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2020年4月22日(水)
“イベント自粛”の波紋 文化を守れるか

“イベント自粛”の波紋 文化を守れるか

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、全国各地で音楽コンサート、演劇などのイベントの中止が相次いでいる。中止・延期となったイベントの数は少なくとも81000。5月末までにライブ・エンタメ市場9000億円のおよそ4割が消失するという試算もある。多くのアーティスト、イベントを支えるスタッフたちが生活困窮に追い込まれ、文化の衰退を危惧する声が各界の著名人から発信されている。どうすれば事態を打開できるか。ネットを駆使し新しいイベントのあり方を模索する音楽プロデューサー・つんく♂さん。安全を確保しながらコンサートを行うためのモデルケースを作り始めた音楽プロダクション…。番組は、苦境に追い込まれた現場を取材、文化を守るためにいま何が必要か考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 平田オリザさん (劇作家)
  • 合田 文さん (WEBメディア「パレットーク」 編集長)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)
2020年4月21日(火)
コロナショック 苦渋の解雇の裏で ~密着・あるバス会社の3か月~

コロナショック 苦渋の解雇の裏で
~密着・あるバス会社の3か月~

新型コロナウイルスの影響で、74人中33人の解雇を迫られることになった観光バス会社。2月以来、インバウンドの激減、日本人の外出自粛に翻弄され、売り上げは1割にまで落ち込んだ。従業員の中には、幼い子どもや高齢の親を抱え、アルバイトをして家族を支えようとする人も。解雇を告げる側の経営陣もまた、その苦しみに耐えきれずにいた。苦悩する社員たちの3か月に密着、いま必要な支援とは何か考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 斎藤太郎さん (ニッセイ基礎研究所 経済調査部長)
  • 海江田 司さん (家康コーポレーション 社長)
  • 武田真一 (キャスター)

中国人観光客が激減 苦しい資金繰り

私たちがバス会社の取材を始めたのは、2月上旬。
国内で初めて日本人の感染が確認された直後でした。
このころ、すでに中国からのツアーはすべてキャンセル。他の国や日本人の観光で、何とか売り上げを確保していました。

福岡県に本社を構え、全国に3つの営業所を持つ このバス会社。役員と従業員、合わせて74人が働いています。

社長の海江田司さんです。
売り上げの4割を占めていた中国からのツアー客を失い、厳しい資金繰りに直面していました。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「金融機関に緊急融資のお願いができればということで、5000万円 希望しております。」

会社の1か月の経費は、およそ4500万円。人件費やバスのリース料などを賄うため、多額の融資が必要でした。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「生き残りをかけて、いろんなことを矢継ぎ早に動いている。『会社を残すにはどうすれば』『いかにこれを乗り越えればいいか』みたいな、そんなことばかり考えているから。」

給料カット 希望退職… 追い詰められる従業員

この日、社長の海江田さんが向かったのは、最も深刻な影響を受けていた大阪の営業所。従業員を集め、厳しい経営状況について説明しました。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「本当に残念な状況になりました。いかんともしがたい状況です。役員、私どもは3割カット、事務系職員の給料は2割カット。」

全員の給料をカットし、希望退職も募るという内容。

不安の声が相次ぎました。

従業員
「普通の会社は3か月、1年仕事がなくても社員の給料は保証します。リスク管理はどのように考えていますか。」

家康コーポレーション 海江田 司社長
「リスク管理がどうこう言われたら、すみませんけど、これに関しては、今回のコロナウイルスに関して言うとリスク管理ができていなかった。」

このころ、“数か月で事態は収束する”と考えていた海江田さん。「それまで我慢してほしい」と訴えました。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「4か月くらいしたら動くんじゃないか。いま耐え忍んでやるしかないので、協力をお願いします。」


大幅な給料カットで、従業員は厳しい生活に直面していきました。

ドライバーの川村孝さん37歳です。
2月の勤務がほとんど休みになり、給料は半分以下に減っていました。

ドライバー 川村孝さん
「この数字はちょっと、改めて見ると…きついですね。普通にきついですね。この年でこの額をもらうって。」

もともと別の会社でバスの運転手をしていた川村さん。この会社に入ったのは5年前、事務をしている父親の文夫さんに誘われたのがきっかけでした。

当時、会社はインバウンドで急成長。設立から僅か3年で、売り上げは4億円を超えていました。バスの台数やドライバーも大幅に増やしていた時期でした。

文夫さんは、この会社なら、結婚を控えていた川村さんの生活も安定すると考えたといいます。

父 川村文夫さん
「(息子が)結婚するにあたって、前の会社では生活が大変だと。こっちに来れば、まあどうにかこうにかやっていけるぐらいの給料は稼げると。ほな、こんなになってしまった。」

