『魔界騎士と次元の悪魔』は、ゲームでは対魔忍の宿敵だったが、今まであまりスポットが当てられることのなかった吸血鬼エドィン・ブラック率いるノマドのストーリーだ。
主役は魔界騎士イングリッド。
決まっていたのは、ノマド側の話にすること、イングリッドの新フォームを出すこと、そして大人のさくらと共闘することだった。
初めての敵サイドに焦点があてられるとあって、今までイベントに出てこなかったキャラが色々と出てきたり、イングリッドとさくらだけでなく、ボスも変身したりと色々と趣向を凝らしている。
イングリッドの初登場は2008年。
対魔忍シリーズの5作目、外伝となる『対魔忍ムラサキ ~くノ一傀儡奴隷に堕つ~』からで、シリーズにおける代表的な敵キャラだ。
対魔忍ワールドでは比較的珍しい黒肌で、敵だが堂々たる武人、堅物なのにやたらと露出度の高い服ときて、代表的なくっころキャラのポジションも確保している。
そのおかげか、『魔界騎士イングリッド』のタイトルで、アニメにも実写AVにもなっている人気者だ。
対魔忍RPGでは、イベントでの出番は少ないものの、ローンチから登場している優秀なアタッカー&サポーターであり、魔剣ダークフレイムで道を切り開いているところをしかと見たことのないプレイヤーはいないだろう。
このダークフレイムという名称、もともとは『対魔忍アサギ3 』を書いていたとき、剣になにか名前が欲しくて仮につけておいたものだが、そのまま採用されて現在に至っている。
今どき小学生でもつけないような安直な名前が、逆にネーミングセンスに難ありというイングリッドのキャラ立てに一役買っていてちょっと面白い。
そんなイングリッドだが、改めて考えてみると、私はそれほど書いていない。
『対魔忍ムラサキ』には参加していないし、『対魔忍アサギ3』のときはノマド内のちょっとした会話の他は、朧との内輪もめバトルと、仮面の対魔忍との戦闘シーンくらいで、エロシーンはまったくやっていない。
『決戦アリーナ』では、ゲーム開始直後に選べる『イングリッド』のくっころ即堕ちシーン、飛影の邪王炎殺拳みたいな姿になる『【邪龍召喚】イングリッド』*1、デレデレに酔っ払ってキャラが完全に崩れている『【新春美女】イングリッド』くらいだ。
こうやって並べてみると分かるが、アサギとイングリッドが絡んでいるシーンがない。
私が書いていないだけでなく、今までにそういう場面があまりなかった。
おかげで今回、アサギのライバルという表現に違和感を覚えた方もいたようだ。
実際、『公式設定資料集 対魔忍Saga』のキャラ相関図を見ても、アサギとイングリッドの線が結ばれていない。ブラックや朧はちゃんと宿敵となっているから、知り合いではないかのようだ。
私としては、ゲーム世界はさておき、対魔忍RPGではボスのブラックが表に出てこない分、ノマドの魔界騎士として何度も対決している(であろう)イングリッドがアサギのライバルに相応しい気がしている。
『マジンガーZ』で例えるなら、アサギが兜甲児、ブラックがDr.ヘルで、イングリッドはあしゅら男爵と言ったところか。ものすごい忠誠心があるところも似ている。毎回「お許しください、ブラック様」と言っているかどうかは知らないが。
それはさておき、イベントの目玉はイングリッドの新フォームだ。
これは決戦アリーナの『【邪龍召喚】イングリッド』の流れをくむもので、クライマックスで格好よく変身して、必殺の邪王炎殺黒龍波――じゃなかった邪炎ノ龍爪剣でラスボスにとどめを指している。
今回、まず考えたのがこのラスボス、というより敵を何にするかだ。
普段は敵味方のキャラを共闘させるには、まったく別の敵が脈絡なく現れるのが定番だ。要するに劇場版だ。
ところがイングリッドとさくらは強い。そりゃもう強い。
さくらは結構ドジっているが、あれは聖闘士星矢でいえば牡牛座のアルデバランのような役がまわってくるからで、基本的には作品世界で最強クラスだ。
少しばかり強い敵を出しても、それぞれ勝手に倒してしまう。
ましてノマドサイドの話をやるなら、イングリッドには仲間がいるはずだ。いきなりさくらと手を組むわけがない。
そこでヨミハラを謎の天変地異が襲い、イングリッドの仲間が軒並みダウンしてしまい、ラスボスも一人では倒せないという展開を考えた。そうすれば共闘のチャンスも生まれる。
ただ、始まっていきなり大異変が起こっているのも唐突だし、まずノマドサイドの話をしっかりやりたかったので、セクション1を少し多めに使って、イングリッドたちが偽のラスボスを倒してしまったことで、本当の危機が始まるという導入にしている。
イングリッド以外でノマドの誰を出すかについては悩みどころだった。
まず消去法で、ストーリーの根幹に関わりそうなブラックは出せない。
今回やりたい「イングリッドと愉快な仲間たち」としては使いにくい朧、フュルスト、フェリシアもやめておく。
あと誰か残っていただろうか?
