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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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反省

 それから、気が向いた時は朝食を作る。

 今回は下ごしらえが済んでいたので料理担当の奴隷と一緒に朝食を作成。

 村の連中に配る。


 そういえば、驚いた事その2。子供奴隷が増えた。

 俺が留守中に奴隷商が立ち寄って、奴隷を預けて来たらしい。

 奴隷紋を刻んだ後はキール達に一任する。

 もはや俺が直接管理しなくても奴隷共が後輩の奴隷に色々とルールを叩きこんでくれるからだ。


 言ってはなんだが俺は甘いからな、統率はラフタリアを筆頭にキールや最初に管理した奴隷が行っている。

 一応、俺が主であるのは変わらないけどな。叱るのも兼任で奴隷共がちゃんとやってくれているから楽だ。


 だからか知らないが、俺を恐れてあんまり近寄ってこない。

 良い傾向だ。三日くらいすると馴れ馴れしくなってくるけど、言う事はちゃんと従う。


「さて、そろそろ城も動いているだろ。これから出かけてくる。誰か城に行きたい者はついてこい」

「あ、尚文様」


 アトラが手をあげる。

 ああ、そうだった。アトラの奴、そろそろクラスアップ時期なんだよな。

 とはいってもまだ50になったばかりで60になるまでまだ掛りそうだけど。


「なんだ? 割とすぐに戻ってくる予定だぞ?」

「そうなのですか?」

「ああ、それにクラスアップをさせるにしてもフィーロがいない」

「そうですか……残念です」


 どうもアトラは俺と一緒に居たがるんだよなー……。

 親しくしてくれるのは良いが、ベッドにまで潜り込んでこないでほしい。

 一応、俺の近くで寝れればそれで良いと妥協はしてくれているがな。

 ただ……見た目が、変わらないんだよな。

 いつ成長するんだろうか。


 後は見た感じ、フィーロやガエリオンが入ってくるアトラを追い出した事は無い。

 サディナと一緒に良く寝ている。

 それから俺はガエリオンの張った範囲から出て、ポータルシールドで城に飛んだ。


 ……女王の奴、留守だった。

 どうも近隣の問題の解決に出ているらしく明日には帰ってくるそうだ。

 一応、女騎士の報告は受けていて、言付けは承った。


 剣の勇者の処遇は今の所保留、逃げられないように管理してくれれば良いとの話で、本格的には明日にとの事だ。

 しょうがないだろうなぁ。この国、クズばっかりだし。

 他に……これは非常に緊急事態なのかもしれないが、樹を見張っていた影の報告が来ていた。


 樹を見失ってしまったとの話だ。

 イヤな予感がするなぁ……どうしたものか。

 錬を捕まえたら今度は樹が行方不明か。

 あっちを立てればこっちが立たないな。


 ついでに奴隷商の所へ顔を出し、金を持たせたのは省略して良い。

 まだまだ金を集めるのに人手が足りないからなぁ。

 もはや亜人奴隷で安ければ買い取ろうかと思う位だ。

 武器屋は……イミアの叔父が店番をしていた。


「あ、盾の勇者様」

「よ。調子はどうだ?」

「ああ、アイツがやる気を出して、色々と頑張っている」

「お前はどうなんだ?」

「自分も昔の勘を取り戻して共同で作業に励んでいますよ」

「店は開いているのな」


 結構繁盛していて、あっという間に品が消えて行くのを俺は見送る。


「作っても作っても売れて行く状況です。まあ売り上げの一部を盾の勇者様の装備代に充てますから」

「助かる。イミアも始め、お前等器用な連中には色々迷惑を掛けているな」

「何を言うのですか。やりがいのある仕事を下さって、こちらこそ感謝しきれません。あの山の素材で作られた装備を楽しみにしていてください」


 霊亀製の武具の作成に関して、目処が立ったようだな。

 これは楽しみにして良いだろう。


「ああ、そうそう、親父に後でこれを鎧に組み込めるか聞いてくれないか?」


 そう言って俺はガエリオンから受け取った核をイミアの叔父に手渡す。


「なんですかコレ?」

「元、腐竜の核だ」

「へー! これが、ですがなんか赤く綺麗な石ですねぇ。市場とかで見る物と何か違うようですね」


 さすがは手先が器用な種族。普通の核石との違いを見切っているようだ。


「それを次の装備に組み込む訳だが、出来るか聞いておいてくれ」

「わかりました。仮に出来なかったとしても自分が出来るようにしてみせます!」

「……楽しみにしている」


 やる気があって親父の店は活気がある理由がわかるな。

 それから俺は村に戻った。

 ポータル万歳。移動が楽すぎて涙が出てくる。



「と言う訳で、処罰が決まるまで村で軟禁だ」


 ベッドに座って休む錬に俺はそう告げた。

 ちなみに女騎士は部屋で腕を組んで監視している。

 俺と錬、どっちを監視しているんだろうな?