今は結婚し、2歳になる娘と妻、そして両親の5人で暮らす川村さん。自分や父親の収入が減り、家族の生活はどうなるのか、不安を募らせていました。

ドライバー 川村孝さん
「子どもと毎日会えるのはいいんですけれど、すごく複雑ですよ。会社がどこまで踏ん張っているか、仕事が戻ってくるという期待より、会社がどこまで持ち続けるか、不安のほうが大きいですかね。」

消えた外国人観光客 生き残りへの模索

国内の感染者が40人を超えた、2月中旬。
中国以外の外国人観光客の予約も軒並みキャンセルとなっていました。

大阪営業所 西田和浩所長
「中国以外の国をなんとかということで動いてはいたんですけれど、それすらキャンセルが来ている状況です。」

会社はこの日、従業員にある提案をしました。

大阪営業所 西田和浩所長
「国内とか地域の仕事が1本でもあれば、みんなで動こうと。」

外国人観光客以外の国内の仕事を見つけるため、ドライバーにも営業を呼びかけたのです。

大阪営業所 西田和浩所長
「1本(営業)取れたら、その乗務員が乗務する。一緒に動くことが価値がある、大事で、今後につながればいいし。」

会社の呼びかけに応えた1人、ドライバーの中川香里さんです。
慣れない営業。それでも、1日100件以上 電話をかけ続けます。

もともとバスガイドをしていた中川さん。観光に携わる仕事を続けたいと13年前、大型免許を取得。ドライバーの収入で家族を養ってきました。

ドライバー 中川香里さん
「オレンジが98円、安いな。」

72歳になる母親と2人で暮らす中川さん。感染が拡大する中、高齢の母親の体調も心配です。

ドライバー 中川香里さん
「(感染者の)人数が増えると、お母さんとか自分にも影響するじゃないですか。それを思うと不安ですね。早く終わってくれればいいのに。」

母親を安心させるためにも、営業で仕事を取り、収入を安定させたい。中川さんは連日、結婚式場などを回り、観光以外の送迎の仕事を探しました。

ドライバー 中川香里さん
「一応マイクロバスもあって、ハイエースもお安くしているので。」

「結婚式も本当に少なくなっているんですよ。」

ドライバー 中川香里さん
「皆さん延期されますよね、こんな時期。」

契約は20件回って1件取れるかどうか、厳しい状況が続きました。

“従業員にも家族が…” 幹部たちの苦悩

金融機関に融資の相談を続けていた、社長の海江田さん。
その後、国の支援策を使って、およそ5000万円の融資を取り付けました。

それでも数か月分の経費しか賄えないため、地元の金融機関に追加の融資を求めていました。しかし、多くの金融機関から「経営の見通しが立たずリスクが高い」として融資を断られたといいます。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「銀行なんていうのは、語弊があるかもしれないけれど、すごく真摯に対応してくれるところもあれば、『当行は当行です 当行の基準です』と『こちらから融資させていただくことはございません』とはっきり言われました。」

会社は業績が悪化した2月以降、雇用調整助成金などの国の支援も利用して、雇用を守ろうとしてきました。

しかし、支給されるのは申請から2か月後だと分かりました。

3月中旬、売り上げが1割にまで落ち込む中、幹部たちは解雇の決断を迫られます。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「大阪の、いま残っている人ね。実際に辞めてもらえるかということも考える。」

大阪営業所の所長、西田和浩さんです。
何人解雇しなければならないのか、話し合いが持たれていました。候補に挙がったのは、給料の高いベテランドライバーなど。大阪営業所では、最終的に26人中11人を解雇することになりました。

所長の西田さんは解雇を言い渡さなければなりません。
中には、小さな子どもを抱える従業員もいます。

大阪営業所 西田和浩所長
「ひとりの乗務員だけ(の問題)じゃない。家族もいる。いまの状況、どうしても整理せないかん人が出てくると思う。それはもう決まっているけれど、それを決めていいものか。もうちょっと、この人の背景を知らないといけない。悩む、むちゃくちゃ悩む。」


この日、解雇される従業員が事務所に集められました。

大阪営業所 西田和浩所長
「役員の給料、管理者の給料、事務職の給料をカットしてきたけれど、それでも追いつかない。もう本当、事業の継続が厳しくなった。きょうは解雇通知を渡します。」

1人1人におよそ1か月分の賃金と慰労金10万円が渡されました。

解雇を通告された従業員
「不安がありすぎて、どれが不安なのか分かりません。私個人としてはもう年齢も年齢ですので、いまから違う職種に就けと言われても、なかなか就くのは難しい。言葉が見つからないけれど、このコロナウイルスが無かったらなと。それしかない。」

