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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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竜の怒り

 ガエリオンが縄張りにしていた山脈で行商をしていた亜人の集団が山賊に襲われていたらしい。

 もちろん、ガエリオンはそんな騒ぎを起こす連中を見逃すつもりはなかった。

 だが、小さな赤ん坊を抱いて逃げた亜人の女がガエリオンの巣穴に辿り着いた所で、倒れる。


「ふむ、巣の前で何の用だ。返答次第では……」


 その時、亜人の女は赤ん坊を、霞んで見えないが話しかけた相手に赤ん坊を掲げて見せたと言う。


「良かった。誰かいるのですね……私たちは山賊に襲われ、ここに逃げてきましたが私はもう……どうかこの子だけでも助けてあげて欲しいのです」

「ぬ……」

「亜人に厳しい国です。無理を承知で……お願いします」


 震える手で辛うじて抱き上げた女は赤ん坊を霞んだ目で精一杯渡そうと試みる。

 相手が人間では無い存在だと気づいている様子はない。


「……わかった。我が命を掛けてでも助けよう」


 大きな爪で赤ん坊を摘まんだガエリオンは女の願いを聞き届けた。


「ありがとう……ござ、います。その子の名前、は、ウィン、ディア……」


 そう言ったきり、安堵した女は動かなくなった。

 赤ん坊を守りたい一心で命を繋いでいたのだろう。


「ふひひ……こんな所に逃げていやがったか」


 そこにやってきた追っての盗賊。

 よく確かめもせずに追いかけてきた愚か者だ。

 曲がりなりにも近隣では噂になっているはずの地域なのだ。

 凶悪なドラゴンが住み着いていると言う話を。


「約束は約束だからな。しょうがあるまい」

「へ? な――」


 返答を前にガエリオンは思いっきりブレスを盗賊共にぶちまけた。

 あっという間に盗賊たちは消し炭になって朽ちる。


「さて、我もこの縄張りを守るだけで精一杯なのだが……どうしたものか」


 こうしてガエリオンは赤ん坊を育てる羽目になった。

 一応、縄張りに生息していた魔物達(愛人)にウィンディアの面倒を見させつつ、ガエリオンはその地を縄張りにし続けていた。

 その影響で、ウィンディア……面倒だ。谷子は魔物を家族と思うようになったらしい。

 一応、ガエリオンに取って子供はたくさんいたそうだ。

 その中に一人、亜人が混じっただけでもある。


 まあここから先は、ガエリオンの育児日記になるので省略しよう、結果だけでも問題ない。

 不器用にもガエリオンは谷子を育てた。

 愛着も十分ある。だが、なんだかんだで結局はドラゴンが亜人の子を育てるのに無理がある訳で。


 元々人間絶対主義のメルロマルクでは人里に降ろす訳にもいかず、どうにかして谷子に人並みの幸せをと考えていた。

 そんな矢先の事……。



 その日は谷子や縄張りの魔物を巣穴において巡回しつつ散歩をしていた。


「ここに生息するドラゴンはお前だな!」


 何か魔法的力を持った剣を所持する人間と、その仲間が現れた。

 時々、ガエリオンの所持する宝を求めて人間がやってくる事がある。

 人語を理解はしているが、態々相手をする必要もない。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 獣の雄たけびを上げてガエリオンはその人間に襲いかかった。

