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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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Lvドレイン

「キュア!」


 袋が倒れて中身が出る。

 最近ガエリオンにまた悪い癖が付いた。

 前回はピンポンダッシュだったが、今回は袋漁りだ。

 その都度叱っているのだが中々やめない。


 アトラが大人しくなったと思ったら今度はガエリオンか。

 ま、フィーロも同じ事をするんだけどさ。未だに。

 ちなみにフィーロは宝物と称してゴミを漁ってくる事がある。

 所詮は鳥だ。ガエリオンも変わらん。


 ああ、きっとゴミ漁りも張り合って縄張り争いでもしているんだろうな。


「あーもう……片付ける事を考えろよ」


 袋から魔物の骨や鉱石、あと、蛮族の鎧に付けていた腐竜の核が転がり出た。

 ころんころんと腐竜の核は転がる。

 ガエリオンはその腐竜の核に目が行ったのか、転がるそれを目で追って、じゃれ始める。

 猫みたいな反応。

 そういや、ガエリオンもフィーロと同じく光り物が好きだよな。

 腐竜の核も最初、フィーロが目を輝かせて見てたっけ。自分が分けた癖に。


「キュアア!?」


 楽しげなその様子に、僅かに和むのだけど、そんな状態じゃないな。

 ささっと叱って片付けよう。


 パク!


 ガエリオンが腐竜の核を銜える。


「おい。それはお前の物じゃないぞ。早く返せ」


 だが、俺の注意なんてどこ吹く風とでもいうかのように、ガエリオンは。

 腐竜の核を口の奥深く……ぶっちゃけると。


 ゴックン。


 飲み込んでしまった。


「コラ! 吐き出せ!」


 ガエリオンの胸倉をつかんで揺らす。

 えっと、魔物紋にそう言う罰則なかったっけ?

 とシステムを弄ろうとしたその時。


「キュ!?」


 ビクッとガエリオンが痙攣したように動き、目を大きく見開く。


「キュ……ギャ……ギュウウ……」


 そして冷や汗をかきながらきつく目をつぶって何かに堪えるかのように呻く。

 心なしか、ガエリオンの全身から何かがきしむ音が聞こえる。


「お、おい」

「どうかしたの?」

「あの……ガエリオンちゃんから物すごく禍々しい気が溢れ出ているのですが大丈夫ですか?」


 禍々しい気?

 と尋ねる前に、ガエリオンから黒いような紫色のような肉眼で確認できる何か……魔力のような物が解き放たれた。

 この色、見覚えがあるぞ。

 ラースシールドにした時、フィーロが纏うオーラに似てる。


「ギャオオオオオオオオ!」


 目が赤く血走り、天井に向けて吠える。

 そしてガエリオンの口から魔力のブレスが放たれて一瞬で天井が吹き飛んだ。


「ギャ!」


 バサァ……っと翼を広げ、ガエリオンは空高く飛び出した。

 よし! ちょうど魔物紋を開いている。罰則で落とそう。

 魔物紋を発動!

 だが、バチっと視界が歪み、魔物紋が作動しない。


「ギャオオオオオオ!」


 ガエリオンは高い声で鳴いたかと思うと、何処かに向かって飛んで行ってしまう。


「な、何が」

「何が起こったの?」

「ガエリオンが俺の鎧に使っていた腐竜の核を食った。そうしたら」

「何か……ガエリオンちゃんに纏わりついていました……それと――」


 建物から飛び出し、ガエリオンが飛んで行った方向を見る。


「な、なんだ?」


 村に残っていた奴隷が騒ぎを聞きつけて飛び出してきた。


「何? 何が起こったの?」


 ラトと谷子が一緒に、俺たちが見ている方向を見る。


「実は――」


 俺はガエリオンが腐竜の核を食べてしまい、ああなった事を説明した。


「腐竜の核って……伯爵は変なモノを持っているわね」

「何か心当たりはないか?」

「私もドラゴンはそこまで詳しくないのよ。というかドラゴンはその生態がかなり謎に包まれている種類でもあるし……他のドラゴンから見つかった核石を欲しがるとは聞くけど、暴走したなんて……」

