「はぁ…」
アインズが毎年の日課になっていたクリスマスの飾りつけを終える。
予定が無く一人っきりのギルメンがふらりと戻って来た時に共に祝うためだ。
それはDMMORPG『ユグドラシル』のシステムから切り離され、異世界に飛ばされた今でも日課的に飾り付けていた。もう誰がログインすると言うことは無く、仲間達とクリスマスを祝える確率など皆無に等しいのに。…それでも未練に縋るかのように飾りつけをしていた。
誰も来ないクリスマス。
華やかに飾り付けられ巨大なクリスマスツリーを配置された円卓の間は酷くものかなしい…
アインズはその部屋の中で一人サンタ帽を被ったまま黄昏ていた。
「楽しかったなぁ…あの時は本当に楽しかった」
タッチさんは毎年非参加だったけど、他のメンバーは結構参加してくれて騒いでたものだ。
特にペロロンチーノさんとウルベルトさんはハメを外して馬鹿な事ばかりやっていたもんなぁ…
過ぎ去った楽しい思い出が、今の物寂しい光景を一層際立てた。
そんな静寂に満ちた空間に、トントンとドアをノックする音が鳴り響く。
アインズは1瞬驚くが、ここはゲームの中ではなく、異世界でナザリックのNPC達が生きている世界なのだと心を引き締め、偉大なる支配者の演技をONに切り替え入室の許可をする。
「大切な儀式の最中に申し訳ありません」
「いや、かまわないさデミウルゴス。…ところで何かあったのか?」
アインズは(儀式?)って言葉が気になったが、何も気にしていないふりをして話を継続した、これを違和感なく成功させたのは日々のカッコいい支配者訓練の賜物である。
「はい、こちらをアインズ様に献上したく」
守護者一同からとラッピングされた可愛いプレゼントBOXが贈られた…
クリスマスプレゼントだろうか?しかし予想外だったな…来るとしたらアルベドが斜め上の物を持ちこむと予想していた。失礼な話だが全裸になって裸体にラッピングして「私を美味しく食べて下さい」の方がありえるオチだと思っていたのだが。…俺間違ってないよな?とチラリと天井を覗くと、八肢刀の暗殺蟲達も予想外だったのかオロオロしていた…まあ考え過ぎだったんだろうが。
「うむ?これは…?」
アインズは素直に聞いた…NPCってクリスマスの概念あるんだっけ?と疑問に思ったのだ。
だが答えは意外なものだった、彼らは仲間達と共に行った華やかなクリスマスのイベント内容をある程度覚えていたのだ…まぁ、ウルベルトさんはこっち側だったしな印象にも残るか。
「ははは、いや、違うのだこれは儀式なのではないさ」
アインズは寛容で雄大な支配者な笑いを作り、デミルゴスに指示を出した。
守護者達やプレアデスを呼び、仲間達の名代としてパーティへの参加を薦める。
「しかしクリスマスプレゼントとは…嬉しいものだな」
アインズはご機嫌でプレゼントの箱を開ける。その中に入っていたものはデミウルゴスお手製の七つの大罪を模した仮面。〝嫉妬〟を司る…それは、いわゆる〝嫉妬マスク〟だった。
「毎年新しいマスクを新調されておりますし、最近は特にお気に入りのようでしたので」
デミウルゴスの邪悪そうな笑みにドン引きするが、言ってる事に間違いはないし、この贈り物に悪意が無いのも理解している。アインズは「そっ…そうだなデミウルゴス、嬉しく思うぞ」と若干乾いた笑みで答えるしか無かった。 …運命からは逃れられない!
今年のクリスマス会はアインズは嫉妬マスクをかぶっての参加だったが、アルベドもシャルティアも暴走することなく、仲間達の残した子供達と皆で楽しい時間を過ごせたようだ。
――誰かが間違えて持ち込んだ〝完全なる狂騒・パーティサイズ〟を全員で使うまでは!
Merry Christmas こんな聖なる夜に読んでくれた方々にしっとマスクの祝福を!