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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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秘密基地

「へー……ここがお前の秘密基地か」


 あれからサディナは海に行こうと言い。俺はついて行った。

 すると背中に乗れと言い。海を泳ぎ始めた。

 サディナの背に乗り、三〇分くらい経った頃だろうか。

 島が見えてきた。暗くてよく見えないが、そこまで大きな島では無い。

 海外の写真で見た事のある、浅瀬が三日月形の島とか、そんな感じだ。


 魔物も特に見当たらない。

 月が映える、元康じゃないがロマンチックな島だと思う。

 その島に着いてからサディナは丘のような陸地に掘られた洞穴で松明に火を付けた。

 きちんと窓っぽい吹き抜けまである。


「そうそう、一応、管理はしているから雨風は避けられるわよ」

「確かにここまで来たらさすがのアトラも来ないだろうな」

「まあねー」


 海を泳いでくるとか船で出発とかされたら、それこそ対処のしようが無い。

 ……なんかありそうで怖い。


「帰りは盾の力でどぞーってね。どう?」

「まあ、寝るだけなら良いかもな」


 場所も悪くはない。問題は薬草の調合とかする時の道具を持ってくるのが面倒だけど。

 静かに何かをするには良さそうだ。

 ラトとかこっちに移動させて研究させるというのも手か?


「と言う訳でナオフミちゃん」


 サディナはドンと、奥から樽を持ってきた。

 多分、酒樽。


「どこからそんなものを持ってきたんだ?」

「難破した船から引き揚げたのよー。程良い熟成具合の品物よ」


 ああ、そう。というか犯罪臭がする品だな。

 まあ、だからこんな所に保管しているんだろうが。


「お姉さんと飲み比べしましょう」

「なんでだよ」

「えーお姉さんナオフミちゃんを酔わせて本音を聞きたいのよー」

「素直に答えたら許すと思ったら大間違いだ! それに俺は酔わない」

「そんな事を言っていられるのも今のうちよー」


 なんかサディナがハイテンションで酒樽を開けて、コップを片手に飲み始めた。

 一応、合わせてやるか。俺もここなら安心して休めそうだし。


「さっき難破船から引き揚げたとか言ってたな」

「ええ」

「そう言う品の流用して良いのか? この国じゃ」

「問題ないわー、法の及ぶサルベージ範囲から外れているし」

「サルベージ範囲?」

「引き揚げた人が七割、他三割って分け前があるわねー。あって無いような法律だけど、範囲はそのまんま、メルロマルク領海内では無い、所有国の無い海で引き揚げたの」


 ま、誰が引き揚げたかなんてわからないもんなー、黙っていれば誤魔化せそう。


「水の魔法を上手く使えば長時間潜っていられるでしょうけど、専門の種族に任せないとね。メルロマルクは人間絶対主義だから穴だらけなのよ。せいぜい、サルベージ用の船で引き揚げをするでしょうけど、本当に深い所は無理でしょうね」

