 だが、今朝の発情した猛禽類の目を免除しろと言うのは無理がある。

 こいつの頭の中には食べ物と俺を犯す事しか無い。

 そう思った瞬間、なんか少し冷めた。


「なーに、フィーロが元康の物になっても俺達の関係は変わらないさ」

「考えてそれなの!? そんなにフィーロちゃんとやるのがイヤなの!?」

「何を当たり前の事を言っているんだ。フィーロは大事だが俺はそんな事をする暇はない」

「ああ……あの気持ち悪いナオフミの方が良かったと思う日が来るなんて思いもしなかった!」

「ふぇえ……頭がおかしくなっちゃいそうです」

「ここでその台詞か、リーシアもエロいな」

「そこに反応するの!?」


 とはいえ、大分追いついて来ているのは確かなんだよな。

 だが、ゴールも近づいている。

 このままじゃ敗北だな。

 あ、元康が崖の先から明かりが見えてきた。

 こっちはまだ大きく回らないとあそこまで行けないな。ああ、ここを飛び越えられたらまだ余裕で勝てるのだが、そんな期待をしてもダメだろ。


「フィーロ、あっちの崖で明かりが近付いてくるだろ? あの先を下った所がゴールだ。このままじゃ負けだぞ」

「やー!」


 フィーロが……崖にコースアウトした!


「崖! 崖! フィーロちゃん私達は飛べない! 落ちるぅうううううううううううううう!」

「ふぇえええええええええええええ!」


 終わったな。何もかも。

 俺の人生、これで良かったのか?

 崖下か……生きていたら良いな。

 ん?

 まだする手があるが……足りないだろ。


「とー!」


 フィーロが、馬車の屋根に捕まり、羽ばたく。凄い風が巻き起こっているな。

 ブウウン! って音がするぞ!

 まさかフィーロ、飛べるのか?

 そういえばガエリオンに張り合ってピョンピョン跳ねて居たのを思い出す。


 良く考えればフィーロは鳥か。

 頑張れば飛べるのかも。

 お? 僅かに滞空している。


「わうううううううううう……」


 何処の、アイランドだ。

 食いしん坊キャラとしては似た者同士だな。

 このままゆっくりとショートカットするつもりか?


 だが、これでも上手く行くか賭けだな。失敗の可能性が高い。徐々に落ちている。

 フィーロの身体は飛ぶようには出来ていない。

 重さ? ガエリオンの体格で飛べるほうが不思議だ。

 異世界万歳。その癖、飛べないフィロリアルっと。

 ……少し手を貸そう。


「エアストシールド! セカンドシールド!」


 射程ギリギリまで二つの盾を交互に出す。目標は崖の先だ。

 そして……。


「チェンジシールド!」


 選ぶのはロープシールド。専用効果にフックがある。

 これは覚醒した際に追加された物だ。

 このフックは、盾から紐を出して引き寄せる効果がある。

 キメラヴァイパーシールドにもあるけど、あっちのフックは射程が短い。

 つまり、離れたシールドから出されたフックによって馬車を引き寄せる事が可能なのだ。

 で、振り子の要領で、セカンドシールドの方へ飛び移らせる。


「シールドプリズン!」


 そして、シールドプリズンを馬車の下に出現させ。


「フィーロ!」

「うん!」


 フィーロが馬車を蹴り飛ばしてむこうの崖に到着。そしてフィーロはプリズンを足場にして到着した。

 再度走り出す。


「い、命がいくらあっても足りない……」


 メルティがぐったりと馬車で寝転んでいる。

 同感だな。

 もう二度とフィーロの馬車でレースはごめんだ。

 次にレースがあったら、今度こそフィーロを置いてポータルシールドを使う。

 そもそも、二度とレースに参加するつもりなど無いがな。


「死んじゃいます! 絶対に死んじゃいます」

「霊亀の攻撃に耐えた俺がいるんだぞ?」

「そこで言う事がそれなの?」


 何が不満なんだ?

 最悪、崖に落ちる直前にさっきの手法を使おうと思っていたのだが……。

 まあ、崖下が真っ暗で、何も見えないんだけどさ。

 とりあえず大幅にショートカットしたお陰で元康は後方のはず。

 目的地であるはずの松明を通り過ぎて、俺達は止まった。


「勝った」


 スタートダッシュに遅れた所為で勝利は絶望的だと思ったが、さすがはフィーロ、フィトリアからアホ毛をもらっただけの事はある。

 元康の三匹も人型になっているという事はフィロリアル・クイーン化しているだろうけどさ。

 そういえばアホ毛は無かったな。


「うう……」

「ふぇええ……」

「勝ったー!」


 勝利の踊りをしながらフィーロは馬車の屋根に乗って歌い出した。

 どう言う儀式な訳?

 大興奮だな。若干、鬱憤も晴れたか?


 だが、こちらの馬車はスクラップ寸前だ。

 車輪なんて外れかかっているし、フレームも歪んでいる。

 新しいのを買うしか無いな。


 余計な出費を……。

 元康から奪うか?

 いや~……あんなボロボロな馬車もらってもな……。


「フィーロの勝ちー! フィーロが一番ー、フィーロが最速ーガエリオンになんてまけないぞー」


 ああもう、うるさいなぁ。

 目が発情状態になっている気がする。


「ごしゅじんさまをー乗せるのはーフィーロー、ごしゅじんさまに乗るのはフィーロー……オウオウ」


 前半は良いだろう。後半は許さん。腰を振るな。

 結局、元康が来るまでフィーロは勝利の歌を歌い続けた。

 というか、ガエリオンがそんなにもイヤか。


 そして、割と直ぐに元康と騒がしい三匹が爆走してきた。


「ま、負けた……」


 元康は俺達が先に到着しているのを確認するなり、ガックリと地に手を付けて項垂れた。

ちなみに元康の三匹の内、一匹オスが混じっています。

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