大阪営業所 西田和浩所長
「つらいだろうなと思います。頑張ってきたのに。なんとも言えない。お疲れ様です、しかない。」


中には、みずから退職を申し出る人もいました。
西田さんとともに幹部として会社を支えてきた小森哲也さんです。
沖縄営業所で所長を務めてきました。沖縄でも13人中7人の解雇が決まり、小森さんは本人たちにそれを伝える役目でした。

沖縄営業所 小森哲也所長
「『何人か肩をたたいてくれ』と連絡がございまして。断腸の思いで従業員さんに声をかけたんですけれども、どうしても言われた本人としてみれば、いい感触じゃない。」

従業員からは「納得できない」という声も上がりましたが、小森さんにはどうすることもできませんでした。

沖縄営業所 小森哲也所長
「(従業員の)気持ちが十分 分かるんですよね。もう辞めていただいたんですけれど。それが苦しくて、自分としてみれば。その面もあって、今回は自分も身を引こうかなという形で。」

沖縄営業所ではバスの台数も減らし、大幅に規模を縮小することになりました。

沖縄営業所 小森哲也所長
「(働くのが)3月いっぱいなので、出来る限りのことはしようと思う。会社には頑張ってもらいたい。」

3月末までに解雇されたのは、会社全体で33人。従業員の4割以上に上りました。

緊急事態宣言 見えない収束

4月上旬、会社では大型連休を1か月後に控えて、新たな取り組みを始めていました。

「イメージはこういうふうな形。」

車内に、乗客の体温を測れる“サーモグラフィー”を設置。
安心してバスに乗れることをアピールすることで、ツアー客の獲得を目指していました。
ところが…。

安倍首相
「『緊急事態宣言』を発出いたします。」

バス会社の営業所がある大阪や福岡などで出された緊急事態宣言。5月6日まで外出の自粛が強く要請され、連休に向けた計画は頓挫しました。


営業活動に奔走してきたドライバーの中川さん。
新たな取引先を見つけるのは難しくなっていました。
収入の回復が見込めない中、新たにアルバイトを探し始めています。

ドライバー 中川香里さん
「これ死角がめっちゃ…」

「ちょっと待って、感覚が全然分からない。」

この日は、ダンプカーで建設資材を運ぶ仕事の研修。観光バスの仕事を諦めることも考えていました。

ドライバー 中川香里さん
「収束の見通しが立たないと、転職も考えていかないといけない。どんどん感染者数が増えてきたら、観光業界自体が難しくなると思ったときに(転職を)判断するかもしれない。」

緊急事態宣言とあわせて国が打ち出した経済対策。
中小企業には、最大200万円の給付などが決まりました。
そうした支援でどこまで会社を維持できるのか、試練の日々が続いています。

大阪営業所 西田和浩所長
「もしかしたら、もう(会社は)もたないかもしれないし、本当に(収束までの)期間が全く見えない状況だから。それでもね、いま出来ることをするしかない。」

コロナショック 現場の訴え

先週、緊急事態宣言は全国へ拡大。
会社の現状について、社長の海江田さんにきょう 話を聞きました。

ゲスト 海江田 司さん(家康コーポレーション 社長)

家康コーポレーション 海江田 司社長
「8月ぐらいまでは予約は全く入っておりません。冠婚葬祭の送迎ですとか、コロナの軽症患者を病院からホテルなどの宿泊施設に搬送する仕事をやっています。」

武田:国は実質 無利子・無担保の融資ですとか、従業員の休業手当を助成する雇用調整助成金の拡充といった支援策を打ち出しています。そうした支援を活用しながら雇用を守っていくということは、できなかったんでしょうか。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「雇用を守れなかったことは経営者として非常に責任を感じております。雇用調整助成金の特例措置に関しても、2月から先んじて申請しましたけれども、実際、私どもに給付されるのに2か月かかります。早くても大型連休明けではなかろうか。」

武田:そのタイムラグという点なんですけれども、1か月、あるいは2か月でも、やっぱり持ちこたえるというのは難しいわけですか。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「中小企業はやはり、2・3か月というのは大変大きいです。好き好んで社員を解雇しようと思う経営者はそんなにいないと思います。」

武田:行政に対して、どんなことを求めていきたいと思っていらっしゃいますか。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「長期的展望といいますか、政府から援助策が出ているから何とかやっていけるだろうと、個人も企業も思える支援策を出していただきたい。」

武田:今、何を大切にして一日一日の仕事を進めていらっしゃるんでしょうか。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「今も細々と仕事をいただいております。2万円、3万円のお仕事です。当社の1か月の売り上げは1億円前後ですが、1億円分の1万円だとか2万円だとか思わずに、一つ一つの仕事を大事にやろうと、社員一同 心がけています。」

“雇用”“暮らし”をどう守る?

