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【社説】

封鎖解除の武漢 再拡大を招かぬために

 新型コロナウイルス感染が最初に確認された中国武漢市の「封鎖解除」から十日余。市民生活は日常に戻りつつあるが、武漢で起こったことを検証する情報を中国が封鎖したままではいけない。

 八日に都市封鎖が解除された人口千百万人の武漢市の死者は、十七日の同市発表で三千八百六十九人に上り、中国死者総数の約84%を占める。居住区ごとに人の出入りを厳格にチェックする「封鎖式管理」は今も続けられている。

 ネット紙は十二日、「持ち帰り総菜店の前で、市民は自覚をもち一定の距離を保って並んでいた」と、週末の街の様子を報じた。

 武漢市は同日、市内の農畜水産業大手の二百七十七社すべてがすでに再稼働したと公表した。

 しかし、やはり気がかりなのは、封鎖解除が政治的な見切り発車ではなかったかという点だ。

 習近平国家主席は三月十日に初めて武漢市を視察し「都市封鎖により感染拡大を食い止めた」と宣言。これを受け、中国当局は同二十四日に早々と四月八日の封鎖解除を発表し、その通り実行した。

 確かに、武漢市は視察八日後に、封鎖後初めて新感染者はゼロになったと公表した。だが、中国は武漢市の感染の詳しい実態と防止策の効果などの情報を公開していない。しかも、同市は十七日、「報告漏れがあった」などとして突然、感染者数三百二十五人増を発表したが、感染が解除の前だったのか後なのかは明らかにしていない。これでは、再拡大の懸念がぬぐえず、誰も安心できない。

 当局が隠蔽(いんぺい)していた感染情報をいち早く発信した地元医師は拘束された。こうした強権的な情報統制の改善こそ、武漢封鎖に至った初動ミスの教訓ではないか。

 今の武漢で最も懸念されるのが無症状感染者からの感染である。中国政府は三月末まで無症状者を感染者に算入していなかった。十五日には、無症状感染者は全土で千二十三人と発表した。

 だが、武漢大の専門家は解除の前後、「武漢市内だけで一万~二万人いる」と中国メディアに語っている。検索大手「百度(バイドゥ)」でも無症状者からの感染についての検索件数がこの一週間、前週の五倍余になっており、市民の不安が強いことがうかがわれる。

 武漢市は最近、ようやく無症状者の実態調査を始めた。こうした地道なデータ収集と正確な情報を世界と共有することが、再拡大を招かぬ最良の方法である。

 

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