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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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魔力の流れ

 翌日の朝にはフィーロとアトラが帰ってきた。

 爆走も落ち着いて来ているのかLv66という人によっては不吉な数字で胸を張っている。


「さてアトラ、今回は俺が頼んだ攻撃を強めに、そして素早く放って見てくれ」

「こうでしょうか?」


 変幻無双流の気という概念を自分に当てはめてアトラの突きを受け止める。

 バシンと良い音がした。


 体の中に入ってくる異物……魔力を、自身の魔力に乗せて外へと出す。

 それを何度も受け止めるうちにほぼノーダメージで受け止める事が出来るようになった。


 俺も魔力の流れを上手く使う方法は無いだろうか?

 攻撃手段として模索してみたのだけど、どうも俺の攻撃力の無さは折り紙つきで、一向に上手くいかない。

 アトラと同じく、相手の体の中に魔力を凝縮して放ってみたのだけどやはり意味が無かった。


 ……攻撃にだけ使えない可能性が高いな。

 おそらく俺の、盾の勇者の神気、あるいは魔力がそういう性質を持っているんだろう。


 なので戦闘判定をされない状態でも実験をする。

 昼飯を作る時に、包丁を持つ手で……魔力を纏って切ってみた。


「わ!」


 俺の料理を見ていた料理担当の奴隷が声をあげる。

 そりゃあそうか。まな板まで切れた。

 何処かの通販番組かっての。


「凄い……」

「やはりそうか」


 俺の盾が邪魔をしているんだな。これは。

 しかし……これ、消費が激しい。

 僅かに切っただけで結構な魔力が持っていかれる。


 女騎士やリーシアはこれを常時使っているのか?

 防御の時とはかなり違いがあるなぁ。


 ……これ、スキルにも応用が効くんじゃないか?


「今日の盾の兄ちゃんが作った飯は一段とうめー!」

「うん! 美味しい! いきなりもっと上手になったよ!」


 昼飯を食べ終わったら実験を再開するとして、問題は燃費だな。

 どうしたものか、もっと節約しながら使えないか?


「兄ちゃん聞いてっか?」

「ん? ああ、聞いてる。腕が上がったんだろ」

「兄ちゃんの所で働く醍醐味だぜ! ワンワン!」


 興奮してキールが犬化した。

 尻尾振り振り。そんなに嬉しいのか。ふんどし犬め。

 飯が美味いと作れば言われるから聞いたフリで良いだろ。


 昼食を終えてから俺はスキルに魔力を込められないかを試行錯誤しながらエアストシールドを放つ。

 ジッとエアストシールドを見ると、所々で魔力の流れが弱い個所が見受けられる。

 女騎士がシールドプリズンをいとも容易く破壊したのは、この弱い場所を突いたからではないか?


「アトラ」

「なんですか?」

「俺が出した魔法の盾を壊してみろ」

「はい」


 俺が命令するとアトラはやはり、魔力の弱い個所を突いた。

 バキンと音を立てて、盾は簡単に破壊される。

 やはりそうだ。と言う事は……。

 体の中にある魔力を集中させて。


「エアストシールド!」


 唱える。

 だが……あまり上手くいかない。

 というかこの方法って魔法を唱える時の込め方とあんまり変わらないんだよな。


『力の根源足る盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!』

「ファストガード!」


 魔力を練って消費する所に更に込めて放って見る。

 ……予想よりも魔力が減っている。


 一応成功はした。


 効果は……自分のステータスで確認。

 普通のファストガードよりも威力が目に見えて向上している。

 やはりそうだ。普通の魔法を唱える時に込める魔力の加減で強弱を追加できる。


 じゃあ何故スキルでは使えない?

 考えられるのはSPという概念が魔力とは異なると言う可能性だ。

 このSPという数値が実際なんなのか、考えても見なかった。


 ソウルポイント? それともスタミナポイントか?

 英語でSPと書かれているだけだから、さっぱりわからん。


 これを気と呼ぶのか?

 違うだろ。奴隷共のステータスを確認している俺は他の連中がSPという項目が無いのは熟知している。

 おそらく、これは勇者独自に持つ器官という認識で間違いない。


 魔法を習得する時よりも、難しい予感がする。

 だが、このSPという感覚を理解し、魔力を込められるようになれば、もっとスキルを強化出来るような気がする。

 今のままでは女騎士やアトラに檻は効かないし、盾の防御力だけで相手の攻撃を防ぐには限界が来ると思う。

 とりあえずは魔法の威力向上が出来るようになったのを喜ぶとしよう。


 そういや……昼間に練習で料理に使っていたら絶賛されたな、魔力の扱いを調合に当てはめて薬を作ってみた。

 材料は粗悪品のバイオプラント産の薬草。


 ヒール丸薬が完成しました!