武田:話を伺って、中小企業の置かれた深刻な状況を実感しました。雇用を巡る厳しい状況、こんなデータもあります。こちらは民間のシンクタンクが試算した失業者の数の見通し。ここ数年は減少傾向で、直近の数字では156万人。しかし、今後1年間で100万人増えて270万人に上るといいます。この試算をしたニッセイ基礎研究所の斎藤さん、これは衝撃的な数字だと思うんですが、どう捉えていらっしゃいますか。

ゲスト 斎藤太郎さん(ニッセイ基礎研究所 経済調査部長)

斎藤さん:経済が落ち込めば、残念ながら失業者は増えてしまいます。この数字は、今後予想される実質GDPの見込みをもとに私が試算したものですが、緊急事態宣言の期間が仮に延長されるようなことがあれば、この270万という数字はさらに大きくなってしまうということを心配しています。

武田:斎藤さんが今の局面で強調されたいことが「命か経済かの選択ではない」。これは失業者と自殺者の関係を表したグラフなんですが、バブル崩壊後、失業者が急激に増えるとともに自殺者も増えましたが、その後、2010年以降は景気の回復に合わせて、ともに減っていきました。そこを新型ウイルスが直撃した形となっているわけですが、斎藤さん、「命か経済かの選択ではない」、これはどういうことでしょうか。

斎藤さん:私が申し上げたいのは、「新型コロナウイルスの感染拡大」「経済を止める」、これは両方とも命に関わる問題だというふうに考えているということです。

武田:両立していかなくてはいけないということですね。

斎藤さん:そうですね。新型ウイルスによる死者を減らすことが仮にできても、経済的な死者を増やしてしまっては失敗だということになると思います。

武田:それでは、今どんな支援が必要だとお考えでしょうか。

斎藤さん:まず、スピード感というのが大事だと思います。政府は国民一人一人に10万円を配るということを決めました。これは決して多い額ではありませんが、スピーディーにやることによって、国民の手にすぐに行き渡るようにすれば、それは1つの成功だというふうに思います。

武田:まずはスピードということですね。

斎藤さん:はい。

武田:一人一人の暮らしを支えていく。海江田社長は「長期的な支援も必要だ」というふうに訴えていらしたんですが、斎藤さん、その点についてはどういうふうにお考えでしょうか。

斎藤さん:経済活動をこれだけ止めてしまっているわけですから、個人への給付もそうですし、企業を倒産させてしまうと失業者が急増してしまうので、やはり企業への給付、休業補償という形で、企業の支援というのを今後 より強めていく必要があると思います。

武田:まず今の局面は、一人一人の暮らしを支え、中長期的には倒産を防ぐ。

斎藤さん:そうですね。それが大事だと思います。先ほども申し上げましたけれども、経済を止めるということは命に関わる問題ですので、やはり企業を倒産させないということに全力を尽くすと。今回の経済対策では恐らく足りないということになると思いますので、これから先も迅速かつ大胆な政策を打っていく必要があると思います。

武田:ありがとうございました。

2020年4月16日(木)
新型コロナ フリーランスをどう守るのか

新型コロナ フリーランスをどう守るのか

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、イベント中止や営業自粛が相次ぐ中、舞台の裏方、ジムのインストラクター、ツアーガイドなど、フリーランスとして働く人たちが追い詰められている。緊急事態宣言が出された後、事態はより深刻化。「唯一残っていた仕事もなくなった」「もう生活できない」という悲鳴があがっている。こうした中、少しでも収入を得たいと増えているのがインターネットで単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」だ。仕事は多岐にわたり、スマホアプリで登録すれば誰でも働ける上に、外出自粛で食品デリバリーなどの仕事が急増しているため、もとの仕事がなくなった人たちの“受け皿”にもなっている。一方で、人との接触が多い仕事では、感染したり広げたりするリスクを懸念する声も少なくない。実は、新型ウイルスの感染拡大が続くなかで、日本だけでなく欧米でもこうした人たちの仕事や安全をどう守っていくか大きな議論になっている。今や全国で300万人超に増えてきているとされるフリーランスの人たちをどう守っていくか考える。

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出演者

  • 土居丈朗さん (慶應義塾大学 経済学部 教授)
  • 平田麻莉さん (フリーランス協会 代表理事)
  • 武田真一 (キャスター)