手持ちの資料で「ノマド」と検索をかけると……何人かいた。
まず魔女のエレーナ。
そうは見えないが、ノマドに所属している。
小心者という設定は使いやすそうで、今までイベントに出てきていないのもいい。採用。
ユーリヤはその込み入った設定から、話の本筋にはちょっと絡ませにくいが、エピローグで出すのにちょうどいい。
イングリッドの遠縁で引きこもりのドロレスにも出てもらう。本人は嫌がるだろうが、部屋から引っ張り出す。
我らが魔界騎士のリーナはもちろん登場する。ついに訪れたイングリッドとの共演の機会だ。リーナが逃すわけがない。
物語はノマドで地震が起こり、デモンズ・アリーナが異世界に繋がるところから始まる。
ここの元ネタは『ドラえもん のび太の宇宙開拓史』で、だからこっちと向こうとで重力の方向がズレている。
この異世界がどことは明記していないが、背景はすべて以前手がけた『装甲騎女イリス』*2から異星人の娼館のものを使っている。同じゲームの絵なので統一感もあるはずだ。
探索のメンバーは、イングリッド以下、リーナ、エレーナ、絵なし名なし台詞なしのモブキャラたちだ。
どっちの方向に行くか相談して決めたり、何もない部屋でああだこうだと話し合ったりと、本来の意味でのRPGっぽいやりとりをしている。
それにしても、リーナはイングリッドのお供ができる嬉しさでいつにも増して前のめりだし、エレーナはいつもどおり臆病で消極的で、この二人を率いるイングリッドは大変そうだ。
もちろん二人ともイングリッドが頼りにする人材なのは間違いなく、特にリーナは斬り込み役として大活躍している。
前に手がけた『降ったと思えば土砂降り』のときもそうだが、リーナは基本がポンコツな分、戦いではなるべく有能にしている。でないとバランスがとれない。
アスタロトなどの最強クラスには及ばないものの、魔界騎士として相当に強く*3、イングリッドの右腕という風に書いている。
いつまで経っても印象が変わらないのは、いくらレベルを上げてもポンコツのスキルまで一緒に上がっているからだろう。
エレーナは偶然だが眠りの魔法を得意としている。メイジはとりあえずKATINO。Wizardryの基本だ。
彼女にはイングリッドのブレインとしても活躍してもらっている。
普段は戦闘であてにならないので、むしろそっちで頼りにしているような書き方になった。
ノマドの仕事以外に「安眠屋」をやっているという設定は面白いので、またどこかで使ってあげたい。
そして、一見ラスボスに見えるクラゲをあっさり倒してプロローグが終わる。
ラスボスがなぜクラゲかというと、もともと雑魚モンスターのストックにイカと魚がいて、今回のイベントにどうかと提案され、気持ち悪いデザインで確かにぴったりだったので、それに合わせてボスをクラゲにした。
その姿はともかく、平面に潜んでいるラスボスをさくらが影で見つけるという展開は頭にあったので、ペラペラになる海洋生物としてクラゲを選んだというわけだ。
デザインを一工夫して、偽物は綺麗な色で、本物はグロテスクな色にしてもらった。アメリカの食べる気がなくなるどぎつい色のケーキをイメージしている。
ところで、イベントでは連中がなんなのか、なぜ施設が封鎖されていたのか、まったく説明をしていない。
メ・デューズ、カナロア、スィールといった名前も戦闘画面には出てくるものの、イングリッドたちは知り得ないままだ。
一応考えてはいて、あそこは『装甲騎女イリス』と同じく各種異星人のための娼館で、ずらりと並んだ部屋は奴隷娼婦のための個室、連中はマニアックな客のために作り出された調教用生物だったが、あるとき悪質な呪いをもたらすクラゲが生まれ、管理者の手に負えなくなって娼館まるごと異空間に閉鎖されたが、実は中で共食いしながら生き残っていたという設定だ。
