背景にあるのは、生活保護で暮らしている人々、また生活保護を申請しようとする人々の“人権”だけではない。当事者が新型コロナに感染すれば、福祉事務所をはじめとする機関で働く人々の健康にも、さらには自治体の業務にも支障が及ぶ可能性がある。生活保護に関係するすべての人々を守るためには、結局、最も立場の弱い人々を守る必要がある。

 厚労省・保護課には、疫病を退散させる妖怪アマビエを召喚する能力は期待できそうにないが、生活保護制度の運用を変えることならできる。しかし、制度を充分に機能させるためには、それだけでは不十分だ。

それにつけても問題は
低すぎる生活保護基準

 今、妖怪アマビエが降臨したら、2013年以来、低められてしまっている生活保護費という壁に直面することになるだろう。

 生活保護費のうち生活費分(生活扶助)は、2013~2015年度および2018年~2020年度の2回にわたって、引き下げられている。2018年の見直しによって、若干の増額となった世帯もあるが、2012年度以前の水準に戻った世帯はないと見られる。

 特に高齢者世帯は、2006年に老齢加算が廃止されていたところに、2013年以後の引き下げが重なっており、もう「下げしろ」がない状態だ。どう考えても、「最低限度ではあるけれど『健康で文化的な生活』が保障されている」とは認めにくい。

 生活保護では、生活保護基準の範囲で暮らすことが求められる。年金や児童手当などの収入があれば、その分は保護費から全額差し引かれる。就労収入がある場合、手元に若干は残るのだが、「働いたら損」と思わせないために“イロ”をつけている程度だ。基本的に、「生活保護なら、生活保護基準以上の消費をしてはならない」という原則は揺るがない。

 この原則に照らすと、今回の新型コロナに関連する一時金・支援金・給付金の類は、「受け取ってもかまわない」とされる例外に該当しない限り、全額が召し上げられてしまうことになる。例外扱いされてきたものの代表例は、災害時の義援金だ。