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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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修行

「帰り道で元康に会わなかったな」

「フィーロ遭いたくない」


 帰りの馬車で元康と遭遇したら説得しようと思ったのだけど、出会わなかった。

 さすがに打ち所が悪くて死んだか?

 その辺りに転がっていたら嫌だけどさ。

 でも、あのストーカーが簡単にくたばる所とか想像できないんだよな……。


「そういやお前等、Lvリセットしたけど案外普通に動いているよな。担架とか必要なんじゃなかったっけ?」

「そんなやわな作りをしていない!」

「かなり重たいけどねー動けないほどじゃないわー」

「お前等何者だよ」


 本当に大丈夫か気になってフォウルの腕を突いてみた。

 ……フィーロが。


「~~~~~~っ!」


 やっぱきついっぽいな。

 俺が試させているのを理解してるのかフォウルが堪えてる。


「あははーくすぐったいわね」


 サディナに関してはデフォで平気っぽい。

 体鍛えてる場合は平気なのか?

 Lv上昇とは別カテゴリーくさいもんな。身体を鍛えるのって。


 安易にステータスの加護を受けるのと違って鍛えていれば多少の不調は問題ないんだろうか。

 というかこの二人はそういう自己鍛錬をしていたという事か。

 ラフタリアも似た様な事をしていたが、Lvリセットで失われる分のステータスを補う分には鍛錬で強化しても失われないって事だな。

 後は……盾の効果で多少は補っているのかもしれん。


 要するに担架が必要な奴って魔法をメインに使う奴とか、強い奴にレベリングしてもらった奴なんかが寝込む事になるんだろう。

 貴族のボンボンとか冒険者を雇ってLvだけ上げる、みたいな手法を取りそうだ。

 ある程度の効果は見込めるし、俺の村の奴等も似た様な方法で上げているから悪い手ではない。

 問題はLv限界まで行った後は自己鍛錬やババアの修行みたいので上げるしかなくなる訳だ。


 勇者の場合Lv制限が無いらしいが、やはり俺も修行とかした方が良いんだろうか。

 Lvとかステータスが当たり前にある世界だから日々の鍛錬や魔法を繰り返す事で限界値とか上がったりしてな。

 そうなるとフォウルやサディナみたいに小さな頃から修行していれば、その分強くなれるって考えもできる。

 実際どうなのかは知らないし、この世界に残る訳じゃないから、波を鎮めるまでの修行と割り切るか。

 元の世界に帰ったらLvとかステータスとかどうでも良いしな。


 そもそも元の世界に戻ったらLvとかステータスってどうなるんだろう。

 盾もだ。

 このどうやっても外れない、精々ブックシールドにする位しか誤魔化す手が無い盾を、元の世界でも付け続けるのはもはや呪いアイテムの域に入っているぞ。


 社会人になって、いつも変な本を持ち歩いている男とか失笑ものだぞ。

 この考えは危険だ。そもそも帰る前から皮算用とか、意味が無い。

 仮に盾が付いたままだったとしても、その時になってから考えれば良い。


「お前等、帰ったらさっそくLv上げな」

「はいはーい」

「わかっている」


 サディナとフォウルにそう伝えて馬車の旅は順調に村へ帰還した。

 出かけてから一日と少し。

 村が見えてきた。


「おかえりなさい……。ナオフミ様」


 若干くたびれた様子のラフタリアが出迎える。


「なんか疲れていそうだな」

「あのご老人が元気に稽古してくださいましたので」

「へー……」


 リーシアは死んだように地面にうつぶせで倒れている。

 近くで様子を確認すると呻く声が聞こえる。

 死んではいないようだが、ボロボロだ。


「では休憩はこれくらいにして出発ですじゃ!」

「ふぇえええ……」

「で、では少しだけ出かけてきますね」

「何処へ?」

「少々、修行に山へ行ってくるですじゃ」

「ああ……そう」


 そう言ってラフタリア達はババアに連れられて旅だった。

 何処へ行ったんだ?


 いつのまにか少年マンガみたいな事になっている。

 というか、やはり最終的に武術を学ぶ場合はそういう修行が必要になるっぽいな。

 Lvや自己鍛錬、盾の補正を受けたラフタリアをああも疲労させるとは、ババアもとい戦闘顧問と言った所か。


「おかえりなさいませ尚文様、お兄様」

「どうしてコイツの方を先に呼ぶんだ? アトラ」

「それはしょうがありません」


 何がしょうがないのだろうか?

 まあ俺が奴隷の主だからなんだろうけどさ。


「私、もうLv15になったんですよ」

「そうか」

「は、はやいな」


 早いか? リーシアは半日でLv20になっていたが。むしろ遅い方じゃないかな?