「……そうか」


 錬は淡々と俺の話を聞いて受け入れていた。


「とりあえず、ヴィッチの居場所を吐いて貰おうか」

「……すまない。知らないんだ」

「ふざけるな。ヴィッチの指示で盗賊をしていたんだろう?」

「違う。盗賊に身を落としたのは……俺自身なんだ」


 錬は語り始めた。

 なんでも、ヴィッチと逃亡したその日、ヴィッチに会いたい人がいると言われて、とある町に案内された。

 転送後の場所に近かったそうだ。

 そこで錬は、一人の男を紹介されたらしい。

 何処かで見たのだけど、思いだせないそうだ。

 その男は剣を取り出し、錬に剣をご教授願った。


「わかった。訓練で良いんだな」


 錬は気前よくその男と軽く打ち合いをし……男はヴィッチと何か話し合いを始めた。


「正直……期待――だ。これなら――」

「そう――なら」

「だが――だろ?」

「そうね――頭固いし、利――辛いのよ」


 なんかじろじろと見られてイヤな気はしたが、信じるヴィッチが微笑んでいたので気にしなかった。


「ではレン様、今日はお疲れでしょう? 宿で休みましょう」


 と、錬はヴィッチに連れられてやや高めの宿で休んだ。


「本当、レン様との旅を私達、楽しみにしていたのですよ」

「ええ! あの槍の勇者よりもレン様をお慕い申していたんです」

「そ、そうか。俺も、君たちの為に、世界を救えるよう頑張るよ」


 自分を信じる者の為、錬は再度、戦う決意を固めた。

 この世界の連中の手のひら返しにうんざりしつつ、それでも信じてくれる人の為と……。


 翌朝……身ぐるみをはがされ、剣以外のすべてを奪われて逃げられたのを理解するまでは。

 宿の備え付けのテーブルには置手紙があった。


「これがそれだ」


 大事に持っていたのか?

 錬は俺にその手紙を手渡す。

 一度握り潰したのか、くしゃくしゃだが、どうにか読み取る事ができそうだ。


「えっと……『貴方はもう利用価値が無いから、貴方から利用できる物だけを頂いて行くわ。盾と槍から逃がれさせてくれたから感謝はしているけど、私、貴方の外見も性格も好みじゃないの。そうね、盾を倒せる様になったら愛してあげるわ。まあ、今の貴方じゃ一生掛かっても無理でしょうけどね。オホホホ』」


 うぜぇ!

 ……ヴィッチの奴! 何処までも救いがねー!

 つーか、翌日には錬を見限っていたとかスゲー早業だな、おい。

 むしろ錬の装備や金が目当てで近づいたと言うのが正しいのか?


「その時、俺は何かがおかしくなったんだと思う……視界が真っ黒に染まって、尚文、お前の言ったカースシリーズが浮かび上がった」


 信じようと決めた相手に即座に裏切られたらなぁ。気持ちはわかる。

 俺もラフタリアに信じて貰った翌日に裏切られていたら、憤怒のグロウアップが加速しただろうって確信を持って言える。


「後は……転落の一途だった。宿を出て、その足で金目の物が欲しいと歩いて……奪われる位なら奪いたい、だけど隠したいと仮面を付けて……」


 盗賊の馬車を襲撃し、部下にして盗賊団を結成したと言う所か。

 なんともわかりやすい転落人生だな。


「尚文……お前を信じてやれなくて本当にすまなかった。調子が良いとは思うが、今までの事を許してほしい」

「許す気はない」

「そうか……もしも、生きて罪を償う事を許されたとしたら、これまでの事を償う為に力を貸す。その言葉だけでも覚えていてくれ」


 あの錬が俺に向かって、素直に頭を下げて謝った。

 ……本当に反省しているっぽいな。

 ここまで謝罪されたら許す事も選択に上がってくるのは、俺が甘いからか?

