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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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レース

 は? え? 走り屋?

 このバカは何を言っているんだ?

 走り屋って……もはや勇者ですら無いぞ。


 しかもとてつもなく爽やかな笑顔。

 ウザイ、激しくウザイ。

 思わず殴り飛ばしたくなる顔だ。


 しかし、それ以上に関わり合いになりたくない。

 俺は思わず盾に手をかざし……。


「ポータル――」

「待って待って、帰るの!?」

「アレを見て、帰らないという選択肢があるのか?」


 むしろ他の選択肢を知りたい。


「帰ったらフィーロちゃんどうするの?」

「む……そうか。フィーロは諦めよう」

「そっち!?」


 元康にフィーロをやればきっとどうにかしてくれる。俺は元康を信じる事にする。

 まあ、俺が信じるってどうよって感じだけど。


「やー!」


 フィーロも抵抗が激しいな。


「ふぇえ……槍の勇者様、何をやっているのですか!?」

「ああ、アイツは結構前からあんな感じだ」

「何をしたんですか!?」

「コイツの姉が壊して、フィーロが跡形もなくさせた」

「姉上ー!」

「剣の人も元王女様におかしくさせられたんですよね? じゃあ助けないのですか?」

「本人が望んでいるんだよ」

「と言うか、お義父さんって誰?」

「俺の事らしい」

「だからなんで!?」


 ああもう、説明が面倒くさい。一刻も早く逃げたい。

 つーか、フィーロのピンチに居なかったのは、あの幼女……おそらくフィロリアルを育てていたからじゃないか?

 本当に余計な事をしてくれる。

 最近見ないから何処に居るのかと不安に思っていたら、子育てか。

 フィーロに振り向いて貰えないから慰め用のフィロリアルを育てていたんだな!


「フィーロ帰りたい……」

「そうだな……俺も帰りたい」


 フィーロは元康が苦手だからな。

 だが、発情するコイツをどう処分するか、だ。


「えっと……元康、何の真似だ?」

「走り屋です」

「答えになってねえよ!」


 ダメだこりゃ、いろんなものが足りない。

 カースシリーズ……と、思いたい!


「……なんで走り屋をしているんだ?」

「この子達がやりたいと言うので、自由にさせているのです」

「ああ、そう。自由過ぎるのはお前だ」


 フィロリアルは馬車を欲して、ヤドカリみたいに奪う習性もあるみたいだし……自由にって。

 意味がわからない。

 元々思想や行動が理解できない奴ではあったが、ちょっと見ない間にもっとおかしくなっている。


 そもそも、フィロリアルという単語が出てきた段階で気付くべきだった。

 フィトリアや山賊という単語に騙された。

 にしても、錬は盗賊だったが元康は山賊か……樹は海賊か?


「ねえ!? なんでお義父さんなの!?」

「フィーロの育ての親だから、じゃないか?」


 飼い主=親という認識なのか?

 フィーロは俺の配下であって、子供では無いんだが。

 そもそも、仮に親だったとしても、コイツは俺より年上だろ。

 なんで自分より歳取った奴にお義父さん呼ばわりされなきゃいけないんだ。


「さあフィーロたん。俺と君の子供達だよ」

「そうなのか!?」


 発情して、既に元康とやっていたのか。

 その癖、俺とやりたいとはとんだビッチだ。

 困った奴だが、かなり信頼していたのに……俺はビッチが嫌いだ。

 真偽の程によっては相応の罰は覚悟しておけよ。


「違う! 違うよごしゅじんさま。フィーロそんな事してない!」

「フィーロちゃんがそんな事する訳ないじゃない! いい加減な事言わないでよ!」

「ところでお義父さんの周りには豚が多いですね」

「聞きなさいよ! つーか豚って何!?」

「ぶ、豚!?」

「豚? そういや何を言っているんだ?」

「言葉通りの意味ですよ。豚がお好きなのですか?」


 ……ええっと、元康の奴、以前も宿屋で女を豚と罵っていたな。

 ラフタリアにも狸豚とかなんとか言っていた。

 もしかして……。


「おい、お前にはこれが何に見える」


 メルティを指差して元康に尋ねる。


「青い子豚ですね。ブーブーと騒いで五月蠅いと思います。気持ち悪い……」

「なんですって!? 豚って私の事を言っているの!? ふざけるんじゃないわよ!」

「諦めろ、お前の姉が悪いんだ」

「姉上のバカー!」


 ま、さすがに豚と言われたらメルティも我慢できないだろう。


 それにしても、やはりそうか。

 元康の奴、カースシリーズに呑まれて女が豚に見えてしまっているんだ。

 しかもメルティの言葉に反応しない所を見るに、声も聞こえないんじゃないか?

 だが……暴れる気配は無い。


「で、そのフィロリアル達は本当にお前とフィーロの実の子なのか?」

「違いますよ」


 ……素直に言えば良いってものじゃない……たぶん、フィロリアルを買ったんだな。

 訳のわからないことを言って、俺達を混乱させるんじゃない。


 そういえばちょっと前に城下町で金を奴隷商に渡しに行った時、何か変だった。

 俺と視線を合わせなかった。

 あれはこれが原因か?


「ではお義父さん。勝負です」

「なんでだよ!?」

「ここから先の峠にあるゴール地点になっている松明まで走り、先に辿り着いたものが相手の天使を一人、相手から貰うでよろしいですね?」

「勝手に決めるな!」

「もっくんまだー?」

「そろそろだよ」


 もっくんって何!? 元康だからか?

