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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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ドラゴンサンクチュアリ

「問題はさー……」

「なんだ? イワタニ殿」

「錬が一匹でいるドラゴンの雛相手に隠蔽から近づくとかするかなんだよな」

「それを言ったら元も子もないではないか」


 まあ、勝てる相手なら何でも手を出しそうだから問題はないと思いたい。

 見た目子竜だし、経験値の足しとかで襲うだろ。

 ガエリオンも錬がいると知れば気配察知も高いだろうし。

 知らぬふりで行けば問題ない。

 あの剣がカースシリーズで、七つの大罪が関わっているとして、一匹でいるガエリオンを狙いそうな物と言うと……。


 暴食……経験値を貪るという意味で暴食と言えば暴食かもしれない。

 Lvアップさせるのが好きそうな奴だし、錬みたいな奴はその傾向が強い。

 その感情が暴走していると仮定して、あの状態であるのなら一匹であるガエリオンはまさしくカモだろう。


 他に強欲……盗賊を使って宝を集めると言う所を考えるに、全てを欲するという点が強欲である可能性がある。

 むしろ強欲は俺の専売特許だと自負したいのだけど、俺には出ていないんだよなぁ。

 武器毎に出るカースシリーズが違うとかだと何も言えない。


 後は傲慢か?

 Lvこそが全てで、Lvが低い相手は見下す存在とか思っている奴もネットゲームじゃ良く居る。

 プライドが高いと言うか、錬って孤高を気取った所が自尊心があるとも言える。

 まあ、これはむしろ樹か。


 問題は七つの大罪ではなく旧式の大罪だった場合なんだ。

 七つの大罪はなんだかんだで改訂された罪で、八つあった。


 暴食、色欲、強欲、憂鬱、憤怒、怠惰、虚飾、傲慢。


 嫉妬は無く、憂鬱と虚飾という物がある。

 後に怠惰と憂鬱が一つにされて虚飾が傲慢に含まれ、嫉妬が追加されたという経緯がある。


 もしも旧式が入っているのなら、虚飾……実質的な物はない外見だけの事を指す罪。

 オンラインゲームで手に入る強さなんて実際は偽りの強さであり、その強さに執着するってのは虚飾でしかない。

 もちろん、オンラインゲームで得る経験は嘘ではないし、強さもあるだろう。


 俺の元の世界でもそう言ったつながりで仕事を得たのも居るし、俺も大学卒業したら、ネット内の知り合いに正社員にならないか誘ってきた友人がいる。

 リアルでもあった事がある奴だ。

 本当はどうかは知らないけど『お前の物怖じしない性格とギルドマスターのカリスマが会社に欲しいんだ』とか都合の良い事を言われたな。

 今考えると、俺を適当に褒めて使いパシリにでもしようと思っていたんだろう。


 でも、錬の人格や友好関係から、そう言った期待に満ちた関係を築けるとは到底思えない。

 精々、ボスドロップの珍しいアイテムを自慢するソロプレイヤーとかそんな立ち位置だったのは簡単に想像できる。

 別に最強である必要なんて無いし、そんな程度の所持で自慢したってウザイだけで無意味だとギルド管理をしていたら痛いほどわかる物だ。

 だけど、ネットゲームではそう言うのを喜びにしている者もいるし、そう言うプレイヤーがいるから儲かっているとも言える。


 もしも、虚飾だとしたら、錬が一番該当するか? むしろ樹も該当するだろう。

 カースシリーズの発動条件自体が謎だ。

 心が砕かれそうな程の感情爆発が条件ではないのか?

 何か……それこそ発動する条件の特定を考えないと俺も危ない。


 特に強欲が一番怖いな。

 俺は自分でもわかるが強欲だ。

 憤怒は最近、抑え方もわかってきているし、助けてくれる仲間がいるから怖くはない。


 だけど強欲って、金銭欲とかだろ?