収入が激減 補償もなく…厳しい実情

先月、請け負っていた12日分の仕事がすべてキャンセルになった諸江翔大朗さんです。
大学を卒業後、舞台俳優を目指してきた諸江さん。舞台の大道具を作る仕事をフリーランスとして請け負い、生計を立ててきました。

諸江翔大朗さん
「中止になっちゃっているので、全然(仕事に)入れず。どうやって過ごそうかなみたいな。」

外出自粛要請をきっかけに次々と仕事の中止が決まり、収入は激減。契約書を取り交わさず、口約束で請け負っていた諸江さん。キャンセル料などは一切 受け取れませんでした。

諸江翔大朗さん
「それまでに立てていた予定、家賃だとか支払うお金っていうのは、収入が全くないっていう状態になるので、なかなか厳しいですよね。」

少しでも稼ぎを得たいと頼っているのが、スマホアプリでやり取りする料理の配達代行の仕事です。飲食店がアプリを介して配達を依頼。対応できる配達員が、その仕事を請け負います。配達員は、1回ごとに仕事を請け負う個人事業主と見なされています。運営会社は飲食店と配達員から手数料を受け取るという仕組みです。

アプリの運営会社のCEOダラ・コスロシャヒ氏。
これまでにない働き方を提供したいと話していました。

ウーバー ダラ・コスロシャヒCEO
「アプリを使って、いつでも好きなときに働くことができます。配達員はアプリのユーザーで、私たちと雇用関係はありません。」


諸江翔大朗さん
「あっ、鳴りましたね。取ります。」

外出自粛などの影響で、需要が増えている料理の配達代行。1回の配達報酬は300円から500円ほど。配達の距離や天候などによって変動します。1日9時間働いて、収入が6000円に満たない日もあります。

(配達先にて)

諸江翔大朗さん
「玄関先に置きましたら、ノックして去りますので。」

諸江さんの周りには、配達代行の収入に頼る人が増えています。

「聞いてくださいよ。僕、ホテルのレストランの仕事なくなっちゃったんですよ。コロナの影響ですね。」

「つらー。」

諸江翔大朗さん
「やっても確実に、この稼ぎがあるっていう保証はない。これを2か月、3か月ずっとやれるかって言われると、僕どうしたらいいんだって頭をよぎります。」


仕事を失ったフリーランス。直面しているのが休業補償の問題です。
都内在住の加奈子さんです。
いまはアプリを通じて、単発でベビーシッターの仕事を請け負っています。

加奈子さん
「お部屋で絵本の読み聞かせをしてくださいっていう、ご夫婦が在宅ワークの方のシッターです。」

加奈子さんの本業はスポーツインストラクターです。5つのジムと契約しています。しかし、緊急事態宣言が出された後、すべての仕事がキャンセルとなりました。

ジムとの間で曜日と時間を取り決め、働いていた加奈子さん。ジムが営業休止を決めた場合には、何らかの補償があると考えていました。しかし、契約書を読み返すと、フリーランスには休業補償がまったくないことを知りました。

加奈子さん
「フリーランスが弱いところだったなって、今すごい痛感しているんですけど。」

企業などで雇用された人が受けられる雇用保険や労災保険といった社会保障は、フリーランスには適用されないことがほとんどです。その場合、仕事を打ち切られたり、けがや病気をしても支援を受けられないのです。

加奈子さん
「一応、雇ってもらっているっていう認識があります、私の中で。『あ、補償ないんだ』っていう驚きと、残念な気持ちになりました。」


今回 思い知らされた、みずからの立場の弱さ。戸惑う声が広がっています。

ヨガインストラクター
「今回のようなことがあったときに、完全に切り捨てられちゃうのねって。」

「私たちインストラクターがいないと成り立たない会社なのに、運命共同体とみていないような扱い。(仕事に)すごく誇りを持っているんですけど、認められないんだなって実感させられました。」

感染リスクがあっても…世界で共通の悩み

すでに感染者が60万人を超えるアメリカでも、共通の悩みが浮かび上がってきています。
自家用車を使って客を運ぶ、フリーランスのドライバー。外出が制限される中でも、地域に欠かせない移動手段になっています。いま、こうした人たちの間で感染する人が現れ、すでに亡くなった人も出ています。

ドライバーのデイブ・トマッソンさんです。
本業はミュージシャンですが、感染拡大の影響で収入はゼロに。いまはドライバーの収入が頼りです。

デイブ・トマッソンさん
「後部座席とハンドルは特に念入りに消毒しています。」

「くしゃみやせきをしている人には利用を控えてもらうようにしています。新型コロナウイルスの感染力はとてつもないですからね。」


自分が感染することで、周囲に感染を広げてしまうことを危惧する人もいます。
フロリダ州のクリスティン・サイサーさんです。
シングルマザーとして11歳と5歳の娘を育てています。