 ヒール丸薬 品質 やや悪い→高品質


 くっ……ちょっと魔力を込め過ぎた。

 だが、魔力を込めて作成すると品質が粗悪品であるにも関わらず、質が目に見えて良くなった。

 そりゃあエンチャントとかをする時に魔力を付与するが、やはりそれとは別系統として扱われているんだ。

 盾が持っている効果と魔力を込める事で、勇者独自の上昇効果が見込める。

 薬屋の腕前に俺が及ばなかった理由ってもしかしたら……という事で隣町に顔を出した。



 そして魔力を見て薬屋の調合を覗き見てみる。

 すると薄らと、魔力付与とは別に、薬屋の体から魔力が流れ出て調合を補佐しているのを感じ取った。


 やはりそうか!

 これはアイテム作成にも適用する!

 明確に自覚していない薬屋と自覚して調合する俺とで大きく腕前に違いが現れるだろう。


 薬屋に教えたい。

 だが、薬屋が魔力を操れるようになるか?

 俺だってアトラにしこたま突かれたのと女騎士や戦闘顧問に概念を言われるまで気付かなかった。

 おそらく、この世界の連中は無意識に魔力を使って、行動しているんだ。

 となると才能とは何処へ行きつく要素となる? この力を使いこなすと言うのは才能を目覚めさせる事になる。


 ……いや、戦闘顧問はリーシアを逸材だと言っていた。

 そのリーシアを見た時、魔力の流れが異常に低いと思った。だから、一概に言えない可能性が高い。

 例外を持ってきたらキリが無いが、全てでは無い。

 もう少し研究を重ねようと思う。


 洋裁屋で勉強しているイミアは……なんだ?

 魔力を熱心に込めながら裁縫している。あれでは魔力が尽きるんじゃ?

 しかし、底なしとでも言うかのようにイミアは服を縫っている。


 集中力……?


 この魔力の要素は今一掴みきれない。

 種族とか才能による補正? 出す量が多く見えて、消費が低いと考えれば頷ける。

 イミアが作った服の質が妙に良い理由がわかったな。


 魔物の皮で高度なドレスを作る腕前、確かに見させて貰った。

 後で差し入れでも持って行ってやるか。

 アイツの作った手袋は凄く使いやすくて俺も驚いている。サイズもぴったりだ。

 目利きでも補正があるのが付与されていた。


 さて、隣町の復興はほぼ完了したな。見た感じで不便な所は見受けられない。

 メルティやその部下のお陰でもある。

 俺の権威の傘の元故、盾を信仰する亜人共も傲慢な態度は出来ない。

 定期的に演説しているし、余裕があると見回りしている手前な。


「あ、ごしゅじんさま」


 フィーロがメルティを乗せてやってきた。


「何やってるの?」

「勉強と見回りだな」

「へー、ちゃんとやる事はやってるのね、ナオフミは」


 ちなみにフィーロは魔力が塊みたいにでかい。

 ただ、アホ毛の受信は見えない。アトラは見えるような事を言っていた。


「言ってろ、なんだかんだで管理しなきゃいけないって言ったのはお前だろ、メルティ」

「そうね」

「Lv上げの旅は行かないのか?」

「いかないわよ!」

「なんでだ? お前は次期女王なんだから、Lvが高くて損は無いはずだが」


 腐っても魔法使い系。俺の所の面々では谷子と双璧を成す魔法専門だ。

 魔法屋の教育で奴隷共も魔法を覚えているが、亜人故にストレートな資質所持は少なく、どれも地味というか肉体強化系が多い。

 もちろん、攻撃的な魔法を使える者はいるが、専門は珍しいのだ。


 ……よくよく考えてみると谷子やガエリオンも魔力の流れが低めなんだよなぁ。

 この魔力って概念、どう言った要素が絡んでいるのか掴みきれない。

 ヘルプで確認してもわかるわけないし、だって盾の操作とは別だろ?


「私は後方指揮が本来の役目なの! 身を守る程度に戦うのは良いけど、一国の主になる者が前線に立ってどうするの!」

「確かに。だが、立派な王は人々の為に前線で戦うと言う美談が俺の世界にあるが?」

「……そりゃあそうだけど」


 国に関わる事だとメルティは素直なんだよなぁ。

 何が気に食わないんだろうか。


「でもフィーロちゃんに乗ってただ走り抜けていくだけの形式的なLv上げはイヤなの。私が、私として戦えるようにしたいのよ」


 へぇ……やはり姉とは根本的に考えが違うよな。

 お前の姉はステータス付与のLvアップだけで、元康に全部任せっきりだった。

 そう考えると確かに経験値とは違う、経験をしたい気持ちはわかる。

 なんて話をしていると赤ん坊モードのガエリオンがバサァっと降りてきた。


「やはりここに居たか」


 耳元で囁くのが趣味になっているんじゃないか?