「へー……」

「漁師が銛で水生亜人や獣人を殺そうとしてきたりもするわね。返り討ちにさせるけど」


 海も物騒なんだなぁ。


「最近は波も高いし、メルロマルク近隣は海の流れも急だし、狙い目ね」


 災厄の波の所為で海の波も危険か。

 そういや、カルミラ島へ行く時の船長が言っていたような気もする。


「暇があったら宝探しもしてあげましょうか? もう少しLvが高くないと危険なんだけど」

「お前のLvも大分上がっているからなぁ……任せられるのなら頼みたい所だな」


 海の宝って金になりそうな匂いがする。

 と、海の地図を片手に酒を飲みながら打ち合わせをする。


「う……ナオフミちゃん。お酒強いわねー」


 酒樽二つ目の真ん中まで飲んだ所でサディナの酔いが酷くなってきたようだ。


「お? ルコルの実まであるじゃないか」


 奥に何があるのかとサディナが酔い始めたのを良い事に調べる。

 ルコルの実があったので摘まみながらサディナの方へ戻る。

 この実、濃度が高すぎて腐らないし、当たらないという物らしい。

 なんか古い感じがする。味わい深い味になっているな。

 これを量産して売るのも手だとは思うのだけど、悪酔いするらしく人気は程々、あくまで庶民の酒という位置付けらしい。


「う……」


 ルコルの実を食っているのが決め手になったのかサディナが窓を開けて海へリバースを始めた。


「ウワバミって本当にいるのねー。お姉さん驚き、ヒック」

「はいはい」

「……ナオフミちゃん。正式にお姉さんのお婿さんになってくれない?」

「い・や・だ」

「あらー、お姉さんよりお酒飲める人なら良いなと思ってて、ナオフミちゃんほど適任はいないのになー」

「誰がお前みたいな奴を」

「酷いわねー。ま、それがナオフミちゃんの魅力なんでしょうね」


 なんて話をしていると……。


「――様ァア……」

「なあ、気のせいか? 凄くイヤな声が聞こえてきたのだけど」

「偶然ねー私もアトラちゃんの声が聞こえたわ。ヒック」


 声の方、浜辺に目を向けると。

 ……アトラが変身したガエリオンの背に乗って空からやってきた。


「ガエリオン! ハウス!」


 まだ一〇〇メートルくらい先にいる。

 今ならさすがのアトラも無茶は出来ない。


「キュア!?」


 アレは中身が子の方だ。

 くそう。よくよく考えてみればガエリオンに乗って追い掛けてくる可能性が否定できなかった。

 アトラも知恵を捻るじゃないか。寝ていたガエリオンを起こしてまで追い掛けてくるとは。

 ガエリオンにも口止めさせなきゃいけないな。

 ……この手で何処に居ても追いかけてきそう。

 残る選択肢は城か?


「ああ、ガエリオンちゃん。なんで帰るんですか! 尚文様は目の前にいるんですよ」

「キュアアア!」

「なら最終手段です。てい」

「キュア!? キュアアアアアア!」

「な、痛いのに頑張って飛び続ける!?」


 これ以上の接近は俺に嫌われると判断したのだろう。

 必死にアトラを抑えつけてガエリオンは来た道をとんぼ返りした。

 なんか空の攻防を繰り広げているのは気のせいか?


「……いきなりばれたぞ」

「あらまー……あれは本物ねー」

「どうする?」

「親のガエリオンちゃんなら、断るでしょ。それに嫌がるのわかったみたいだし、大丈夫ー」

「ああはいはい」

「でも別の町で寝るはしなくてよかったわね」

「……フィロリアルや魔物に乗って追って来そうだもんな」

「そういうことー」


 しばらくしてガエリオンが一匹で飛んできた。

 中身は親の方っぽい。


「まったく……諦めの悪い娘だ。押しが強いとも言えるのか?」

「迷惑を掛けたな」

「別に問題はない。ついでに話も、お? 酒ではないか、我も欲しい」

「身体は子供だぞ? 大丈夫なのか?」

「はいはーい。ナオフミちゃんがお酒強すぎてお姉さん大変だからガエリオンちゃんも飲んでってー」


 俺の言葉を無視してサディナがガエリオンに酒を勧める。


「む、中々の味。悪くはないな」

「話ってなんだ? 酔う前に話せ」

「ルコルの実を食える汝を相手に飲み比べはせぬ。クラスアップに関してのことだ」

「ああ、そういやそんな話があったな」


 時期的には行商用の魔物辺りがメインとなる。後はガエリオン自体のLvもか。

 あれから少しだけ狩りに行かせた所でLvが上がり、★がついた。どうやらフィーロから奪った分で入った経験値に調整を入れただけだったらしい。


「後はサディナ。お前か?」

「そうねーお姉さんも、もう少しでクラスアップね」


 どうもコイツ。色々と隠していると言うか、聞かないと話さないんだよな。

 試しに聞いてみるか。


「お前、Lvリセットするの、俺とする以外でもあるだろ?」

「あ、わかるー?」


 ブラフだったのに肯定された。

 確かに若干怪しいとは思っていたんだ。


「前は75まで上げた所でねーリセットさせられちゃったのよー。ここから先は秘密、ラフタリアちゃんが生まれた頃だからー……私も年齢的に子供だったのだけどね」

「あっそ。犯罪者だった訳か」

「見方によっては犯罪者ねー」


 ケタケタと笑っている。こいつ、昔は何をしていたんだ?


「お前、実質幾つなんだ?」

「女性に年齢を聞くのは失礼よ。二三です」


 メッチャ瞬きしてうざーい。

 つーか……思ったより若い。もっと年上だと思ってた。三〇代かそれくらいだと思っていたのに。

 ラフタリアって実年齢低いだろ? と言う事は一〇年前くらいか。


「これでも海の巫女をしていたのよー」

「役職を外されてリセットか?」

「まあ、そんな所ー」


 何をしたんだコイツは?

 人の過去を詮索するとか面倒だからしないけど、元犯罪者となるとー……。


「なーに?」

「何をしたんだ?」

「信念を通しただけ、別に殺人とか悪い事じゃないわ。これ以上は話せないー」


 時々、真面目に答える。何か、墓まで持っていくかのような響きをコイツは持っているような気がした。

 よく引き合いにラフタリアを出すのだけど……なんなのだろう。

 そういえばコイツはラフタリアの両親と同じで流れ者だったような話を聞いたような気がする。

 ラフタリアの両親とは昔の知り合いなのか?

 どうも……ラフタリアの親代わりと遠回りに表現しているような……気の所為か?

