総選挙で勝利した文在寅政権。徴用工問題の行方は(写真/EPA=時事)

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 いまだに日韓で解決の兆しが見えない徴用工問題だが、実は被害者や被害者遺族の声も一枚岩とは言えない。新著『韓国人、韓国を叱る』(小学館新書)が話題を呼ぶジャーナリスト・赤石晋一郎氏が、被害者団体のトップに聞いた。

【写真】「日本の法的責任はない」と語る、徴用工遺族の金仁成氏

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 日本と韓国は1965年、日韓基本条約を結んだ。そのときに協議した日韓請求権協定に基づき、日本政府は無償3億ドル、有償2億ドルの計5億ドル(当時のレートで約1800億円)を韓国政府に提供している。韓国政府はこの補償金をインフラ投資等に回し、漢江の奇跡と呼ばれる経済発展を遂げた。それは本来、被害者や遺族が受け取るはずのお金だった。

 日帝被害者報償連合会・会長の金仁成氏らが、韓国の大統領府である青瓦台前で毎週行っている火曜日デモは、その返還を韓国政府に要求する運動なのだ。

 日本大使館前で毎週水曜日に慰安婦問題の支援者らが行う水曜デモは、日韓メディアの間で有名になっている。しかし被害当事者による火曜日デモの存在は、ほとんど知られていない。金仁成氏は苦笑いを浮かべながらこう語った。

「私の父は1942年に釜山で日本軍に徴用され、インドネシア・スマトラに従軍しました。現地では捕虜監視員をしていたそうです。連合国に捕まり2年間刑務所に入った後、帰ってきました。

 父は1951年に亡くなりました。私達が補償として受け取ったのは、供託金(未払い給与等)など60万ウォン(約6万円)のみでした。日帝下(1945年まで)で亡くなった遺族は2000万ウォン(約200万円)貰えるが、私達はそこには入りませんでした。

 ところが、今回の徴用工裁判で生存者に1億ウォンの賠償命令が出ました。日帝下での苦痛に対しての慰謝料という理屈です。生きている人に払うのなら、私の父親にも賠償金が払われるべきという理屈になるじゃないですか? だから徴用工裁判は道理が通らない話なのです。私達は火曜日デモで、韓国政府が日本から3億ドルを貰ったのだから、それを被害者に返すべきだという闘争をやっているのです」

 そこまで語ると金仁成氏は小脇に抱えた本を指で叩いた。

「韓日請求権交渉では韓国政府が103万2684名の軍人軍属労務者の未払い金に対して、3億6400万ドルを要求しました。日帝下の36年間、日本政府は植民地下の韓国に多くの投資をしました。発電所を作ったり、全国に鉄道網を敷いたり、電信施設を作った。国家インフラにお金をかけたのです。日本敗戦のときには、日本政府が持っていた資産、日本国民の資産を全て韓国に残して引き揚げた。日本が韓国に残した資産は、強制連行の供託資産をはるかに超えると日本政府は請求権交渉の中で反論しています。もし韓国政府が3億6400万ドルを要求するなら、日本は韓国政府に残してきた資産返還を要求すると主張し、会談は決裂したこともあった。

 決裂してから4年間、会談は中止されていました。再開したとき、韓国政府は3億6400万ドルを再び要求した。交渉の結果、韓国政府は戦中未払い金として無償3億ドル、有償2億ドルを貰うことになったのです。それらを韓国政府は経済発展に使ったのです。

 韓日請求権協定当時の韓国は、貧しい国でみなが腹をすかしていた。お金が必要だったのです。徴用工裁判を見て私が思うのは、日本には法的責任はないということです。なぜなら韓日請求権協定を結んでいるからです。しかし、道義的部分の責任は日本政府にも多分にあったとは考えています」

※赤石晋一郎著『韓国人、韓国を叱る』(小学館新書)より抜粋。