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【東京】昭和の少年少女をわくわくさせた SF、冒険ロマンの原画発掘 故・小松崎茂さん画
戦前から戦後にかけての暮らしの記憶を伝える国の展示施設「昭和館」(千代田区九段南)では、当時、人気の「空想科学」「戦記物」と呼ばれた少年向け雑誌・書籍も収集している。表紙や挿絵に描かれた精密なメカニックは、現代のSFやアニメ、ゲームにつながる表現も多い。研究対象として注目が集まっている。 (浅田晃弘)
高度経済成長期が始まった一九五六年、講談社から「少年少女世界科学冒険全集」が創刊された。欧米のSF作品の翻訳が中心のシリーズは好評となり、全三十五巻を刊行。このうち三十四巻分の表紙絵を描いたのが、後にプラモデルの箱絵で名声を博した小松崎茂さん(一九一五~二〇〇一年)だ。 貴重な原画が、残っていた。三月に開幕を予定していた「SF・冒険・レトロフューチャー」展の準備で、学芸員の林美和さんが資料を探す中、講談社に、一枚をのぞいて保管されていたことが分かった。サイズはいずれも約三十センチ×約四十センチ。当時の雑誌に使われた表紙や挿絵の原画が、これほどまとまって残っていたのは珍しいという。 宇宙服や宇宙ステーションのデザインは今見ても、洗練されている。宇宙開発への関心が高まっていた世相に加え、時代を超えて共通する子どもたちの夢が投影されている。林さんは「だから、小松崎さんの絵は古くならない」。 小松崎さんの活躍は、戦時中に始まった。陸軍の外郭団体が発行した雑誌「機械化」で「未来の新兵器」シリーズを発表。機体が透けて見えるようにして、エンジンなどの装置の構造を詳細に説明する。雑誌の発行目的は「国防思想の啓蒙(けいもう)」だが、どこかマンガチックな楽しさがある。 小松崎さんは「戦争嫌い」で知られた。荒川・南千住の実家は、東京大空襲で失っている。生涯をかけて兵器の描写に情熱を傾けたのは、戦争美化ではない。 「子どもたちをわくわくさせる科学の魅力が分かっていたからでは」と林さんは言う。例えば「週刊少年サンデー」に掲載された「戦艦大和」。穏やかな波を受けて進む姿に戦時下の緊張感はない。実物よりもスリムにデフォルメした船体は、スタイリッシュだ。 「SF・冒険・レトロフューチャー」展は、新型コロナウイルスの感染防止のため休止中。図録を郵送のみで販売している。フルカラー、九十五ページ。千円。問い合わせは、昭和館学芸部=電03(3222)2577=へ。
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