クリスティン・サイサーさん
「子どもたちは私のすべてです。」

本業はレストランのウエイトレスですが、外出自粛の影響で収入は減り、ドライバーの稼ぎでしのぐしかありません。

クリスティン・サイサーさん
「できることなら、感染のリスクがあるドライバーの仕事はやめたい。もし私が感染したら、子どもたちを危険にさらすことになりますし、子どもたちは学校に行きます。感染してしまうと、私だけの問題では済まないのです。」


先月、カリフォルニア州で開かれた記者会見。
「自分たちには傷病休暇がなく 働かざるを得ない」と訴えました。

ドライバー ニック・ヘイトさん
「私たちが感染するのは時間の問題です。今ではもう『もしも感染したら』ではなく、『いつ感染するのか』ということなのです。」

ドライバー サオリ・オオカワさん
「他の重要な仕事をしている人たちは必要な支援を受けています。私たちも社会に不可欠な仕事をしているのに、なぜ危険にさらされるのでしょうか。」

収入が激減 国の支援は届くのか

感染拡大によって、不安定な暮らしを強いられるフリーランスの人たち。

安倍首相
「個人事業主に100万円 支給します。」

先週、国が発表した緊急経済対策。
収入が半分以下に減ったフリーランスの人たちに対しては、100万円を上限とする給付金を設けるなどの支援策を打ち出しました。

しかし「制度が複雑だ」という声や「いつもらえるのか」という不安の声も上がっています。

「今いろんな情報が出るなかで自分がどれに該当するのだろうか、ちょっとまだ、いろいろ見た中で、これだって、よくわかってない。」

「私たちのような、月によって(報酬に)変動がある仕事にすると、もらえる額がもらえない不安が出てくる。」

舞台の大道具を作る仕事がなくなった諸江さん。
自分は支給対象になるのか不安を感じています。暮らしを支えるため、配達代行で収入を補っていたことから、結果的に収入が半分にはなっていないのです。

諸江翔大朗さん
「悲しいかな、(仕事を)やってしまったがために(給付対象になるか)ちょっと微妙な感じ。逆に(仕事を)やらなかったら給付金もらえるまでに餓死しちゃいます。」

フリーランスの人たちを支えるために何ができるのか。
詳しく見ていきます。

収入が激減 求められる支援は?

武田:先ほど、緊急事態宣言が全国に拡大することが決まりました。不安定な立場にあるフリーランスの人は、より苦しい状況に追い込まれていくことも考えられます。今月の7日に政府が打ち出した緊急経済対策。フリーランスに対しては、こんな支援が打ち出されています。
まず1つ目。事業収入が前年の同じ月に比べて50%以下になった方は、上限を100万円として不足分を受け取ることができます。

そして、先ほど安倍総理大臣は、全国すべての国民の皆さまを対象に一律1人当たり10万円の給付を行う方向で、与党で再度検討を行っていただくと述べました。収入が減少した世帯への30万円の給付にかわるものとしています。

ご自身もフリーランスで、今回の経済対策を策定するに当たって、政府のヒアリングも受けたという平田さん。平田さんは、今回の対策をどのようにご覧になっていますか。

ゲスト 平田麻莉さん(フリーランス協会 代表理事)

平田さん:多くのフリーランスや事業者の方々が声を上げてくださったおかげで、日本の歴史上、初めて事業者向けの給付金が実現しました。このこと自体は画期的だと思っていますし、諸外国と比べても、金額的にも世界最大規模の事業者向け給付というふうになっています。ただ、それでもまだ必要な情報が届いていない方々もいらっしゃいますので、しっかりそれを広報していく必要があるなというふうに思っています。

武田:取材していましても、フリーランスの方々から、今回の対策について疑問や戸惑いの声も聞かれます。例えば、前年度の収入の50%以下で給付が受けられるということなんですけれども、その前年度の収入を証明できないという声に対して、平田さんは「確定申告をしていれば大丈夫」ということなんですが、これはどういうことでしょうか。

平田さん:支援策を制度設計するに当たって、フリーランスが契約実態や見込み収入の減収を証明できないという課題を政府にお伝えしてきていました。というのも、フリーランスは口約束が横行していまして、発注もキャンセルも電話1本で済まされてしまうということが往々にしてあります。そのため、契約書ではない確定申告という形で証明できるように調整をいただきました。具体的には2019年の確定申告実績と、ことしに関しては、形式を問わない帳簿という形で減収を証明するということになります。

武田:そして、申請が補正予算の成立から1週間程度、早ければ大型連休明けという声もありますけれども、それまで待てないという声もあるんですよ。これはどうすればいいんでしょうか。

