
新型コロナウイルスの検査を巡り、厚生労働省は「ドライブスルー方式」での実施を認める事務連絡を出した。経路不明の感染者が急増し、感染経路をたどることで拡大を抑え込む従来方式の限界が明らかになって、消極姿勢を改めることを迫られた。緊急事態宣言の対象が全国に広がる情勢下で、担当官庁が不作為を重ねる余裕はない。
厚労省は15日付で出した事務連絡で、車に乗ったままでの診察やPCR検査を容認した。医師が必要と認めた場合に、車内で検体を採取して検査に回す。大量の検査を効率的にでき、医療機関の建物内で検体を取る場合よりも、感染するリスクも小さいとされる。
ただ、事務連絡は検査体制を拡充する対策の一つとして、都道府県などに同方式の検査所設置を委ねる内容にとどまる。
これまで独自に手掛けてきた自治体は名古屋市や新潟市などごく一部に限られる。判断や人繰りを丸投げされた他の自治体からは困惑の声も上がる。福岡県の担当者は「まだ厚労省からの文書を読み込めておらず、何も決まっていない。詳細は今後検討する」と語った。
兵庫県関係者は「仕組みの整理ができていない」と話し、埼玉県の担当課は「車の渋滞や事故が発生し、混乱が生じる可能性がある」と慎重に検討する考えを示した。神奈川県は地元医師会などの意見も踏まえて実施するか判断するという。
ドライブスルー方式はすでに韓国や米国など海外で広がっているが、これまで厚労省は導入に消極的だった。感染者と接触した人を割り出し、感染経路を明確にして連鎖を抑えることに重点を置いてきた。保健所は経路の追跡に労力を割くことを迫られ、検査の網を広げるのが遅れた。
このため無自覚の感染者が外出して感染が拡大した。6日には東京都と大阪府で確認された新規感染者のうち、8~9割の経路が不明だ。
東京都心部のある病院ではベッドが空く間もないという。新型コロナで入院した患者が退院しても、すぐに別の患者が入ってくる状態で、マスクなどの防護具も慢性的に不足する。「現場はもう限界だ」。医師や看護師からは悲鳴が上がる。
世界保健機関(WHO)で事務局長の上級顧問を務める渋谷健司・英キングス・カレッジ・ロンドン教授は「都内などでは検査対象を広げて感染者を隔離する対策が急務なのに、ドライブスルー方式を認めるタイミングは遅すぎる」と批判した。
今回の方針転換も独自の判断で始めた自治体の動きの後追いだ。事務連絡は自治体に対応を「お願い」するだけで、検査の拡充に向けたリーダーシップは見えない。安倍晋三首相はPCR検査の能力を1日2万件とする方針を掲げているが、足元の能力は約1万3千件にとどまっている。
厚労省は感染の履歴があるかどうかを血液から調べる抗体検査を月内にも実施する方向で調整に入った。無症状の人も含む特定の集団を調べることにより、感染がどれだけ広がっているかの実態をつかむのに役立つ。すでに米国などが調査に乗り出しており、ここでも日本は後手に回った。
厚労省は経路不明の感染が広がっている現状を踏まえ、検査の網を広げることが急務だ。
ドライブスルー容認、遅すぎる
世界保健機関(WHO)で事務局長の上級顧問を務める渋谷健司・英キングス・カレッジ・ロンドン教授(国際保健)の話 東京都などで感染者は急増しており、検査対象を広げて感染者を隔離する対策が急務なのに、多くの人をより安全に検査できるドライブスルー方式を認めるタイミングは遅すぎる。
初期に感染者の濃厚接触者を追跡調査して陽性の人を隔離するクラスター対策は感染者数が少ない段階では感染拡大を遅らせる一定の効果はあった。現在は感染者が急増して追跡調査をできないフェーズ(段階)であり、タイミングが遅れ、対策が不十分だと、感染の拡大は収まらない。感染がまん延している地域では、欧米のように厳しい外出制限をかける都市封鎖(ロックダウン)が必要な時期になっている。