 そうそう、女王から貰った核石は大半がはずれではあったが竜帝にとって核石と言うのはステータスアップを図れる便利アイテムらしい。だからガエリオンは前よりも若干強くなった。

 しかも一つは竜帝の欠片が混じっていて、さっそくガエリオンはそれを食べていた。


 その時に手に入れた知識と言うのが……勇者と波は何度か戦ったとかしょうもない情報だった。

 いや、必要無い訳じゃないけど、具体的な事は思い出せないとかどんだけだよ。

 クラスアップ補助が二名追加というオプションは助かるけど。


「なんだ?」

「忘れたのか? 汝に龍脈法を授けると約束したではないか」

「……そうだったな」

「ごしゅじんさまガエリオンと何話してるの?」

「魔法を教えてくれるんだと」

「魔法ならフィーロがー」

「お前は教えるの下手だろ」


 えっとねー。体の底から力をねーぎゅっと入れてバッと考えてね、なりたい自分にね、なるの。

 とか言ったのを俺は忘れない。

 フィーロはニュアンスで話すから、誰かに物を教えるのは難しいだろう。


「あと、ドラゴンとかが使える特別な魔法らしいから無理だ」


 人は竜帝の加護が無いと使えないらしいからなぁ。

 ガエリオンの加護を受ける必要があるだろ。


「ああ、ウィンディアちゃんが使う類の奴? ナオフミに出来るの?」

「さあな」

「ちなみに我が察するに攻撃は諦めろ。絶対に無理だ」


 ぐ……どうしてこうも俺は攻撃が出来ないんだろうな。

 逆に考えれば回復とかを使えるようになるんだろうけど……。

 聖水の威力向上とかだろうなぁ。使えるとなると、便利だけどさ。


「ぶー!」


 フィーロの不満もうっとおしいな。


「……」


 そして突然ブルブルっとフィーロが羽毛を立てた。なんだ?

 変な気配でも察したか?


「どうした?」

「んー?」


 フィーロはぼんやりしたかと思うと首を振る。


「何が?」

「いや、何かを察知したのかと思って」

「フィーロわかんない」


 いったい何なんだよ、この鳥は。


「じゃあ、村に歩いて帰るからガエリオンから教わるとするか」

「ナオフミ、ドラゴンと話せるの?」


 当たり前のように流していたが、メルティも知らなかったか。

 あれ? ガエリオンが喋った時、その場にいなかったっけ?

 ……喋ってないな。

 いや、喋ってはいるんだが、俺の耳元で囁いていただけだ。


「報告に上って無いのか? こいつは人の言葉を喋る」

「ギャウー?」


 これ見よがしにガエリオンがブリッ子して何度も瞬きする。

 なんのつもりだ。


「おい……」

「やっぱりデマじゃない。ナオフミもいい加減な事言わないの!」

「メルちゃん。ガエリオンは喋るよ?」

「そうね。魔物の言葉を喋るのよね。さあ、仕事に戻りましょうフィーロちゃん」

「えー?」


 ポンポンとフィーロに進むよう指示を出し、フィーロは何度も喋るを連呼しながら歩いて行った。


「で? 具体的には学ばないとダメなんだろ?」

「まあな。だが、加護自体は簡単に掛けられる。少しジッとしていろ」


 ガエリオンが俺の肩に乗りながらブツブツと呟き始めた。


『我、ガエリオンが天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げ――』


 またこのフレーズか、ガエリオンが唱える魔法である龍脈法を魔力で見てみるとするか。


『ここに我、新たな祝福として力を授けようと大地に願う――』


 ガエリオンを中心にして地面から魔力が流れて行くのが見える。

 俺が普段使っている魔法とはやはり違いがあるようだ。

 確か、媒体から力を奪って具現化するモノだったか。


 だから何度も同じ媒体から力を借りると効果が弱まるとか……。

 ふわふわと辺りの魔力が輝いているのが見えて、若干幻想的だ。

 これ、魔力が見えないとわからないんだろうなぁ。


 アトラはこんな世界を見ているのだろうか?

 魔力と気は少し違うような感じがする。


『祝福されし者に、龍脈の加護を……』

「ドラゴン・ブレスシール!」


 カッとガエリオンが放った魔法が俺に降り注ぐ。

 そして、やわらかな光が俺の盾に吸い込まれていった。


「これで加護自体は掛ける事が出来た。後は魔力の操作と力の引き出し方を学べば使えるようになって行くだろう」

「へー……」

「但し、汝の素質を見る限り回復や援護系だけだと我は思う。練習には水を使った防御膜の生成を勧める」

「ふむ……わかった。じゃあ夜にでも来てくれ、その時に練習する」

「あいわかった」


 バッとガエリオンは翼を広げて飛び立っていった。

 これで俺も谷子やサディナが使う魔法が使えるようになったと言う訳か……。

 ガエリオンは大地から力を取り出していたよな。


 エンチャントする時に伸ばす魔力の要領で地面から力を強引に引き抜こうとして見た。

 む……掴みづらい。

 素手で砂を掴む事はできても、ほとんどは手から零れ落ちる感覚に近い。

 しかもこの方法は違うような気がする。ガエリオンが使った時は大地が自ら力を出していた。


 詠唱も何も学んでいないのだから使えるはずもないだろう。

 それから俺は唸りながら魔法やスキルに魔力を込める練習を続けるのだった。

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