 ま、それでこの世界の連中に許されるかは知らんがな。

 それと、嫌がらせは続行する予定だ。それ位は行う権利があるはず。


「ヴィッチもさすがにそこまで酷い奴だと思っていなかったんだ。半信半疑ではあった。だけど……優しくされて、信じてしまった。本当に許されない愚行だ。あの女を捕まえる最後のチャンスだったかもしれないのに……! いや、最後にしちゃいけないんだ!」

「ま、無意味に顔は良いし、嘘泣き上手いもんな。あいつは」

「元王女の悪口か、まあ私もわからなくはないがー……」


 女騎士の奴もボリボリと頭を掻きつつ呟く。


 しっかしあの女、何処へ行ったんだ?

 錬の話を聞く限り協力者がいる様だ。

 どこかで見た様な男……錬と接点のある人物か。

 一体誰だ?


 わからないな。

 取り合えず、ヴィッチの消息は追うとして、問題は樹の方か。

 俺、元康、錬と来ているんだ。今度は樹が狙われる可能性が高い。


 何をするかはわからんが、あんまり良い方向に進んではいなさそうだ。

 本当、厄介事しか持ってこないよなぁ。


「後はそうだな」


 錬に強くなる方法を改めて教える必要があるか……だな。

 反省しているみたいだし、味方にできるなら悪い手ではない。

 個人的にはもう少し苦しめたいとも思うが、剣の勇者である錬が強化方法を把握して、本当に俺の言う通りに動くなら、勇者を遊ばせておくより利用した方が遥かに効率的だ。

 その辺りは女騎士の頑張り次第か。


「じゃあこれから腕立ての訓練をして体を鍛えて貰おう」

「処刑されるかもしれないのにか?」

「それがどうした? 私はお前の心を知りたいのだ」

「……わかった」


 錬が女騎士の言う通りに腕立てを始める。

 なんだろう。女騎士が脳筋に見えてきた。


「なんだ?」

「別に……」

「ガエリオンの放った魔法の範囲内なら移動しても良いな?」

「まあ……」

「お前はイワタニ殿の為に戦うと言った。私はその言葉を信じる。私の信頼を裏切ってくれるなよ!」

「は、はい!」


 錬の奴、さっそく女騎士の尻に敷かれているなぁ。

 ま、あれ位が丁度良いのか?


「錬、仮に行動の自由が出来るようになったら何をする?」

「……迷惑を掛けてしまった人達の為に戦いたい」

「そうか、じゃあ金稼ぎはどうするんだ? ギルドも金は出せないだろ?」

「その事なんだが、見てもらいたい物がある」


 錬は俺に手招きする。なんだ?


「尚文、銅貨で良いから一枚くれ」

「ん? 癪だが貸す」

「貸すじゃダメだ」

「はぁ? なんでだ?」

「良いから一枚くれ、代わりにドロップを渡す」


 錬は剣から毛皮を出して俺に投げ渡す。

 質が悪いなぁ。

 しょうがない。銅貨一枚よりは高いし、俺は銅貨を一枚、錬に渡した。

 すると……錬の指に触れた瞬間、銅貨がボロっと黒く浸食し、崩れ落ちて粉々になる。


「なんだ!?」

「……カーススキルを使った代償らしい」


 うげ、俺のプルートオプファーも大ダメージ&ステータスダウンが掛っていた。

 錬の放ったカーススキル……これは強欲の方か?

 金が持てなくなる呪いという奴か。

 確か、錬が所持している金銭もかなり消費するんだったな。


「ドロップも見たとおり粗悪品になっている。運が低下しているんだと思う」

「完治は何時頃……っていうかもう一つ使っていたよな?」

「……そっちはスキルを使う時にLvが95だったのが85まで下がった……他にもあると思うがわからない」


 おいおい。代償デカイなぁ。

 俺のもデカイけどさ。

 でも効果範囲から察するに、強化しきった盾のプルートオプファーに比べれば完治は早いはず。


「色々と問題がある様だが、結局どうするんだ?」

「正気に戻してくれたお前達の力になりたい。この世界はゲームじゃない。もう独り善がりにならないと決めた。もしも俺が間違っていたら、言ってほしい。俺は尚文の言葉を信じる事にしたんだ」

「そうか……」


 ……なんなんだ。この豹変振りは?

 何か吹っ切れた様な顔をしているが、ここまで従順だと逆に怪しい。

 そこ等辺、注意しておかないとな。


「もう罪からも逃げない。霊亀の事で処刑されるのなら喜んで首を差し出す。それをされるだけの理由もある。だが、もしも許されるのなら、ウェルト、バクター、テルシア、ファリー、俺の仲間だった四人が目指した、平和な世界を取り戻す為に戦いたい。それだけが言いたかったんだ」


 そう言って、錬は腕立て伏せを再開した。

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