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― 連載 ―


 ファンタジーをテーマにしたゲームには,神話伝承などを出典とするアイテムが多数登場する。単純にゲームを楽しむだけならアイテムの生い立ちやエピソードを知らなくてもいいが,アイテムに精通していれば,ゲームがより面白くなることは間違いない。
 本連載では,長期にわたって数々のアイテムの起源やエピソードを紹介していく。剣と魔法の世界をより楽しむためにご一読あれ!

 エクスカリバーを手に入れるまで 

Illustration by つるみとしゆき
 エクスカリバーについて紹介する前に,アーサー王の生い立ちとエクスカリバーを入手する経緯について紹介しよう。
 アーサー王は,ブリトンの偉大なる王として,サクソン人やピクト人といった数々の外敵を退けた人物である。父親はブリトン王ウーサー・ペンドラゴン,母はティンタジェル公妃イグレーヌ。
 アーサーの出生は,かなりいわくつきだ。ウーサーが敵国の妃であるイグレーヌに恋をしてしまい,彼女を奪うために大軍を率いてティタンジェルへと派兵。だが,戦地で恋に焦がれたウーサーは病気になってしまう。そこで魔術師マーリンは,その恋を叶える代償として,やがて生まれてくる子供を自分に預けることを約束させると,魔法の力でウーサー王をティンタジェル公の姿に変え,城へと送り出した。こうしてできた子がアーサーなのである。
 ちなみに同時期にティタンジェル公は戦死しており,それを知ったイグレーヌは,ウーサー王と結婚することになった。
 やがて生まれた子供は約束どおり魔術師マーリンに渡され,マーリンは子供にアーサーと名付けると,ウーサーの子であることを秘密にしたまま,エクター卿へと預けた。こうしてアーサーは,エクターの実子ケイと共に,すくすくと成長していった。

 アーサーが15歳になった頃,ウーサー王は衰えており,各地で反乱が勃発していた。衰えた王に代わって統治する王が必要になったが,後継者は決まらなかった。そんなクリスマスの日に,カンタベリー大寺院の庭に不思議な台座が出現する。その台座には一本の剣が刺さっており,「この剣を抜いた者は全イングランドの正当な王である」との文字が。何人もの騎士達が剣を抜こうとしたが,誰一人として剣を引き抜くことはできなかった。
 ある日,ケイとアーサーは,馬上試合でカンタベリー大寺院の近くまで来ていた。しかしケイが剣を持ってくるのを忘れてしまったので,アーサーが剣を取りに帰ろうとしたとき,アーサーはカンタベリー大寺院の庭で一本の剣を見つける。これ幸いにと剣に手をかけると,簡単に台座から抜けてしまった。ここでアーサーが抜き取った剣こそが前述した不思議な台座の剣であり,このことからアーサーは王としての証を立てて,ブリトンの王に即位することになる。
 それから時が過ぎ,アーサー王はペリノア王との戦いで,かつて台座から引き抜いた剣を折ってしまう。この窮地を救ったのが,魔術マーリンだ。彼は魔術の力でアーサーを助けると,とある湖畔へと導いた。マーリンの指示どおりに進むと,湖から手が伸びており,その手には一本の輝く剣が握られていた。この剣こそがエクスカリバーである。剣を持ちかえったアーサーに,マーリンが「剣と鞘と,どちらが大事か?」と問いかけると,アーサーは「当然,剣だろう」と話すが,マーリンは「決して鞘をなくさないように……」と助言したのであった。

 エクスカリバーとは? 

 湖の精から授かったエクスカリバーは,光輝く刀身を持っており,その輝きたるや30本分もの松明と等しいといわれている。記述によって形状の違いはあるものの,ほとんどは両刃のバスタードソード(片手半剣)として描かれているようだ。
 剣としての素晴らしさはもちろんだが,実は鞘に大きな特徴がある。この鞘には持ち主の傷を癒すという能力があり,伝承によっては所有者は血を流さないとまで記述されているほどだ。マーリンもこの鞘の重要性をよく理解していたので,前述のようなアドバイスをしたのだろう……。

 エクスカリバーのウェールズ名は「カラドヴルフ」(Caladvwch)であり,アイルランド語の「カラドボルグ」(CaladBolg)と同意語である。これは硬い(Calad)稲妻(Bolg)という意味だ。
 ちなみに「カラドボルグ」といえば,アルスター神話の英雄ファーガス・マク・ロイの持つ剣と同名。実はこの二つが同じものであったら面白いと思うのは筆者だけだろうか? ひょっとしたら何か大きな関係があるのかもしれない。

 なお台座から引き抜かれた剣と湖の精からもらった剣のどちらもエクスカリバーであるとする説もある。
 アーサー王の持っていた剣について初めて記述が見られるのは,「ブリタニア列王史」で,そこにはラテン語でカリルブヌス(Caliburnus)と書かれている(英語ではカリバーン/Caliburn)。実はこれが台座から引き抜かれた剣であり,折れた後に湖の精霊に鍛え直されて,新しいカリルブヌスということからEx+Caliburnus,つまりエクスカリバー(Excalibur)になったという説があるのだ。  台座から引き抜かれた剣と,湖の精からもらった剣が同じか否か? で論争されることは多いが,この説が本当であれば,両者の論争に決着がつくいい手がかりになるかもしれない。ヨーロッパにおけるアーサー王伝説のエピソードは多く,書かれた時期も異なるので,すべてをつじつまが合うように解釈するのは非常に難しい。重箱の隅を突くように論争するよりも,素直に折れた剣(カリバーン)が鍛え直されてエクスカリバーになったと思い,物語を楽しむほうが健全といえそうだ。

 アーサー王はモードレッド卿との戦いで大きな傷を負い,妖精の島アバロンへと姿を消してしまう。そしてエクスカリバーは湖の精のもとへ返却されて物語は幕を閉じる。一説にはアーサー王は死んだのではなく,妖精の島で傷を癒した後に戻ってくると伝えられている。その墓標には,「過去の王にして,未来の王であるアーサー,ここに眠る」と刻まれているとのことだ。



■■Murayama(ライター)■■
熱心な4Gamer読者にはお馴染みのMurayamaは,実は業界では「便利屋」として知られている。実際先日行われた「ダーク・エイジ・オブ・キャメロット」の第1回ファンイベント(記事は「こちら」)では,なんと司会を務めていたくらいである。もちろん司会業は彼の専門ではないのだが,業界歴も長く顔も広いため,この手の仕事も舞い込んで来ちゃうのだとか。でもどんな依頼もたいてい断らないのだから,確かに便利屋である。