 真後ろにある宝を思えば欲望の塊みたいな気がしてきた。

 後は際限の無い欲望だったか。


 ……なんか考えていたら浸食されそうだからこれくらいにして方向を変えよう。


 とりあえず錬が汚染されていそうなカースシリーズは暴食、強欲、傲慢、虚飾、辺りか。

 一匹でいるガエリオンまで襲った場合って……これなら問題ないだろう。全てLvアップに必要な経験値関連だし。

 ま、問題は盾の勇者である俺を襲ったという点だ。

 俺を襲っても経験値なんて手に入る量も少ないだろう。

 人殺しのリスクも重々承知のはず。


「ああ、そうだった」


 俺は捕縛した盗賊の方に近づいて尋ねる。


「お前等の首領が狩った冒険者は死んだか?」

「いや? 殺しはしなかった。トドメは刺さずに気絶させて、身ぐるみ剥いでからいつも野に捨ててた」

「そうか……」


 人殺しはしないだけの理性を持っているのか? 俺には思いっきり背後からの暗殺攻撃をしてきたが。

 もしかしたら状況把握能力だけは残っていて、一番強い攻撃をしたとも考えられる。

 その点から考えて暴食は消えるな。

 他にありそうなのは……。


「イワタニ殿!」


 と、考えていると女騎士が俺を呼ぶ。


「どうした?」

「あれだ!」


 女騎士が盗賊のアジトの外、森の上に吹きあがる炎を指差す。


「見つけたか!」


 あれはおそらく、ガエリオンの放った信号のはずだ。

 何日か、あるいは何度か試す予定だったのだが、まだ近くにいたのか。


 ……転送剣のクールタイムはちゃっかり完了しているな。


 カースシリーズに侵食されているのに、随分と頭が回る。

 そういう部分は無くならないのかもしれないな。


「問題は……準備が終わるまで近づくなと言う事か」

「ああ」


 ガエリオンが提案した方法は若干時間が掛る。

 それより前に駆けつけたら逃げられてしまう。

 いや。


「なあ、お前は隠れる魔法は使えるか?」

「ラフタリアじゃないんだぞ。出来る筈もなかろう」

「そうかー……」


 同じく隠れた状態で接近すれば錬に気付かせる事無く一撃必殺も可能かと思えたのだがな。

 ラフタリアがいないのがこんなにも、もどかしいとは。

 谷子も魔法が得意だけど隠れる魔法までは持っていないだろうし。

 ……リーシアが居るじゃないか!

 あいつ、器用貧乏だから出来るかも。


「リーシア!」


 アジトから出て、不安そうに森を見つめる谷子とリーシアに声を掛ける。


「な、なんですか?」

「隠れる魔法は使えないか?」

「下位の隠蔽魔法なら使えますけど……」

「どんな効果がある?」

「えっと、範囲は私を含めて二人まで、効果時間は一分です」


 微妙に低いなぁ。

 ラフタリアは下位の魔法でもずいぶん長い間隠れられていた。


「ラフタリアとは違うのな」

「その、ラフタリアさんとは資質が違うので……」


 ま、ラクーンって光と闇の幻影魔法が得意な種族らしいからしょうがないか。

 むしろ下位とはいえ、使えるリーシアが凄いと思えてきた。

 変幻無双流を使いこなしながら、ほぼ全ての魔法を使える……。

 まあいいか。


「じゃあ、俺とリーシアで錬と戦っているガエリオンに近づいて様子を見る、お前等は作戦が成功したら呼ぶから来てくれ」

「わかった」

「ガエリオンは大丈夫なのよね?」


 谷子が不安そうに尋ねる。


「ああ、大丈夫だ」


 一度は負けたとは言え、今のガエリオンはあの時のガエリオンよりは遥かに強くなっていると本竜が言っているんだ。

 そうやすやすと負ける筈もない。

 それを懸念して見に行くのも兼ねている訳だしな。


「じゃあ行くぞ、リーシア」

「はい!」

「後から駆けつける」

「私もです」

「期待しているよ」


 アトラ、女騎士、谷子を置いて、俺はリーシアを連れてガエリオンの様子を見に行くのだった。



 錬に気づかれない範囲を想定しながら近づく。

 そして出来る限り低姿勢で木々に隠れて様子を見た。


「ギャウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」

「てい! でりゃあ!」


 そこには錬がガエリオンと死闘をしている最中だった。

 俺達を乗せて運ぶ時の戦闘モードに入ったガエリオンが錬の攻撃を避けながらブレスを吐き、善戦している。

 錬も中々の早さだ。ま、あの手のアタッカーは早さこそ命とか思っているのが多いからなぁ。

 俺みたいな防御担当も早さがあると良いし、体力があって当たり前なのに、その辺りを理解していない奴が多い。


 って愚痴になってる。

 ま、盾が避けちゃ意味無いけどさー。

 これ以上近づいたら、錬に気づかれるだろうな。


「ハイド……ソード!」


 ゆらぁっと錬は姿を消す。


「愚かな……その程度で我が見失うと思ってか!」


 ガエリオンがそう言うと誰もいない右前方向に尻尾を叩きつける。

 スタッと目を凝らすと土煙が上がったのが見えた。

 他に草が横に折れて、何処に居るか、遠くからはわかる。

 ガエリオンは完全に隠れている相手を見つけられているようだ。


「ふぇええ……ガエリオンちゃんが喋ってますぅ」

「ああ、リーシア。お前も知らなかったのか」


 話してないもんなぁ。谷子の前じゃ絶対に喋らないし。

 ラフタリアも同じ理由で驚きそう。


「閃光剣!」

「またそれか! 懲りない奴だ!」


 バサッとガエリオンが翼で顔を覆って錬が放った閃光を放って目を眩ませるスキルを無効化させた。

 若干眩しい。


「小手先の小技ばかり……呆れて物も言えんな」

「……羅刹・流星剣!」


 ガエリオンは錬が放った黒い流星剣から飛び散る星体を捻ってかわす。

 結構善戦してるな。

 このまま勝てるんじゃないか?

