アインズは夢を見ていた…深い深い夢を深淵の底に沈みこむような深き夢。
その身は深く深く、闇の奥へと沈んでいく。
――――――ここはどこだ?
――眠っているのか??アンデッドの俺が。
…ありえない。精神作用無効を持つアンデッドである自分に精神異常攻撃をかけるなど。
かってシャルティアが精神支配をかけられる事態になったが、その原因はワールドアイテムであり、その攻撃ならば同じくワールドアイテムである胸のモモンガ玉で防げるはずだ。焦りを精神抑制が抑え込む。冷静になったアインズは敵の次の手を予想し、現状を抜け出す対策を練る。
ピピピピピ ピピピ 4:00分 4:00分
サトルお兄ちゃ~ん!朝だよぅ~出社の時間だよぉ♪
けたたましいアラームの音と共に、オフ会で貰ったぶくぶく茶釜さんの特製目覚まし時計が朝を知らせ、闇の底に沈んだアインズは冷水を浴びせられたかのように現実の世界に引き戻される。
「…そうか…ユグドラシルは終わったんだ」
「楽しかったなぁ…ほんと楽しかったんだ」
目を伝う涙を拭き、現実の時間と向き合う。仕事に向かい、必死で働き、へとへとになりながら夜帰ってくる。今までと変わらない日常、変われない日常、そんな時間が繰り返される。
ただ、今までと違うのは自分が帰るべきユグドラシルがもう存在せず。皆と共に過ごしたナザリックがもう存在しないと言う現実だけだ。仲間と共に過ごした栄光の日々は、電子の海の底に沈み、思い出の中にしか存在しない。
「いってきます…」
家に誰も居ないのに口癖のように使ってしまう『いってきます』の言葉。その悲しい事実に気が付いて苦笑いが出る、家族の思い出に対して喋ってるんだろうか。
仕事が終わり帰宅する…ユグドラシルが終わってしまったショックからか。ミスが多く、大変な一日だった。終電に間に合い帰宅できたのが、せめてもの幸いだろうか。
「ただい…」
ドアノブに手をかけ『ただいま』と告げようとする自分がとても悲しくなった。誰も家に待っていない、魂の故郷であるユグドラシルも、そして帰るべきナザリックももう無いのだ。
――その時、扉が内側から開けられ明るい声がかけられる。
「おかえりなさいませ、アインズ様!」
「た…ただいま、ア、アルベド!?」
そこには、天使のような笑顔の角と羽を生やした黒髪の美女が待機していた。
美しさに魅惚れていると、新婚さんルックのアルベドは興奮しテンションを上げる。
「はい、アインズ様!はぁい、アインズ様ぁー!アインズ様の妻として家を守っておりました。
あぁ…新婚の家庭で旦那様を出迎えた時はこう言うのでしたね。お風呂でします?私にします?それとも…食事をしながら私としますか!私の方は24時間いつでも準備万端、あぁ…タブラ様!新婚である私は肉を得たアインズ様と今日これから初めての夜を迎えます、いえ、今夜などとは言わず、さあ今からでも!!お世継ぎを作ろうックスをしましょう!さあしましょう!」
「ま、まて!?お、落ち着くのだアルベド!Stay!Stay!」
アルベドに押し倒されたアインズは、闇の中に一筋の光が差したような感覚を味わっていた。
…その光はとても暖かく子供の頃、両親が居た時の温もりを思い出していた。
◆
…目を覚ますと、アインズに圧し掛かるようになり、タコのような口をして迫ってくるシャルティアとアルベドが見えた。…ここはナザリックか?しかし、どんな状況だこれは。
「古来から眠れる王子様の呪いを解くのは、キスによって解かれるものと決まってりんす!」
「可能なのは〝乙女の〟のくちづけと決まっているじゃない!八目ビッチは下がってなさい」
「ちょっと待ってよ、それじゃ私でも良いって事でしょ」「あ、あの何なら僕でも~」
「止メヨ、止メヨ、ネコミヲオソウナド不敬デアロウ」
よく見るとシャルティアとアルベドだけではなく守護者全員が勢ぞろいしていた。
「落ち着くのだ守護者達よ、何があったか説明するのだ」
アインズ様!アインズ様と駆け寄ってくる守護者達を手で静止させ今の状況の確認をする。
「はい、アインズ様が突然お眠りになられまして、約1時間が経過いたしました。不死者であられるアインズ様が急に眠られたと言う事から、敵の攻撃を考え守護者を集結させた所です」
――皆を代表してデミウルゴスが事情を説明した。
あぁ…これの誤作動を敵の攻撃だと判断して集まったのか…手に持っているのは〝完全なる悪夢〟本来眠らない不死者系に睡眠状態を付与する使い捨ての課金アイテムだ。〝完全なる狂騒〟と言い、るし★ふぁーさんの残したアイテム整理をするとホントろくなことにならないな。
悪夢か…仲間達と共に過ごした栄光の日々は終わってしまったけど、仲間達の残してくれた子供達と過ごせる自分は幸せなんだと思う。暗闇の中からでも自分を探し出してくれるNPC達をアインズは瞼が無いのに眩しそうに眼を細め、輝かしく映る守護者達に無意識で手を伸ばした。
その手に気が付いたアルベドはアインズの手を攫み、こう呟く。
「おかえりなさいませ、アインズ様」
一旦のキリは付きましたので(文字数だけは)
少し話の書き方、作り方を見つめ直してきます。