平田さん:今、補正予算も一律30万円という話が10万円になってしまうというか、いいことではあるんですけれども、それによって少し成立が遅れるという話もありまして。いろいろと意見はあると思うんですけれども、一刻も早く困っている方に支援金が行き渡るように、速やかに補正予算を成立させるということを与野党議員の方々にもご協力いただけるといいのかなと思います。今、本当に困っている方に関しては、この持続化給付金の前に出ている施策として、社会福祉協議会のほうで提供している生活福祉貸し付け制度もありますので、そちらは最大4か月で80万円が受け取れる制度になっていますので、こういったものも併用しながら しのいでいただければというふうに思います。

武田:こうした支援策に加えて、さらに必要なことがあるとすれば、どんなことでしょう。

平田さん:直近で言うと、事業者の方々が非常に困っていらっしゃるのが家賃の支払いということかと思います。そこの固定費の重みで、なかなか休業できないという方も多いと思いますので、自治体によってはそこの補助を始めている自治体はありますけれども、そういったことを別に検討いただけるといいのかなと思います。

武田:フリーランスの方々は今や社会に欠かせない存在になっています。フリーランスを代表して今、いちばん言いたいことはどのようなことでしょうか。最後に、ひと言お願いします。

平田さん:フリーランスは事業者なので、自己責任なんじゃないかということもあるかと思うんですけれども、われわれはもちろんリスクを織り込んだ事業者の自負はあるんですが、今回の緊急事態というのは個人が抱えられるリスクの範ちゅうを超えていると思いますので、こういった形で救済措置がとられるということは非常によいことだと思いますし、そこに対して、皆さんもご理解をいただければなというふうに思います。

武田:ありがとうございました。
皆さんに対して、どんな支援があるのかということなんですけれども、給付金や無利子・無担保の融資などについては、「NHK新型コロナウイルス特設サイト」でもご紹介しています。

さて、このフリーランスの人たちの中には、ジムのインストラクターや美容師、さまざまな教室の先生など、特定の企業のもとで働いている人たちもいます。そうした人たちの間で今、企業への責任を求める声が上がっています。

問われる企業の責任

先週金曜日。
配達代行の人たちが開いた緊急記者会見。

ウーバーイーツユニオン 記者会見
「感染予防のための措置をしっかりとってほしい。」

アプリの運営会社に対し、配達員へマスクや消毒液を配布するよう訴えました。

土屋俊明さん
「人の生き死ににかかわる問題ですので、まず最低限、企業として果たすべき役割を果たしてほしい。」

記者会見に参加した、土屋俊明さんです。就職氷河期に大学を卒業した後、非正規の仕事を転々としてきました。1年前、心と体の調子を崩したことから、働く時間を調整しやすい配達代行の仕事を始めました。

土屋俊明さん
「半端者と見られてきたわけですけど、いやそんなことないっすよ、人間です。その頭数に入れてください。」

土屋さんが自分の立場の不安定さに気付いたのは、去年7月、転倒事故を起こし全治2週間のけがを負ったときのことでした。決められた手続きに従い、アプリの運営会社に事故を報告したところ、思いもよらぬ回答が返ってきました。
次に事故を起こした場合はアプリへの登録を永久に停止するとして、働けなくなる可能性を通告されたのです。

土屋俊明さん
「これでもう仕事できなくなっちゃうのって。すごい大ざっぱなやり取りで、しかもこれで済んでしまうんだって。」

先月、アプリの運営会社から、土屋さんたち配達員のもとに通知が届きました。
配達員が感染者や濃厚接触者となって当局から隔離を求められた場合、最大14日間の経済的支援を行うという内容です。

企業の責任について、どう考えるのか。アプリの運営会社はNHKの取材に対し、書面で回答しました。

ウーバーの回答
“配達パートナーは個人事業主であり 稼働するかどうかは個々の配達パートナーの判断に委ねられます。今後も多くの配達パートナーが価値を感じてくださっているフレキシブルさを維持しながら 同時にこの個人事業主という働き方の質と安全性を高めるために 日々取り組んでまいります”


「力を合わせよう 私たちは絶対に負けない」

フリーランスに対する企業の責任を、法律で明確にしようという動きも出ています。
ことし1月、アメリカのカリフォルニア州でフリーランスを対象にした新たな法律が施行されました。