 だが、相手が悪かった。

 人間は何処で集めたのか対竜の装備と恐ろしく良く切れる剣でガエリオンを苦しめる。

 ガエリオンはこの時点で気付いたそうだ。


 最近召喚されたと噂の勇者、所持している武器から剣の勇者だと。


 実際の戦闘時間で言えば三〇分程度。

 その切れ味にガエリオンは不利を悟って逃亡を試みようと思った。

 しかし、巣穴には谷子や魔物達がいる。


 ここで逃げては……。

 魔物達の事は、多分、大丈夫だ。本来はここで生息する者達である。覚悟はある。

 だけど谷子はそうではない。

 臆病で人里に下りてきた竜帝の小さな欠片は逃げずに人間と戦い……敗れた。


 罪と言えば生きる事自体が罪だろう。

 だが、自分の縄張りを守っていただけなのに宝を求めて奪いに来る人間達。

 その事をガエリオンは酷く憤りを感じた。

 意識を失うその瞬間……ガエリオンは剣の勇者の顔を凝視した。


 あれは……戦う覚悟のある者の目では無い。

 まるで作業のように……自分は殺される。


 そう、ガエリオンが命を掛けて戦っていたこの戦いは、剣の勇者に取って唯の作業でしか無かったのだ。


 理不尽に気が狂いそうになる。


 夜泣きで困らせた谷子の泣き顔。

 出かける時に少しさびしげにしている顔。

 帰ってきた時のうれしそうな顔。


 そのすべてがもう見る事が叶わない。


 竜帝の欠片は不滅。

 だが、何時蘇られるか、谷子に再会出来るかなんて保証はない。

 核を取り出され、利用されてしまっていたら、復活など不可能。


 そんな、絶望と怒りの中でガエリオンの生命は停止した。


 幸いにして竜帝の欠片を奪われる事は無かった。

 動けない体で核を作り新たな肉体構成を待つ。

 その過程で体が完全に腐り始めた時はうんざりしたとガエリオンは告げる。

 核を継承させられる子がくればよかった。

 だが、その願いは叶わなかった。巣にいる子達も駆逐されたのだろう。


 やがて意識は落ち、竜帝の本能で動き出した。

 既に理性なんてない。

 思い通りに動かない体。

 情報でしか辺りの事を察知できず喋れない。

 既に、辺りには汚染された大地しかなかった。


 おそらく、谷子や子供達は死んでしまっているだろう。

 復活と同時に、近くにいた連中の一匹、フィロリアルに核を食われて活動を停止した。


 ――恥を受けても良い、プライドを捨てても良い。

 せめて一撃で良い。剣の勇者に一矢報いれば、それで良かった。



「まあ、その後は盾の勇者。お前の盾の中で機会を伺いながら、待っていたという訳だ」

「で、調度良い媒介であるドラゴンの卵を俺が手に入れたから意識を移していたと」

「そう言う事だ。まさかウィンディアまで生きているとは幸運であったがな」


 ガエリオンはフィーロに視線を向ける。

 えーっと長話だったからアトラが寝息を立てている。

 横になって話をされると寝る癖があるな。


「さすがにフィロリアルの体内に収められては我の力も抑えられてしまう。厄介な者だったぞ、汝は」

「ぶー!」


 敵意剥き出しでフィーロはガエリオンを威嚇する。


「で? 谷子はどう言った経緯でこの村まで来たんだ? 俺は奴隷商から買っただけで知らんぞ」

「汚染された大地から力を吸い取った所で大体は察した。剣の勇者が我を殺した後、宝を求めて村の連中が巣穴に乗り込んできたようだ。我の子等は全滅、ウィンディアは卵諸共、我の加護があった事もあり、何より顔が良いから売られたのだろうな」


 ああ、そういやドラゴンの卵って結局、巣穴とかから奪う訳だろうしな。高く売れるだろ。

 妙に金回りが良いと思ったら、そういう裏があったという事だな。

 要するに、東の村の連中って自業自得でもある訳か。


 いや、ドラゴンの方の視点で言えばだけどさ。

 実際、人間ってこういう、片方の目で見ると悪である事を当たり前のようにやっている訳だし。

 俺だって何処かでそう言うのをしているかもしれない。

 魔物退治なんて実際、魔物からしたら殺戮でしかない訳だ。


「同情はしないぞ」

「わかっている。我がどれだけ汝の盾の中で同調していたと思っているのだ。所詮は弱肉強食、諦めもする。作業で殺された挙句、我が肉体を腐敗させて放置させたのは許せんが、報いは受けた者が多いからな」


 そういや、東の村の連中は結構死人を出していた。

 報いと言えば報いか。


「我は復活の時を待っていたに過ぎん。そしてこうして肉体を得て、ここにいる」

「はいはい。俺に従う気が無いならな谷子と一緒に出てけ。それ位なら許してやる」

「別に従わないとは言ってないであろうが、体の持ち主も汝を好いているからな」

「ごしゅじんさまはフィーロのなのー!」

「黙れ次期女王! 奪った者勝ちだ! 今期こそ、勇者の寵愛を我が手に入れて見せると持ち主も言っておる」

「むー!」

「寵愛ってお前なー……」


 ペットズが俺を取りあって何を騒いでいるのやら。

 面倒だから追い出すか?

 ああ、フィーロはアトラ対策でここに居る訳だし、追い出すのは面倒か。


「で、結局、お前は何がしたい訳?」

「我は真なる竜帝として欠片を集めて強くなりたいのだ」

「断る。面倒。一匹でやれ。俺にやる義務はない」

「わーバッサリ切るわねナオフミちゃん」

「伯爵の決断力は凄いわ。ドラゴンの生態解明が進んでいるのにそんな事言っちゃうって……」

「解明? こんなにベラベラ喋るのなら記述がありそうだが?」

「あっても信じて貰えなかったのでしょうね。なんか信憑性の無い論文で読んだ覚えがある気がするわ」


 俺に拒否られたガエリオンが絶句から立ち直って、喋る。


「話くらい聞いてもいいであろう」

「面倒」

「では勝手に話すぞ、我は強くなりたい。そして器も素質を備えているし、強くなる。おそらく生前の我よりも強くなっていくであろう」

「あっそ、じゃあ良いんじゃないか? なんで竜帝の欠片を集める必要がある?」

「災厄の波によって竜帝の欠片が集まろうとしているのだ」

「へー……波側として?」

「違う。世界の……」

「どうした?」

「我の知る欠片の情報ではこれが限度だ。ただ、大きな問題に備えて集まろうとしているのだ」

「はいはい」

「そのドラゴン同士の欠片を掛けた戦いに勝てば、我も竜帝として更に強くなれる。そして誓おう、我は汝に力を貸す」

「当たり前だ。貸す以前に、既に貸さないと殺す」

「む……だから話を聞け、もしも我を強くする事に協力してくれるのなら、竜帝の知る知識を汝等に授けようと思っているのだ」

「負けた奴の知識なんて知ってもなー……」


 あんまり頼りにならなそう。


「消失したLv一〇〇以降の限界突破の方法でもか?」

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