 これ以上は答えるつもりはないらしいから聞くのは無理そうだ。


「で? ガエリオン。クラスアップがなんなんだ?」

「フィロリアルの女王の加護を受けさせているだろう?」

「ああ、フィーロのアホ毛がクラスアップな。加護と言えば加護なのか?」


 フィロリアルっていろんな能力を持っているよなぁ。

 そうだろうとは思っていたけどさ。


「発動条件がよくわからないけど、クラスアップに干渉してくるな」


 人によっては迷惑行為だ。


「クラスアップで掛る大地の力に干渉して、可能性の拡大を行っているのだ」


 大地の力……ね?

 経験値とも言っていた。それから出てくるとなると自分の、というかステータス魔法に良い方向で関わると。


「クラスアップは活性化とも言える力の拡張だ。もちろん、勇者の加護を受ける事で更に能力は上がるが、我が言いたいのはそこでは無い」

「何?」

「おそらく、龍脈法の使える者と魔物にはフィロリアルの加護は掛らない。当たり前だがフィロリアルが掛るのは、わかるな?」

「む……」


 と言う事はサディナや谷子はクラスアップで強力な補正が掛らないと言う事になる。

 本人が強くなることだけを求めているのなら……痛い所だ。


「ああ、それを懸念して我も言いに来たのだ。前にクラスアップの補助を二名なら出来ると言ったであろう」

「そういやな」

「我も含めて三名、クラスアップにフィロリアルと同等の補正を掛けられる。別の魔物にも行うのなら考えておけ」

「フィロリアルとは仕組みが違うのか?」

「ああ……理由は忘れたがな。後、特別なクラスアップを行いたいのなら……ああ。煩わしい」


 欠片の知識などこの程度か。


「クラスアップ出来るLvでいきなりするのは危なそうだな」


 出来ない可能性も高い。


「サディナは知っているか?」

「わからないわー。私の時は、水の竜帝の力で特別なクラスアップはさせて貰ったけど」

「おそらく、その時のと比べ物にならない加護が掛る」


 ガエリオンが補足する。

 どうもサディナが前にやった事のあるクラスアップは違うみたいな言い回しだ。


「わかった。人語がわかる魔物にクラスアップする時に聞くとしよう」


 本当に強くなりたいのならガエリオンが補助できる頭数を増やすまで待てと。

 ラトに強くなる為に頼るような魔物なら、考えるだろうな。


「じゃあ、近々クラスアップをさせる方向で行く時、フィーロとガエリオンを連れていくか」


 アトラとかは……まだだな、ハクコって限界高いし。

 谷子やサディナ。他の奴隷共も必要と。



「と言う訳だ」


 魔物舎でLvが40に達した魔物達の前でガエリオンの説明を俺はした。

 ま、魔物共が人間の言葉を完全に理解しているかどうかはわからないが。しないよりはマシだろう。

 パッと見、完全に馬鹿丸出しだけどさ。


「それでもクラスアップしたい奴は着いてこい。今日はクラスアップしに城へ行くから」


 ……魔物舎の魔物共がピクリとも前に出ねー。

 やはり人間の言葉なんて理解していなかったか。


「もっと強くなりたい奴は前に出ろ」

「キュー!」

「ドモモ……」

「ピョン!」

「ガルゥ!」


 魔物舎の魔物のほとんどが我先にと一歩前に出た。

 うわ……言葉わかってやがる。

 ウサピルでさえも前に出る始末。

 ちなみに俺の村のウサピルはかなり大きく育っている。背中に乗れるほどでかい。

 どいつも強くなる事に貪欲って何なんだよ。


「はぁ……わかった。じゃあガエリオンが強くなるのを期待してお前等はそのままな」


 魔物共は俺の指示に同意して魔物舎の巣に戻って休み始める。

 頭が痛いな。


 こうして、魔物共に話をしてから谷子、サディナ、ガエリオンをクラスアップさせる為に、城へ飛んだ。

 ああ、クラスアップの儀式に関しては話す必要もない。

 ガエリオンがクラスアップの儀式中に魔法を唱え始め、干渉し、あっさりと終わったんだからな。

 ステータスは確かにフィーロの時と殆ど同じくらい上がっている。

 サディナに関しては相当な物だ。

 みんなの頼れるお姉さんだからか? あんまり地上戦は得意じゃないらしいが……。


「クラスアップの加護に関してわかっているな?」

「うん。お父さんの力がガエリオンに宿っていて私たちに力を貸してくれているのよね」

「いや、お前の親は生きていてガエリオンとくっついてる」

「何言ってるのよ。いい加減にしないと私も怒るわよ!」


 谷子の奴、自分の親であるガエリオンは完全に死んだものとして信じているんだよな。

 本人というか、本竜は口笛を吹くかのように誤魔化しているし、このすれ違いはなんなんだ?

 無茶があるだろ。


 ……誰だ? 俺の事をブーメランとか言った奴は?


 ま、そう言う訳で、ドラゴンの加護チームのクラスアップは終わったのだった。

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