「ただいま帰還致しました、アインズ様」
遠征から戻ったセバスがアインズの御前にて膝を付く。
竜王国からの要請で属国化を条件に派兵依頼があり、指揮官として現地に赴いていたのだ。
ナザリックのランドステュワードであるセバスが何故向かったのかと言えば、竜王国の女王が竜王の血を引いていることによる。同族意識を持たせ統治を容易くする事と、竜王と言う存在への調査も含めセバスが送り込まれていた。
「――うむ、良く戻った。問題なく任務を果たし帰還したようだな、
竜王国…いや竜領域守護者からも感謝の手紙が来ていたぞ」
「捕獲したビーストマンの皮からは両脚羊より良い羊皮紙がれると報告がある、これも功績の一つだな」
ご機嫌な声でアインズがセバスの功績を褒める。
その言葉を注がれたセバスは、溢れ出るような幸福な感情を呼び起こされた。
失態の多かったセバスには特に染み入る言葉であろう。
隠し切れない喜びの感情を無理やり隠し、僅かに頬を紅潮させる。
「この働きに対し、何か褒美を渡さねばならんな」
「ありがとうございます、しかしツアレの件もあります、これ以上頂くわけには…」
同席させたツアレをアインズはチラッと眺める。
ツアレは非礼にならないよう、セバスの迷惑にならないように頭を下げ微動だにしない。
教育によるものか愛によるものか、大したものだなとアインズは感心する。
「信賞必罰は組織に大切なものだ、何も報いないとなれば私は良くない統治者となろう」
「そっ、そのようなことは…」
「何でもよい、願いを言って見よセバス」
困ったようなセバスに対してアインズは優しく語り掛ける。
再びツアレをチラッと見るが、やはり微動だにしない。
「困ったな。どうだツアレよ、セバスの代わりにお前が何か願ってみないか?
望む願いを言うが良い。不老不死でも死者蘇生でも死者蘇生でも構わんぞ」
突然のアインズのふりにツアレは1瞬ビクッとするも、再び黙って頭を下げ続けた。
回答に悩むセバスと黙って頭を下げ続けるツアレにアインズは困ってしまった
…計画通りにはいかないものだ。
そんな微妙な空気の中、アインズの懐から1冊の本が床にバサリと落ちる。
「おっとセバスよ、本を落としてしまったようだ。拾ってくれるか?」
「はっ」
セバスは丁寧に誇りを祓い、本をアインズに捧げるようにして返却する。
そんな中、沈黙を守っていたツアレからぽつりと言葉が漏れる。
「私とセバス様の結婚を認めて頂けないでしょうか」と…
その言葉に反応してセバスも「私からもお願いしたします」と褒美の願いがでる。
アインズの目の前だと言うのに二人の世界に入ってしまった。
「…良かろう、お前らの願いを聞き届けよう。ナザリックへは私から通知しておく、下がって良い」
満面に喜色を湛え退室していく2人の背中を見送ってから、アインズは持っていた本を床に叩きつけた。
「妹の蘇生願ってやれや!!」
床にはニニャが書き残した日記だけが寂しく残っていた。
ニニャ「ねぇーさーん」