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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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クズとアトラ

「フィーロちゃんが帰ってきましたよ!」


 アトラがそう言って家に入ってくる。

 吸われた分を取り戻してきたかな?

 アトラがもう少しでクラスアップだし、Lvも近いな。


「時期的にも丁度良いか」


 俺は訓練を始めた錬と女騎士を置いてフィーロを出迎えに出る。


『力の根源足る。私が命ずる。理を今一度読み解き。我が前に居る憎悪の対象を押し流せ!』

「ドライファ・アクアブラスト!」


 家を出るのと同時に魔法が飛んできた。

 ので、ほぼ脊髄反射で盾を構えて……バッティングの要領で放った相手に打ち返す。


「わ!」


 魔法を放った相手は俺の反射を紙一重で避ける。

 ま、誰が放った魔法なのか声でわかったけどさ。

 姉よりも優秀じゃないか。


「何するのよ!」

「それはこっちの台詞だ。メルティ」

「魔法を撃たれる謂れが無いとでも思ったの?」

「無いな、特にお前には」

「なんですって!?」


 フィーロが帰ってきたという事はメルティが一緒に居るのは当たり前か。

 メルティの方は何Lvになったかな?

 前のLvは18だったか。

 先程の魔法の威力が大分上がっていたので、倍位にはなったんじゃないか?


「ごしゅじんさまただいまー!」

「おう、おかえり」


 フィーロが撫でてと言わんばかりに、俺に頭を向けて近づいてくるので、渋々撫でてやる。

 帰ってきたばかりだが妙に小奇麗だ。

 まあメルティが一緒に居たから毛繕いでもされているのか?

 前触った時より感触が良い。

 うん。今度気が向いたら毛繕いでもやってやるか。


「ない、ですって!? いきなりフィーロちゃんに連れられてLv上げさせられた方の身になりなさいよ」

「それは、まあ。良いだろ」

「良くないから怒っているのよ!」


 相変わらずヒステリーが激しいな。

 これさえ無ければ付き合い易いんだけどな。

 今も昔も原因が全て俺な気もするが。


「フィーロ、どれぐらい上がったんだ?」

「えっとねー、フィーロは63ーメルちゃんは40になったよ」

「そうか、思ったより早いな」

「メルちゃんをクラスアップさせようと思って、帰って来たの」

「そうかそうか」

「……ごしゅじんさまからガエリオンの匂いがする。一緒に寝てないよね? それにフィーロの縄張りがガエリオンのになってる気がする!」


 良く気が付いたな。

 というか、ここはお前の縄張りじゃないんだが……。

 フィーロもガエリオンも人の領地を勝手に縄張りにしやがって。

 まあペットの生態系に文句を言ってもしょうがないか。


「寝ている。縄張りは知らんが転送妨害を張って貰った」

「ぶー!」


 ごしごしと俺に頭を擦りつけたり、翼で抱きついてくる。

 うっとおしいな。


「ごしゅじんさまはガエリオンに渡さないもん!」

「あーはいはい」


 面倒くせぇな。

 お? 名案を閃いたぞ。


「じゃあ近々クラスアップに行くからそれまでにアトラと一緒にきつめの所へ行ってきてくれ、それならガエリオンとは一緒に寝ないでやろう」

「うん! アトラちゃーん!」


 フィーロは元気だなー。メルティを置いて爆走して行ってしまった。

 これで邪魔者は全員消えた。やっと静かに寝れる。


「……」


 メルティと目が合い沈黙が続く。


「ふん!」


 メルティはずかずかと歩きだした。城の兵士が護衛として付き従う。

 次期女王陛下も不機嫌な奴だな。


 それから俺は薬の調合やラトに、最近錬金術に関して教えを請う様になっている。

 日が沈み始めた頃に一時中断。

 アトラが居たら訓練の相手になって貰うのだが、いないのでリーシアや女騎士に稽古を付けて貰う事にした。

 夕食を終えてまた薬作り。

 これが基本的な村での俺の生活になりつつある。

 錬は女騎士に随分遅くまで叩きこまれていたようだった。



 翌日の昼にはフィーロとアトラが帰ってきた。

 早いな。


「フィーロちゃん酷いです。私は尚文様と共に戦いたかったのに」

「でもアトラちゃん。そろそろクラスアップできるよ?」

「限界まで上げなくて良いのか?」

「んー……なんかね。アトラちゃんなら大丈夫だってフィトリアが言ってる」

「なんでだ?」

「ごしゅじんさまが居るからだって」


 条件を知っているんじゃないか?

