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【コラム 撃戦記】

小よく大を制した伝説の空手家・藤平昭雄 私が見た壮絶組手【山崎照朝コラム】

2020年4月21日 11時33分

左から小倉正一郎(現・芦原会館相談役)、山崎照朝(筆者)、藤平昭雄(大沢昇)、ヤン・カレンバッチ

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 武道の格言に「小よく大を制す」がある。小柄なものが大きいものを倒す醍醐味(だいごみ)をいう。

 さて、海外で日本の武道がブームになった1960年代。来日する空手愛好者が増えた。極真会館にもオランダから身長191センチ、体重110キロの巨漢、ジョン・ブルミンがやってきた。本部で修行してオランダに支部を開いた。1967年の夏には弟子のヤン・カレンバッチが来日した。こちらも187センチ、110キロと大柄で柔道も有段者。組手に自信を持っており来日早々、本部の黒帯をつかまえては組手を要求。柔道の足払いで片っ端から蹴散らしていた。

 唯一、組手の相手を残していたのが先輩である小柄な藤平昭雄だった。藤平は後にブームとなったキックボクシングで大沢昇のリングネームでメインイベントを務めた人でもある。身長155センチ、53キロ。“小さな巨人”と言われるだけに闘争心の固まりで大きい相手にも一歩も引かず、すごみがあった。その藤平にカレンバッチは帰国を前に組手を求めた。

 1階の畳道場で行われ、“見届け人”は私と小倉正一郎先輩(現・芦原会館相談役)が務めた。2人の身長差は53センチ、体重差は57キロ差。小柄な藤平が巨漢にどう立ち向かうか。道場のドアは閉められ“鉄のカーテン”が敷かれた。

 カレンバッチのパワーに、藤平先輩のスピード。組手は見応えがあった。踏み込みの素早さと左右のフットワークで果敢に出てプレッシャーを掛ける藤平に、体格で勝るカレンバッチの蹴り。体格差を見れば誰が見たって一撃必殺の威力が勝る。

 ところが藤平は接近すれば蹴散らそうとするカレンバッチにガードを堅め体をぶつけるように飛び込んでブロック。その蹴り足をつかんで倒し、のし掛かって顔面へのパンチを繰り出す。それを延々と20分。距離をつぶされたカレンバッチは最後まで強打を封じられた。というより小柄な藤平に意識を蹴りに集中させられ、パンチを出す機会をそがれ、逆に藤平は徹底した距離つぶしでまともな組手をさせなかった。

 藤平にとって組手の相手はいつも自分より長身で。慣れがあった。思い切りのいい飛び込みも自信に満ちていたが、それも強靱(きょうじん)な肉体があってこそ。現役時代はベンチプレス140キロを上げ、ボクシングの練習で身に着けたロードワークも毎日欠かさない稽古の虫だった。

 見ていて緊張感がみなぎった組手。2人の頭から湯気が出るほど激しかったが、戦い終えて満足そうな笑みも忘れられない。

 先日、久しぶりに藤平先輩に会う機会があった。ランニングは今でも日課だそうで「風呂で毎日500回のスクワットをやってる。風呂がいいんだよ」と平然と語った。1942年生まれの77歳。小さな巨人は今でもすごい怪物だった。(格闘技評論家=第1回オープントーナメント全日本空手道選手権王者)

 

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