しかし、どことも知れない異世界に行って、いきなりそんな事情が分かるのも妙なのでぜんぶ省いている。
セクション2が始まると、リーナはもう寝たきりだ。
ちょっとかわいそうだが、ここでイングリッドに励まされるという重要な役は他のキャラにはできない。生来の魔力が弱いという設定もまさに使いどころだ。
今回、このリーナとの場面もそうだが、イングリッドがエレーナに魔女としての判断を求めたり、弱気になる魔界医を力づけたり、一人になってから感情を爆発させたりと、上に立つ者としての姿を色々と描けたのは良かった。ノマドサイドのストーリーならではだ。
そしてドロレスが登場して、異変の原因が呪いであることが判明する。
イングリッドにとっては「ようやく」だが、シナリオでは「簡単に」分かっている。
ドロレスも「ペイン」という呪いを使うからという強引な理由だが、情報収集にあまりシナリオを割く余裕はないので、続くさくらのシーンでも手っ取り早く済ませている。
このドロレス、決戦アリーナで最初期に作ったキャラで、いつになっても実装されないのでお蔵入りになっていたと諦めていたら、忘れた頃にいきなり登場したという経緯があり、対魔忍RPGにもローンチからいる。
既存の誰かの関係者にしておけば、イベントとかにも出しやすいだろうという小細工で、イングリッドの遠縁にしておいたのだが、やっとその設定を生かす機会が訪れた。
実は決戦アリーナには、実装されなかった幻のチャプター11があって、そこでもドロレスを書いていたので感慨もひとしおだ。
イングリッドが再び異世界に赴くと、ようやくさくらのターンになる。
イベントの報酬キャラでの登場だ。対魔忍には見えないが、先生にも見えない。しかし怪しい酒場には合っている。
酒場のオヤジは、『対魔忍アサギ外伝 サマーデイズ[』から、ブッカの絵を流用している。そっちでは陵辱役だが、気の良いオッサン風の表情差分があったので登場してもらった。
それにしても、新しい街に来たらとりあえず酒場で情報収集とか、今回はつくづく懐かしのRPGじみている。
さくらにも早く呪いのことを伝え、とっととイングリッドと合流させたいのだが、街に入ってすぐに重要なことを教えてくれる便利キャラに誰を使うかが問題だ。
例によって「呪い」で検索をかけると、「メリィ」、「カテジナ」、「ナドラ」と三人の候補が見つかった。
メリィはオドオドキャラがエレーナと被っているのでやめておく。
カテジナとナドラは、二人とも能力のために人目を避けている境遇だが、魔眼でなんでも見えてしまうというナドラは色々と都合が良い。よし、ナドラにしよう。
ただ、人目を避けて暮らしているナドラがいきなりさくらに会いに来るのはおかしい。
そこで、ナドラの魔眼の能力を示すついでに、彼女の知り合いということで、謎の人徳の持ち主、歴戦のオーク傭兵のおっさんにまた登場してもらった。
若さくらとは知り合いだが、大人さくらとは初対面というポジションも掛け合いがやりやすい。
若さくらには「孕ませてみたいな~!」とかエロい軽口を叩いていたおっさんが、大人さくらに「私のこと口説いてる?」と聞かれて、こちらはぶっきらぼうに返す反応の違いも書けて楽しい。もちろん、おっさんが女として意識しているのは大人さくらの方だ。
ところでこのおっさん、何度も出ているわりには名前がなかったので、試しに「アルフォンス」と付けたら、そのまま通ってしまった。
ということで、おっさんの名前はアルフォンス。犬や猫やレイバーだったり、鎧だったりするアルフォンスだ。
