まずは医師、看護師などが患者から検体を採取する。新型コロナの場合、ウイルスは肺に近い下気道の方にいるため、国立感染症研究所は気道からの吸引液か、鼻からスワブを突っ込み咽頭から液を拭い取る方法を推奨している。この作業自体も飛沫感染の危険を伴う。そのため個人防護具を着て1人終わるごとに毎回手順通りに着替えることが本来は必要になる。

 検体を他の検査機関に輸送するにも二次感染を防ぎ検体の品質を維持するため厳重な態勢が必要だ。冒頭のビル・ゲイツ財団が計画する「自分で検体を取って郵送する」やり方は大いに問題がある。

 検体が検査機関に到着すると、臨床検査技師の出番である。PCR検査では、検体前処理の図版中の写真のようにバイオハザード対応のキャビネットの中で、人手による前処理作業をすることが欠かせない。遺伝子検査業務は無資格者でもできるが、経験の浅い人がやると失敗や感染の危険がある。

 ここまでやっていよいよPCR反応にかける。DNAと試薬の入ったチューブを、温度の変化を繰り返しながらDNAを大量に増幅させ、見える形にしてようやく「陽性」と判定が出る。ここにたどり着くまでに数多くのハードルがあり、逆に言えば検査の工程上、落とし穴が多く偽陰性が出やすいということだ。検査精度を保ったまま検査数を増やすのは難しい。

 感染拡大を機にさまざまな新検査方式が登場してはいるが、大半は実用化に至っていない。迅速検査のイムノクロマトが普及すれば、クリニックで検査ができるようにはなるが、これは感度70%、特異度99%ほどといわれている現行のPCRよりも精度が落ちる見込みだ。また、感染の初期には使えない可能性も高い。

  そもそも、検査はなぜ行うのか。感染した個人の治療に役立て、社会の感染状況を科学的に分析するという二つの目的があるが「最も大事なのは重症化を抑え、死亡率を上げないこと。だから重症の人を正しく絞り込み、その分の医療キャパシティーを空ける。そして経路調査と接触調査を行い、クラスターを突き止め、つぶすために検査をするということを主眼に置くべきだ」と米国立衛生研究所・アレルギー感染症研究所博士研究員の峰宗太郎氏は指摘する。