正式依頼
クラスアップついでに親父の店に行ったのだけど、閉店の看板が掛っていて留守だった。隣の店に聞くと、武器が売れすぎて製造が追い付かず、鉱石を取りに出かけているそうだ。
イミアの叔父すらいないってどれだけ繁盛してんだ。
元々、城下町では有名な店だったのだけど、最近は更にその名声を向上させている。
俺が理由でもあるけど親父自体の腕の良さ、そして最近は更にその腕前が上がって行っているのだとか。
イミアの叔父が意外と名工だったとかなのか?
それともライバルが出来た事による成長?
知らんがな。
で、他に寄る所と言ったら奴隷商なのだけど、こっちも留守。
まだゼルトブルに居るのか?
復興も進んじゃいるが、俺からしたらさびしい城下町だな。
なんというか、知り合いが誰もいないと言うか。
そもそも、その知り合いのほとんどが俺の領地にいる訳だが。
という訳で足早に村へ戻るのだった。
「ん?」
村に帰ると見慣れた奴が居た。
オドオドした幸薄そうな女と簡素な鎧を纏った強気な女。
「ああ、イワタニ殿、帰ったぞ」
「ただいま帰りました」
女騎士とリーシアが俺の帰還を歓迎する。
「おお、お前等、修行が終わったのか?」
「はい。私は師範から今回の修業は終わったので先に帰って良いと言われました」
「私もそうだぞ。色々と教えて貰った」
「そうか、休暇を取ってまで弟子入りしたんだもんな。どうだ? 成果はあったか?」
「ああ、私の熱意に変幻無双流の師範も折れてご教授してくれたぞ」
「熱意……ね」
修業にまでついて行ってたもんなー。
俺の知るゲームに老師の家の前で動かず、弟子入りを要求するキャラが居たな。
許可しないとストーリーが進まないんだ。
三人いる弟子の中で、潜在能力は一番高いけど癖が強いキャラなのを覚えているって、そんな事はどうでも良いな。
「とは言っても私は剣技を教わっただけだがな。元々の鍛錬を続けろと言われているよ」
「私は全部叩きこまれました……」
女騎士は剣だけ、リーシアは全部か。
だから同時に修行から帰ってこれた訳だ。
変幻無双流は武器を選ばないとかババアは言っていた。
なのに剣だけを教わるって、適当に教えられているんじゃないのか?
「なんだ? イワタニ殿」
「本当に大丈夫なのか? 適当に教わって、噛ませ犬のようにお前がやられそうで怖いぞ」
「ふ……私を誰だと思っている。リーシア殿やラフタリアがスタミナ切れで倒れている所を師範に付いて行ったんだぞ」
「ええ、師範もやる気の高さに正式に弟子入りを許可したのですよ。休暇が切れるならしょうがないと剣技だけを重点的に教えていたのです」
「技よりも基礎の体の動きや魔力、気の流れを重視する流派だからな。コツを掴むのは大変だった」
へー……つまりは武器は飾り的な流派なのか?
よくわからない所がある。
「ラフタリアさんの修業が終わったら村でも教えて行くそうですよ」
「なんで山籠りしてる訳?」
「ですから基礎の体作りだそうです。山の神気に触れて大地の流れを感じ、取り組むと……」
「意味わかってるのか?」
俺は全然わからない。異世界人だからか?
魔法も使えるようになったけど、その辺りは全然わからないなぁ。
「当たり前じゃないですか」
あのリーシアがキョトンとした表情で言っている。
もはや当たり前になっているのか……。
これがパワーのインフレって奴?