『シティーハンター』の海坊主の本名が伊集院隼人であるように、いかついおっさんの本名がお洒落というのはお約束だ。
さくらがノマドに到着すると、向こうの世界から海洋軍団が溢れ出している。応戦するノマドは呪いのために劣勢だ。
そのピンチに思わず飛び出してしまうところはさくらの面目躍如だが、このシーンの見せ場はやはりリーナによる仲間の説得だ。
もともと、この役目はリーナにするつもりだったが、ここで『降ったと思えば土砂降り』で、リーナ、アスカ、黒田巴を共闘させていたことが役に立った。
そういう過去がちゃんとイベントとしてあれば、セリフにも説得力が出てくるというものだ。
ついでに、リーナが「なかなかの人物」と評価している巴の正体をプレイヤーだけは知っているという状況も、真面目なシーンなのに妙なおかしさを醸し出してくれた。
そんなこんなで、イングリッドとさくらが合流してからはボスまで一直線だ。
一応、雑魚を蹴散らしているが、それはおまけでメインは二人のかけ合いだ。
堅物のイングリッドと能天気なさくらの会話はとても書きやすい。アサギではこうはいかない。
しかも、リーナがとっておきのアイテムで二人をうまく繋げてくれた。これも『降ったと思えば土砂降り』の副産物だ。まさかこんな風に使うとは思ってもみなかったが。
そして、いよいよラスボスとの戦いとなる。
イングリッドを信じてその身を託すさくら。
そんなさくらの心意気に応えて、新フォームに変身するイングリッド。
満を持してという感じだ。カガミ氏によるポーズも実に格好いい。
一方、ここのさくらは珍しくシリアスにしている。
前にも書いたことがあるが、普段のおちゃらけたさくらは半ば演技で、こっちが素顔という気がしている。
スタンドやテリトリーのように、対魔忍の忍術も本人の性格に影響を受けるとすれば、影に潜むというさくらの能力は、あの軽いキャラクターに合っていない。
能力から言えば、アサギや紫よりさくらの方が間違いなく暗殺に向いている。「接近での暗殺こそ影遁の独壇場」と言うわけだ。人に言いたくない汚れた任務も山ほどこなしてきたに違いない。
スパイダーマンが恐怖を堪えるために軽口を叩きながら戦うように、さくらも対魔忍としての闇を隠すために普段はおちゃらけている。
最初は演技でやっていたが、やがてそれが本人にとっても自然になって、だがふとしたときにふっと素顔が出てしまう。そんな風に考えた方が私にとっては魅力的だ。
今回、ナドラとの会話で「いい女は胸の内は誰にも見せないのさ」と言っているが、見せられる誰かができることを願わずにはいられない。
さて、隠れていたラスボスを引っ張り出したら、戦闘画面ではちゃんと戦うことになるが、シナリオではごくあっさり倒している。ここで引っ張ってもしょうがない。
その後は、イングリッドが倒れ、目覚めてからのリーナたちとのやりとりを挟んで、さくらとの二人だけの会話になる。
「一度だけ手を貸してやる」という約束、定番中の定番だがやはり良いものだ。
それをどういう形で出すかはまだ考えていない。私がやるかどうかも分からないが、もしやるならせっかくの伏線、うまく使いたいものだ。
最後はユーリヤを出して終わりだ。
ほんのちょい役だが、ブラックの直属というキャラがキャラだけに、良い感じにストーリーを締めてくれた。
ユーリヤ本来の「お仕事」の話もやってみたいのだが、なかなか扱いの難しいキャラなので悩みどころだ。
ということで、今回は対魔忍の敵であるノマドのお話となった。
あまり敵を魅力的に書くと、いざ主人公サイドとの決戦になったとき色々と辛いのだが、特にこんな絵を描いてもらったりすると……ほんとにもう、素晴らしすぎる。旭さん、ありがとうございます。ではまた。