 いや、錬が不利を悟ったら逃げる筈。なのに逃げないと言う事は何か理由があるのだろう。

 それはすぐにやってきた。


「そこだ!」


 ガエリオンがブレスを錬にぶつける。

 その時、俺はやったと拳を握った。さすがの錬も痛いじゃ済まない攻撃だろうと。

 だが、考えが甘かった。


 錬がブレスを手で弾いた。

 つまり、それだけ決定打に欠ける攻撃だったという事である他無い。

 このまま、見ているしかないのか?


 これ以上の接近はガエリオンに迷惑がかかるし、チャンスを棒に振ってしまう。

 考えてみれば当たり前のように遭遇出来ただけでも幸運なんだ。

 このチャンスを逃したら錬も簡単には攻撃してこない。


『我、ガエリオンが天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げ――』


 実はさっきからガエリオンは魔法の詠唱を続けながら戦っていたりする。


『我が領域の生成、我がここに居る事の意味――』


 大分詠唱が完成しつつあるのが遠くからだとわかってくるな。

 しっかし、錬はそれに気づかず淡々とガエリオンに向かって様々なスキルをぶっ放し続けている。

 前の錬なら気付いてもおかしくないレベルなんだが……やはり、カースシリーズは知力を奪うんだろうか。


 まあ野生の、竜帝じゃないドラゴン相手だったら既に倒れているだろう。

 仮面の下ではどんな表情で居るかはわからないけど、焦りが見えている。

 ゲームの知識だったらこのドラゴンがこんなにタフな訳が無いとか絶対思ってる。


 それにしても……。


「……なあ、リーシア」

「なんですか?」

「あの剣の勇者の構えを見て思う事無いか?」

「そうですねー……何かの流派ですか? 変な歩き方です」


 多分、剣道か何かなのかな? すり足っぽい時があって、上段の構えとか取ってる。

 でも、気のせいか? なーんか怪しい。

 俺も最近、アトラや城の兵士相手の組み手をしているからか目が肥えてきているからわかる。

 実戦で剣道は役に立たない。

 もちろん、何の役にもとは言わないが、錬の剣の振り方や動きが何かぎこちない。


 おそらくだが、剣道をやっていて、そこに我流を混ぜているんだろう。

 年齢的に剣道の達人って訳でも無いだろうし、VRMMOをやり込んでいたと言っていたから、剣道は本気で打ち込んではいないはず。

 となると、女騎士やババアみたいな完成された武術と比べると未熟だ。


 と、俺は錬の動きを見て感じる。

 自信に満ちた剣の振り方だけど、腰が入っていないし、闇雲に振るっている。

 剣自体の切れ味に頼って、本来の性能を発揮しきれていないような……。


「えっと、女騎士さんの方がまだ綺麗に戦います」

「そうだよな」


 女騎士って、真面目な性格が剣にも出てて、実戦でありながら動きに無駄が無い。

 ラフタリアが稽古付けて貰って強くなったのも頷けるくらいの実力者を見ている手前、錬の剣技がへっぽこに感じる。

 ガエリオンもその辺りを見切っているのか、攻撃を当てれていないんだ。


 まあしょうがないよな。

 いくら勇者とは言っても、元は平和な日本から来た一般人だ。

 こんな野蛮な世界と一緒にされたら、錬だって文句の一つ位言うだろう。


『ここに我、竜の聖域を生成する事を宣言する』

「そろそろ完成しそうだな。リーシア。接近するぞ」

「あ、はい!」

『力の根源足る。私が命ずる。理を今一度読み解き、我等の姿を隠せ』

「ファスト・ハイディング!」


 魔法で作りだされた木の葉が俺達に振り掛って姿が消える。

 確か効果時間は一分だったか。

 俺達は魔法が掛ると同時に走って近づいた。


 ……走ると時々、チラッと半透明で見えてしまう。

 やはりラフタリアのに比べると劣化も良い所だな。


「む!?」


 やば、錬に気づかれた。


「転送――」

「もう遅い! ドラゴンサンクチュアリ!」


 バアァアアっと辺りに魔法で発生した結界の様な何かが展開される。

 具体的に何か? と言うのを表現する事は出来ないが、肌にピリッと何かが通り過ぎた。


「――剣!」


 錬が叫ぶ。

 しかし……。


「な――!?」


 錬の声に驚愕の言葉が彩られた。

 そう、今までの統計から……そしてラースドラゴンの経験を生かして、ガエリオンは転移スキルを禁止させる領域を作り出せると言ったのだ。


「鬼ごっこは終わりだぞ。錬」

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