政府が新型コロナウイルス対策として全国民十万円給付を表明した。減収世帯向け三十万円給付への異論が噴出し方針を変えた。生活不安が高まる中、対応の混乱ぶりを強く批判せざるを得ない。
三十万円案については検討過程から与党内も含め反対論が相次いで出ていた。制限を設けたため対象が少なすぎる上、申請が複雑で手続きの遅れも必至だった。
しかし安倍政権は当初案で押し通し結局失敗した。批判に耳を傾けない姿勢には改めて猛省を促したい。
今後、いったん閣議決定した補正予算案の組み替え作業を行い国会での成立を目指す。ただ最初から全国民一律給付をしていればより早く実施できたはずだ。
混乱による遅れは否めず、与野党と関係省庁はスピード最優先で給付を実現すべきだ。同時にネット環境がなくて情報入手が困難である場合など、さまざまなケースも想定し給付漏れを防ぐよう求めたい。
帝国データバンクの十六日時点の調査では、コロナによる倒産は六十一件に上る。自治体や地域金融機関には中小零細を中心に融資申し込みが殺到している。
倒産に至らなくても資金繰りに窮している企業は間違いなく激増している。繁華街でも多くが休業を余儀なくされている。収入を断たれた人々が生活に困る姿は想像に難くない。学費が払えず未来への希望を持てない若者も増えるだろう。
給付は急激に悪化した国民生活を救うことが目的であるはずだ。ところが麻生太郎財務相は「要望される方に配る」と述べた。これだと再び制度設計が混乱し遅れが生じる恐れが出る。富裕層には配った後、税で徴収する手もある。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事も、消費維持を念頭に電子マネーでの給付を求める発言をした。給付の主な目的が依然、消費刺激だと誤認しているとしか思えない。
現職閣僚や財界トップの発言は国民の現状を知っているのか疑問視せざるを得ない。
コロナ禍をめぐる対策はすべて手探りだ。さまざまな意見が出て調整が難しいことは理解できる。しかし暮らしの実態把握がずれていては致命的だ。
感染拡大が収まらなければ、さらなる経済対策は確実に必要となるだろう。
追加補正を打ち続けることも視野に入れた前例のない姿勢で暮らしを守らねばならない。
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