次の戦いで一撃で俺がやられたりするんだろうか。
俺の知っているマンガにそういう展開あった。
……嫌だぞ。そんなの。
「ところでさっきの話から察するにラフタリアはまだ修業中なのか」
「ええ、ラフタリアさんはナオフミさんの右腕なのだからまだ覚えないといけない事が沢山あるって」
「そうかー……」
ラフタリアが居ると色々と助かる問題が山ほどあるんだけどな。
つーかフォウルは蚊帳の外か。
他にも何人か連れられて行った奴隷共が居た気がする。
「イワタニ殿はこの後何をする予定だ?」
「あ? クラスアップした連中と一緒にLv上げにでも行こうかと思っている」
さすがに最近はLv上げ全然してないのが気になってきている。
ラフタリアが帰って来てからでも良いかとか楽観視していたし、フィーロのLv上げで一緒に上げようと思ってたら本人が出かけてしまった。
なので正式に俺個人がLv上げ目的でメンバーを集めて行こうと思う。
フィーロには悪いがガエリオンを乗り物にして出かける予定だ。
「では私も一緒に行かせてもらう。もちろんリーシアもだ」
「丁度良いな。変幻無双流とやらを見させてもらうか」
えっと、俺、アトラ、ガエリオン、谷子、リーシア、女騎士。
地味にバランスの良いパーティーだ。
RPGだったら大抵の敵には負けない無難な陣形と言える。
もちろん、ゲームでの話であって、これが現実になったらどうかわからんが。
「サディナはどうする?」
最悪、女騎士は留守番をして貰うのも手だ。
もはや村に馴染んでしまった気もするが、一応女騎士は俺の配下ではないからな。
優先度で言えばサディナの方が高い。
「私は海で上げてくるわー」
「ああ、そう」
ま、本来の戦場で上げて貰うのが一番か。
余裕があれば何か拾ってくるかもしれないし、海の素材も欲しい。
「後はー……アトラー」
「はい。なんですか?」
俺が呼ぶとアトラが来た。
最初は病弱キャラだったはずなのに、完全に慣れたな。
「Lv上げに行くから手伝え」
「はい。尚文様と一緒に行けるのを楽しみにしておりました」
「頼りにしている」
「では行こうか、イワタニ殿」
「ああ、はいはい」
女騎士って一応ラフタリアと稽古が出来るくらいだからそれなりに腕はあるみたいだし。
ま、本気のラフタリアと戦っている訳じゃないから、ステータス的には低そうだけどさ。
前も考えたな、これ。
「ガエリオン」
「キュアアアア!」
俺が呼ぶとガエリオンが嬉しそうに声をあげる。
出番を待っていたのだろうか。妙に興奮気味だ。
声から子ガエリオンだと思う。
どちらかと言えば、親ガエリオンの方が付き合い易いんだがな。
「さて、ガエリオン。これからLv上げに行くのだが、馬車を引くか俺達を乗せて飛ぶかどっちが良い?」
「キュ……」
子ガエリオンモード。
首を傾け、あざとくポーズを決めている。
「キュア!」
手を上に上げている。ああ、空を飛んでいきたいのね。
適当に馬車を引かせた方が楽だが、まあ良いか。
帰りは盾で戻る訳だし、行商する訳でもないから調度良い。
「キュアアアア!」
パアッとガエリオンは変身して四メートルのドラゴンになる。
「何処行くの?」
谷子がガエリオンの背に乗りながら聞いてくる。
完全に定位置になってきているな。
最初に乗っていたキャタピランドはどうした?
いや、アイツも谷子と一緒にいる事が多いけどさ。
「何処が良いかな」
「ああ、そうだ。イワタニ殿、どうせLv上げに行くのならついでに城からの依頼もしてくれないか? 私も手伝う」
「内容は?」
「最近、とある山間で盗賊が根城を築いているそうなんだ」
「ほう……盗賊狩りか」
「なんでそんな楽しそうに笑っているんだ? イワタニ殿がそんな笑い方をするなんて初めて見たぞ」
女騎士が不気味そうに答える。そんな顔をしていたか?
おそらく奴等の残党だろう。
考えてみれば、あれから結構時間が経っているから、収穫には丁度良い時期だ。
あいつら、結構たんまり貯めているんだ。奪うには良い相手だよな。
正式な依頼なら報酬も稼げるし、一石二鳥だ。
「場所は特定できているのか?」
「一応は……だな。問題はその首領に逃げられ続けているそうだ」
「首領?」
前もその前も似た様な奴がいた気がするんだが。
どれもアジトで休んでいる所を襲撃されて、縛り付けたんだがな。
「捕まえた盗賊の証言だと最近、近隣の盗賊のボスになった者なのだそうだが、相当の武闘派らしい」
「武闘派なのに逃げているのか?」
「そこなのだ。良く分からないが、相当疑い深いボスで滅多に人前に出ず、それでいて強い猛者である冒険者を一人一人確実に潰す手堅さを持っているとか」
「よく伝わらないのだが……」
それってボスなのか?
策略家と言えば聞こえは良いが、セコイ奴とも言える。
敵にすると面倒なタイプだ。
「盗賊共はそのボスの言う通りに攪乱して、ボスが直々に混乱して逃げた者を孤立させて狩るという戦略をしているそうだ」
言いたい事はわかるが……なんでそんな面倒な闘い方をしているんだ?
目的が不明瞭な奴だな。
「その手腕から部下の盗賊を捕まえてもボスが捕まえられないらしいのだ」
面倒な相手なのは確かだな。
ボスが生きていたら部下は幾らでも補充できる状況か。
そこまで手の込んだ事をやりたがると言う事はアジトも一つじゃないだろう。
とはいえ、盗賊狩りは儲かる。
フィーロが居ないのが惜しい。あいつは脅しに凄く使えるし。
あ、ガエリオンにさせてみるか。
谷子には黙っていて貰おう。
「じゃあその、盗賊が出るって辺りを巡回して魔物を狩るか」
「了解」
「わかった」
「わかりました」
「キュア!」
と言う事で俺達はガエリオンに乗って盗賊狩りとLv上げに出たのだった。