 この辺りは個人の幅があるのだろう。

 どちらかと言えばリーシアは上がるのが早い方だしな。


「アトラの成長はわかった。ドラゴンの雛の方はどうなんだ?」

「キャアアアア!」


 土煙を上げて何かの生き物が谷子を乗せてこっちに爆走してくる。

 大きさからして、普通のイノシシ程度……フィーロとくらべて、ってフィーロの生後二日目はあの程度だったか。


「ガエリオンちゃんが来ましたわ」


 アトラが振り返りもせずに土煙を起こす生き物を当てる。

 背中に乗っている谷子には何もなしか?


「アトラちゃん! と……」


 谷子が俺を見つけると睨んできた。


「なあ……お前はなんでそんなに俺の事を嫌っているんだ?」

「……勇者だから」

「は?」

「なんでもない」


 どうも谷子は俺の事を敵視しているんだよな。

 魔物に関して溺愛している割に、Lv上げは嫌がらないしー……。

 この村に来た奴隷の中で初期Lvは10だったか。

 ……微妙にある方だ。


 土煙が晴れて、ドラゴンの雛だった奴の姿が見える。

 ……一頭身の丸い球体に申し訳程度のドラゴンのパーツが付いている生き物だ。

 なんでもすいこむ……あのポヨーみたいなのに蝙蝠の羽とトカゲのしっぽが生えた感じ。

 なんだこれ?


 フィーロも一度、これに近い形態になったよな。

 まさかこのままでかくならないだろうな?


「キュアアアア!」


 ボヨンと満面の笑みを浮かべ、谷子を降ろし、俺に向かって跳躍するガエリオン。

 させるか。

 盾を構えて阻止する。

 しかし。

 ガシッと盾にへばりつき、そのまま乗り越えて俺の背中にしがみつく。

 地味にでかいから重い。


「放せ! 俺に引っ付くな!」

「キュアアアア!」


 ペロッと俺の頬を舐めまくる。

 生後二日で、妙に懐いているな。

 まあ親だと思っているのだろうけどさ。


「ほら、やめろって」

「キャアア!」


 ペロペロと俺の制止を無視して舐めまくるガエリオンだが、さすがに俺が嫌がっているのを理解したのか程々でやめてしがみつくだけになる。

 ふむ……思いのほか愛嬌あるよな。

 フィーロも喋ったりしなければ可愛げがあるんだけど。


「むー……」


 フィーロが悔しそうな声を出す。

 そして俺の前に立って……。


「なんだ?」


 ベローンっと俺を舐めた。

 うぷ……気持ち悪。


「鳥、いきなりなんだ」

「ごしゅじんさまのそのポジションはフィーロのなのー!」

「知るか! そんな真似をお前はした事無いだろうが」

「でもごしゅじんさまとそうやって遊ぶのはフィーロなの!」

「知らん」

「むー!」


 なんか怒りながらフィーロは走り去って行った。

 まったく、何が不満だと言うのだ。

 そういえば新しいフィロリアルと戯れていた時も同じように不機嫌になった。


 嫉妬か?

 確か犬を飼っている場合、新しくペットや子供が増えるのを犬は嫌う習性があると聞いた事がある。

 フィロリアルと犬を同列に扱うのは厳しいが、似た様な物か?