 聞き出す事も出来そうだけどフィーロを介するから面倒くさい。


「じゃあそろそろアトラとメルティのクラスアップに出かけるとするか」


 この二人は……フィーロだけで良いような気がする。


「じゃあメルちゃんを連れてくるね」

「行ってこい」


 五分くらいでフィーロはメルティを連れてきた。相変わらず不機嫌だな。

 今度からフィーロにアトラを任せるのも悪くは無いかもしれないな。

 などと考えながら俺はポータルシールドで城に向けて飛ぶのだった。



「さてと……」

「凄いわね。前も感じたけど一瞬でもう城よ」


 メルティがポータルで飛んだ城の庭で驚きの言葉を出す。

 確かに便利なスキルだよな。考えてみればさ。

 元康の意見じゃ俺を含めず六人しか飛べないらしいが、実際の人数はもっと多めに飛べるっぽい。

 あまり試していないのがなぁ。無意味に飛ぶにしてもクールタイムが面倒だし。


「ここがメルティちゃんのお城なんですね」

「私じゃなくて母上のね」


 なんて話をしていると。


「また盾がハクコを連れてきおったな!」


 またもクズが俺達の方に駆けてきた。


「ち、父上!? なんて恰好をしているのですか!」


 今度は……何故か、ウサギの着ぐるみを着ている。

 ウサピルか?

 何かの罰ゲーム? 看板持っているのは変わらない。

 メルティが恥ずかしがるのも頷ける。


「え?」


 声にアトラが振り返る。


「え……」


 クズの歩調が緩やかになって止まった……。

 そして、なんだ? 凄く微妙な顔で佇んでいる。

 泣いているような、それでいて笑っているような複雑な顔付きだ。


「お兄様?」

「何を言っているんだ?」


 アトラの奴、よりにもよってクズをフォウルと間違えるってどうなんだよ。

 確かにちょっと喧しい所が似ている様な気もするが、根本的に違うだろう。

 主に年齢や背格好が……アトラには見えないか。


「……」


 それから我に返ったクズはやる気がなくなったかのように振り返って、とぼとぼと歩きだす。


「おーい」


 クズの奴、俺の言葉が耳に入っていないようだ。

 一体どうしたと言うんだ?



「あ、母上!」


 騒ぎを聞きつけて女王がやってきたのはそれから数分後の事。

 俺はクズが早速とやってきて騒ぎ出したが、アトラの顔を見てすぐに立ち去った事を伝えた。


「そうですか……そんな事が」

「心当たりはないか? あんなクズは初めて見るぞ」

「アトラさん、でしたか。少々顔を見せてください」

「はい?」


 アトラは前に出て女王に顔を良く見せる。


「……なるほど、そう言う事ですか」

「何かわかったのか?」

「少々長くなりますがよろしいですか?」

「そうだなー……面倒だが、あのクズを見たら気になる」

「ある程度過程は省きますからご安心を」


 そうして女王はアトラを見て大人しくなったクズの理由を説明しだした。


「杖の勇者であるルージュ=ランサーローズには年の離れた目の見えない妹がおりました」


 クズとはあえて言わないのか。まあ良い。

 つーか妹?


「このルージュの出生は色々と問題はあるのですが、そこはまあ省いても問題ないですかね」

「そうなのか?」

「ではお教えしましょうか。このルージュの本当の名前はルージュ=ランサーズ=フォブレイ。フォーブレイの王位継承権第三十番目の嫡子でした」

「フォーブレイってこの世界で一番の大国だったか? その王子って奴?」

「末の者ですが、そうです。ですが彼の王位を剥奪される事件が起こりまして、それがハクコ種によって両親共々親しい者を皆殺しにされた経緯があるのですよ」


 凄い波乱万丈な一生を持っている奴なんだな。クズって。

 ああ、だからあんなにハクコ種であるフォウルやアトラを憎んでいるのか。


「幸い、ルージュとその妹は現場におらずに助かったのですが、その時の事件の責任をフォーブレイは政治的な理由でシルトヴェルトに追及しませんでした。その所為でルージュはフォーブレイ、シルトヴェルト双方に強い恨みを抱き、亜人と敵対する我が国に名字を変えて移住したのです」


 一度女王はクズの戦いの始まりを区切る。


「王族であるのを隠し、やがてルージュは戦乱渦巻くメルロマルクの戦場で将兵として活躍して行きました。その道中、七星の杖に選定され、勇者として名を馳せる事となります」


 見事に成り上がり街道だ。少し羨ましい。

 が、どうも……女王の奴、若干困ったような顔をしている。


「私も若かりし頃、そんな彼の知略と強さに心を奪われたモノです」

「惚気は良いから続けろ」

「そんな矢先の事、目に入れても痛くない盲目の妹がハクコの手によって……死んだであろう程の血がその場に残されていました。それからルージュは更に復讐心を募らせ、長年の末、シルトヴェルトの王をしていたハクコを打倒しました」

「……で? それと何の関わりがあるんだ?」


 なんとなくはわかるけどさ。

 大方――。


「ええ、イワタニ様がお察しの通り、アトラさんの顔がルージュの大切な妹であるルシアと瓜二つなのですよ」

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