デミウルゴス牧場の朝は早い。
「まぁ好きではじめた仕事ですから」
皮剥ぎ職人・トーチャーさんはそう語る。
最近は良い皮が取れないと愚痴をこぼした、治癒で治した皮は天然皮に一段劣る。
一日は素材の入念なチェックから始まる。両脚羊の管理も職人の大切な仕事だ。
「やはり一番嬉しかったのはデミウルゴス様を通して拝聴できた、
アインズ様からのお褒めの言葉ですね、この仕事やっててよかったなと」
そう語る彼は流れるような作業で両脚羊の皮を剥ぎ取っていく。
一時期は剥ぎ取る際に聞ける両脚羊の絶叫もショーとして喜ばれていた。
「毎日毎日、羊の状態が違う、この仕事は魔法では出来ない」
彼はこの作業に使命と誇りを持っていた、今日は大事な納品日、
完成した羊皮紙を上位悪魔に託してナザリックへと送った。
◆
基本的な形は決まっているが、最近では込める魔法に種類に合わせ、
多種多様なものを作らなければいけないのが辛いところと彼は語る。
「だけど両脚羊の汚物の処理はキツイね、畜産業だから仕方ありませんが」
「でも至高の御方のためになる仕事です、喜びしかありませんよ」
スケルトン・メイジの付与術師さんとは共に高みを目指す付き合いです。
彼の目にかかれば、見るだけで羊皮紙の出来不出来が分かってしまう。
羊皮紙の質に合わせ、適応する限界の魔法を見極め込める。
…ナザリックの技術の神髄ここにあり。
◆
ここ数か月は、中位の魔法を込められるビーストマン製の皮に押されていると言う。
両脚羊製羊皮紙の需要が減ったことで、食用や娯楽用に使うべきだとの要望もある。
…だが、それでも彼は、この地で両脚羊の皮を剥ぐのだと語る。
「いや、ボクは続けますよ。待ってる人がいますから」
魔導国の拡大で監視が厳しくなり、一時は店をたたむことも考えたという。
大勢の同僚がデミウルゴス様の命令で別の土地に移り住んだ事で、今ではアベリオン丘陵の職人は、彼一人になってしまった。デミウルゴス牧場の皮剥ぎの灯火は弱い。
…だが、まだ輝いている。
また、需要の激減と共に今、彼を一番悩ましている問題は、後継者不足であるという。
「やっぱりアレですね…大抵の若い人はすぐ。やめ(処理され)ちゃうんですよ。
至高の御方に渡す羊皮紙に染みがあるとか、魔法を込めたら燃えてしまったとか…
でもそれを乗り越える奴もたまにいますよ。
そういう奴がこれからの拷問悪魔を引っ張っていくと思うんですね」
そう呟くと拷問悪魔のトーチャーさんは頼もしそうに見習いを見つめた。
◆
最近では人間の邪神崇拝者にも注目されているという、
トーチャー製に比べ格段に質の落ちる物を作り出す彼らを見て。
額に流れる汗をぬぐいながら、彼は何のてらいも無くこう語る。
「本物に追いつき、追い越せですかね」
彼の横顔は職人のそれであった。
今日も彼は、日が昇るよりも早く両脚羊の皮剥ぎを始めた。
明日も、明後日もその姿は変わらないだろう。
そう、デミウルゴス牧場の朝は早い
モモン「来ちゃった」(チャキッ
デミウルゴス「アインズ様の踏み台、ご苦労様です」