 それともフィーロ自体の個性なのか。

 今度ラトにでも聞いておこう。


「キュア?」


 首を傾げ……一頭身だから全身か。

 全身で不思議そうにフィーロの後ろ姿を目で追うガエリオンに谷子が頭を撫でる。


「ほら、そいつと遊んでいろ」

「キュアア!」


 谷子に渡すとまだ遊びたいと言うかのように俺に手を伸ばすガエリオン。

 こういう動物的な可愛さがフィーロにあれば、まだ可愛げがあるんだがなぁ。


「大きくなっているみたいだな」

「うん」

「これで成体とかじゃないよな」

「まだ赤ちゃんだよ?」


 谷子がガエリオンをあやしながら答える。

 何故お前がそんなに詳しい。

 あ、ラトに聞いたのか。


「背中に乗って無かったか?」

「……あの魔物ババアがちゃんと躾をしておけって」

「へー……」


 背中に乗せる訓練とかか? その辺り、フィーロは適当にしていたからな。

 ドラゴンはやっぱりこの辺りに違いがあるのか。


「ガエリオンちゃんも尚文様の事が大好きみたいですね」


 アトラが微笑ましいというかのように言う。


「所でお兄様とサディナさんはこれからどうするのですか?」

「そうだな。フィーロはさっき出かけたばかりだからすぐに使うのはどうかと思うし……」


 なんだかんだで移動には便利だからな、あいつ。


「何かあるの?」


 俺が名前を言ったからか何処からかフィーロがやってくる。


「ああ、フォウルのLv上げを手伝ってもらうかと思ってな。だが疲れてないか?」

「大丈夫だよ?」

「そうか、じゃあ任せられるか?」

「うん」

「私もご一緒してよろしいですか?」


 アトラがフィーロに尋ねる。フィーロは頷いて応じる。


「大丈夫だよ」

「キュア!」


 ガエリオンも立候補するかのように小さな手をあげる。


「ダメー!」


 舌を出して挑発交じりにフィーロはガエリオンとの同行を拒否。


「じゃあ馬車で適当な魔物が生息する地域に……」

「あ、私は海で上げてくるから気にしないで良いわよ」


 サディナが銛を持ってそう告げる。

 まあ、得意な場所で勝手に上げていてくれるのなら問題はないか。


「Lv1で大丈夫か? 仲間とか必要なら出すぞ」

「大丈夫大丈夫、これでも戦いには慣れているから」


 サディナは事もあろうに俺に心配し過ぎと言って海へ歩いて行く。

 まるで俺が保護者みたいな言い方だな。

 海の魔物の素材はあまり持っていないから、サディナが持ってきてくれると助かる。

 なんだかんだで地味にステータスアップをしておきたいからなぁ。


「じゃあ急いでLvを上げたい奴は……」


 フィーロはガエリオンを毛嫌いしているからな。

 俺がガエリオンを育てるのを手伝うとか言ったら騒ぎを起こしそうだ。

 知った事ではないが、今までの活躍からしたら文句も言えない。

 なんだかんだでフィーロを戦力として頼りにはしているし……。


「フィーロはアトラとフォウルのLv上げを手伝っておいてくれ、ガエリオンの方はお前と――」


 谷子を指差してからキールを呼んで、キャタピランドを連れて行くように指示する。

 本当はフィロリアルに乗せて行きたかったのだが、拒否された。

 ドラゴンとフィロリアルの仲が悪いと言うのは本当のようだ。

 フィロリアルの方が安いし弱い気がするのだが……野生だとどうなんだろう?


「尚文様、そのような配置ならば私はガエリオンちゃんの方が良いです」

「そうか?」

「そうなの?」

「はい。私はガエリオンちゃんと一緒に育ってきてますので」

「な、アトラ! 俺は――」


 Lv上げ時期は同期だものなー……それならしょうがないか。

 フィーロのスパルタコースは大変だし、フォウルには調度良い。


「じゃあフィーロ」

「なーに?」

「フォウルをお前の出来る限り最高難易度のスパルタで急速Lv上げをしてこい」

「うん!」

「お前、事もあろうになんて事を――」


 フィーロはくちばしでフォウルの背中をつまんで背に乗せる。


「じゃあ行ってくるね、ごしゅじんさまー!」

「ああ、行ってこい」

「な、なんだコイツの羽毛! 抜けない! 抜けない! あ、アトラぁあああああああああああああああぁぁぁ――」


 ドタドタと爆走していくフィーロ。

 フィーロの羽毛は不思議な羽毛。背中に乗せた相手を掴む事が出来るーっと変な歌を作ってしまった。

 あっという間にフォウルの声が聞こえなくなった。


「では行ってまいりますね」

「頑張れよ」

「尚文様はご同行してくださいませんの?」

「俺が行くとフィーロがな」


 ガエリオンを指差して理由を説明する。


「それは大変ですね。ですが私、近々、尚文様と一緒にLv上げしたいと思っております」

「そうだなぁ。最近は殆ど魔物退治をしていないから気が向いたら良いかもしれないな」

「約束ですよ」

「わかった。お前も変った奴だな」


 この村で俺と一緒に魔物退治でLv上げに行きたいだなんて言う奴は珍しいぞ、本当に。

 だが、波での戦闘を考えると防御しか出来ない俺との連携を知るのは重要かもしれん。

 実際、現状ラフタリアとフィーロしか俺との戦闘を経験している奴なんていないんだし、ある程度領地が軌道に乗ったら俺も戦闘に参加しないとな。

 さすがに波で俺と組んだ事が無いから連携が出来ずやられましたじゃ、村を作った意味がなくなる。


「夜までには帰って来いよ」

「わかったよ兄ちゃん」


 こうして俺はLv上げ部隊を見送り、村での仕事を再開した。

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