「追いかけなきゃ」


 谷子が焦ったように言う。そりゃあ大事なドラゴンだしな。

 腐竜の核は俺の鎧に使われている大事な物だし、最悪、ガエリオンを倒してでも取り返さないといけない。


「わかっている。フィーロを呼んで出発するしかない」 


 そのまま追いかけるという手段が無い訳じゃないが、フィーロを呼んだ方がはるかに早いだろう。

 まったく、乗ってもないのに処分しなきゃいけないってどんなドラゴンだよ。


「隣町に馬を……」


 兵士の用意した馬に乗って、俺はフィーロを呼びに行く。

 その途中で町の方からも兵士が馬に乗って走ってきた。


「あ、盾の勇者様! ちょうどお呼びしようと迎えに行く最中でした」

「どうした? こっちも用事があるのだが」

「至急、メルティ王女が盾の勇者様をお呼びです。盾の勇者様の神鳥に異常があるそうで」

「何!?」



 兵士に案内されて向かったのは町に建築された治療院だ。

 治療院に入ると、メルティが今にも泣きそうな表情で駆け寄ってくる。


「あのね……フィーロちゃんが突然苦しみだしたの。ナオフミ。フィーロちゃんを助けて!」

「いきなり言われても俺は医者……治療師じゃないからわからない。だけどどうにか出来るのならやるさ」

「絶対よ!」


 とは言われても、本当にヤバイ病気とかだったらイグドラシル薬剤に頼るしかない。

 問題は在庫が一つしか無いのだけど、フィーロになら使っても良い。

 そう思わせる程度にはフィーロに愛着もあるし、金も惜しまない。


「とにかく、様子を見させてくれ」

「うん」


 メルティと治療師に連れられて診察室に入る。

 そこには魔物の姿でぐったりと横たわっているフィーロが居た。


「うう……ううん……」


 腹部を中心に、ラースシールドに変えた時のような変化が全身を浸食している。

 いや、もっと悪い。立ち上っていると表現するのが良いだろう。

 頭の冠羽が光って抗っているようだけど、浸食の方が勝っているような感じだ。


「何が起こっているんだ? イグドラシル薬剤で治るか?」

「不明です。ですが呪術的な意味合いが強いので、さすがのイグドラシル薬剤でも効果は期待できないでしょう」


 治療師が困惑しながら俺の問いに答える。

 ステータス魔法でフィーロの状態を確認する。

 毒に犯されているとか、マヒをしているとか簡単な物なら判別できる。


「あ、ごしゅじんさま……」


 苦しそうに呻きながらフィーロは俺を見て手を伸ばす。

 俺はそっとフィーロの頬に触れる。

 人化している訳じゃないけれど、それでも頬をなでると、フィーロは苦しそうにうめきながらも気持ちよさそうに目を細めた。

 そうして確認を続行する。


 フィーロのステータス画面が何度も砂嵐のようにチラつく。

 どう考えても普通じゃない。

 でだ、ここで大きな問題に気づく。

 フィーロのLvが俺の知る数字よりも低くなっている。


 Lvダウン? 何が起こっている?

 可能性が複数浮上する。

 決定打にするには、状況証拠だけでしかないのが問題だ。


「……村からラトを連れて来てくれ」

「わかったわ」


 しばらくしてラトだけではなく、アトラ、谷子、サディナが一緒に来る。


「フィーロちゃん!? 何があったの?」


 谷子がフィーロに駆け寄って心配する。

 普段はガエリオンと仲の悪いフィーロを毛嫌いしているが、こう言う時は心配するんだな。

 魔物が好きだから当たり前なのか?


