中国で誕生の遺伝子編集の双子、短命のリスクか 研究
【6月5日 AFP】中国の研究者がゲノム編集の技術を使ってエイズウイルス(HIV)に耐性がある遺伝子を持つ双子を誕生させた問題で、同様の遺伝子変異が先天的にあった人はそうでない人より寿命が短いとする研究結果を、米カリフォルニア大学バークレー校(University of California at Berkeley)などの研究チームが3日、医学誌ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)に発表した。
中国の研究者、賀建奎(He Jiankui)氏は昨年、受精卵にゲノム編集を施し、双子の女児が生まれたと発表。医師らの間で激しい論争が巻き起こり、中国政府が遺伝子編集実験の中止を命じる事態に発展した。
賀氏は「クリスパー(Crispr)」と呼ばれる遺伝子編集技術を用い、CCR5遺伝子の変異体「CCR5デルタ32」を受精卵の段階に双子の女児の染色体に挿入。双子の女児の父親はHIVに感染していたが、女児らは遺伝子変異によりHIVに感染しない。
だが、新たな遺伝子構造と死亡届に関する広範な研究により、CCR5に変異がある人は世界の平均よりも早死にする確率が20%ほど高いことが明らかになった。
研究チームは英国の40万9000人の健康データを調査し、自然に起きる確率は1%程度しかないCCR5の変異があるかないか、さらに変異がある人がいつどのように亡くなったかを分析。
対象データの年齢調整を行った上で明らかになったのは、変異のある人が76歳未満で亡くなる可能性は、ない人に比べて21%高いことだった。
また、変異のある人はHIV感染よりずっと一般的な疾患、とりわけインフルエンザで亡くなる可能性が著しく高いことも判明した。
研究チームは論文で「HIVへの耐性の代償として、より一般的な疾患にかかりやすくなっている可能性がある」と指摘している。
論文ではなぜ遺伝子変異によって死亡リスクが高まるのかについて説明はされていないが、賀氏に遺伝子編集実験の再現を思いとどまらせるべき明確な統計的傾向があったと研究チームは指摘。
また研究チームは「クリスパー技術を使って新たな、もしくは派生した遺伝子変異をヒトに用いることは、その変異に利点があると認められていたとしてもかなりのリスクを伴う」と強調している。
フランシス・クリック研究所(Francis Crick Institute)の科学者ロビン・ラベルバッジ(Robin Lovell-Badge)氏は、「このことがまたしても示していることは、ゲノム編集の実験で賀氏がCCR5の変異を選択したことは愚かだったということだ。ただただ私たちは、いまだに遺伝子について十分な理解を得ていないのだ」と述べている。(c)AFP/Patrick GALEY