 というかあの三匹、赤、青、緑と育成ゲームの初期色みたいだな。

 これで黄色が入ると揃うんだが……ああ、フィーロの人型時が黄色か。


 あの三匹、良く見るとキャラが違うような……。

 確認したくない。


「では勝負開始です!」

「お、おい! 話を聞け!」


 俺が呼び止めるよりも先に元康は来た道を戻って行ってしまう。

 ドッドッドと幼女三匹が楽しげな声を上げて走るその姿は、目に悪いな。

 俺の世界だったら間違いなく捕まる。


「ど、どうするのよ?」

「……無視して帰る」

「それってこっちの負けになるんじゃないの!?」

「だろうな。だが知った事ではない」


 フィトリアの奴……この際、ラトに頼んでフィーロを試験管に放り込む方向で妥協しよう。

 かなり危険だろうけど鎮静剤で満たした試験管の中で発情期が過ぎるまでフィーロには眠っていて貰おう。

 若干SF入っているな。コールドスリープ的な感じだ。

 たぶん死なないだろ、殺したって起き上がりそうだし。


「んー? どういう意味?」

「あのねフィーロちゃん。あの槍の勇者に負けるとフィーロちゃんは槍の勇者の物になっちゃうの」

「そのようです。フィーロちゃん。今までありがとうございました。尚文様の寝所は私が代わりに努めますわ」

「え!?」


 今更になってフィーロはいきなり売られた勝負の詳細に気付いたらしい。


「やー!」

「うわ――」


 フィーロが負けじと爆走を開始した。


「ふぇええええええええええええええええ!」


 リーシアの絶叫に俺も同意しよう。


 スタートダッシュの差で思い切り負けている。

 コースはどんなモノなんだ?

 元康に有利過ぎるだろ。あいつはこの山を縄張りにしているんだろ?


 えっと、地図を出してと。

 ガタガタ揺れて読みづれーな!

 で、地図を広げてみたのだけど……何処のレース場だと言いたくなるほどクネクネした山道が続いている。

 道は崖沿いに作られている事が多く、俺の世界で言う所の峠みたいだ。


 ……やる気もあるみたいだし、一応援護を掛けておくか。

 魔法を使ってはいけないとは言われていないからな。


「ツヴァイト・オーラ!」


 これで元々の能力と合わせてスピードも上がるだろう。


「フィーロ! 馬車の重心を利用しながらカーブを曲がって速度を維持しろ」

「うん!」


 俺がそう提案するとこの鳥、ドリフトを馬車でやりやがった。

 どうやって曲がっているんだ? 車輪が壊れないか非常に不安だ。

 だが、それは元康も同じ。崖の先、空でも飛ばないといけない先までぶっちぎっている元康の馬車もドリフトをしながら曲がっていく。

 フィーロの方が速度自体は早いようだけど、コースの熟知と最初の遅れで追いつけるか怪しい。


「右! 左! そこの別れ道は左の方が早い!」


 まったく、地図を片手に走るのってきついな。

 しかもこっちの馬車は金属製で人員もそれなりに居る。

 速度をもっと出すなら置いて行った方が良いんだろうけど。


「なあフィーロ」

「なーに?」


 ガタガタ揺れる馬車の中で他の連中は必死に馬車から転げ落ちないようしがみ付いている。


「この際、馬車を置いて追いかけるか?」

「ダメ!」

「なんで?」

「フィーロの勝負なんでしょ? なら馬車は置いてっちゃダメなの」

「へー……」


 本能に刻まれるフィロリアルの勝負的な感じかな?

 ……よくよく考えてみれば元康にワザと負けて、フィーロが元康の物に……ではなく俺に忠誠を誓っているっぽいからそこだけは免除するように言って、フィーロの発情を解消して貰うというのはどうだろうか?

 どう解消するかは考えないようにしよう。

 俺に忠誠を誓うのなら世界を救った暁にフィーロともう一度やる機会を……。


「ごしゅじんさまなんか変な事考えてるー!」

「ナオフミ、いい加減、失礼な事を考える時にしている顔をやめなさいよ!」


 おっと、どうやら見抜かれてしまったようだ。

 まあ、負けたとしてもそこまで損はないだろう。


「まあ、どんなにフィーロが汚れようとも、頑張るのなら見捨てはせん」

「ぶー! 汚れないもん!」


 フィーロの速度が上がった。

 意味わかっているのか? わかっているから怒っているんだろうなぁ。

 ここでナビを間違えてみるか。

 いや、納得できる理由をでっち上げよう。


「フィーロ、そっちの道を左だ。その方が早い」


 ちなみに弦で作られたつり橋があるらしい。

 馬車じゃ難しいな。


「ちょ、ちょっとナオフミ! つり橋なんだけど!」

「そうだな」


 落下したらポータルで飛べばいいさ。

 馬車は知らん。


「むぅううううううううううう!」


 フィーロが構わずつり橋に突撃。

 ブチブチとつり橋の弦が切れて行く音が聞こえる。


「きゃああああああああああああああああああああああ!」


 メルティの叫び声が五月蠅いな。


「ふぇええええええええええええええええええええええ!」


 リーシアも匹敵する声を上げている。

 アトラは二人の叫びにキョロキョロと辺りを見渡す様にして俺の裾を握った。


「だ、大丈夫なのですよね。尚文様」

「ああ」

「そ、そうですか、お二人はどうしたのですか?」

「抗えない現実から逃避しようとしているんだ」


 俺の言葉に怒りを覚えたのかメルティが叫びながら俺をガクガクと揺らす。


「むー!」


 ブチンと音を立ててつり橋が二つに裂ける。

 さて、逃げる準備をしよう。

 と、ポータルシールドの準備をしたその時。

 フィーロが落ちるつり橋の弦に向け、馬車から離脱し凄い速度で掴んで、追いついてきた馬車を蹴り飛ばして向こう岸へと吹っ飛ばした。

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