「ラト、どう思う?」

「どうと言われても、何か呪いにでも浸食されているかのようとしか言えないわね。ちょっと見させて貰える?」


 ラトは治療師が診断した物を読み、フィーロを触診する。


「ステータスを見ると、少しずつLvが下がって行っている」

「Lvダウン? それって相当高位の呪いよ? にしてもここまで酷い物は見た事が無いわ」

「時期的にガエリオンの暴走と関わりがあると俺は踏んでいる。お前はどう思う?」

「間違いないと思うわ。でも……ガエリオンとフィーロとで接点なんてあったかしら?」

「もしも、腐竜の核が原因だとしたらと仮定すると、ある」

「何よ?」

「腐竜と遭遇した時、フィーロはその核を食べているんだ。俺が貰ったのはその欠片でしかない」


 実際、フィーロが腐竜を倒したような物である訳で、その時の決定打が腐竜の核をフィーロが食べた事に関わっている。

 それが大きく関わっているとしたら、納得が行く。


「なるほど、ガエリオンが暴走する事で核を食べたフィーロの方にも影響が出ていると見るのが妥当ね」

「だろうな」

「じゃあ、ガエリオンの方を確認しなさい。なんとなく、それだけで収まっていない気がするわ」


 俺はガエリオンの方のステータスを確認した。

 やはりフィーロと同じく砂嵐が起こって読み取れない物が多い。

 が……。


「Lvが急上昇している」


 目に見えて増えている。

 35しかなかったガエリオンのLvが45になっている。

 ……クラスアップ限界を突破しているな。


「あの……フィーロちゃんから禍々しい力が流れ出ているのを感じます」

「そりゃあ見りゃわかる」

「いえ、そうではなく」


 アトラが何かを指差している。

 そこには何もないはずなのだが。


「アトラちゃんは目では見えない別の物を感じ取っている子だから、流れ出た力の移動先をわかっているのかもしれないわね」

「ふむ……」


 その可能性は十分あるな。

 意外と役に立つ能力を持っている。

 問題は、考えられる物としてフィーロから流れ出ている力の行方か。

 方角的にガエリオンが飛んで行った方向と同じだ。


「フィーロの中にある核を吐き出させる事は出来るか?」

「無理ね。魔力感知もついでに掛けたけど核らしい物が全身を循環しているわ」


 フィーロのステータスを確認する。

 ラフタリア達を呼び戻して、追ったとして……この減少速度だと二日と持たない。

 どう考えてもフィーロのLvが1になる方が早い。

 いや、1になって止まるのならまだマシだ。最悪、死ぬかもしれない。


「あと、尚文様からも力が漏れています」

「何?」


 俺は自分のステータスを確認する。

 見た所、その様子は見られない。


「その、今は左腕の辺りからです」


 調度、盾を付けている所だ。

 となると盾からも……って盾に核石入れてたじゃないか。

 じゃあ盾の能力が下がるとでも?


 一応、一覧を確認して見るが特に異常はない。

 むしろ、なんか心がスッキリしている位だ。


 何を怒っていたんだっけ?


 ……やばい気がしてきた。


「とりあえずは戦闘顧問の修業先をつきとめて、戻ってくるように指示を出せ。俺たちは急いでガエリオンを追う!」


 そうでもしないと時間が足りなくなる。

 アトラが決意に満ちたように前に出る。


「尚文様、フィーロちゃんに少し試したい事があるのですが」

「なんだ?」

「少しでも漏れ出るのを私なりに抑えてみます」


 アトラが横になるフィーロの胸に手を当てて、軽く手を添える。


「ん……あ……」


 苦しそうに呻いていたフィーロが目を開けて、ゆっくりと起き上がった。


「少しだけ、軽くなったよ」

「フィーロちゃん!」


 メルティがフィーロに駆け寄る。


「時間は稼げると思います」

「じゃあ……馬車を……」


 くそ、乗り物として足が速い奴がいない。

 フィロリアルは行商に行かせてしまっている。

 町に居るフィロリアルを借り上げて行くしかないか。


「ガエリオンの追撃は俺とサディナとえっと、谷、じゃない。お前とラト――」

「ごしゅじんさまの馬車は……フィーロが引くの」


 フィーロが目は強い意志を持ってアトラを背負って言い放つ。


「ダメよフィーロちゃん! アナタはじっとしていなくちゃ」

「そうだ。お前は安静にしていろ」


 しかし、フィーロは首を振って拒む。


「やー……。フィーロは、絶対に、付いて行くの」


 普段の元気が無い。だけど、齧りついてでも付いて行くと一歩前に出て言い張る。

 ……これで置いて行っても、きっと追ってくるだろう。

 なんだかんだで頑固な所があるからな。


「何かあったら治療院に預けるからな。で、別の奴に馬車を引かせる」

「尚文様!?」

「アトラも抑えていられるか?」

「は、はい!」

「よし」

「私も行く!」


 メルティが今にも泣きそうなのを堪えて言い放った。

 ま、親友のピンチなんだ。ここでフィーロと同じく無理やりにでも付いてくるだろう。

 王女の立場を無視してな。


「絶対に無茶をするなよ。お前は王女なんだから」

「王女である前に、フィーロちゃんは私の友達よ!」

「そうか」


 ……前はフィーロがメルティを守りたいと駄々を捏ねたな。

 フィーロは良い友達を持ったもんだ。


「じゃあ、俺たちは先行してガエリオンを追う。ラフタリア達には城の兵士共が急いで通達してくれ」

「「は!」」


 こうして俺たちは頑固なフィーロに無理をさせて馬車に乗って出発したのだった。

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