カリフォルニア州 下院議員
「働き手に必要な保護を与えない企業は一掃されるべき。」

これまで、企業側から「個人事業主」と位置づけられてきたフリーランス。

新たな法律では、フリーランスを一部の例外を除いて「従業員」として保護。企業に社会保障費の負担を義務づけたのです。

法律が適切に運用されているのかを監督するサンフランシスコの当局は、次のように指摘します。

サンフランシスコ市 管理委員会 ゴードン・マール氏
「パンデミックが起きているこの状況で、ドライバーたちは必要不可欠で重要な役割を果たしています。他の雇用された従業員たちと同じように、有給休暇や失業保険・傷害保険などをもらえるようにすべき。」

日本でも、さまざまな分野で活躍する人が増えているフリーランス。専門家は、そうした実態にあった社会保障制度の整備を急ぐ必要があると指摘します。

早稲田大学 鈴木俊晴准教授
「今の社会保障ですと、『雇用』か『雇用じゃないか』によって、保護の程度が大きく異なる形になっていますので、(フリーランスでも)企業に雇用されている労働者ほど保護することはなくても、保護の必要性に応じて、労働者じゃないけれども、一定程度の保護を及ぼす、そういう発想を取り入れるべきではないかと。」

フリーランスの人たちが安心して働ける仕組みを、どう作るのか。
スタジオで考えます。

収入が激減 求められる支援は?

武田:経済政策に詳しい土居さんに伺います。土居さんは、今回のこの新型コロナウイルス感染拡大はフリーランスのどんな課題を浮き彫りにしたとお考えでしょうか。

ゲスト 土居丈朗さん(慶應義塾大学 経済学部 教授)

土居さん:番組のVTRにもありましたけれども、やはりセーフティーネットがなかったということが改めて浮き彫りになったと思います。所得が減ったということも自分で証明するしかない。本来ならば、納税している、社会保険料を払っているということであれば、政府がその情報を持ってきて、きちんと個人情報を保護した上で名寄せすれば、この人は去年いくら稼いだかということが分かるはずなんですが、残念ながら、そういう仕組みがうまく成り立っていない。先ほどもありましたけれども、雇用保険に入れないとか、そういうような形で、なぜかフリーランスになっただけでセーフティネットから漏れてしまうと。

武田:世界でもフリーランスへの支援経済対策の焦点になっていますけど、今、日本に何が求められるのか。土居さんは、「プッシュ型の支援」そして、「職業訓練」というキーワードを挙げていらっしゃいます。これは、それぞれどういうことでしょうか。

土居さん:欧米、特にヨーロッパは「プッシュ型」、つまり政府の側から、困った人に対して働きかけをするという形の支援を積極的に活用しています。残念ながら、わが国ではこれはないものだと思います。例えば、フランスの場合には、毎月の収入の情報が政府の機関に入ってくるわけですけれども、ある月にぱったりと収入がなくなった方がおられたときに、政府の側から、「もしかして、あなたは失業しておられませんか。」「もし失業しているなら、こういう手続きを踏めばきちんと支給ができますよ、支援ができますよ」というようなメールなどの連絡が政府の側からあると。こういうようなことが、残念ながら、わが国には整えられていないということがまず1つあるということです。

武田:そして、「職業訓練」とありますがこちらは。

土居さん:新型コロナで非常に不幸なことに、一時的に仕事を休まないといけないというような状況で、なかなか収入が断たれて苦しい状況ではあるんですけれども、コロナが終息して、来る日に新たな仕事がもらえる、新たな仕事につけるようなときに、しっかりとスキルアップして職につけるようにするためには、同じ仕事をするにしても高い生産性を発揮できるような働き方を、レベルアップしていくようなことを、むしろ仕事がないときにこそ臥薪嘗胆(がしんしょうたん)、頑張るということが大事じゃないかと。

武田:それは、その人の努力ではなくて、職業訓練が受けられるような支援をするということですね。

土居さん:そうですね。お金がなくて職業訓練も受けられないということではいけませんので、そこを政府も支援をしていくということが大事だと思います。

武田:リーマンショックのときは、フリーランスというのは支援の対象外だったわけですけれども、今回初めて税金を投じて救済するということになりました。今、改めて社会全体で共有すべき課題はどういうことでしょうか。

土居さん:確かに、雇われている人は雇用保険に入れて、毎月、給料から雇用保険料を払っているということなんですけれども、保険料を払っていない人を排除して、果たして、それで国が成り立つだろうかというと、私はそうじゃないと思います。これから、ますますフリーランス的な働き方というのは増えていきますから、そういう働き方にもしっかりセーフティーネットがあるというような仕組みを作る。残念ながら、その備えは2010年代できていませんでしたから、今のところ、その付けは税金できちんと助けてあげるということで、その次なる機会に新たなセーフティーネットをどういうふうに構築していけばいいのかということが、いま考えていくべきではないかと思います。

武田:土居さん、ありがとうございました。